白の帝國

2008年9月21日
















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プロローグ 5

 

同時にあたしの足元に軽い振動が起こり、そこを取り囲むように半円が描かれ亀裂が走った。

見えない何かでえぐられたみたいに地面に溝が出来、黄色い土埃が舞い上がる。

大鎧の赤い光は、レーザー光線かなにかのようだった。

 

夢の主人公は驚愕に目を見開き、土煙の向うの黒装束を呆然と立ち尽くして見つめていた。

舞い上がった爆風で髪が煽られる。

敵も微動だにせず、さっきと同じ立ち位置でただこちらを眺めている。

双眸は相変わらず見えなかったが、これは含み笑いでもしていそうな雰囲気だ。

 

あたしにはこの状況の深い意味など全く理解できないけど、超人的なアクションを軽々こなす

夢の主人公が、手も足も出ないほどヤバイ状況なのだ、という事だけは、はっきりと分かった。

今まで蝶のように華麗にスタントしていたあたしが、その身体が…、

微かに震えている。

 

しかしあたしは果敢にも顔を歪め、憎悪を篭めて鎧を睨み付け威嚇していた。

 

「…なるほど。そのような物を持ち出すとは…そちらも必死なものだな…」

気位の高そうな声は、今やその震えを怖れでなく、怒りからの震えに変化させている。

嫌悪感を剥き出しにして吐き捨てるように言ったものの、状況はより深刻になっていた。

 

あたしの白いオールインワンのスーツの胸元に、赤外線レーザーの照準のような、紅く小さな点が狙いを定めていた。熱くはないはずだけど、胸元の一点がチリチリするようだ。

夢の中のあたしは敵を睨み付けたまま、何故かそれでも一歩も動こうとしない。

傍観者であるあたしの方が心臓をバクバク言わせ、

 

――…殺される…!! 

そう、思った。

 

峡谷の裂け目から差し込む陽の光が、一瞬途絶えた気がした。

さして大した事ではない筈なのに、鎧は驚いた様子で真上を確認する――…と、同時に、

あたしの身体は何かに掻っ攫われるように、勝手に横方向に移動していった。

 

――なに…!? …ええっ?

あたしは頭の中も目の前も真っ白になったのだけど、あたしの身体の方は違ったらしい。

 

握り締めた剣先を天へ向って掲げ、一直線にそれを振り落とすと、勇ましい声で吼えた。

 

「やれぇぇぇ―――っ!!」

 

すると突然雷鳴のような激しい音が天より鳴り響き、鋭い雨のように地に降り注ぐ。

大きな力強い何かに連れ去られながらも、あたしはその光景から、目を逸らす事が

出来なかった。

 

目の前に居た鎧の騎士が、成す術もなく奇妙な形に陥没していき、巨大な雨でも受けたかの

染みを造っていく…。それは雨の中に踊る、操り人形のようだと思った。

腕が奇妙な方向に曲がり、ちぎれ、特に頭部に集中的に衝撃を受け、血も肉も飛び散らずに

煙の様なものを上げているのが見えると、黒い雨は染みなどではなく、銃撃を受けた穴なのだと

分かった。

 

今やスクラップのように変形した黒鎧はシュウシュウと音を立て、がくりと膝を折ると、上半身を

後ろに倒しながら、泥人形のように脆く崩れていった。

ガランと音がして、デコボコで穴だらけになった鎧の『頭部』だったものが転がる。

あたしはそこから目を放せず、瞬きも出来ずにいた。

 

あたしの身体を掻っ攫い、半ば荷物のように運んでいたものが、いつの間にか動きを止めていた。

 

辺りには何かが焼け焦げた匂いと、巻き上げられた土の匂い、それと、すぐ傍でとても上質な

革の香りがしていた。

あたしの身体がふと地に下ろされ、あたしの腹の辺りをずっと抱きかかえていた大きな手が離れて

いくのが、視界の端に見えた。

夢の主人公はそれには全く関心が無い様で、ちらりともそちらを見ない。

 

しかしあたしの心臓は何故か高鳴り、すぐ隣に居るのは背の高い、影のような男だと分かっている

ような気がしていた。

 

――…隣を見上げたい…顔を…。

何故かあたしは恋焦がれるような気持ちで、そう願っていた。

 

「……こんな所で、何をしていた――?」

無残に転がった蜂の巣の頭部からようやく目を逸らし、夢の主人公はすぐ隣に佇む男に吐き捨てるように言いつつ、キッと見上げる。

 

そこには憂えたような漆黒の影。先程倒した黒鎧騎士と寸分違わない様相の男がいた。

 

ただそこに居るだけで存在感を絶大に放ち、真昼だというのに彼の周囲には夜が訪れているかの

ようだ。影もまた、夢の中のあたしに似た尊大さで、ちらりとこちらを一瞥する。

 

深い色の瞳は心臓をつかむような迫力を持ち、良く整った唇はむっつりと真横に結ばれたまま。

黒い大きな唾の帽子には、真っ黒な羽根飾りが流れるように付いていて、何故かあれはくすぐったくてたまらない…。と、ふと思った。

 

広い肩に流れる夜そのものを広げたみたいな漆黒のマント。

さっきの鎧と違う点と言えば、そのマントの中に、なんとこの暑さなのに黒革のジャケット・黒革の

タイトなパンツにブーツだという事と、その獣のようにギラリと燃えるような真紅の瞳が、

はっきりと見える事だった。

 

「何をしていた、だと? それはこっちのセリフだ…! お転婆もいい加減にしておけ!」

獅子の吼えるような声が、低く峡谷に轟く。

それでいて、耳に残るどこか甘い声。

 

どうやらこの黒装束だけは敵の一味ではないらしい。

そして、この男と夢の主人公の二人は、顔見知りな様だった。

 

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