宮部みゆき〜火車〜
お気に入りの作家、宮部みゆきさんの「火車」の紹介です。

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加納朋子「ななつのこ」
加納朋子「魔法飛行」
加納朋子「スペース」
加納朋子「掌の中の小鳥」
加納朋子「沙羅は和子の名を呼ぶ」
加納朋子「いちばん初めにあった海」
加納朋子「ガラスの麒麟」
加納朋子「螺旋階段のアリス」
加納朋子「虹の家のアリス」
北村薫「Skip」
北村薫「Turn」
北村薫「Reset」
北村薫「空飛ぶ馬」
北村薫「夜の蝉」
北村薫「秋の花」
北村薫「六の宮の姫君」
北村薫「覆面作家は二人いる」
北村薫「月の砂漠をさばさばと」
・宮部みゆき「火車」
宮部みゆき「スナーク狩り」
宮部みゆき「鳩笛草」
宮部みゆき「クロスファイア」
宮部みゆき「我らが隣人の犯罪」
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新潮文庫 宮部みゆき(著)

 お気に入りの作家、宮部みゆきさんの『火車』の紹介です。
 まず、簡単に内容ですが、主人公は休職中の刑事である本間俊介。彼が、彼の亡くなった妻の遠い親戚である栗坂和也から、「失踪した婚約者を探してほしい」と頼まれたことから物語が始まる。その婚約者の名は関根彰子。調べれば調べるほど、彼女が自分の意志で失踪し、足取りを徹底的に消そうとしていることがわかる。なぜ彼女は・・・?という謎を追いかけるストーリーです。直木賞候補に押されながらも惜しくも逃してしまった作品(しかし、山本周五郎賞を受賞)。何はともあれ、ぜひ読んでください。面白いです。「カード社会の・・・」などといろんな紹介がなされていますが、細かいことは考えずに、ぜひ、ぜひ。

 以下、ネタばれを含みます。細かい内容を読む前に知りたくない、という方は読まないでください。

 さてさて、読まれた方、『火車』面白かったでしょ?なんで直木賞のがしちゃったんですかね。ウワサによると、「関根彰子が(最後の1シーン以外)登場しない、一言もしゃべらない」からだとか。そこが素晴らしいと思うんですけれどね。緊張の展開、展開、展開、そしてラストに・・・(文庫版582ページの最後の一行)。「ウォ〜〜〜〜!」って感じですよねぇ(つい、興奮してしまいました)。宮部さん自身がおっしゃっていますが、まさに、最後のこのシーンを描くために、『火車』は書かれたのです。当時の直木賞の選定委員の中では、作家の井上ひさし先生だけがこの点を指摘し、もっとも強く火車を押していたらしいです。この後に宮部さんは技術の限りを尽くした『理由』で直木賞を獲得しています。『火車』は、“カード社会”という現代社会の問題を明確に提示しています。例えば、溝口弁護士が主人公・本間に対して「あなたは今、こう考えておられるかもしれない(191ページ)」「多重債務を抱えるのは、やっぱり本人に何らかの欠陥や欠点があるからなのだ、と。違いますかな?(192ページ)」と問いかけ、図星をつかれた主人公は動揺する。さらに弁護士は交通事故について例に上げ「そうやって考えてゆくと、事故には無数の要因があるし、理由がある。改善しなければならない点も多々ある。仮に、今ここで、私がそれを全部棚上にして、『でも結局は、事故を起こすのは、そのドライバーが悪いからだ。被害者も加害者も同じことだ、まともな人間なら事故など起こさない。事故に遭うのは、そのドライバーに欠点があるからだ』と言ったら、あなたはどう思われますか(194ページ)」と問いかけ、主人公の思い違いを指摘する。我々に現代社会について問いかける。非常に切れ味の良いコメントだと思います。評価されるべき社会派の小説ですよね。でも、私としてはこの一方で、“宮部印”の人間の描き方、心理描写が素晴らしいと思います。例を上げるなら、火車の解説で佐高信さんがコメントされている「寂しさの人間観察」などでしょう。この繊細な人間の描き方の上だからこそ、社会設定や最後のシーンが鮮やかに描き出されるのでしょう。宮部さんの多々ある作品の中でも、マイ・ベストの一冊です。