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――【更新履歴】――

10.29 稗田の手記 Advanced 3rd
10.27 稗田の手記 Advanced 3rd
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9.25 えろ東方(早苗)更新
9.20 えろ東方(椛)更新
9. 9 東方 鴉SS 「瞬きさえも忘れるくらい」
9. 9 東方 合作・秋SS 「秋ナスーリン」
9. 5 東方 守矢SS 「守矢狩りと盛り上がりって似てるよね」
9. 3 東方 秘封SS 「真っ赤な空を見ただろうか」
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稗田の手記
Advanced 3rd

 

 


 

 

十月二十九日 北斗七星

 

 

 ごきげんよう。稗田阿求です。
 今日はこんなにも天気が良いのに何処にも行けません。それというのも、先日のっぴきならない事情によって縁側から転落してしまった影響で、腰の痛みが引けないのです。加えて、大宇宙的な運命によって額の傷の治りもよくないものですから、三日は静養、できるならお医者様へ、というのがお手伝いさんのお願いなのでした。
 命令や強制ではなく、お願いとしているところが味噌です。
 別に私が稗田家のお偉いさんだからという意味じゃなくて、こういうときに命令されたり強要されたりすると、私が余計意固地になることが解っているのでしょうね。確かにそういうところはあります。私のことをよく見ているお手伝いさんといえるでしょう。
 でも見透かされてるのは気に入らん。
 あとでなんかちょっかい出そう。

 

 そういう経緯で、腰が痛いのに出歩けるわけないでしょばかばかと駄々をこねたわけでもないのですが、断じてそういう不埒な真似をしたわけではないのですが、今回はお医者さんの方から問診に来るという形に相成りました。
 よっしゃと声を大にして言いたいところなのですが、よりにもよってと言いますか、別に里の馴染みのお医者さんでいいところを、何故竹林の奥深くに住む凄腕なのに得体の知れないお医者さんに問診を依頼するのか、その理由が皆目見当もつきません。
 いわく、阿求様が心配だからだそうで。
 過保護なのもいい加減にしてもらいたいものです。そんなに子どもじゃないのです。どなたがいらしても毅然と対応するくらいの気概はありますが、流石に謎の薬物を投与されて平気でいられるほど無神経ではないのですよ。
 うーん……。
 腰が痛い……。
「阿求様、先生がいらっしゃいました」
 あんまり悩んでる暇もなさそうです。
 いっそ逃げるべきだったのかもしれません。……何処に? 決まってるじゃないですか、わたしたちの明日ですよ!
「こんにちは。八意永琳と申します」
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました」
 とまあ馬鹿なことを考えてると、そういうのが顔に出て熱があると思われそうなので、ここは無難な対応を心掛けることに致します。
 お手伝いさんに通されたのは、八意さんともうひとり、兎の耳と尻尾を生やした眼鏡のブレザーっ娘でありました。八意さんの服もたいそう独創的なのですが、こちらはむしろコテコテといっても過言ではありません。
「……鈴仙、です」
「よろしくお願い致しますね」
 できれば、もうちょっとはっきり喋ってくれると嬉しいんですが。
「ごめんなさいね、この子ってば最近どうもアレで」
「なるほど、アレですか」
「アレ……」
 良からぬ想像に不安を抱いていることだけは解ります。表情に出るぶん、そんなに悪い子でもないような気が致しますが。
 まあそのへんのことは安易に判断できないですね。
 私だって基本そんなもんですし。

 

 まずは、腰の具合を見てもらいます。
 うつぶせに寝転がりまして、着物をぺろっとめくりあげて私の白い柔肌が露になるわけですね。興奮するといいです。もち肌なので触った感触とか補正かけるとなお良し。
「うぐ……」
 それはそうと、痛いのは事実なのでぐいぐい揉まれると色気のない呻き声も出ようかというところです。あんまり可愛くないです。
「痛む?」
 当たり前だろと言いたい。
「腰痛ですね」
 最初からそう言ってるし。
「何か心当たりは」
 あんまり言いたくないんですけど。
「そういえば、先日縁側から転げ落ちて……」
 わざわざ言わなくていいですお手伝いさん。
「何故そのようなことになったのか、どうしても話してくださらなくて……」
「大宇宙的な……」
「私が思うに、猫と戯れているうちに調子に乗って飛び込み前転を二回行ったところで彼我の距離を見誤り、なんだかよく解らないうちに転落して置き石に腰を打ちつけた――と、そんなところかしら」
 何故わかった。
 八意さんは、ついと中庭に目を向けます。つられて鈴仙さんもそっちの方を向きますが、私は体勢的に無理でした。でも、辛うじて猫の鳴き声だけは聞くことができました。
「猫。たくさん棲んでらっしゃるようで」
「若気の至りで……」
「思春期なのですね」
 全く同じことを一昨日にも言われた気がします。
 お手伝いさんもくすくす笑わない。八意さんも鈴仙さんも。
「むぎゅぅ……」
 腰……。

 

 

 お手伝いさんは急な呼び出しをくらいまして、私のことが気になる様子でしたが八意さんに任せておけば問題ないと踏んだようで、後ろ髪を引かれまくりながらどこぞに消えて行きました。
 私としては、お手伝いさんがいれば八意さんも妙な薬物を投与したりはしないだろうと踏んでいたのですが……。
「それにしても」
 あれだけぐいぐい押した以外は特に何もしていないのに、何故か腰の具合は心なしか良くなったようでした。心理的な作用かもしれません。ぷらしーぼとか言うらしいです。詳しくは知りません。
 今は、傷付いた額の治療という名目の、他愛もない雑談です。
「珍しい身体をしているわね」
 何だか、値踏みをするような視線が気に掛かります。
 その言葉が何を意味するものなのか、推測できないほど無知ではないつもりですが。
「そうでしょうか。あまり自覚はないのですけど」
 額に宛がわれた脱脂綿は、たしかにお手伝いさんから頂いたものより爽やかで、痛みも速やかに抜き取られていくような気がします。
 ちなみに、額の治療をしているのは鈴仙さんです。終始無言です。
 なんか喋れ。
「日常生活を送る分には、さほど問題ない造りになっているようね。それこそ、幻想郷縁起を綴れるくらいには」
 やっぱり、知っているのでしょう。
 若干、眉間に寄った皺を、鈴仙さんが面倒くさそうに解きほぐしているのが微笑ましいです。
「流石は、地獄謹製といったところかしら」
 ふと、頬に伸ばされた彼女の指から逃れようとして、その前に鈴仙さんに頬を掴まれます。痛い。
「動かないで」
 真剣なのはいいことですが、もうちょっと加減してくれると助かります。
 鈴仙さんのそんな態度に気が殺がれたのか、八意さんは伸ばしかけた手を下ろし、腕を組んで苦笑していました。
 助かった。
 というのは、少し失礼に値するかもしれませんが。

 

 

 ひととおり治療も終わりまして、軽く挨拶をした後におふたりは速やかに辞して行きました。最低限、明日まで無理な運動は控えるように、とのことでした。
 そのへんのことは猫にも言い聞かせてほしいです。
 私が構ってやらないとにゃーにゃーうるさくて。
「阿求様」
 正門に佇み、嘆息する私を見て、お手伝いさんが何か言いたげな顔をしています。
 言ってみ。
「今晩、阿求様のお好きなものをお作り致しますが」
 何が良いでしょう、と嬉しいことを言ってくれますが、特に嫌いなものはありませんし、それ以前にいつも私の好きなものを作ってくれているわけじゃないんですね。
 愛されてるなあ、私。
「コロッケがいいです」
 ハンバーグもいいですけど。
「心得ました」
 お手伝いさんはにっこり笑って、会釈をしてから厨房に引っ込んで行きました。
 うーん。
 気を遣ってくれたのでしょうか。
 まあ、そのへんのことは深く考えないことにしましょう。
 とりあえず、今晩のコロッケを楽しみにすることにして、まず戦わずして猫を黙らせる方法を考えなければ。
 やっぱり、最終兵器マタタビの出番か……。

 

 


 

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十月二十七日 万年筆が額に刺さると痛い

 

 

 痛いです。稗田阿求です。
 不覚にも、幻想郷縁起を執筆している最中にうとうと船を漕いでいましたら、何をまかり間違ったのか額に万年筆が突き刺さりました。
 ぎょあ、なんて面白くもなければ色っぽくもない粗野な悲鳴をあげてしまいましたよ。インクなのか血なのかよく分からないものが額を伝い、畳に滴り落ちる様は性質の悪い喜劇としか思えませんでした。
 実際、お手伝いさん何人か笑ってましたからね。
 減給。

 

 

 それにしても暑いです。
 十月なんですけどね。
 小春日和といったところでしょうか、風もないと直射日光を直に浴びることになるので身体に悪いことこの上ないです。特に私とか繊細に造られているものですから、あんまり無理はできないのですよ。こほんこほん。
 そこ笑わない。聞こえてますよ。
 わらわらと逃げていくお手伝いさんの顔を記憶し、真面目なお手伝いさんが宛がってくれた脱脂綿を額に押しつけます。正直、阿呆なことをやってしまったものだと思うのですが、誰かが見ていてくれれば笑い話にもなりますから、最悪の事態は免れたといっても良いでしょう。最悪でないだけで、あんまり面白くないのはまた別の問題としても。
 うお……太陽がまぶしい……。
 襖を閉めてしまおうかとも思いましたが、敷居をまたぐようにそんじょそこらの猫がまごまごしているものですから、あまり無碍にもできません。かわいいです。でもかわいいからといって何をしてもいいと思ったら大間違いだ!
 そういうわけでお腹を揉みます。
「うなー」
 おー、好い声で鳴くじゃないですか。
 ほーらここはどうだー。
「なぅー」
 私の手は猫じゃらしじゃありませんよ。そんなに細くないです。
 でもまあ、指を動かすと一所懸命追って来るのが健気ですね。この調子で、縁側から軒下に転げ落としてやってもいいのですが、困ったことに私の指を狙っているのは一匹のみならず三匹ほどのようで、子猫でもない黒と三毛と虎柄がきちんと座して私の指を注視しているのです。
 マタタビでも吸引したんでしょうか。
「……」
「……」
「……」
 睨み合い。
 トンボだったら洗脳は既に完了しているといっても過言ではないでしょう。
 ――いざ、勝負!
「しゃーッ!」
 私は指を中庭の方に向けると同時、追いすがる猫をかわすように縁側へと転がり込みます。嗚呼、なんて華麗な飛び込み前転でありましょうか! ごろん、ごろん、どさ。
 落ちました。私が。
 ついでに腰も打ちました。
 痛い。
「にゃーん」
 いたたた、噛むな噛むな。
 この猫ら、私の指を何だと思ってるんでしょうか。しかも三匹が群がるあたり、何かマタタビ的な魅力を備えているのやもしれません。確かにすべすべしてますし、もしかしたら指先ひとつで男を落とす魔性の女に転じることもやぶさかでは――。
「阿求様!?」
 ごめんなさいやぶさかでした。そんな素質ないです。
 だから早く助けてください。
 あと猫も追っ払ってください。

 

 

「どうして縁側から……」
 深くは聞かないで。
 ただまあ、私も調子に乗ることもあるのです、だって女の子ですから。
「はぁ……」
 そんなに心配そうな顔されるとすごく恥ずかしいんですけど。
「お怪我、なされませんでしたか」
 さっき万年筆で額をやったくらいですかね。
 ほんと今日は何なんでしょう、私らしくないというか、ひどく私らしいというか。気の迷いとも言いますし、歴史の必然と表現することもできるでしょう。
「思春期なのですね」
 羨ましそうな顔されました。
 そうかなあ……。
 違うと思うけどなあ……。
「でも、阿求様」
 はい。
「阿求様は、ご自身が考えてらっしゃるより、ずっと女の子でいらっしゃいますよ」
 ……そうかなあ。
 どうでしょう。実際。
 よくわからないことではあります。
 というか面と向かって言われるとものすごく恥ずかしいので、せめて笑い話にしてください。
「ふふふ」
 いえ、そういう意味ではなくて。
「にゃー」
 さっき追い払ったのにまた入ってきました。懲りないやつらめ。
 結局、暑いのは変わらないままで、恥ずかしい分、猫に噛まれた分、余計に暑苦しくなっただけなのでした。
 思春期も、青春も、春の領分だっていうのに。
 ……ああ、だから、小春日和だったのか。今日は。

 

 


 

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