353  農協

 3年に1度開かれる農協(JA)グループの全国大会が2009年10月7日、パシフィコ横浜を皮切りに、翌日は東京のNHKホールに会場を移して行われた。毎日新聞によると、25回目の今年は歴史的な政権交代や農業後継者不足などで農協への逆風が強まる中、危機感の漂う大会となったという。全国農業協同組合中央会(全中)の茂木会長は、世界の食料需給が逼迫する中、国内では農家戸数が大幅に減っている現状に懸念を表明、「高齢化や人口減少で地域社会が疲弊し、JAをめぐる環境が厳しさを増す一方、JAへの期待も高まっている」と強調した。
 民主党は農業者への所得補償制度を提言している。農業保護のための補助制度は必要だと言うのが筆者のかねてからの主張であるが、補助金の在り方は議論すべきところ。ポイントは「おおいに作付けを増やし、やる気のある生産者に補助を」、「消費者につながる生産者とのネットワークに補助を」、「株式会社の農業参入を促し、こちらは自立を求める」、という点で、農協を介した補助をやめることがポイントと思う。農協は農業者の協同組合だから、本来の意義を取り戻して頂きたい。あまりにも財務面が強くなり過ぎたのと、自民党を介して農水省への圧力団体化して、肝腎の組合員への貢献がおろそかになっているJAが多いのではないか。
 大分県西部の日田市大山町では、政府がまだ米の増産を推進していた1961年に、米作には不適な山地の地理的特性を生かして、作業負担が小さく収益性の高い梅や栗を栽培し、さらに梅干し等に加工して付加価値を高めるNPC(New Plum and Chestnut)運動を開始した。「梅栗植えてハワイに行こう!」というユニークなキャッチフレーズで知られるこの運動は、農家の収益の向上に寄与し、大山町は全国で最も住民のパスポート所持率が高い町になった。この運動は、後の一村一品運動の原点としても知られている。大山町農協はその後も、2000年に地元産の有機農作物を使ったバイキング料理のレストラン「木の花ガルテン」を町内にオープンするなど、先進的な取り組みを続けている。


大分県日田市の大山町農協

■小泉武夫氏も絶賛
 『味覚人飛行物体』として知られる東京農業大学名誉教授:小泉武夫氏は、その著書の中で大山町の農業を紹介している。大分県日田市大山町は市町村合併で日田市に組み込まれたが、もともと自然に恵まれた小さな町で、人口の15%がJA大山(大山農協)に所属している。そして組合員640人中、約300人の年収が1500万円を超え、残りの人たちも1000万円を軽く超えると小泉氏は著している。本当だろうか。1986年、全国に先駆けて「大山オーガニック・ランド」を宣言した。有機農業のためにまず土作りから始めた。合言葉は「始めに土ありき」。肥沃な土を作り、そこから農業を見直して、根本的な農業をやって行こうではないかというわけである。素晴らしい!小泉氏が絶賛するのは、ひとつのことだけでなく、新たな発想を次々に実践展開するその姿勢であり、次の事例を紹介している。
(1)農家の後継者の若者たちをヨーロッパに行かせ、そこで日本人に好まれるハーブを見つけさせ、その苗を堆肥で育てた「大山ハーブ」
(2)大山町でできるオーガニック農業の小麦を使い、小麦農家が焼いたパン
(3)イチゴジャムや梅など、付加価値を付けた農産物加工品
(4)大山町の農家が育てた野菜、果物、穀物や、昔のまま育てている豚、鶏を使った農民食堂、この農民食堂は農家のおばあちゃんがローテーションを組んで毎日料理を作っている。
■生産から消費地まで展開して利益を上げる
 小泉武夫氏は筆者が大好きな人物で、このつぶやきでも、255『バイオビジネス』(2007年12月2日)と21『微生物は世界を救う』(2003年5月31日)に登場している。筆者が聞いた講演の中で、大山町農協のことを絶賛していた。以下、その内容。
『大山町農協は作るだけではなく、自ら販売に取り組み、うまく展開している。例えば良い麦が採れるのでパンを作って売り、パンが売れると、次はパンに塗るジャムを作るという具合である。売り上げが多いのは、大消費地である福岡市に開いた農民食堂である。大山産のおいしくて安心、安全な農畜産物を使い、行列ができるほどの大繁盛となっている。大山の農家のおばあちゃんたちが1週間交代で福岡へ行き、料理を作っている。平均年齢は70歳を超えているが、楽しそうに作っている。このような成功例から、大切なことは、地域経済循環システムであることがわかる。大山町の農家の収入は地元の商店街に流れ、町の商店街も活気を取り戻していく。お金は地元銀行に集まり、地元銀行は大山町の企業に融資する。このサイクルが地域の活性化をますます進める。この結果、大山町では、地域の食料自給率が上がり、農業は楽しく収入も良いと、若者が農業に戻ってきた。また、子供たちが地産地消で地元で採れたものを食べることにより、地元を愛するようになった。これが繰り返され、素晴らしい町づくりができた。町づくり、地域づくりは農林水産業を抜きには考えられない。地方の時代とは、農林水産業を中心とした地域の活性化なのである』
■公正取引委員会の調査が入る
 ところが問題が起きている。大山町農協が運営する木の花ガルテン関係施設は大山町、大分市、福岡市に7店舗あり、農産品、レストランの2007年度取扱高は16億6181万円。今でこそ珍しくないが農産物直売所の先駆的施設である。2009年4月に木の花ガルテン大山店に隣接する日田市中ノ島町に、日田天領水で有名な会社が「日田天領水の里 元気の駅」をオープンした。組合員農家に対し大山町農協が「木の花ガルテンに出荷か他店への出荷か選択を」との文書を送付。これを受けて「ひた認定農業者の会」は「地産地消の先進地なのに、よその地産地消にブレーキをかけることはあってはならない」として大山町農協に文書撤回を求めた。しかし、大山町農協は「他店を取るなら出荷者登録を抹消する」と、二者択一を迫った。 これにより農家の一部が生協などへの出荷をやめざるを得なくなり、「ひた認定農業者の会」は自由な取引を妨害したとして、公取委に調査を求めた。公取委は、農家に二者択一を求めたことは独禁法が禁じた排他条件付き取引に当たると判断、大山町農協に自発的な改善を促し、対象農家に謝罪して訂正する文書を出すよう指導した。公取委が最近になって農協への捜査に入るなど、まだ揉め続けている。
法律の公正適用こそ必要
 この公取委の判断は法令に基くものだから適切なのであろう。しかし一方で農業基本法は株式会社の農業参入に制限をかけ、農業者以外の農地取得を禁じたり、株式会社が温室(植物工場)を建てると建築基準法や消防法を適用する。農業生産法人や農事組合法人とは明らかな差別があり、障壁を設けている。また農業者を1個の企業と見るならば公正取引は必要だが、農業者が協同組合を組んで事業展開したときに、自分たちの事業と競合する企業に利益を与える行為を組合員に禁じるのは当たり前ではないか。株式会社の社員が、自分の会社と競合する会社に利便を供するのを禁じるのは、株式会社にとっては当たり前だ。そんな社員は辞職して転職すべきである。「ひた認定農業者の会」というのがどんな構成員か知らぬが、農業者が協同組合を組む以上、協同組合の利益に反する行為を排除するのは、当たり前過ぎるほど当たり前である。それがいやなら脱退するのは勝手なのだ。したがって公取委が農協に対して公正取引を求めるのは、法律が農業分野で公正に株式会社に対して適用されていない現状では、先の建築基準法や消防法の株式会社への適用と裏返しであり、片手落ちと言わざるを得ない。ハッキリ言えば、余計なお世話である。
 大山町農協組合長矢幡欣治氏のエッセイは読みごたえがある。ご覧あれ.
(2009年10月18日)

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