「いらっしゃいませ、ご主人様♪」
 ゴスロリのメイド服に身を包んだ中年男性が、かなり気持ち悪い裏声で僕の入店を歓迎した。
 このカード屋は、流行に乗りすぎるのがたまに瑕だ。まぁそこが面白かったりもするんだけど。
「こんにちは、店長。はっきり言って似合ってませんよ」
「四十過ぎのおっさんがメイド服似合ってる方がおかしいだろうが」
「それもそうですね。とりあえず27弾一つください」
「少々お待ち下さいませ、ご主人様♪」
 そう言って、店の奥に入り込んでいく店長。この店はデュエルスペースを広く取りすぎたせいで、商品がかなりぎゅうぎゅうに詰められている。だから、僕のように長年この店に通っている常連でさえ、どこに何の商品があるか、未だに把握できていない。
 しかし流石は店の主というべきか、一見無造作に放置されているように見える商品の、全ての場所を把握している――らしい。自称しているだけだから、詳しい所は分からないのが本音だ。
 そうこう考えている内に、店長が手にパックを持って出てきた。
「お待たせ致しました、ご主人様♪」
「ありがとうございます」
「あ、金はいらねぇから。取っておきな」
「いや、金は払いますよ。いくら奥さんに逃げられたからって、自暴自棄になったら駄目ですよ?」
「なってねぇよ! 一応事情は聞いたんだ。俺からの軽い餞別だよ」
「店長……」
 こういう、BOXじゃなくて一パックだけという微妙な優しさが店長の人気な理由の一つなんだろう。改めてそう思った。
「ありがとうございます。絶対に取り返して見せますよ」
「おう、頑張れよ。やっぱりこういうのは本人同士でやらないとな、うんうん」
 一人で納得している店長は、とりあえず放っておくことにしよう。
 ビリビリとパックを破く。現れたカードは、オボロカゲロウx5。
「……冗談にもほどがある」
「それだけヤケに在庫が余ってたんだよ」
「だからと言って、餞別にこんなパックをくれなくてもいいでしょう?」
 パッと見気づかなかったけど、渡されたパックはかなり精巧に作られた偽の27弾。この店長はよくこうした偽パックを作っては、気付かれないように人に売っている。騙されないようにしたい場合は、パック名のルビが振られているか注意すれば問題無いのだけれど、流石に餞別として貰ったパックが偽だとは思わない。見事に騙された。
「こういうのは気持ちが大事なんだよ、気持ちが!」
 まぁ、そんなものかなぁ。としょうがなく納得して、僕はオボロカゲロウx5をポケットに突っ込みデュエルスペースへと向かう。
 あ、そうそう。店長に一言言っておかないと。
「店長」
「何だ?」
「意外とノリノリですね。キモイですよ」
「大きなお世話です、ご主人様♪」




 溢れんばかりの人の波……とまでは行かないものの、それなりの人がいて、それぞれのデュエルを楽しんでいた。
 その中で僕は、デュエルスペースの一角で一人座っている男に声をかける。
 男の名前は知らない。が、彼が僕にとって憎むべき存在であろうことは間違い無いだろう。
「こんにちは。正面いいかな?」
「…………」
 無言は肯定と見なして、僕は彼の正面の席に座る。
「僕のこと覚えてる? ちょっと前にDRの二回戦で当たったんだけど」
「……覚えてない」
「ふぅん、覚えてないんだ。じゃあ、こう言えば分かる? 君にカードを盗られた被害者」
 男の顔は動かない。言い訳も何も言わないので、僕は一人で勝手に語らせてもらうことにした。
「君と始めてあった日、僕のファイルからカードが失くなった。もちろん必死になって探したけど、結局見つからず。で、友人に聞いてみたら、突然、丁度僕のファイルから失くなったカードを使っている人がいるって言うのね。それが君」
「……ただの偶然」
「とは思うけどね、一応見せてもらっていいかな。僕のカードは裏側にちょっとした傷があるんだ。見れば分かる」
 こう言えば、流石に断る訳には行かないだろうと思う。実際にその考えは的中。
 男からカードを受け取る。六弾イラストのボルメテウス・ホワイト・ドラゴン。スリーブから取り出して、裏側を見る。右隅の枠線の所に僅かな傷を発見する。
「これこれ、分かる? 僕のカードに付いてた傷。これがあるってことは、このカードは僕のものなんだけど」
 傷の部分を指差しながら説明する僕の手から、強引にカードを奪い取っていく男。
「……こんな傷、元々あったやつかもしれない」
「そうかもね。実際、僕もカードに傷があったかなんて覚えてないよ」
「……なら何故」
「でもね、そうだとしても君は少々おかしい所がある。どうして僕の失くしたカードがボルメテウスだって分かったの?」
 相変わらずの無言と無表情。口数を減らすのは相手に感情を読まれない為に重要なことだし、ポーカーフェイスも素晴らしい。目線だけは僕を捕らえて離さない所から、僕の心理を読み取ろうとしているのが分かる。
 恐らくこの男、ババ抜きが強い。
 ポーカーフェイスで自分の心を隠し、鋭い洞察眼で相手の心理を読む。ババ抜きでは必須になる力だ。そして同時に、カードにも。
 相手が大体どのような行動をしてくるのか読めれば、どういった対応を取るかが決まる。適切な対応を繰り返していけば、自然と勝利に繋がる。それがカードゲームだ。
 この男は、そういった心理戦が得意なのだろう。実際、始めて会った日も結構良い成績を残していたし。
 ただ、僕のように言葉遊びをするのは苦手なようだ。こうもあっさりとトリックに引っ掛かるなんて。
「僕は失くしたカードがボルメテウスだ、なんて一言も言ってない。なのに、君はすぐボルメテウスを取り出した。どうして?」
「……知っていたから」
「それはおかしい。だって僕は、友人に『突然高価なカードを使い出したやつはいないか』としか聞いてないからね」
「……友人が、君の持っている高価なカードはボルメテウスしか無いと推測した」
「それもおかしいんだ。だって、僕が持ってる一番高価なカードはWINNERザシャックだからね。そして僕がそれを大事にしてるのもよく知ってた」
「……しかし可能性は否定出来ない。もしも友人が何も言ってなかったとしても、俺は『盗まれたと言うぐらいなのだから高価なのだろう』と判断してボルメテウスを出した、というのも考えられる」
「君は自分の記憶が信用できない?」
「……記憶なんて曖昧な存在。信用出来る方がおかしい」
「まぁ、それは僕にも共感出来るよ。でも、そんな可能性を信じるよりも、君が盗んだって考える方が早いんだよね」
「……疑わしきは罰せず」
「ここは法廷じゃないけど、言う通りではあるね。これ以上僕は君の疑いを強める証拠は集められないし、君も疑いを晴らす証拠は無いと思う」
 ここまでは大体予想通り。楽な方のトリックに引っ掛かってくれたから随分と進行が早く済んだけど、やっぱり一筋縄ではいかないようだ。現実はそうそう甘くない。
「ところで、法廷じゃないということは少々強引な手段もアリ、ということになるよね」
「……かもしれない」
「だから、君が僕のカードを盗んでいないというなら、僕は君の親に窃盗罪で訴えるぞ、と脅迫することにした」
 流石の鉄仮面も驚いたらしい。少し表情がゆがむ。
「カード程度で、と思うかな? 証拠が足りない、とも思うかもしれない。でも、万が一窃盗罪が成立してしまったら? 君は前科持ちだ。前科がある人間は色々不利だってのは、君は社会人みたいだから分かるよね」
「……その前に脅迫罪」
「やってみる? ちなみに僕の親は弁護士だから」
「……ダウト」
「正解。でも僕の親は警察官だから、ツテが無いわけじゃない。頼めばまず無罪にしてくれるだろうね」
 実はこれも嘘で、僕の親はただの会社員だったりする。でも嘘を見ぬかれた後にもう一度嘘をつくとは思わないだろう。事実、これに対して相手は無言。
「となれば、君はどっちを選ぶ? 盗んだと認めてカードを返すか、脅迫されて前科が付かない可能性に賭けるか」
 最終宣告。ここまで来れば、最早どちらかを選ぶことしか出来ない。僕としては、脅迫とか云々は全てハッタリだから選んでほしくない所だけれど、たかだかカードで前科作るぐらいなら、普通返すと思う。
 しかし男が口にしたのは、カードを返すでも、脅迫されるのでもない、第三の選択肢だった。
「……アンティ勝負を提案」
「……拒否したいね。だって、僕はカードを賭けたくないから」
 アンティ勝負。それは互いにレアカードを賭けて、勝った方が負けた方が賭けたカードが貰えるという、いわゆる賭け試合だ。
「……条件を三つ付ける。一つ、俺だけがカードを賭ける。つまり君が負けても何も奪われない」
「それは魅力的だ。で、残りは?」
「……二つ、君が勝った場合俺は容疑の全てを認める。三つ、俺が勝った場合盗難云々の話は今後一切しない」
「三つ目、どうしてか理由が聞きたいかな」
「……疑われたままでいるのは気分が悪い。こんな尋問みたいな事を何度もされたらたまらない」
「尋問じゃなくて会話だよ、これは」
「……で、どうする」
 しばしの思考。一見平等、むしろ僕の方に利があるように見える提案だが、実際は全然違う。相手の方が有利だ。
 何故ならば、彼は自分が負けるとは思っていないから。そして僕もあまり勝てるとは思っていない。
 僕は元々ファンプレイヤーだ。楽しめればいいと思うし、いわゆるガチデッキなんて作ったことがない。
 しかし同時に、DMプレイヤーでもある。デュエルの誘いがあって、断るのも味気ないだろう。
 となれば必然、結論が決まる。
「……決まったか」
「うん、OK。その提案を飲むよ」


「まぁ、無いとは思うけど、一応礼儀だからデッキはお互いがシャッフルしようか」
 イカサマは見抜ければ問題無いけど、彼のように洞察眼とかが優れていない僕にイカサマを見抜けるとは思えない。もちろん、互いシャッフルにしようがイカサマが起きないわけでもないけど、こうして一言言っておけば僕が警戒しているのを見破ってくれるだろうから別にいい。警戒心が生まれれば、そう簡単にイカサマは出来ない。
 男から渡されたデッキを、四等分して適当に積み重ねる。そしてシャッフル。相手も似たような感じ。
 双方デッキを返し、そのままデッキゾーンに置く。
「先攻後攻はどうしようか。じゃんけんして勝った方、でいいかな?」
「……いい」
 というわけで、グーを出した僕は後攻。パーを出した彼は先攻が決定した。
「それじゃ、始めようか」
 さて……久々にこのデッキ使うけど、上手く回ってくれるかな?
 祈りを込めながら、僕は五枚のカードをドローした。


「……俺のターン。エターナルソードをマナへ、ターンエンド」
「僕はドルボランをチャージしてターン終了」
「……スペルデルフィンをマナへ、マインドリセット」
 公開した僕の手札は、右から『エナジーライト、クゥリャン、ザークピッチ、地獄スクラッパー、ドラグストライク』。当然エナジーライトが捨てられた。
「……ターンエンド」
「地獄スクラッパーをチャージしてターン終了」
「……地獄スクラッパーをマナへ、ロジックキューブ。サイバーブレインを手札に加えてターンエンド」
「アクアサーファーをチャージして、クゥリャン召喚。一枚ドローしてターンエンド」
 三ターン終わったが、彼のデッキは恐らく除去コン。そして結構回っている。
 相性的には五分五分と言った所だが、僕のデッキはそれほど回ってないからちょっと僕が不利。
 彼がサイバーブレインを打ってターンエンドした所で、ちょっと考える。
 マナや、先ほどのマインドリセットから推測しても僕のデッキはまだあまり分かっていないと思う。サイバーロードにドラゴン突っ込んだような一見謎構築のデッキ、普通の人と対戦してたらまずそのようなデッキと戦うことはない。
 だから、大丈夫。僕のコンボは絶対にばれない。決まれば勝ちの一撃死コンボ『ストライクバニッシャー』。ネーミングセンスは無い。
「エナジーライトをチャージして、パクリオ召喚。手札見せてもらうよ」
 僕から見て右から『ストームクロウラー、エターナルガード、スケルトンバイス、トリプルブレイン、ボルメテウスホワイトドラゴン』。手札にザークピッチあるのはさっき確認されているので、スケバイは打ちづらいだろうと判断。僕はトリプルブレインをシールドに置いてターンを終了する。
「……ボルメテウスホワイトドラゴンをマナへ、スケルトンバイス」
 若干驚く。僕の手札は三枚で、その中の一枚はザークピッチというのが把握されている。それなのにスケルトンバイスを打つなんて。いくらエターナルガードがあると言っても、少々頭を疑う行動だ。
 しかし、彼は洞察眼が鋭い。こちらの僅かな目線の動きでさえ見逃さず、確実にザークピッチ以外を落とす自信があるのだろう。事実、僕はスケルトンバイスが発動された瞬間、ザークピッチを一瞬見た。すぐさま目を閉じたが、遅い。彼はザークピッチ以外の二枚を墓地に落とし、ターンを返す。
 ……マッドネスが通用しないハンデスなんてありかよ。
 内心で悪態をつきつつ、僕はパクリオをマルコに進化させて三枚ドロー。ターンを終了する。
「……ジェニーをマナへ、アクアン」
 表になったカードは『リバースチャージャー、エナジーライト、スペルデルフィン、マーシャルロー、オルゼキア』。エナジーライトが墓地へ送られ、結果四枚が手札へ。
「……ターンエンド」  間違い無く、この男は強運の持ち主だ。それでいて脅威の洞察力も兼ね揃えている。
 普通に考えれば、まず勝ち目が無い。この男に勝てる方法、それは彼の強運を打ち破るぐらいの運を持っていて、絶対にSTを踏まない自信がある人が、ビートダウンを仕掛けること。それ以外はほとんど駄目だろう。
 洞察力があろうとなかろうと、対策出来なければ意味が無い。つまり、それが彼の唯一の弱点だ。
 しかし彼の弱点がビートダウン系のデッキだったとしても、僕のデッキはカテゴリ分けするなら中速コントロール。STも一枚は踏むだろうし、そうなればそのまま僕の場は制圧されて負けてしまうことだろう。
 ビートダウンは出来ない。運もどちらかと言えば無い方。なら、僕はどうやって勝てばいい?
 ――決まってる。
「僕はドラグストライクを召喚し、ターン終了」
 彼が強運と洞察眼なら、僕は話術と心理戦。だったら、もう、これしかない。
 『彼が見抜けないように、虚実という名の毒を言葉にしかけ、プレイングミスを誘発させる』、略して『本当の嘘大作戦』だ。ネーミングセンスは無い。


「いいことを教えてあげよう。僕の切り札はオグリストヴァルだよ」
「……ダウト」
「正解。本当はエクスリボルバードラゴンだよ。さて、それが分かった所でこのドラグストライクどうする? エターナルガード打つ?」
 コイツは一体何を考えて、こんな挑発じみた事を口にしているのだろう。
 確かに、今だ奴のデッキは読めない。今まで戦ったことが無いタイプのデッキだ。しかし、エクスリボルバーのデッキとは考え辛い。リカバリー手段に乏しすぎるし、ブーストの一枚も入ってないのはおかしい。
 ならば何故、奴はエクスリボルバーが切り札だと言ったのだろう。決まっている、これは奴の罠なのだ。俺のエターナルガードで切り札が消されてしまうのが怖い。だからこのドラグストライクにエターナルガードを使わせたい。その為の罠。
 この考えが間違いだとして、本当に奴の切り札がエクスリボルバーだとしても問題は無い。最低三マナは残るのだし、三マナあればエターナルガードが打てる。リバースチャージャーを握っているからリカバリ―も出来る。先ほどのロジックキューブで、シールドにデーモンハンドが眠っていることも確認した。
 それなら俺は、どうもしない。ドラグストライクは無視する。
「……マーシャルローをマナへ、ストームクロウラーを場へ。エターナルソードを手札へ」
 これで、次のターンにエターナルソードを打てば奴の動きは鈍る。その隙にスペルデルフィンを出して、手札を掌握。俺は悠々と場を制圧し、この勝負に勝利する。
 最初はかなり焦った。俺はたまたま放置されていたファイルから、パッと見て高価そうなボルメテウスを手に取っただけだから、そのファイルの持ち主が誰か知らなかった。油断していた。だから動揺してつまらないミスをして、危険な状況になった。言い訳を並べてもことごとく論破されるし、たかだかカードごときで警察沙汰にされそうになるとは思わなかった。
 親が脅迫されるのは、嘘か本当かを除いても出来れば遠慮してもらいたい。かといってカードをこのまま返すのも嫌だ。
 そうして思いついた苦肉の策、それがこのアンティ勝負。結果的に、これがナイスアイデアだったということになる。このまま思惑通りに進めば俺の勝利が決まり、カードを返さなくてすむ。
「……ターンエンド」
 とすれば、これが実質奴のラストターン。デッキを見る限り、パクリオ以外は警戒しなくてもいいはずだ。
 さぁ、どうにかできるものなら、してみやがれ。


 『本当の嘘大作戦』は成功した。『ストライクバニッシャー』への布石も整った。後は――運。
 運だ。僕が勝つには、二つの場面でその手に引き寄せなければならない。運を――勝利への道筋を。
 失敗すれば、エターナルソードを打たれてデルフィンが出て終わり。
 成功すれば、僕が勝利してボルメテウスを取り返せる。
 時限爆弾の装置を解体しているような感覚。
 刑務所を脱獄しようとしているような感覚。
 東大三浪して再び受験しているような感覚。
 ダブルオアナッシング。ヘルオアヘブン。
 人生は、絶対的に二者択一だ。得るか、得ないか。この二つしかない。得る者は幸運の持ち主で、得ない者は不運の持ち主だ。得ない者が得る者に成りたければ――祈るしかない。神様に。
 今この瞬間だけなら、僕はどんな信者よりも信仰深くなる……!
 坂の中腹にいる僕は、果たして絶望の下り坂をゆくか、栄光の上り坂をゆくか。
 まさしく、神のみぞ知る。


「多分さ……君は『次のターンが来たら俺の勝ちだ』と思ってるよね。でも、残念だけど、それはない」
「……何?」
「君にターンが回ってくるまでに、僕の勝ちがほぼ決定するからだよ」
「……ならやってみろ」
「じゃあ行くよ。僕はエメラルを召喚。手札のカードをシールドに加え、加えたカードを手札に戻す」
 そして、と言葉を続け、
「加えたカードを墓地に置き、SB発動。デュアルショックドラゴンを召喚する」
 適当にシールドを一枚墓地へ置き、
「更に超獣大砲を発動。ドラグストライクを破壊してストームクロウラーを破壊。同時にドラグストライクの効果により、手札からドラゴンを召喚する」
 カードを操り、導く。
 そこは終わりであり、始まりの場所。
 カードゲームにおいて、プレイヤーは軌跡を描くことしか出来ない。
 逆に言えば、軌跡を描くことが出来る。数多のカードを駆使して、自分だけの軌跡を描くことが。
 僕はどうして、たかがカード一枚取られただけだというのに、あんなに必死になってカードを取り戻そうとしたんだろう。
 それは恐らく、奇跡が起こせなくなるからだったんだ。
 軌跡を描く奇跡。
 それが、カードゲームの魅力なんだろう。
「デュアルショックを進化させ、バジュラズテラを召喚。ドラゴン以外のマナを全破壊し、僕はバジュラズテラで攻撃を開始する」




「――それで、結局どっちが勝ったのよ?」
「バジュラズテラがトリプルブレイク、マルコがダブルブレイクしてデーモンハンドがトリガーしてクゥリャンが破壊された。けど結局次のターン何も出来なかったから僕の勝ちです。カードは無事に返してもらいましたよ」
「そう、良かったわね」
 女装した中年男性が感心したように頷く。今日のテーマは『女王』らしいが、黒ストッキングにロングスカート、かなりキツキツなボンテージと羽織ったコートに右手のムチという組み合わせは、どこからどう見てもただの変質者だ。後口調がキモイ。
「ところで、この後まだ時間あるわよね?」
「あることにはありますが」
「暇だからデュエルしましょう」
「仕事はいいんですか?」
「そんなのはどうにでもなるわよ。私だってDMプレイヤーなんだから、たまにはデュエルしたくなるの」
 僕は思う。店長も奇跡を起こしたいんだ。だってそれが、カードゲーマーのカードゲーマーたる理由だから。
 僕は了解の意を伝え、ポケットからデッキを取り出した。同時に店長もデッキを出す。
「それじゃ、始めましょうか」
「その前に一つ」
 やっぱり、言っておかないと駄目だろう。
「キモイですよ、その格好。後喋り方とか全体的に」
「ムチでぶたれたいの?」
「全力で遠慮します。それじゃデュエルスタート」
 そしてまた、僕は軌跡を描いていく――。












後書き

まず最初に。ごめんなさい、TAIMATSUさん。調子乗りました。
元々「奪われたカードを取り戻すためにTAIMATSUが熱いデュエルを!」と思って書き始めたのですが、僕が心理戦とか好きなのでこんなんになりました。
デュエル始まるまでが長いわ、肝心のデュエルは二人ともドロー運良すぎるわと色々ツッコミ所ありまくりです。
そんなセルフツッコミを要求してしまうようなSSでしたが、面白いと言ってもらえれば幸いです。
それでは、読んでくださり、ありがとうございました。感想とかくれると喜びます。