白の帝國

2008年9月27日
















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プロローグ 9

 

侍女は少しの間、せわしなく視線を惑わせていた。

何か思う所があるのか、それとも単にこの態度のでかい、爐姫さま瓩箸いΔ茲蠏主なあたしの

目つきが怖ろしいのか。

 

「い…いえ、私めが真に願うのは、トマイヤの繁栄と我が姫の心の平安です。その御為ならば…」

 

「良い心がけだ。バッド、少しは見習ったらどうだ?」

皇女はしなやかに身体を座席に滑り込ませながら言う。

彼女はどう考えてもお転婆で、ツーシートの助手席側から乗り込み、ひょいと隣の運転席へ移ると

侍女ユミエダの乗車をジロリと目つきで促した。

奇抜な未来カーではあるけど、乗り心地はなかなか良い感じだと思った。

 

シートは黒革が張り付けられているのかそういった感触で、少し冷たくて気持ちいい。

この体に合わせて設計されたのか、ぴったりフィットする感覚が強い。

外見から見るより中は広く感じられ、内装はモノトーンでシックな印象でまとめられている。

だけどバッドと呼ばれている車自体(本体)は、聞いた事も無い言語(機械音?)のようなもので

悪態をついて、どうやらミラ姫さまに文句を言っているまっ最中である。

 

外から見るとこの未来カーの形は車そのものだったのだけれど、実際に入ってみると少しイメージと違った。

前面、側面にもどこにもガラス窓が無い、というのがこの車と普通の車との大きな違いで、

代わりに中央。普通エアコンやらオーディオがある辺りにコンピューターらしき物と、そのモニタが

ある。

そこまではいいのだけど、ハンドルもアクセルも、他には何も見当たら無い。

SFっぽく色んなボタンとランプがある宇宙船みたいになっているのかと思ったケド、シンプルどころかあんまり簡素なもんで、あたしは拍子抜けした。

 

「さっさと乗れ!」

皇女ミラ姫はイラついた声を上げ、侍女を睨みつけ催促する。

どっちかというと、こっちがびっくりするので突然大きな声を出すのはやめて欲しい。

ユミエダはこの未来カーもどきの物体を初めて見るらしく、相当怯えていて、傍には来ても

なかなか乗り込めずにいたが、怒声の勢いに逆らえずに従おうとしている。

ユミエダがあたしの隣に恐る恐る乗り込むと、まるで出口を塞ぐかのように音も無く自動的に素早く

扉が閉まり、車内が急に薄暗くなって、侍女は「ヒッ!」と悲鳴をあげて軽く飛び上がった。

ところでこの未来カー。車に似た外見ではあるけど、窓が無いし、

コレ、一体どうやって運転するんだろうか――?

 

「…こ…これがバティールの守護天使…!」

ユミエダが何か訳の分からない事を言って、隣で目を白黒させていた。

 

「天使などというご立派なシロモノではないな、なぁ? バッド」

あたしの口が皮肉っぽく言うと、また車が理解不能な音で抗議し始める。それを素早く遮り、

ミラ姫は「帰還するぞ」と短く命を下した。

車は抗議をやめ、どうやら命令を受け付けた様子。案外、従順な奴である。

 

エンジン音の代わりに軽く振動があり、座席が浮く感覚が起こった。

窓の一切無い真っ暗な空間に、妖しい紫の光の筋がどこからか出でて幾筋も伸び、次の瞬間、

内装は魔法にでもかかったように、一気に変貌した。――ほんの、瞬きするくらいの短い時間。

その間に、なんと内装が変化している。

 

一台しか無かったハズのモニタが、いつのまにかその横に上下二台ずつ追加されていた。

さっきの紫の光で出来たような淡く光るそれは、どうやら窓の代わりを務めるものらしい。それは

なんとなく、台数から予想出来た。。という

五台あると言う事は、前後左右…え〜と、他は何だろう? とりあえず、今はなにやら数値のようなものしか映っていない。

続いて後方から何かの高エネルギーが放射されているような感覚があり、この機体がゆるゆると

発進している。というのが、なんとなく感覚的に分かった。

 

ユミエダの口端は既に引きつり、ピクピク痙攣を繰返していた。驚愕に目をひん剥き、座席の背に

ボンドで貼り付けたみたいにへばりついている。

 

「こっ、こ、このっ! 過去遺産は…動力はぁっ、な何なのです…っ?」

彼女の声は最早裏返っていて、そのうちひきつけでも起こしそう。

 

「動力……? 知らん。そして興味も無い。私はそっちはからきしでな…」

ミラ姫の(どうでもいい)という投げやりな言い方に、あたしもユミエダも大きな不安を感じた。

一方皇女の方は慣れた様子で、座席の広いのを良い事に細い足を組み、仮想の肘掛を出して

頬杖までついてリラックスしている。

 

――なんか…思いっきり、嫌な予感が、してきたんですけど…。

 

喋ったりする奇っ怪な未来カーの中だという事も忘れるほど、あたしはある犇貅蠅粉恭亅瓩

思い出してしまって、意識が強張る。

 

「ぎぃやああああぁぁぁっ――!!」

あたしの叫びを代替するように、ユミエダが隣で大絶叫をあげた。

この感覚。今、突如加速したと思われるこの未来カーの感じに一番近いもの、それは……

 

あたしの超!超!超…! 苦手なジェットコースター…!!

 

飛行機の離陸前の、急激な加速にも似ているけど、人間こういう時はどうしても嫌な感覚の方を

先に連想してしまう。

窓が無いから分からないけど、スピードを増しながら、段々車体が上向きになっている気がして

仕方が無い…。

そして上昇したその先には当然急降下が待っている。(のだきっと)

上昇したら下降するのが重力の法則。

だったら、どこにわざわざ上昇する必要があるのだろうか?

あたしはジェットコースターに乗って、高みで手放しとかして喜んでいる奴らの気が知れないと、

いつも思っているような女なのに、それがどういう訳でこんな悪夢を見なければならないの――!

 

あたしの体は、そんな内側のあたしの思考を総スルーし、どこかの国の皇女様の目は、蝿でも見つけたかのような目でユミエダを睥睨する。

「うるさい女だな。耳が壊れる。ジタバタされるとバランスが崩れるだろう。…バッド! さっさと

固定しておけ」

『了解(コピ).だがマスター.彼女は先程から動かなくなっているようだが……』

 

後方から多分物凄いエネルギーが噴射しているらしく、轟音が聞こえ、更なる上昇を予感させた。

座席後部から、まんまジェットコースターの安全装置のようなものが現れて彼女を包み、

なすがまま、ユミエダは座席に固定される。

隣の席の彼女の顔をよく見ると、確かに土気色の顔をしてぐったりとし、白目を剥いてしまって

いた。

 

「気絶したか。――まぁ、ならば…丁度良い! ついでに港の進行具合を見ていこう。

そっちを廻って飛べ」

 

――猗瑤扠瓠 先程からの轟音と上昇を続けるような感覚はまさか…! ジェット機のように

この車(?)が飛んでいるという事なの!?

 

今は上昇中なのか離陸前なのかも区別のつかない不思議な感覚。外が見えないという事は、

こんなに不安を煽るものなのだろうか。この肉体があたしのものであれば、間違いなく

口から心臓が飛び出そうなほどバクバク言っているだろう。

もっと怖ろしい感覚があたしを襲う前に、あたしも隣の女のように気絶したいくらいだと思った。

 

それにしても、この夢の主人公は非情というか、隣国の密使である侍女が気絶しようが何だろうが、本気でどうでもいいみたいだ。

(大丈夫なのか? こんな人が王で…)などとあたしが行く末を心配してどうなるわけでも無い

けど、ちょっと人でなし過ぎる。

そんな事を考えていると、喋る未来カーが遠慮がちに咳払い(のような音)を出した。

 

『AH〜…マスター.事態は一刻を争うのではないのか? そんな悠長な事をしていていいのか.

セト司祭やパウロ神父からも早急にお戻りを.と何度も催促の通信が来ている』

どうやら機械は、反論したかったらしい。でも、そこで遠慮がちに声を出すなど、高性能すぎる。

 

「お前も本当に煩い機械だな! 大体、通信が届いているなら何処にいるのか把握していると言う事だろう」

『umm…オレサマの生存…いや.素晴らしい数々の機能が正常動作しているかを確認する為の

通信では無いのも確かではあるが….皆は無鉄砲・計算無しのお転婆姫が今度は何を企てようと

しているのかと気が気では無いのだ』

 

 

「…お前は本当に言葉の意味が解っているのか…? ここがトマイヤであるなら、

犁ヽの生命体発言・通信・王に対する侮辱・企て甍幣紊糧言で異端とみなされ、いくら

お前がバティール国の代々所有する守護装甲とはいえ、廃棄命令が出されるぞ。私の立場も

危うくなる。――その先は、分かるな?」

 

皇女に諭すような声で嗜(たしな)められてしまい、未来カーはしゅんとしたのだろうか、今度は

反論しなかった。

最早彼らが一体何の会話をしているのかあたしにはさっぱりで、まるで宇宙語の会話を聞いている

かのようだった。

(元々あたしがバカだから分かんないだけかも知れないけれど…)

  

「近日、トマイヤに入らなければならなくなるだろう…。非常に行動の規制された国ではあるが、

お前を連れて行かないのも不便だ。だからこそ、肝心のお前がしっかりと規律を護っているフリをし、万全のサポートをしてもらわねば…。何しろ我が国唯一の武器を出す訳だ。しっかりと、自分は

清く正しく誠実な戦車だとアピールしてこいよ」

 

夢の主人公ミラ姫は皇女らしい聡明な声でそう言い、不敵ににやりと笑った。

だけどその何かを企む小悪魔みたいな語調は、あんたは悪役? としか思えない。

 

『その.傍観者的発言はどういう意図なのだ…….ミラ姫』

 

ごくり、と唾を呑み込むようなバッドのその声には、車だとか機械とは思えない気苦労がよく表れていて、彼は機械なのかと本気で疑いたくなってしまう。

 

「あっはは! ……ふふ。私は、ぎゃあぎゃあ喚く奴は嫌いだという事だ」

『回答になっていない.真意が理解できない.詳しい回答を要求する』

「ん? そうだな――何が起ころうとジタバタするな、という事だ」

 

ミラ姫の穏やかな言葉に含まれる笑みに、あたしも(未来カーもたぶん)とてつもない不安を

覚えた。

嫌な予感と言うよりも、不吉な予言をされたような…。

 

――いったい、何が起こるというの…?

 

胸に灰色のもやが渦巻くような不穏な重みを感じていると、ふわり、と無重力感があって、

胃が下がった気がした。

俯瞰の感覚に吐き気がして、気持ち悪いのが押しあがってくる。そして、目の前が…、

真っ白になっていった――。

 

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