卵巣境界悪性腫瘍とは



【概要】 
卵巣境界悪性腫瘍(低悪性度卵巣腫瘍)は卵巣癌全体の15%を占め、そのうちのおよそ75% はステージT(早期)で発見されると アメリカ国立癌研究所(National Cancer Institute) は報告しています。さまざまな研究での統計結果によると、卵巣境界悪性腫瘍は卵巣癌と比べて5〜10歳若年層で発生する傾向 があるようです。また、境界悪性腫瘍は悪性浸潤癌と比べ、明らかに予後および治療が異なるので、 しっかり分けて認識されなければならないとされています。[1] ちなみに、10年生存率は約95%なので予後は良好です。術後予後は腫瘍の進行期と相関があります。

■境界悪性腫瘍の概念
■境界悪性腫瘍の種類6/21/2006更新 
■境界悪性腫瘍の進行期(ステージ)3/08/2007更新 
■境界悪性腫瘍の治療2/24/2008更新 
■境界悪性腫瘍の死亡率/再発率



境界悪性腫瘍の概念


境界悪性腫瘍とは、良性腫瘍と 悪性腫瘍の 中間的性格を持つ腫瘍のこと をいい、低悪性度腫瘍 (Low Malignant Potential Tumor) とも呼ばれています。 この概念を上皮性腫瘍に対してはじめに提唱したのは Taylor(1929年)で、 その後、 1971年に FIGO※1が 「Carcinoma of Low Malignant Potential (低悪性度癌)」、 1973年にWHO※2が 「Borderline Tumor」 として 正式にこの概念を 導入、その後 日本でも 1978年に 日本産科婦人科学会が 「中間群」 と分類し、1990年には、日本産科婦人科学会および日本病理学会が 「境界悪性 Borderline Malignancy (低悪性度腫瘍 Tumor of Low Malignant Potential) 」 と定義しました。

ただ、その 境界悪性腫瘍の定義のしかた・見解については、まだすべての研究者間で必ずしも一致をみてているわけではなく、現在でも さまざまな定義・見解を発表・提唱する研究者等もいて、いまだ、統一した見解はないのだそうです[2]。「へぇ、そうなのぉ」って感じですね。

卵巣境界悪性腫瘍も他の卵巣腫瘍同様、組織型によって表層上皮性・間質性腫瘍、性索間質性腫瘍、胚細胞腫瘍などに大別されます(表2.参照)。これら各腫瘍の間ではその組織診断において境界悪性腫瘍の捉え方に違いがあるのですが、境界悪性と診断する際に共通している点が3点ほどあるそうです。それは、 @病期にそれぞれ分類した場合、明らかに悪性と認識される腫瘍に比べて予後が良好であること。 A腫瘍が片側卵巣に限局しているT期の場合は、対側卵巣・卵管・子宮温存処置が考慮されたり、化学療法が省略されたりしうること。 B予後は病期によってはっきりとした違いが出ること。、とのことです[5]。


表1. 境界悪性腫瘍の組織学的特徴

 @ 上皮細胞の多層化
 A 腫瘍細胞集団の内腔への分離増殖
 B 同一細胞型における良性と悪性の中間的な核分裂活性と核異型
 C 間質浸潤の欠如


卵巣腫瘍取扱い規約-第1部:組織分類ならびにカラーアトラス
日本産科婦人科学会・日本病理学会編, 金原出版, 1990


表1は、境界悪性腫瘍の組織学的特徴(1990) をあらわしたものです。表1の中の@ABは、良性腫瘍と境界悪性腫瘍との間での組織学的な大きな違いであり、表1のCにある「間質浸潤があるかないか」は、境界悪性腫瘍と悪性腫瘍(癌)を鑑別する際にもっとも信頼性のある指標となるそうです。そして現在は、微小浸潤(microinvasion)のあるタイプのものも、破壊浸潤(destructive invasion)がない場合はその予後に大差がないことがわかったため、1999年改訂のWHO分類では、そういった微小浸潤がある場合も癌とせず、境界悪性腫瘍に分類されるようになっています。なんだかややこしいですね。

※1国際産科婦人科連合(FIGO : International Federation of Gynecology and Obstetrics )
※2世界保健機構(WHO : World Health Organization)
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境界型悪性腫瘍の種類

境界悪性腫瘍は組織型によって@表層上皮性・間質性腫瘍、A性索間質性腫瘍、B胚細胞腫瘍、Cその他の腫瘍 に大別され、それらは、更なる組織型の違いによって下の表2.のように分類されます。

全上皮性腫瘍(良・境界悪性・悪性含む))に占める境界悪性腫瘍の割合は3.6%〜16%であり、その大部分は境界悪性漿液性腫瘍と境界悪性粘液性腫瘍(上皮性境界悪性腫瘍の90%以上)です。よって同じ上皮性腫瘍である、明細胞と類内膜の境界悪性腫瘍の発現頻度は稀とのことです。[5]


表2.☆境界悪性腫瘍の臨床病理学的分類 (卵巣腫瘍取扱い規約、1990年)☆

 表層上皮性・間質性腫瘍
 
Surface epithelial-stromal tumors
漿液(しょうえき)性嚢胞性腫瘍、境界悪性 
 
Serous tumors
粘液性嚢胞性腫瘍、境界悪性
  Mucinous tumors
類内膜腫瘍、境界悪性
 
 Endometrioid tumors
明細胞腫瘍、境界悪性
  
Clear cell tumors
■腺線維腫
 Adenofibroma
表在性乳頭状腫瘍、境界悪性
 Surface papillary tumors
ブレンナー腫瘍(増殖性)、境界悪性
 
Brenner tumors [proliferating]
 性索間質性腫瘍
 Sex-cord/stromal tumors

 
顆粒膜細胞腫
 Granulosa cell tumors
セルトリ・間質細胞腫瘍(中分化型)
  Sertoli-stromal cell tumors [of intermediate differentiation]
ステロイド[脂質]細胞腫瘍(分類不能型)
  
Steroid [lipid] cell tumors [unclassified type]
ギナンドロブラストーマ
 
 Gynandroblastoma
 胚細胞腫瘍
 
Germ cell tumors
未熟奇形腫(G1,G2)
 
 Immature teratoma
カルチノイド
  
Carcinoid
甲状腺腫性カルチノイド
 
 Strumal carcinoid
 その他 性腺芽腫(純粋型)
 
 Gonadoblastoma [pure]

☆【境界悪性腫瘍の臨床病理学的分類 (卵巣腫瘍取扱い規約、1990年)】では表記されていませんでしたが、【産婦人科研修の必修知識2004 (社)日本産科婦人科学会】 では「輪状細管を伴う性索腫瘍、境界悪性」も性索間質性腫瘍のカテゴリ内に分類されていました。


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境界悪性腫瘍の進行期(ステージ)3/08/2007追記

悪性腫瘍と同様、境界悪性腫瘍でも進行期があり、その内容は悪性腫瘍と同じ基準なんじゃないかと思います(たぶん(表3.参照))。ちなみに私の場合、病巣が一側の卵巣に限局し被膜破綻等もなかったので、ステージングはTaで確定しました(術後病理診断後)。

.
表3. 卵巣悪性腫瘍のFIGO(国際産科婦人科連合)進行期分類

T期:卵巣内限局
Ta: 一側の卵巣に限局
Tb: 両側の卵巣に限局
Tc: 被膜表面への浸潤、被膜破綻、腹腔細胞診陽性
U期:骨盤内への進展
Ua: 子宮や卵管に及ぶ
Ub: 他の骨盤臓器に及ぶ
Uc: 被膜表面への浸潤、被膜破綻、腹腔細胞診陽性
V期:骨盤外の腹膜播種、後腹膜や鼠径部リンパ節転移、肝表面への転移
Va: 顕微鏡的播種
Vb: 直径2cm以下の播種
Vc: 直径2cmをこえる播種、後腹膜や鼠径部リンパ節転移
W期:遠隔転移、肝実質転移

3/8/2007追記分
日本産科婦人科学会のウェブサイトの『委員会報告ページhttp://www.jsog.or.jp/report/index.html 』内、 婦人科腫瘍委員会報告 

2005年度/子宮頸癌患者年報、子宮体癌患者年報、卵巣腫瘍患者年報』 
に、
卵巣悪性腫瘍卵巣境界悪性腫瘍進行期分布進行期別治療法 などが載っています。

2005年度 
卵巣境界悪性腫瘍進行期分布(%)
(境界悪性患者総数685)

ステージ

Ta 65.1 91.4
Tb 2.0
Tc 24.2

Ua 0.4 2.3
Ub 0.3
Uc 1.6

Va 1.2 5.7
Vb 1.3
Vc 3.2

W 0.1 0.1

不明 0.1 0.1

術前化学療法 0.3 0.3

引用元:日本産科婦人科学会http://www.jsog.or.jp/report/index.html
2005年度/子宮頸癌患者年報、子宮体癌患者年報、卵巣腫瘍患者年報


左図が示すように、2005年度の進行期分布では、境界悪性はT期が91.4%と他のステージ比べダントツになっていますね。 私の病院もこの調査対象機関に入っていたので、2005年に手術した私もこの91.4%の中にいます(笑)。 

2004年度版の卵巣境界悪性腫瘍の進行期分でも、T期−91.6%(Ta−68.3%、Tb−1.2%、Tc−22.2%)、 U期−2.2% (Ua−0.1%、Ub −0.5%、Uc−1.5%)、 V期−4.5%(Va−1.2%、Vb−0.8%、Vc−2.6%)、 W期−0.5%、 不明−0.6%、 術前化学療法施行−0.5% と報告されていたので、左表の2005年度の進行期分布と比較しても同じような分布ですし、他の医学書でのデータと同じような傾向を示していますね。

この報告では進行期別治療法も報告されています。 卵巣境界悪性腫瘍の治療方法に関する情報は意外と少ないので、こういう(特に新しい)データはとにかく嬉しいです。

(以上は ゲストブック内(2/24, 3/8, 2007)で、ウランさんから教えていただいた情報です。ウランさんありがとうございました!)

1/7/2009 追記↓
今頃?ですが、2008年3月12日発表の(社)日本産科婦人科学会 婦人科腫瘍委員会による 2006年度患者年表 http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/shuyou_vol60no3.pdf  です。※P.66ページからザーッと各病院別の各種患者数などの表が続き、P.94ページから最後のページまでがそれらをまとめた卵巣腫瘍(悪性腫瘍・境界悪性腫瘍)のデータです。



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境界悪性腫瘍の治療
2/24/2008更新 

境界悪性腫瘍の約90%がT期ですが(アメリカ NCIの発表では75%: 文献によって多少のばらつきがあります)、V期やW期など進行例もあるので、悪性腫瘍と同様、開腹などによる手術(基本術式)を行ない、病理学的な所見によって進行期(ステージ)を決定(staging laparotomy)、そして、その組織型、進行期に応じた治療がなされます。進行期によっては手術のほかに化学療法も行われます(下表4.参照)。 
私の場合も、「もし摘出中に少しでも腫瘍に傷がついたり、腹膜播種病変など 腫瘍の残存が疑われる場合は、腹腔内に抗がん剤(シスプラチン) を散布する場合もある。」といわれていました。

<※追記>
ただ、境界悪性腫瘍の場合、術後の化学療法の有用性は証明されていないという報告もあります。[9][11]
2/24/2008追記

「良性だと思って開腹し、病理検査したら境界悪性だった」「境界悪性だと思ったら悪性だった」「Ta期だと思い開腹したところ実際はTc期だった」等、当初の予測からアップステージする例も少なくなく、お腹を開いてみて、そして顕微鏡で組織をみて病理診断をしてみないと「実際のところがわからない」というのが卵巣腫瘍の実像のようです。膣を通じて外界と通じている子宮などと違い、卵巣は骨盤内にひっそりたたずんでいるのでやっかいですね。

卵巣境界悪性腫瘍の基本術式は、腹式単純子宮全摘出術・両側付属器切除術です。さらにそれに大網切除術が加えられることも多いです。卵巣悪性腫瘍(がん)に比べ若年時に発症する頻度が高く、また、悪性腫瘍に比べ非常に予後が良好なので、将来子どもを授かる可能性を残すため、子宮、対側卵巣の温存、もしくは、病巣の状態によっては腫瘍切除のみ、病巣のある卵巣切除のみの保存的手術が選択されたりします。※まだ、加筆の必要アリ(2006/6/20)

<境界悪性腫瘍への手術つづき...>5/28/2006更新 
一般的に、境界悪性腫瘍の場合、上記のように腹式単純子宮全摘出術・両側付属器切除術、それに加えて大網切除術を施すとされていますが、ステージUb以上の場合は悪性腫瘍と同じ基本術式が行われるとのことです[8]。 また、腹膜偽粘液腫については進行期とかかわりなくリンパ節郭清は行わなず、未分化胚細胞腫については予後が良好なので、念のためセンチネルリンパ生検を行っておけば境界悪性腫瘍と同じ術式でよいとされているそうです。

もちろん、将来の妊娠の可能性を残すために、上記の術式ではなく片側付属器切除術のみが行われることが多々あるようです。 しかしその場合は、下表5.の条件を全部満たした場合のみとのことです。 [8] でも この表、私にはちんぷんかんぷんです...。

追記
T期 『温存するか付属器共々全摘するか』 2/24/2008追記 
『温存するか付属器共々全摘するか。』 境界悪性腫瘍T期における温存/全摘、この2つの術式間での その後の再発率、生存率に統計的に有意差が見られないという報告もあります。[10]  ですが、医師・病院側の治療方針・見解等はさまざまあるかと思われます。医師とよく相談して治療方針を決めてくださいね。
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表4. 境界悪性腫瘍(上皮性腫瘍)の治療チャート
臨床診断 初回治療(手術) 病理診断
(進行期)
術後化学療法

T期 経過観察
基本術式と 
staging laparotomy
ならびにdebulking surgery
→→→→
卵巣腫瘍 U〜W期 化学療法
(3〜6コース)
再手術
stagingが不十分な手術が行われた場合 staging laparotomy
staging laparotomy
未施行
→→→→→ 化学療法
(3〜6コース)※

※staging laparotomyが未施行で残存腫瘍の疑いがない場合、経過観察も可能

卵巣がん治療ガイドライン2004年版(pp.41)金原出版より

表5.悪性腫瘍・境界悪性腫瘍の温存手術の条件 [8]より

妊娠を希望している若い女性
境界悪性腫瘍
高分化型表層上皮性卵巣癌
未分化胚細胞腫
未熟奇形腫
セルトリ・間質細胞腫瘍
卵黄嚢腫瘍
臨床進行期Ta
腹腔内洗浄細胞診で陰性
腫瘍表面擦禍細胞診で陰性
対側卵巣楔状切除にて転移が陰性
後腹膜リンパ節生検で陰性
術後に化学療法(PVB)
厳重なFollow-up可能な場合

※卵黄嚢腫瘍では後腹膜リンパ節生検、術後化学療法(PVB)条件も必要となるそうです。 ※PVB療法は胚細胞性卵巣癌に対して行っている化学療法とのこと。

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境界悪性腫瘍の死亡率/再発率

境界悪性腫瘍の死亡率(原疾患による死亡率)は0〜9%報告されています[6]。死亡率は、T期−0.7%、U期−4.2%、V期−26.8%と進行期と死亡率との間に相関があるようです[1]。境界悪性から癌になる率は2%以下 [7]、0.7% [1] と報告されています。したがって、一般に境界悪性腫瘍の予後は良好のようです。

T期〜V期全体の再発率は、 腫瘍切除>片側卵巣摘出>両側卵巣・卵管と子宮など摘出 と、保存的手術をした場合ほど高くなるようです[2]。ただ、温存手術をした場合でも再発の危険性は15%までと低く、再発後の生存率も100%近くあり、やっぱり予後が良好です[6]。

他の再発問題として再発時期があります。2年以内の再発30〜50%、5〜10年での再発10〜40%、さらに10年以上経過後の再発も10%ぐらいあると報告されており[6]、さらに治療後20年経ってから起きる場合もあるらしく[5]、そのため、治療後の長期にわたる経過観察が必要になってくるようです。




参考文献
[1]National Cancer Institute  http://www.cancer.gov/
[2]卵巣境界悪性腫瘍の取り扱い 万代正紀・藤井信吾 2004 産婦人科の実際 Vol.53, No.1, 71-77
[3]卵巣境界悪性腫瘍の診断と治療 落合和徳 1999 産科と婦人科, Vol. 66, No.1, 99-107
[4]新女性医学大系36巻 薬師寺道明 編 1999 中山書店
[5]卵巣腫瘍病理アトラス 石倉浩、手島伸一 編 2004 文光堂

[6]新女性医学大系43巻 武谷雄二 編 2001 中山書店
[7]北海道大学医学部産婦人科 婦人科EBM/NBM  http://www00.med.hokudai.ac.jp/~gyne-w/07_ebmnbm/07_g_index.htm#3-2
[8]プリンシプル産科婦人科学第2版 坂元正一・水野正彦・武谷雄二監修 1997 メジカルビュー社
[9]日本癌治療学会 がん診療ガイドライン 22.・卵巣がん 第2章 2-V 「境界悪性腫瘍(上皮性)の治療」 http://jsco-cpg.jp/guideline/22.html
[10]卵巣腫瘍のすべて 落合和徳(編) 2006 メジカルビュー社
[11]卵巣がん治療ガイドライン2007年版 日本婦人科腫瘍学会 2007 金原出版
卵巣がん治療ガイドライン2004年版 日本婦人科腫瘍学会 2005 金原出版





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