
旧仮名遣い文学全集の端本で読む 鏡花
鏡花の作品も昨今は比較的新刊で入手しやすくなっていますが、新字、新かなのものが多いのが残念です。鏡花はやはり正字正かな総ルビで読みたいもの。何も高価な初版本でなくても、古本屋の店頭で100円〜300円程度で落ちている古い「日本文学全集」の鏡花の巻でかなりの作品が楽しめます。改造社や春陽堂の円本もさすがにひと頃ほどは見かけなくなりましたが、まめに探せばまだあると思います。
私も岩波の鏡花全集をはじめ、初版本も少し持っていますが、こういう文学全集の端本で意外なセレクションの妙に感心したりしながらぎっしり詰まった活字を追うのはまた違う楽しみがあり、見かけるとダブリを承知で思わず拾ってしまうのです。当時の書体や装丁も鏡花世界を身近に感じさせてくれるし、全集本を幡くより気軽に読めるのもよいところです。
実はこんなリストを作ろうと思い立ったのも、つい先日、春陽堂の鏡花全集の端本を3冊捨て値で拾ったのがきっかけなのです。岩波版に加えて春陽堂版全集を揃えるほどの余裕はありませんが、安い端本数冊でもそれなりに刊行当時の雰囲気を味わえます。既読の作品も装丁が違えばまた印象が変わってくるので、これまで岩波版全集でしか読んだことのなかった作品をいくつか読んでみました。そうするうちに、「そういえば今鏡花を旧かなで安く読もうと思ったらどれくらいの作品が読めるのだろう」と疑問が湧いてきました。で、急遽手元にある文学全集の端本を引っ張り出したわけです。以前から一度まとめてみたかったテーマなので、思い立ったが何とやら、一気にデータ化してしまいました。
というようなわけで、新かなの岩波文庫やちくま文庫などで鏡花をお読みになっている方も、機会があれば以下にご紹介するような文学全集の端本をチェックしてみられてはいかがでしょうか。10冊をすべて揃えても、運が良ければ出費はわずか1000円程度。この値段で56篇(ダブリを除く)の小説が読めます。長短300余篇のうち約5分の1が読めて1000円ですから、これはなかなかコストパフォーマンス良好といえましょう。
正字正かなでないもの、均一本で落ちていない高価なもの(筑摩の「明治文學全集」等)はわざと載せていませんが、これら以外にも安価な端本で、私が未入手のために洩れているものがあると思います(昭和20年代後半に刊行された角川の「昭和文學全集」等)。お気づきの方がいらっしゃいましたら、お知らせいただければ幸いです。※タイトルが赤い色のものは、このリスト中ではその巻にしか収録されていない作品です。
※リスト中では「岩波版鏡花全集」を「全集」、「旧仮名遣い文学全集の鏡花の巻」を「旧かな文学全集」と略記しています。
- 現代小説全集 第二卷 泉鏡花集 新潮社 大正14年
- 現代日本文學全集 14 泉鏡花集 改造社 昭和3年
- 明治大正文學全集 12 泉鏡花 春陽堂 昭和3年
- 現代長編小説全集 11 泉鏡花篇 新潮社 昭和5年
- 現代日本小説大系 4 樋口一葉・高山樗牛・泉鏡花集 河出書房 昭和24年
- 現代文豪名作全集 15 泉鏡花集 河出書房 昭和28年
- 現代日本文學全集 5 泉鏡花・徳富蘆花集 筑摩書房 昭和30年
- 現代日本文學全集 54 泉鏡花・徳富蘆花集(二) 筑摩書房 昭和32年
- 日本文學全集 3 樋口一葉・泉鏡花集 新潮社 昭和38年
- 日本現代文學全集 4 泉鏡花集 講談社 昭和44年
現代小説全集 第二卷 泉鏡花集 新潮社 大正14年9月 635P 玄武朱雀 明治31年1月 さゝ蟹 明治30年5月 笈摺草紙 明治30年4月 辰巳巷談 明治31年2月 水鶏の里 明治34年3月 南地心中 明治45年1月 女客 明治38年11月 國貞畫く 明治43年1月 歌行燈 明治43年1月 白鷺 明治42年10月〜12月
- 円本ブーム以前の出版なのでややレアなアイテムで、古書価も他の本に比べると高いかもしれない。「玄武朱雀」「さゝ蟹」「水鶏の里」が珍しく、河出書房新社『鏡花幻想譚1』に収録の「さゝ蟹」以外は全集でしか読めない(はず)。「白鷺」はポピュラーな印象があったが、なぜか他の旧かな文学全集には未収録。天金革装の堂々たる造本に引き替え、ルビが部分的にしか振られてないのがさびしい。
- 異界ものをはじめ、母恋もの、花柳もの、散策もの等々収録作品のセレクトも幅広く、ボリュームも満点の基本アイテム。タマ数も多いので、まずはこれをゲットするのが良。天金ハードカバーの上製本と布貼りソフトカバーの並製本があるが、上製本の表紙は単色で味気ないので両方揃えましょう(笑)。「白註」「紅雪録」「續紅雪録」は現行の文庫、単行本にも未収録で、本巻以外では全集でしか読めない。
- 上記、改造社版と並ぶ代表的な円本。一回り大判の改造社版に厚さで対抗。こちらの売りは、なんといっても総頁の4分の1以上を占める長編「風流線」(但し、残念なことに正編のみ)。春陽堂は以前から鏡花と縁が深く、同作の単行本も春陽堂から出ていた。鏡花自筆の小解付きなのも、そうした縁によるものか。他に「通夜物語」「三枚續」「唄立山心中一曲」と、珍しい作品が並ぶ。
現代長編小説全集 11 泉鏡花篇 新潮社 昭和5年2月 735P 背表紙 芍薬の歌 大正7年7月〜12月 由縁の女 大正8年1月〜10年2月
- 中期の珍しい長編二篇を収めた、円本後期の一冊。この二本が旧かな、しかも均一本価格で読めるなんて、超おトクとしかいいようがない。改造社、春陽堂の円本に比べるとややタマ数は少ないようだが、がんばって探そう。「旧かな文学全集」でも総ルビなのは、本巻と上記2種の円本、計3種のみ。鏡花は独特の読みが多いので総ルビがありがたい――というか、総ルビでないと鏡花の意図通りには読めないと思う(^^;)。
現代日本小説大系 4 樋口一葉・高山樗牛・泉鏡花集 河出書房
昭和24年6月 365P 二段組外科室 明治28年6月 照葉狂言 明治29年10月 高野聖 明治33年2月 海異記 明治39年1月 歌行燈 明治43年1月 葛飾砂子 明治33年11月
- 真っ当な著名作品に混じって、どういうわけか「海異記」などというおよそ一般向きでない強烈なホラーが入っている。これ一篇のためだけにでも買う価値あり。正字正かなで読むと、いっそう怖いのだ。本シリーズの続巻に大正期の鏡花を収録した分があるらしいが未入手。装丁は特製と並製があり、書影は特製(何と、戦後のインフレを反映してか、定價350圓。並製でも180圓)。
- ポピュラーな作品に加え、「藥草取」「春晝」「春晝後刻」「天守物語」「貝の穴に河童の居る事」など、レアな幻想ものもバランスよく揃えたすてきな一冊。どこでも読めると思っていた「義血侠血」は、旧かな文学全集では本巻のみの収録だった。ちなみに定價は280圓。
現代日本文學全集 5 泉鏡花・徳富蘆花集 筑摩書房
昭和30年3月 431P 三段組外科室 明治28年6月 照葉狂言 明治29年11月〜12月 湯島詣 明治32年12月 高野聖 明治33年2月 歌行燈 明治43年1月 眉かくしの靈 大正13年5月
- あまりにもポピュラーなセレクト。とりたてて言うべきポイントのない一冊。タマ数が多いので、代表作を手っ取り早く旧かなで味わってみたい向きにお薦め。頒價350圓。
現代日本文學全集 54 泉鏡花・徳富蘆花集(二) 筑摩書房
昭和32年2月 423P 三段組![]()
表紙
海城發電 明治29年1月 化銀杏 明治29年2月 女客 明治38年6月・11月 婦系圖 明治40年1月〜4月 國貞ゑがく 明治43年1月 櫛卷 明治43年11月 日本橋 大正3年9月 賣色鴨南蠻 大正9年5月
- 売れ行きがよかったので全体の規模を拡大して追加刊行された二冊目の鏡花集。マイナーな初期作品と共に、意外にも「日本橋」が旧かな文学全集では初収録。
日本文學全集 3 樋口一葉・泉鏡花集 新潮社 昭和38年5月 533P 二段組 夜行巡査 明治28年4月 外科室 明治28年6月 照葉狂言 明治29年10月 高野聖 明治33年2月 女客 明治38年11月 歌行燈 明治43年1月 二三秩\―十二三 大正13年3月 眉かくしの靈 大正13年5月 栃の實 大正13年8月 卵塔場の天女 昭和2年4月 縷紅新草 昭和14年7月
- 出世作から遺作までをバランスよく収録。年譜も充実しており、鏡花を概観するには手ごろな一冊。でも、鏡花ワールドの奥行きはまだまだ深いのだ。
- これも前掲書と似たセレクションだが、紅葉関係他のエッセイが珍しい。後発だけあって年譜はもっとも充実している。豪華版と並版があるが、箱と表紙の装丁が違うだけでいずれもハードカバー。
Since Nov 27 1999
Last Updated: Dec 1 1999