白の帝國

2008年9月21日
















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プロローグ 4

 

 「!!」

 

突然の事に今度の黒装束も何も出来ず、手綱を捌いて急激にクイのスピードを落とすので精一杯

だった。

確かに突然死角から襲い掛かられれば、誰でもビビるだろう。相手は多分男なのだろうから、

情けない叫び声をあげないだけいくらかマシと言える。

あたしは獲物の喉に喰い付く豹のように、腰にあった鞘付きの剣を外して相手の喉元にそのまま

押し付けながら、ほぼ体当たりで突っ込むかたちになっていた。

その衝撃で敵もろともクイから転げ落ちるわけだけど、あたしは押し付けた剣を握る方の腕に力を

込め、器用に身をよじって敵の頭上を越え、宙を舞う。

 

しかし敵も然る者。クイのスピードが若干落ちていた為に、その場に転げ落ちてもくるりと横回転して

すぐに起き上がった。

まるで相手も忍者のような、素早い身のこなしだと思った。

 

――何なんだ。こいつら…?

夢にしてはあまりに鮮やかな臨場感とともに、あたしは少しの恐怖を感じ始めていた。

 

何だか最初は他人の絵空事だと、ただ映画でも見ているような気分だったのに、夢の主人公と

一体となっている感覚が強すぎてだんだん怖くなってきた。

普通に生きていて体験する筈もないアクションを、超越し過ぎている。

 

――それに、これは…ちょっとやばくないか?

 

あたしは微かに嫌な予感がして、すぐにそれを振り払おうとした。

これは夢なのに。自分の事ではないのに…。まして今同調しているこの身体が言う事を聞くわけでもないのに…。そんな予感を感じてしまっていた。

 

多少の間合いを置いてそこに立つ黒装束は、背の剣を抜き、さっきのヤツよりその剣はドデカいと

いう事が良く分かった。

そしてその男自身――中身も、さっきの白髪の男よりもいかつい体躯をしている。

妙に角ばったマントの下は全身装甲の如く、鎧で覆われている様子だった。

頭巾ではなく、今度の黒装束はこれまた黒の唾帽を被っていて、その下の顔は影になって

何も見えない。

 

――さっきのが歩兵クラスなら、今度の敵は『将軍』とか、『鎧騎士』ということなの…!?

 

敵は剣を構え、黒のマントの下に纏った重厚な鎧の音も立てず、見た目と全く違った

恐ろしい素早さで、あたしに向かって突っ込んで来る…!

 

あたしの身体は一瞬、どうするべきかめまぐるしく思考したのか、さっと硬くなった。

しかし次の瞬間にはどうするのかを選び取ったらしく、ひ弱に見える細い剣の鞘を抜きはらって、

悠然とその場に立ち尽くす。

 

――げっ! どうすんだよ…危ないって…!! 

あたしはそう思った。

黒鎧の騎士はもうすでに目の前に迫っている。立ち止まっている場合では無い気がしたけど、

あたしはただの傍観者に過ぎない。

自分の夢の中なのに焦燥に駆られ、そして動けずにいた。

 

――危ない! 逃げようよ!! 

 

一歩大きく踏み込んで、敵が上段に構えた剣をあたしの頭に容赦なく降り降ろそうとしていた――

瞬間。

あたしは身を縮めて乾いた地面をバネの様に蹴り、敵のマントに突っ込むようにして脇下に

飛び込み、くぐり抜けようとしていた。

 

しかし敵がそれに気付いて僅かに上げた足に、あたしの片足の爪先が引っかかってしまった。

互いに反射的に身をよじりつつ、こんな時ほどスローに流れるもどかしい時間の中、それでも

一撃食らわせようと、互いのギラつく目線がぶつかり合う。

 

あたしは自らの剣を鎧の脇あたり、関節部分で鎧の隙間になっていそうな場所に強く突き立てた。

何がしかの衝撃を感じた。…――ような気がした。

 

敵は馬鹿力らしく、大きくかぶって振り下ろした大剣が地面に刺さってしまったのを逆に利用し、

反動で大鎧の重量ある体が多少宙に浮かぶのを利用して、より良い位置へと体勢を移動させようとしている。

こちらの剣がどこかしらを傷つけた筈なのに、この鎧はそんな程度の事はどうでもいいらしい。

問題は、あたしの方だった。

 

敵に背を向けては居ないが、このままでは背から地に落ちる格好だ。どちらにしてもこちらの方が

不利になる。

そんな事まで考えられるほど永遠とも感じられたコマ送りの滞空が、前触れも無く再生ボタンを

押されたように突如、通常のスピードとなり、あたしは背に酷い衝撃を受けることになった。

 

「…ぐっ…!!」

あたしとは少し感じの違った声が呻く。

顔をしかめつつ起き上がるが、その視界に鎧騎士が息つく間も無く突進してくるのが見え、必死で

細剣を口に咥えて、そのまま何度かバック転し、最後に高く飛び上がる。

その時の勢いでサングラスが外れてしまい、重そうな剣の餌食になっていた。

 

空中で身を捻り、下降する際、ついでに敵のこめかみ辺りを狙って廻し蹴りを入れてはみるものの、相手は大きな唾の黒帽子の下に兜を被っているらしく、大きな衝撃は与えられず、鎧が少しばかり傾いたように見えただけだった。

それによってしかし一瞬の間が開き、あたしは一端着地して大鎧の背後に何とか回り込む事だけは出来ていたけれど、その時点で、息が完全に上がってしまっていた。

 

夢の主人公は気丈に細剣を手に構え直してはいるが、汗が滲み、脚もジンジンと痺れてしまって

いる。

対して敵は余裕で背を向けたまま、その首がことさらゆっくりとこちらを振り返ろうとしていた――。

 

にたり、と嘲笑うような様相がこちらを見る。

 

実際には大きな唾帽のせいで影になり、表情など見えはしない。

それどころか、さっき見えたと思った目線の辺りには、双眸が見えなかった。

いくら兜をしていても、そこだけは普通開けて置くはずの場所が何故か覆われている。

そしてそこに眼光代わりだとでもいうように、キラリと真横に走る紅い線が、見えた気がした。

 

――…なん、だと…!?

 

夢の主人公の感嘆の声が、あたしに聞こえた気がした。

  

 

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