<資料>
意見書:「反社会的な宗教活動にかかわる
消費者被害等の救済の指針」より
宗教的活動に関わる人権侵害についての判断基準

当ホームページは、カルト被害を法的に問われる範囲のものと限定していません。むしろ、大きな事件を起こすカルト・グループの影には、法的には問われないが、巧妙な心理拘束を施し、精神の自由を奪う多くのグループが潜んでいます。これらのグループは、違法行為を行っていないことを免罪符に、深刻な人権侵害を引き起こしています。しかしまた、このような傾向を持つ限り、いずれ違法行為や事件を引き起こす可能性を十分に持つものと思われます。

ここでは、法律的側面からカルト被害を判断するにあたり、資料として日本弁護士連合会が1999年3月に採択した基準をご紹介します。最低限の量として、情報を提供致しますが、採用にあたっては転載元の『「宗教トラブルの予防・救済の手引き」日本弁護士連合会 消費者対策問題委員会編/教育史料出版会』をご参照くださいますようお願い申し上げます。

<はじめに>

1. なぜ今、判断基準か

日本弁護士連合会が、1999年3月に、「宗教的活動にかかわる人権侵害についての判断基準」を柱とする意見書を採択して、これを公表したねらいは次の点につきます。
オウム真理教による地下鉄サリン、松本サリンをはじめとする深刻で広範な人権侵害や、霊感・霊視商法などの相次ぐ多くの消費者被害事件では、今後も再発する危険性が否定せきません。このような宗教団体や宗教的な活動をする組織が法の網の目をくぐって急拡大し、人権侵害や消費者被害を組織的に犯す社会的素地が多分にあります。社会が物質的に豊かになり、科学技術の発達が日常生活の変化をもたらす一方で、生きる意味や目的がみつからないと悩んだり、自己のアイデンティティーを強く求める人が若者を中心に増えています。しかし、このような悩みや欲求に、現存する既成教団や家庭・学校・職場は答えきれていません。そこに新しい理念や活動に対する支持やニーズが生じているのです。
そこで、新しい宗教団体などの提唱する型破りの理念や激しい伝道活動、カリスマ性の強いリーダーの指導が、このような求めに応じる側面があるのです。ですから今後も新しい宗教団体などが設立されたり、急激に拡大することもあるでしょう。ところが、これまで社会的批判にさらされる機会のなかった団体においては、つい行き過ぎた活動によって問題を起こしたり、組織の力を悪用して人権侵害や消費者被害を起こすことが十分に考えられるのです。その意味で、この問題の根はまことに深いものです。
他方、このような傾向に対する社会の備えはあまりに不十分です。新しい宗教団体による様々な被害について、わが国でもっとも情報を蓄積しており、それに基づいて対策のあり方を検討して具体的に提言できる組織や団体はどこでしょうか。弁護士会には、このような問題に自らの危険をかえりみず取り組んできた弁護士たちが多数います。日弁連の消費者問題対策委員会においては、この問題について10年以上にわたって調査検討を重ねてきました。わが国において、他にこの問題について提言できる適当な組織がない以上、日弁連の社会的責務としてこの問題について可能な範囲で具体的提言をするしかないと考えたのです。
以上の理由で、日弁連はこの意見書を採択しました。この意見書の柱となるいわゆる「判断基準」が広く社会に受け入れられて、同じような被害が発生しないよう、また、もし発生したとしても適切な措置を取ることができる体制が組まれることを希望するものです。
もとより、この意見書の「判断基準」は日弁連としての意見です。この意見をもとに、宗教界において日常的に宗教活動を実践されている方々や宗教を専門の研究対象とする学者の方々をはじめとして、各分野の多くの方々に議論していただいて、より効果的で適切な対処方法が考え出されることを否定するものではありません。むしろ、大いに期待しています。この日弁連の意見書をたたき台にして、多くの方々が積極的な論議をたたかわせることによって、社会的合意が形成されることを望むものです。

2.カルトによる被害実態と救済の取り組み(省略)

3.「判断基準」の性格

この意見書を採択するにあたって日弁連内部で再三討議して確認し、その公表や外部の各方面に直接説明するにあたっても強調したいことがあります。
それは、この「判断基準」は、被害者やその家族が弁護士や各種相談機関に相談に来られたときに個々の事例を検討するためのものであって、個々の宗教団体などが法的・社会的に受け入れられるべき団体か否かを判断するものではないということです。それぞれの宗教団体などが社会的・法的に存在を認められるものか否かについて判断するのは第一義的には個々の信者です。宗教法人法には宗教団体の解散等についての規定がありますが、その条件は非常に限定されています。弁護士や弁護士会がそれぞれの宗教団体やその活動全般について、その是非を決められるものでないことは言うまでもありません。しかし、被害者の具体的な相談事例について、そこに不当な人権侵害や違法・不当な消費者被害があったと認められるか否かを判断することは個々の弁護士でもできるはずです。そのような判断をして取り組むのが弁護士の社会的責任でもあります。むしろこれまでこのような判断をすることに我々弁護士も消極的すぎたのではないかと反省しているのです。また、各地の消費者センターや行政機構もそのような判断に消極的すぎたのではないかと考えられます。このような傾向が、日本社会にオウム真理教の問題や霊感・霊視商法のような問題をはびこらせ、深刻化させた原因の一つになっていたのではないでしょうか。
我々は宗教を信じる方々の内心に踏み込んでその宗教の適否を判断することはしません。個々の被害者が訴える金銭被害や人権侵害の具体的ないきさつを詳しく聞いて、日弁連が提案した「判断基準」をもとに個々の事例を考えてみてほしいと訴えているのです。最近では、この種の問題について考える上で参考となる基調な判決が多数下されています。これらの判決例の累積によって、自ら一定の基準が生み出されてきました。そして、そのような判決例をもとに、さらにこれを踏まえて様々な場合を想定して、現段階で日弁連として提示できる基準について問題提起したものです。
しかも、この「判断基準」は場合によっては判決の基準より問題とされるべき活動の要件を厳しくしていると考えられる項目もあります。たとえば、献金等勧誘活動について、「判断基準」は1項(1)@で、「献金等の勧誘にあたって」「先祖の因縁やたたり、あるいは病気健康の不安を極度にあおって精神的混乱をもたら」して、「本人の自由意志を侵害していないか」、という判断基準を提案しています。
他方、判決では「ことさらその不安、恐怖をあおるなど不相当な方法」で「相手方の正常な判断が妨げられた状態で著しく過大な献金がなされたと認められるような場合は、当該勧誘行為は、社会的に相当な範囲を逸脱した行為として不法行為に該当する」(黄金神社についての神戸地裁平成7年7月25日の判決)というような基準を述べて違法性の判断をする例が多いのです。これは、「自由意思を侵害」という日弁連の「判断基準」の表現をより詳しく述べたとも言えますし、自由意思を「侵害」するほどでなくても、献金勧誘行為がその目的・手段・結果を総合的に考慮して社会的相当性を逸脱していると認められる場合には違法性が認められると述べたものとも言えるでしょう。日弁連の「判断基準」では、様々な場合や局面を想定してできるだけ広く検討できるよう、やや包括的な表現になっている面があります。その意味で、この「判断基準」を個々の事例にあてはめて考えるにあたっても慎重な配慮をお願いします。
日弁連はこの意見書を正式に採択して1999年3月26日に、対外的に公表しました。日弁連としては、この意見書の趣旨を全ての弁護士に周知徹底するようつとめるとともに、広く社会に提起していきたいと考えています。また、各方面の多くの方々と今後とも討議を重ねていく予定です。
この意見書が、今後オウム真理教や霊感・霊視商法のごとき人権侵害や消費者被害を効果的に救済するとともに、今後新たに発生することを防止することに役立つよう期待しています。

<宗教的活動に関わる人権侵害についての判断基準>
反社会的な宗教的活動がもたらす消費者被害等救済のための指針

1.献金等勧誘活動について

(1)献金等の勧誘にあたって、次の行為によって本人の自由意思を侵害していないか。

@ 先祖の因縁やたたり、あるいは病気・健康の不安を極度にあおって精神的混乱をもたらす。
A 本人の意思に反して長時間にわたって勧誘する。
B 多人数によりまたは閉鎖された場所で強く勧誘する。
C 相当の考慮期間を認めず、即断即決を求める。

(2) 説得・勧誘の結果献金等した場合、献金後間もない期間(たとえば1ヶ月)はその返金の要請に誠意をもって応じているか。

(3) 一生を左右するような献金などをしてその団体の施設内で生活してきた者がその宗教団体等から離脱する場合においては、その団体は献金などをした者からの返金要請にできる限り誠実に応じているか。

(4) 一定額以上の献金者に対しては、その宗教団体等の財政報告をして、使途について報告しているか。

(5) お布施、献金、祈祷料等の名目の如何を問わず、支払額が一定金額以上の場合には受取を証する書面を交付しているか。

2.信者の勧誘について

(1) 勧誘にあたって、宗教団体等の名称、基本的な教義、信者としての基本的任務(特に献金等や実践活動等)を明らかにしているか。

(2) 本人の自由意思を侵害する態様で不安感を極度にあおって、信者になるよう長時間勧めたり、宗教的活動を強いて行わせることがないか。

3.信者及び職員の処遇

(1) 献身や出家など施設に泊まり込む信者・職員について

@ 本人と外部の親族や友人、知人との面会、電話、郵便による連絡は保障されているか。
A 宗教団体等の施設から離れることを希望する者の意思は最大限尊重されるべきであるが、これを妨げていないか。
B 信者が健康を害した場合、宗教団体等は事由の如何にかかわらず、外部の親族に速やかに連絡をとっているか。

(2) 宗教団体やその関連の団体・企業などで働く者については、労働基準法や社会保険等の諸法規が遵守されているか。

4.未成年者、子どもへの配慮

(1) 宗教団体等は、親権者、法定保護者が反対している場合には、未成年者を長期間施設で共同生活させるような入信を差し控えているか。

(2) 親権者・法定保護者が、未成年者本人の意思に反して宗教団体等の施設内の競争生活を強制することはないか。

(3) 子どもが宗教団体等の施設内で共同生活する場合、親権者及びその宗教団体等は、学校教育法上の小中学校で教育を受けさせているか。また、高等教育への就学の機会を妨げていないか。

(4) 宗教団体等の施設内では、食事、衛生環境についてわが国の標準的な水準を確保し、本人にとって到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を確保するよう配慮されているか。