白の帝國

2008年9月20日
















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プロローグ 3

 

「お前はロミ姫の使いか」

 

急にあたしの身体は勝手に口を開き、ドレスの女に鋭く聞いていた。

 

あたしの声にとてもよく似ている。

けれど全く違うのは、どこか知的で高圧的な感じの声だと言う事。とてもでないけど、あたしにはこんな自信に満ちた声は出せない。

 

自分の物であるはずの己の声が、ある日似たような違う人物の声になってしまったみたいで、

戸惑いと不安が押し寄せ、同時に夢の中の人物に完全に同調してしまい、自分の視点と錯覚していたことに奇妙な居心地の悪さを感じていた。

 

ドレスの女は高圧的な夢の主人公(あたし)の声に脅えた様子で、びくりと肩をすぼめている。

良く見ると、彼女は首から下げたロケットを死守するかのようにずっと握り閉めている。

あたしの体は狄靴燭奮擁瓩鮓つけたようにそこに視点を合わせ、そして一ミリたりとも

外そうとしないでいた。

 

「…あ…、い、いえ…何故その名を…?」

ドレスの女の声は、喉もカラカラになってしまっているのか、ひどく掠れた声だった。

どことなくあたしの事を警戒しているようで、バケモノにでも出くわしたような表情。

 

――まさかとは思うけど…、あたしもこのぶっ倒れてる男も、あのロケットを狙っているだけ

   とかなの…!? 夢の中までもあたし…、嫌われ役ってこと…!?

 

あたしは心の中で舌打ちした。

そんな事を考えているのが夢の主人公に伝わる訳も無いし、向うの考えが伝わらないのも

奇妙な感覚だと思った。

『あたし』という意識があるのに、あたしの同調している人物はその人の意識をきちんと持って

いて、勝手に思考し喋っているのだ。

『幽体離脱』ともちょっと違うけど、どことなく、あたしの意識はもっと高い場所にあるような

気もする。

夢だから当たり前、というか、夢だから別にそれらはヘンでもないのだろうか…?

 

「聞かれたことに答えないと任務を遂行できんぞ。…当然、バティールにも辿り着けん」

 

あたしが違う事を考えている間に、あたしの口はまるでドレスの女の上官であるかのような言葉を吐き、最後は鼻先で嗤うような音が含まれた。

 

女はそれを聞くと、驚愕と恐れの入り混じった表情をとる。

 「な…なんてこと…! あなた…何者なのです…?」

 

彼女の問いは、内側に居る『あたし』にとっても、非常に興味のある内容だった。

 

――この夢の中の爐△燭鍬瓩楼貘痢何者なのか…?

 

夢の主人公は当然のように何も答えず、一瞬の静けさが訪れる。

乾いた風が吹きぬけていった。

 

このまま不遜に何も答えないと思いきや、夢の主人公は(仕方ない)というように肩を落とし、

掛けたままだった近未来的なサングラスを外すと颯爽と頭巾を取り、髪を振った。

 

「はっ……!」

ドレスの女はそれだけの動作とこちらの顔を見ただけで、息が止まって今にも倒れそうに

なっていた。

 

しかし、悠長にこの体の正体について注意を払っている場合ではなくなった。

突如、峡谷に反響する鈍い足音が、背後から再び迫ってくる。

地面から聞こえてくるような蹄の音。――クイの足音だった。

 

「チッ! …やはり五人だったか…!」

あたしはサングラスだけを駆け直し、頭巾は乱雑にポーチにしまって素早く動く。

 

確か、この峡谷に入ってきた黒装束は上から見ていた感じだと四人ほどだった。

他の三人は全く別の分岐へ入っていくのが見えたけど、今倒した奴を含め、四人の他に後から

追尾してくる者がいたらしい。

あたしは慌しくポーチの中に手を滑り込ませ、電子手帳のようなものを探り当てると、見もせずに横のボタンのロックを外し、何かのボタンを押した。

そしてまた素早く手を抜くと、ドレスの女に片手で牴爾って隠れていろ瓩函▲汽ぅ鵑靴拭

 

「もし私に何かあったら、黒の守護装甲が迎えに来る。それで逃げろ!」

「そんな…! おやめくださ…」

ドレスの女の言葉など全く聴かず、夢の主人公は内側にいるあたしには意味不明の言葉を

叫び、敵を迎え撃つ為駆け出していた。

 

クイの足音はじわじわと近づいてきている。

あたしは身軽に疾走しながらも、不意打ちをつける場所を探していた。

 

V字のカーブの手前に比較的平らな壁があり、その岩壁にぴたりと張り付き耳を澄ます。

どうやらここで敵を待ち構える作戦らしい。さっきと要領は一緒で、恐らく向こうからは角度的に

岩壁しか見えないし、気付かず通り過ぎる可能性も高い。

奇襲するには完璧だと言えた。

 

いくらこちらの姿は見えないとは分かっていても、随分近くに迫ってきている蹄の音に、

否が応でも心臓が高鳴る。

しかし夢の主人公は全くもって冷静で、クイの駆ける足音と、自分の呼吸リズムをぴったり

合わせようとしていた。

そうやって、襲い掛かるタイミングを慎重に計っている。

 

クイが早足で耳の横を通りすぎようとする風音が聞こえ、あたしは黒装束に向けて、

壁から放たれた弾丸のように、一直線に飛び掛かっていった。

 

 

 

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