格言集

銀河英雄伝説外伝2
ユリアンのイゼルローン日記篇





こうやってみると、イゼルローン要塞は、ほんとうに悪口雑言、皮肉、いやみ、毒舌の宝庫だと思う。だけど、ほんとうに相手を傷つけるようなことばが交わされるのを、ぼくは聞いたことがない。つまり、イゼルローンがほんもののおとなの集団である、それが証明だ、と、ぼくは考えている。

――ユリアン・ミンツ





市民に対する公共サービスの均質化の進みぐあいは、社会の民主性の度合に正比例する。

――ヤン・ウェンリー





いい女が必ずいい男に出あうものなら、世のなかの悲劇は半分にへるだろうな。

――ポプラン





国家のシステムに組みこまれているかぎり、いくら無頼や反体制を気どっても、しょせん予定調和だからね。

――ヤン・ウェンリー





あの一件で、過去の名誉も将来性もすべて消えてしまった。人間、どこでつまずくか、いつ一生の評価が定まるか、わかったもんじゃないな。

――パーカスト





可能性と実現性はイコールじゃないからね。

――ポプラン





形式というものは、必要かもしれないが、ばかばかしいことでもありますね。

――ジークフリード・キルヒアイス





近代以降、戦争を精神的に指導してきた文化人や言論人が、最前線で戦死した例はない。

――ヤン・ウェンリー





戦争をしなくちゃならない理由は、安全な場所にいる連中が考えてくれるからね。危険な場所にいる人間が、戦争をすべきでない理由を考えてもいいんじゃないか。

――ヤン・ウェンリー





おとなになるということは、訊ねていいことと悪いことの区別をつけるということだ。

――ヤン・ウェンリー





犯罪者には三つのタイプがある。第一に、法律を破るタイプ。第二に、法網をくぐるタイプ。第三に、自分の利益のために法律をつくるタイプ。

――ヤン・ウェンリー





不向きなことを克服するのに時間と労力をついやすほど、人生は長くない。

――ヤン・ウェンリー





戦略は構想だ、と私は言ったけど、あるいは価値判断だというべきかもしれないね。戦略の段階で最善をつくしておけば、戦術レベルでの勝利はえやすくなる。なあ、ユリアン、私は奇蹟を生むとか一部で言われているけど、それは戦術レベルでのこと。戦略レベルでは奇蹟も偶然もおこりっこない。だから戦略こそ、ほんとうに思考する価値があるんだよ。

――ヤン・ウェンリー





少数で多数を撃破する戦いが、なぜ有名になると思う?そんな例はめったにないからだよ。100の会戦のうち99までは、兵力の多いほうが勝つ。

――ヤン・ウェンリー





ふうん、勘でわかるんだってさ。軍人の勘が全部あたるのなら、負ける奴はいない。警官の勘が全部あたるのなら、無実の罪に泣く者はいるはずがないさ。ところが現実はどうだ?戦略には、勘なんか働く余地はない。思考と計算と、それを実現させる作業とがあるだけだ。たとえば、ある方面に100万の兵力を配置するためには、兵力それ自体の他に、それを輸送するハードウェアと、100万人分の食糧と、それらすべてを管理するソフトウェアが必要で、そういったものは勘からは生まれてこない。だから、職務に不誠実な軍人ほど戦略を軽視して、戦術レベルで賭けをしようとする。さらに無能で不誠実な軍人になると、精神論で戦略の不備や戦術の不全をごまかそうとする。食糧や弾薬を補給もせずに、闘志で敵に勝つことを前線の兵士に強要する。結果として、精神力で勝ったということはある。だけど最初から精神力を計算の要素にいれて勝った例は、歴史上にひとつもないよ。

――ヤン・ウェンリー





結局、戦略とは戦争全体の勝敗を決めるための基本的な構想とそれを実現するための技術。戦術とは局地的な戦場で勝敗を決するための、いわば応用の技術。状況をつくるのが戦略で、状況を利用するのが戦術だよ。

――ヤン・ウェンリー





世の中のあほうどもは、何か決定すれば事態がひとりでに動きだすと思っているのとちがうか。

――ヤン・ウェンリー





国家、法律、社会制度、コンピューター、そういったものはすべて道具にすぎない。人間がなるべくたがいに迷惑をかけずに生きていくためのね。同時に人間が人間を支配するための手段にもなる。法律やコンピューターが人間を支配することはない。そういった道具の使用法を熟知した少数の人間が、多数の人間を支配する。古代には、神の声を聞いたと称する人間が、一国すら支配した。神とは、そういった支配者が自己の権力を正当化する道具であり、人民を思考停止させるための麻酔薬でもあったわけだ。後には、近代主権国家が神にとってかわった。だけど、つねに変わらなかったのは、そういう道具を聖なるものとして強制的にあがめさせるためのもうひとつの道具、つまり軍隊というものの存在だ。軍隊は道具にすぎない。それも、ないほうがいい道具だ。その上でなるべく無害な道具になれるといいね。

――ヤン・ウェンリー





ユリアン、基本的なことを復習しておこうよ。戦争はなぜ悪なのか、ということだ。それは何よりもまず、無意味な死、無益な死、犬死にを大量に生産するからだよ。そうじゃないかい?

――ヤン・ウェンリー





経済とはそういうものだよ。理念じゃ動かない、あるのは現実だけだ。その点、政治や軍事よりシビアかもしれんぞ。

――キャゼルヌ





才能と技術と人格を混同するほど愚かなことはない。

――ヤン・ウェンリー





先祖を自慢するのは、子孫がだらしないことを証明するだけのことではないか。

――ユリアン・ミンツ





……人間の能力には、発信性のものと受信性のものがあるのだという。発信性のものとは創造力のことで、受信性のものとは記憶、理解、処理能力、それに批評したり鑑賞する能力だそうだ。そういう区分のしかたが全面的に正しいとはかぎらないけど、なるほどという気がする。

――ユリアン・ミンツ





戦争でもっとも大切なのは補給と情報だ。このふたつができなければ、戦闘なんてできやしない。戦争をあえてひとつの経済活動にたとえれば、補給と情報が生産で、戦闘が消費になる。

――ヤン・ウェンリー





歴史というものは過去で完結しているわけではなくて、まかれた種が地にもぐっても、いつかは実る。







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