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ロクセラーナ

優雅に建てられたり、讃嘆すべき天国に、
崇高なる楽園のハレムに立つスルタンの門

(イスラム暦996年〔西暦1587-88年〕にムラート3世が建てた馬車門の銘文)



 ハレムとは、アラビア語で「神聖にして侵すべからざる」という意味を持つハラムが訛った言葉である。第10代スルタンであるスレイマン1世(1494-1566、在位1520-66、トルコ人には立法者、ヨーロッパ人には荘麗者と呼ばれた)以降、オスマン帝国と通婚しうるような同格の王朝はなくなり、征服された諸国はすべて併合または保護国化され、周囲は敵国だけとなった。このため、16世紀初めまでは正式の結婚により由緒正しい家柄と縁組していたオスマン朝のスルタンも、スレイマン1世以後になると、ハレムで育成された女奴隷と事実上結婚することにより、いわば内縁関係により皇統を維持するようになった。

 ロクセラーナは16世紀初にルテニアのロハティンの貧しいギリシア正教の司祭の娘として生まれた。本名はアレクサンドラ・リソフスカ。ポーランドを侵掠したタタール人にさらわれ奴隷となり(奴隷名はフルレム)、オスマン帝国の大宰相イブラヒム・パシャ(彼女の最初の所有者?)に買われた後、1520年にスレイマン1世に献上された。ロクセラーナとは「ロシア女」という意味のあだ名である。彼女は、背丈はかなり低く、美人ではないが愛想がよく陽気な性格であった。また聡明で奸智に長けており、誘惑と才能によってスレイマンの寵をほしいままにし、スレイマンとの間に4男1女(メフメド、バヤジット、セリム、ジハンギールとミフリマ)を儲けた。彼女は、大変美しい娘たちがスレイマンに献上されると夫と大喧嘩をし、スレイマンは娘たちを送り返さねばならないほどであった。「なぜなら、この娘たちがハレムに留まるなら、彼女は苦悩のあまり死んでしまうであろうから…」。
 ロクセラーナがハレムに入ったとき、第1夫人の地位にはギュルバハルがいて、スレイマンとの間に長子ムスタファを儲けていた。ロクセラーナはギュルバハルと争い、その結果ギュルバハルは息子ムスタファがマニサの総督に任命されたときにハレムを去った。ロクセラーナは1541年の旧宮殿の火災を口実にトプカプ新宮殿に移り、スレイマンの傍に留まった。そのせいでハレムは国家と交わりあい、その結果は恐るべきものとなる。スレイマンは彼女と法的婚姻契約を結んだ。宮廷における評判は芳しくなく、オスマンの年代記作者は誰一人言及していない。
 ロクセラーナは、1536年、スレイマンの寵臣(でスレイマンとの奇妙な友情の噂もあった)美貌の大宰相イブラヒム・パシャを処刑させた。彼はスレイマンの妹婿でもあり、スレイマンの母后であるハフサ・ハトゥンの保護を受けていた。しかし母后は1535年に死に、ロクセラーナは名実共にハレムの第一人者となる。彼女はイブラヒムが生きている限り自分がスレイマンの心を完全には支配できないため、彼を嫌っていた。スレイマンは、ハレムの噂だけでイブラヒムを処刑したわけではなく、その傲慢さや両イラク戦役の失敗の責任問題もあっただろう。しかしスレイマンは寵臣を失うと同時に青春も失った。この後、彼は他の人々との間に距離を置くようになる。
 ロクセラーナは1544年に娘ミフリマの夫ルステム・パシャを宰相に任命した。1553年にはスレイマンの長子ムスタファとその息子ムラートを処刑する。ムスタファは優秀な人物であり、ヨーロッパでは恐れられていた。しかし、ロクセラーナの息子たちのうち、セリムはアル中で、バヤジットは言う程の人物ではなく、ジハンギールは障害者だった。ムスタファがスルタン位に即くと。自分の息子たちは殺されるということをロクセラーナはよくわかっていた。従ってムスタファを打倒しなければならなかった。彼女は、娘婿のルステム・パシャを味方にし、ムスタファの裏切りをスレイマンに吹き込んだ。そしてムスタファは処刑されたのである。世論は、スレイマン、ロクセラーナ、ルステム・パシャに厳しかった。しかしヨーロッパは安堵した。優秀なムスタファが死んだ今、スレイマンは既に老齢であり、ヨーロッパにとって危険となるほどの息子はもはや生者の中にはいなかった。この後、病弱な息子ジハンギールが死ぬ。ロクセラーナは、1558年3月にイスタンブールで死に、現在はスレイマニエモスクの夫の廟の隣の彼女の廟に眠っている。
 しかし、彼女の死後、残った息子の2人は1559年に戦った。イェニチェリとルステム・パシャの支持を受けたセリムが勝ち、バヤジットはイランに亡命したがセリムの手に渡され処刑された。こうして、1566年9月6日のスレイマンの死に伴い、粗野で怠惰でアル中のセリム2世が即位する。それ以降脆弱なスルタンが続き、ハレムは外国からの賄賂を受け取り政治に口を出し、帝国内部は混乱していくことになる。ロクセラーナは、後に大いに帝国を弱体化させる契機をつくったとして、激しく非難された。

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