ここに1枚のステッカーが有る、1987年の鈴鹿8時間耐久レースのSHISEIDO Tech 21チームの物である。ライダーはT.TAIRA + K.MAGEE.しかしその年,平選手は1週間前に行われたフランスGPで大転倒を起こしてドクターストップが出ていた、しかしあの頃の8耐そしてライダー平忠彦の立場としては怪我をしたから走れないでは済まされない暗黙の掟のようなものがあった。勿論,当時平選手の欠場となれば入場者も減少するのは誰の目から見ても明かだった。平は再度日本の医者にドクターストップを言い渡された直後に「走れないと判断したら,直ぐにピットに戻るという条件でドクターから鈴鹿サーキット走行の許可を取った,それからの平らは鬼のような形相で身体中にテーピングを施し真新しいTECH21の鈴鹿8耐スペシャルレザーに袖を通した、フランスGPから一緒に鈴鹿まで来た僕はレーシングレザーに袖を通す事さえも出来ないと思っていたが平選手は淡々とライデイング前の準備に掛かっていた。フランスから帰る際も首にギブスを装着していた、身体中の痛みはともかく首が!特に高速走行中の風圧が首に掛かる負担は想像を絶するものが有る!誰が見てもマトモナ走行は不可能である、マシーンに乗る事自体、神業である(フランスのドクターなら、私の言う事を聞かずにマシーンに乗るなら、「ドクターの忠告を無視し、自分の意思でマシーンに乗りました、今後起こるかもしれない最悪のケースに関しては、ドクターには一切責任は有りません」そんな文章にサインしてからにしろ!と言うのだろうね?と二人で顔を見合わせて笑ったが、実はフランスGPで転倒し病院に運ばれた際に外傷が無い為に長い事待たされ、僕も平選手も若かったのでしょう、その辺にいるドクターを捕まえては早く治療しろ!と言い続けたのだがフランス語で少し待て!を繰りかえすだけ、かなり時間が経ってから治療しないのなら帰る!と言ったら、帰るのならドクターの診断を無視して帰るので、今後何が起きてもドクターの責任では無い!と言う紙にサインしてからにしろ!と来たもんだ、なんて医者だ!そんな話が有ったので二人ともこんな時,フレンチドクターならサインものだよね!と大笑いしたところに繋がる訳である!




転倒した平選手のマシーンを呆然と見つめるイタリア人
メカニックピエトロ・ガニ氏(1987Le Mans)





平選手はShiseidoカラーに塗られた真新しいYZF750の跨りピットを後にした、勿論誰もがあの身体では満足なライデイングが出来ない事は承知していた。しかしここまで平が乗ると言うことで協力してくれたスポンサーをはじめマシーン作りに専念してくれた方々の為にも平選手は走りたかった、2〜3周は彼の事だ我慢して走行したのでしょう、しかしコレ以上の走行は無理と判断してピットに戻って来た平の目には。。。
余程,悔しかったのだろう、PITには長〜い沈黙の時間が流れた!平選手がぼそぼそと話し始めるまで誰一人言葉を発する者は居なかった





木曜日のフリー走行で欠場を決めた平選手は今度は監督として今年の8耐に参加する事になった、平選手に代わってライダーは同じマールボロアゴスチーニのマーチン・ウイマーがケビン・マギーとペアで走る事に成った。
結果は有名な話なので皆さんご存知でしょう、残り5分までリードしていた、ヨシムラの高吉選手がマギーの激しい追い上げのプレッシャーの為か周遅れに道を阻まれ誰もが想像さえしなかった転倒、その脇をマギーの乗るShiseido Tech21カラーのYZR750がすり抜けチェッカーを受けた。





 




ウイマー選手の後ろには平監督
 
激走するK.Magge選手

サインボードを出しているのが当時のウイマー選手のメカ
(2001年のNori−Chanのチーフメカ C.Davisさん)


レースとは時として、非情なものである、チェッカーを受ける最後の最後まで分からないのもまたレースである。
そんな劇的なゴールで第10回大会はK.Magge&M.WimmerペアーのShiseido Tech21チームは優勝した、平選手は85年以来この8耐に挑戦し続けている、しかしライダーとして一番欲しいであろう、優勝はおろかK.ロバーツと組んだ85年もそしてC.サロンと組んだ86年も完走すらしていない。複雑な気持でゴールするマギー選手を迎える平監督!それからは何が何だか分からない間に表彰式。。。
今回の優勝ペアーのマギーとウイマー選手は表彰台の一番高い所に誇らしげに立った、何処からともなく、タイラ!タイラ!とタイラコールが聞こえてきたが、その平の姿は最後まで表彰台上では見る事が出来なかった。フランスのルマンでの転倒から1週間、自分が走るはずだった鈴鹿の8耐でのShiseido Tech21チームの優勝、平はそのチームの為に傷だらけの身体をおして,8月の鈴鹿のピットロードに立ち続けた、そしてTEAMの優勝、平が現役ライダーで無ければこれほど素晴らしい事は無い状況だが、平は現役ライダーであり、マギー・ウイマーと同様、鈴鹿の優勝を狙っているライダーである。。。。

夜空には8耐の終わりを告げる”花火”が打ち上げられた、この人込みの中の何処でライダー平忠彦はどんな思いで今年の花火を眺めているのかと思うと今日一本目の煙草がやけに目にしみた事を今でもしっかりお覚えている!