<グラム陽性菌>

 グラム陽性菌には桿菌、球菌の両方が存在し、さらに好気性や通性嫌気性のもの、桿菌でも細菌の細胞内に胞子を形成するものしないものなど様々な細菌が存在する。以下に例を挙げておく。

              表1.グラム陽性菌の例

細菌名

グラム陽性細菌

ミクロコッカス科(ミクロコッカス属、ブドウ球菌属など)

芽胞形成性グラム陽性嫌気性桿菌

クロストリジウム科クロストリジウム属(ボツリヌス菌など)

グラム陽性無芽胞嫌気性桿菌

ラクトバチルス科(ラクトバチルス属)、プロピオニウムバクテリウム科(プロピオニウムバクテリウム属など)

グラム陽性嫌気性球菌

ペプトコッカス属など

グラム陽性無芽胞桿菌

コリネバクテリウム科(コリネバクテリウム属、リステリア属)

 グラム陽性菌は細胞膜の外側がペプチドグリカン層と呼ばれる厚さ80nmの細胞壁で覆われている。ペプチドグリカン層は多糖とペプチドからなる網目状になった高分子で出来たしっかりとした構造である。これにより内側の細胞膜が細胞の浸透圧で膨張するのを物理的に押さえつけることができ、菌の形をがっちりさせている。この他に細胞壁はタイコ酸や多糖体層で構成されている。この細胞壁の外側には外膜がなく、ペプチドグリカンと外膜・内膜の隙間であるペリプラズムもない。また細胞壁の脂質の量も少ない。さらにグラム陽性菌群の多くは菌細胞内に内生胞子を形成する。内生胞子は菌細胞の中に厚い細胞壁を持つ胞子として形成される。形状は桿状や球状であり、桿状にはV字型や棍棒状、Y字型など形も様々ある。また鞭毛があるものも存在する。

 グラム陽性菌は厚いペプチドグリカン層で覆われているため物理的要因や温湿度要因には強く、乾燥した所や寒い所、暑い所、高塩分の所でも存在できる。そのため人の皮膚や土壌中にも存在している。また酸素要求性については、好気性や好気性〜微好気性、通性/偏性嫌気性と様々ある。

 グラム陽性菌は厚いペプチドグリカン層に覆われてはいるが、この細胞壁は物理学的な作用には強くても化学的な作用には弱い。それはこの細胞壁が薬剤を通過させやすいため、薬剤には弱いのである。そのためグラム染色法で色素が染まるのである。また抗生物質を投与するとグラム陽性菌に対してはよく効く。さらにカタラーゼを持つ菌があり、これは発生した有毒な過酸化水素をカタラーゼで水と酸素に分解することができる。しかし乳酸菌はカタラーゼではなくペルオキシダーゼという酵素で過酸化水素を分解する。この場合は酸素は発生しない。

 グラム陽性菌には微生物が細胞外に作り出した毒によって中毒症状を引き起こす『毒素型』の食中毒菌が存在する。これは細胞外に産出された毒素が人の手指など皮膚から経口へといった経路で人の体内に侵入して引き起こされるものである。発症時間は早くて数十分〜数時間程度で発症し、症状としては吐き気や麻痺など神経症状が見られる。この場合、毒素はタンパク毒なので抗体を打ったり、抗生物質を投与するなどの治療が施される。例としては@黄色ブドウ球菌やAボツリヌス菌がある。@の場合は人の手指などに存在しているため、手を洗わないで食品に触ったりした結果、食品に黄色ブドウ球菌がつき、それが増殖して毒素を出す。その毒素がついた食品を食べたために食中毒を起こしてしまう。そのため素手で食品を触る場合は手洗いなどをし、傷があったら触らないようにすることが大切である。またAの場合は土壌や河川、湖沼から検出される。この菌による食中毒は真空パック商品などに汚染した菌が嫌気的条件下で増殖した結果、毒素が作られ、その毒素を含んだ食品を食べてしまうことで食中毒が起こる。日本では真空パック商品の他にいずしによる食中毒が有名である。この毒にあたると弛緩性麻痺症状が起こり、これが進むと呼吸困難や心停止になってしまう。この中毒にかかったときは一刻も早く抗体を打つことが必要である。

 

<グラム陰性菌>

 グラム陽性菌はほとんど桿菌で存在している。さらに好気性や通性嫌気性のものに分かれ、オキシダーゼテストで酸素を発生させる/させないもの、NaClを要求する/しないものもある。以下に例を挙げておく。

               表2.グラム陰性菌の例

細菌名

グラム陰性通性嫌気性桿菌

腸内細菌科、ビブリオ科、パスツレラ科など

グラム陰性好気性桿菌

シュードモナス属、レジオネラ属、ブルセラ属など

グラム陰性嫌気性桿菌

バクテロイデス属、プレボテラ属など

グラム陰性球菌および球桿菌

ナイセリア科(モラキセラ属、アシネトバクター属、ナイセリア属)

グラム陰性嫌気性球菌

ベイヨネラ科ベイヨネラ属

グラム陰性らせん状菌

カンピロバクター属など

グラム陰性菌はたんぱく質やリン脂質から出来た細胞膜(7nm)の外側に薄いペプチドグリカンの層を持ち、その外側にはリポ多糖類で構成された外膜(7nm)で覆われている。ペプチドグリカンと外膜・内膜の隙間にはペリプラズムと呼ばれる隙間があり、このペリプラズムには毒素や酵素が蓄えられている。形状はほとんどが桿状であり、鞭毛があったり莢膜を形成するものも存在する。また胞子を形成しない。  

グラム陰性菌は薄いペプチドグリカン層と外膜で覆われているため細胞には柔軟性があり、物理的要因や温湿度要因にはあまり強くない。そのため乾燥する所や気温の寒暖差が激しい所ではなく水中に存在する。また腸内に存在する大腸菌や気道中に常在する肺炎桿菌、湿った土壌や水、湿った人の皮膚や腸内に分布する緑膿菌もある。また酸素要求性については、好気性、通性嫌気性がある。

グラム陰性菌は薄いペプチドグリカン層に覆われ、さらに外側には外膜で覆われているが、その外膜が外から来る化学物質から守ってくれる。これにより細胞壁は薬剤を通過させにくいため、化学的な作用には強いが、ペプチドグリカン層が薄いため、物理学的な作用には弱い。また、薬剤を通過させにくいためグラム染色法で色素が染まらず、抗生物質を投与してもあまり効果はない。さらに外膜のおかげでリゾチームなどの分解酵素に高い抵抗性を示す。

また、グラム陰性菌にはカタラーゼを持つ菌があり、カタラーゼを持つ菌には水棲生物の腸内菌が、持たない菌には陸上動物の腸内菌である大腸菌やサルモネラ菌はオキシダーゼを持たない。がある。カタラーゼを持つと、有機物を酸化した時に発生した有毒な過酸化水素をカタラーゼで水と酸素に分解することができる。さらに水棲生物の腸内菌にはNaClを要求する海洋細菌と、要求しない淡水細菌がある。前者はビブリオ属、後者はアエロモナス属が挙げられる。

グラム陰性菌の食中毒症状はこの菌自体が体内に入り腸管に侵入した結果、中毒症状を引き起こす『感染型』である。体内にグラム陰性菌で汚染された食物を取り込むと、胃に入った段階で胃酸により殺菌されるが、殺菌されずに残った菌が腸管に到達すると、腸管上皮細胞に菌がくっつく。この腸管上皮細胞は外膜にあるリポ多糖を毒(内毒素)と認識してしまい、腸管上皮の粘膜が菌を異物として防御反応を起こす。この防御反応が下痢であり、水の吸収を停止し、腸内の内容物を排除して菌を外に出そうと働くのである。この感染型の場合、発症時間は早くて数時間、数日かかるなど発症までに時間がかかってしまう。症状としては下痢が圧倒的に多く、その他吐き気や発熱など症状が見られる。