カルト、マインド・コントロールとは?

人に「これは自分で選択した」と思わせながら、実は第3者が巧みに選択の方向を操っている状態をマインド・コントロールといいます。

例えば、こんなケースを考えてみましょう。

あなたは旅から帰る電車で、たまたま隣り合わせた人に声をかけられ、おしゃべりするうちに仲良くなりました。駅に着いて別れを告げようとしたところ、良かったら自分が入っているサークルに来ないかと誘われます。その人とはとても気が合うように思えましたし、親切にしてくれたので、その好意に答えたいと思い、約束をしてあなたはそこへ出かけます。サークルに行くと周りの人はその人と同じように親切で、初めて来たあなたを歓迎してくれます。みな初対面の人とは思えないほど気さくで親しみやすいので、あなたは次第に心を開いていきます。その場にずいぶん馴染んだように思えたその時、今度はサークルの人が、「人生の勉強をする素晴らしい研修会があるけれど、あなたも参加しない?」と誘います。そのサークルの人たちはみな研修会に参加しているそうで、こんなに魅力的な人たちが受けているなら、自分も受けてみてもいいかなと思い、研修会について相手に尋ねます。しかし、サークルの人はにっこり微笑んで、「研修会の内容は、先に知ってしまうと"なんだ、そんなことか"ってしらけてしまうかもしれないでしょ?でも、行ってその場であなた自身が体験してみることで、本当の価値がわかるようになるのよ」とあなたを諭します。他の人に尋ねても、同じような答えが返ってきます。少し不安になりましたが、「でも、ほんと、すごくいい研修会なんだから」「あなたみたいな人が行ったら、きっと素晴らしい発見があるはずよ」と言われ、好奇心をそそられます。一度くらい行ってみてもいいかなと思い、研修会の費用を尋ねると、予想外に高い値段です。あなたはまた躊躇しますが、「でも、私は受けてみて、お金には変えられないと思ったわ。」「人生観が変わるんだもの、少しくらいお金をかけても、それだけの価値はあるわよ」と周りから言われ、軽い混乱を感じながらも、"でも、こんな素敵な人たちみたいになれるんなら、試しに一度くらい…"と思い、参加を決断します。そして次の週末、あなたは…。

これは、自己啓発セミナー系カルトや宗教系カルトにありそうな、ほんの入り口をシミュレートしてみたものです。あなたはこれを読んでどう感じたでしょうか?"最初から胡散くさいじゃない"と思ったでしょうか?それとも"私もこういう人に出会ったら、案外危ないかも…"と思ったかもしれません。少々わざとらしい状況に感じるかもしれませんが、実際には、親切にされ、話して気の合う人に対して、あまり邪険な態度を取れるものではないのではないでしょうか?

以上のケースでは、周りの雰囲気に同調する、親切にされたらお返しをしたくなる、一度体験すると、自分が選択した結果を肯定したくなる、希少価値の高いものに魅力を感じるなど、人間に自然に備わった習性を利用して、相手を自分のペースに引き込んでいます。社会心理学の分野ではこれらの、人が他者にどう影響力を与えるかという観点から研究がなされてきました。マインド・コントロールはこの社会心理学を巧みに利用し、相手に違和感を与えないようにしながら、確実に相手を操作=コントロールする方法を編み出しています。

しかし、上記のケースだけなら、一度この状況からぬけてしまえば、まだそれほどの影響力を及ぼすことはなさそうです。けれど、マインド・コントロールを使うカルトでは、さらに段階を深め、次第にきつく人間を縛り上げていくようになります。多くのカルトがその切り札に使うのは恐怖感です。

「あなたは、他の人が滅多に聞けないような真理を知ってしまった、だから、あなたはそれを人々に伝える責任がある。そうしないと大変なことが…」「あなたは今まで、つまらない人生を歩んできた。でも、この教えを知ってあなたは生まれ変わった。それなのにあなたは、またつまらない、価値のない以前のあなたに戻ろうとするのか…」「この教えを実践しなければ、終末の闘いに生き残ることができず、未来永劫、地獄の苦しみを味わうだろう…」

このように、その集団と出会う前、出会った後のあなたの姿や状況を故意に色分けして、あなたが以前の状況に戻れない、戻りたくない気持ちにさせることで、カルトは半永久的にあなたを拘束することになります。


カルトの特徴

カルトがどのような方法で人を縛り上げていくのか、以下の一覧で確認していきましょう。

1. あなたをカルト以外の他の人たちから引き離し、環境を操作します。
2. カルト以外の他の人たちと話したり、カルト以外からの情報が入らないようにします。
3. 不十分な食事やカルト内での過剰な活動によって、あなたを衰弱させます。
4. 精神的に萎縮させたり、自尊心を砕かせたりします。
5. 不安、恐怖、混乱をかきたて、あなたがカルトへ服従することによってのみ、喜びや確信が与えられるようにします。
6. 訓練の中で誉めたりけなしたりというように、飴と鞭を巧妙に使い分けます。
7. 儀式化された集会で仲間からの糾弾、問い詰めなどの圧力を与え、あなたに罪悪感を起こさせたり、人前で懺悔するように仕向けます。
8. リーダーはあなたやカルト全体を支配しているように見せかけ、あなたが心身ともにカルトに服従することで運命が決まると主張します。
9. 祈祷や印刷物の書き移しなど、単調な作業や同じことを繰り返す活動に従事させます。
10. 自分自身、家族、以前の価値観に決別するよう仕向け、それまでの生き方を否定します。

これらがすべて当てはまるカルトもあれば、部分的に当てはまるものもあります。しかし、大半に心当たりがあるのでしたら、カルトである可能性は十分でしょう。


カルトの種類

日本でカルトという場合、圧倒的に目に付きやすいのは宗教系カルトです。生きた絶対者・超越者が集団を支配し、救済や死後の世界への信仰が強調されます。戒律が厳しく体罰を使うこともあり、祈り、隔離、長時間の勉強会や伝道、自己批判や罪の告白などの手口を使います。

次によく見られるのは自己啓発セミナーを典型とするもので、中には心理療法まがいのものもあります。自己変革や向上をめざして努力することを動機とし、恥の意識、威嚇、言葉による虐待などの手口を使います。

上記の2つに似たものに、ニューエイジ系のカルトがあります。人は訓練によってパワーを得、未来について知り、即効の治療法を身に付けることができると考えます。魔術的なトリック、変性意識、仲間からの圧力などの手口を使います。

消費者問題の場面で表面化しやすいのは、マルチ商法に代表される商業カルトです。富、権力、ステータスの獲得や、効率よく儲けることを信条とし、詐欺商法、罪と恥の意識、仲間からの圧力、経済的な支配などの手口を使います。

また、現在の日本ではあまり目立つ存在にはなりませんが、政治、人種差別主義、テロリストの系列のカルトも存在します。社会変革や革命をめざし、敵を打ち倒す、あるいは邪悪な権力を駆逐するといった過激な信念を持ち、軍隊まがいの訓練、互いの密告、罪悪感、恐怖、鍛練会、妄想の植え付け、長時間の教化などの手口を使います。

そして、これもケースとしてはあまり聞きませんが、オカルト、悪魔崇拝、黒魔術的なカルトもあります。超自然の力の信奉から生まれたもので、風変わりな儀式、秘密主義、恐怖と威嚇、極端な暴力などの手口が使われます。

カルトとは、いわゆる宗教の形をしたものだけではありません。カルトはその人の考え、信念を操作するので、それを支配する力さえあれば、信奉する対象が宗教のような超越的存在でなければならない必要はないのです。つまり、その人にとっての"超越的存在"や絶対的価値が人格向上であれば自己啓発セミナーに、神秘主義であればニューエイジやオカルトに、お金であれば商業カルトに、というように、いくらでも応用のきくものなのです。

さて、あなたは何に絶対的価値を置きますか?


参考文献:
マデリン・ランドー・トバイアス&ジャンジャ・ラオリッジ著
「自由への脱出〜
カルトのすべてとマインドコントロールからの解放と回復」
中央アート出版社