★ 走れ、強右衛門! 仲間たちを救うために……。
 〜日本史上最高の英雄的人質・鳥居勝商!!

ホーム>バックナンバー2004>イラク日本人人質事件

イラク日本人人質事件
1.緊迫 〜 武田の嵐
2.挙手 〜 使者の名乗り
3.報告 〜 岡崎へ
4.激走 〜 長篠へ
5.勇者 〜 強右衛門の選択

日本人を人質に取った。三日以内に自衛隊を撤退しなければ、人質を殺す」

 平成十六年(2004)四月八日夜、日本中に衝撃が走った。
 イラクのファルージャ近郊で反米武装グループ「サラヤ・ムジャヒディン
(戦士旅団)」が日本人三人を拉致し、日本政府に上のような要求をたたきつけたのである。

ああ、心配していたことが……。いったいどうするんだ……」
 国民は、政府の動向に注目した。
 政府の決断は早かった。
日本は断固としてテロリストの要求には応じられない」
 小泉純一郎首相以下は、即座に武装グループの要求を突っぱねたのである。

 私はこのとき初めて、政府の決意の程を知った。
 もし人質が殺されれば、世論は紛糾し、政権は崩壊するかもしれない。それを覚悟で政府はアメリカ擁護の立場を改めて内外に明白にしたのである。

 アメリカは喜んだ。ラムズフェルド国防長官はただちに日本の迅速な表明を褒め称えた。
アメリカは日本の決断を歓迎する」 
 スペインなどに逃げられ、ポーランドなどにも陰口をたたかれているアメリカにとって、日本の忠犬ぶり、いや、忠誠は感涙ものであろう。日本はアメリカの信頼を勝ち取ることには成功したのである。
「やはり、頼るべきは日本しかいない。日本にはまだサムライ・スピリッツが残っている」

 一方で日本は、イラクの人々の反感を買ってしまった。
どこまで日本はアメリカの味方なんだ! 日本にとってアメリカは、原爆をぶちまけられた憎き敵ではないか!」
 サラヤ・ムジャヒディンの連中も、肩透かしを食らってしまった。
 彼らには、昭和五十二年(1977)のダッカ・ハイジャック事件で、当時の福田赳夫首相が、
人命は地球よりも重い」
 と、やむなく人質と引き換えに犯人
(日本赤軍)の要求(身代金六百万ドルと同志九名の釈放)を受け入れたイメージがあったはずである。
「なんだ! 今の日本は自国民の命よりも、アメリカ様の命令のほうが大事なのか!」
 連中は地団太踏んだことであろう。
「日本の首相は我々をテロリスト呼ばわりまでしやがった。ムカつくから三人を殺してしまえ」
 と、思っていたところへ、イスラム聖職者協会幹部・クバイシらがストップをかけてきた。
日本政府はアメリカの言いなりでイラクに自衛隊を派遣してしまったが、日本国民には派遣に反対している人々が多い。その人質三人も反対派で、イラクのために働いている人々じゃないか。そんな人々を殺したところで、日本政府を困らせることはできない」
 説得された連中は、十五日にバクダッドで三人を解放した。
 また、別に十五日にバクダッド近郊で拉致された日本人二人も、二日後に解放されている。

*          *          *

 さて、今回は人質が最も盛んに行われていた戦国時代の中でも、特に有名な人質の物語である。
 鳥居強右衛門勝商
(とりいすねえもんかつあき)―。
 戦国ファンの方は、もうお分かりであろう。
 そうである。三河長篠
(ながしの。愛知県新城市)城の仲間たちの窮地を救い、有名な長篠の戦(「 銃器味」参照)の舞台を整えた、あの英雄的人質である。

 御存知と思うが、長篠の戦とは、織田信長徳川家康連合軍が長篠城に押し寄せた武田勝頼軍を、その西方の盆地・設楽原(したらがはら。新城市)で撃退した戦いであり、それまで武田軍優勢であった戦国地図を、織田・徳川軍優勢に塗り替えた重要な合戦であり、新兵器鉄砲が旧兵器騎馬軍団を撃破し、中世から近世への転換点となった、日本史上最重要の戦争である。

 しかしながらこの戦争は、長篠城が落ちてしまっていては起こりえなかった。
 長篠城主・奥平貞昌
(おくだいらさだまさ。定昌とも。後の信昌)が持ちこたえていなければ、その家臣・鳥居強右衛門が一役買っていなければ、歴史が動くことはなかった。
 長篠の戦の勝敗を決したものは、鉄砲でもなければ馬防柵でもない。
 強右衛門の不屈の信念が、長篠城兵に力を与え、織田・徳川連合軍を奮い立たせ、当時最強といわれていた武田軍を壊滅させたのである。

[2004年4月末日執筆]
参考文献はコチラ

「走れ、鳥居強右衛門」主な登場人物 

【鳥居勝商(強右衛門)】とりいかつあき(すねえもん)。貞昌の家来。

【奥平貞昌(信昌)】おくだいらさだまさ(のぶまさ)。家康の家来。貞能の子。

【奥平勝吉】おくだいらかつよし。貞昌の家来。三河田代領主。
【奥平貞能】おくだいらさだよし。貞昌の父。家康の家来。

【穴山信君(梅雪)】あなやまのぶきみ・のぶただ(ばいせつ)。勝頼の家来。
【河原弥太郎】かわはらやたろう。信君の家来。

【 メロス 】太宰治著『走れメロス』の主人公。

【織田信長】おだのぶなが。美濃岐阜城主。家康の盟友。

【徳川家康】とくがわいえやす。遠江浜松城主。貞昌の主君。

【武田勝頼】たけだかつより。甲斐躑躅ヶ崎館主。貞昌の元主君。

歴史チップスホームページ