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■第31回 フランス共和国

 

  「いままで一番メジャーな国の講座っぽい?」

  「イタリアがあるじゃないか。しかし、世界的な影響力で言えばフランスはそれ以上だが」

  「フランスとドイツが中心となってリードするEUは現在、世界を構成する外交・経済の一翼のひとつです。

 そういう意味では現在の外交において、かなり重要な位置を占めます」

  「フランスとドイツって仲が悪いんでしょ?」

  「過去においてはそうですが、現在は独仏同盟が結ばれており、その関係は多方面において綿密です。

 EUはまさに仏独同盟によってコントロールされている経済共同体といえます」

  「え、そうなの?」

  「……EUをどういうものだと思っていたんだ?」

  「ヨーロッパの国々がみんなで仲良く協力してアメリカや日本の経済に対抗しましょう。みたいな〜」

  「それは建前としては間違ってはいないが、内実はちょっと違う。

 例えば、EUの中でイギリスとイギリスの関係が強い国のノルウェーなどはECに加盟しているものの、

 通貨統合のユーロには参加していない」

  「なぜかしら?」

  「ニュースではイギリスの通貨のポンドに愛着があるからとかいっていたけど?」

  「……それも建前としてはそうだが、イギリスは加盟の段階からEUとは距離をおいている。

 理由はEUというのは仏独同盟によって創設され、この同盟によってコントロールされているからだ。

 中にずっぽりと入ってしまえば、経済だけでなく軍事なども仏独によってコントロールされかねない」

  「じゃあ、ECなんてきっぱり参加を辞退して英連邦共同体でもつくればいいじゃん」

  「イギリスの経済力は両大戦で極めて後退し、残念ながら英連邦だけではどうにもならない。

 仏独とのある程度の協力関係も必要なんだ。

 だからイギリスとその関係の深い国々はEUから付かず離れずの位置にいて、必要な交渉だけを行っているわけだな」

  「EUって一枚岩じゃないのね」

  「EUだけではなく、他の経済共同体もそうだ。

 しかし、一枚岩でないからといって共同体内で敵対しているわけではないし、その関係には親密度に差がある。

 その微妙な関係を理解するのが外交講座の本筋といえるな」

  「フランスなんて、特に外交関係は多そうね」

  「それではさっそくフランスの歴史について解説していきましょう」

  「やっぱり長そうね〜」

  「外交戦に必要な戦力は知識の集積です。憶える必要はありませんが、流れをつかむ必要あるでしょう」

  「むむー、長いのは苦手なんだけど〜」

  「さて、フランスのある地方ではローマ帝国衰退後、

 最も発展したフランク王国がヴェルダン条約で分割された際、西フランクが原型となって誕生しました」

  「フランク王国のカール大帝はローマ教皇から戴冠されたのよね」

  「そんな古いこと現在の歴史に関係あるわけ?」

  「はい、国家や王家の「格」というものを意識する上で必要です」

  「王家の格?」

  「ええと、ヨーロッパにはいくつか王家がありますよね」

  「フランス王家、イギリス王家、ロシア王家、スペイン王家……  まぁ、もっとたくさんあるわね〜」

  「その中で王家の格に国ごと違いがあるのがわかりますか?」

  「え? 王様なんだからみんな同じなんじゃないの?」

  「国家の規模でしょう。強そうなのは、イギリスとフランスとかじゃないかしら。あと神聖ローマ帝国の皇帝も」

  「外交としてはここは正確に知っておきたいところです。

 これはカール大帝の戴冠と、東西フランクの分裂に関係しています。

 カールが戴冠したこと、つまり欧州では王として教皇に最初に認められたのはフランク王だけなんです」

  「戴冠させたってことは王として認めたってことよね」

  「まぁ、それは分かるけど」

  「そして、フランクは分裂。西フランクはフランスに、東フランクはドイツになりました。

 つまり、教皇から与えられてた認められた王が同格の2つに分かれたということです」

  「ん? ということは、フランス王とドイツ王が同格で認められたもので、他の王はそうではないってことなの?」

  「はい。フランス人は、イギリスを見下しているとかよく言われるのはここにあります。

 イングランドの王家などというのは、欧州の支配者として戴冠されたものではないのですから」

  「なるほど……」

  「イングランドっていうのは今のイギリスの元よね」

  「でもドイツの方はオットー一世がその後に別に戴冠していますよね?」

  「はい。その結果ドイツ王は神聖ローマ帝国になるのですが、フランスから見れば、それでも以前の戴冠は有効です。

 だからフランス王家と神聖ローマ皇帝は王と皇帝でも対等の格です」

  「そういえば、11世紀にフランスのノルマンディー公がイングランドを征服するけど、

 イングランド王だけじゃなくて、ノルマンディー公でありながらイングランド王という扱いなのは、

 ノルマンディー公が仕えるフランス王家の方が格が高いからというわけ?」

  「そうです。なかなか良いところに気がつきましたね」

  「なるほど……」

  「さて、その後、フランスは教皇の要請に応じて積極的に十字軍に参加します。

 すべての十字軍においてフランスはほぼ中核といえるでしょう」

  「それも教皇から認められた王としてのプライドというわけね」

  「そして、14世紀になると、フランスの王家の内紛や

 イギリスがフランス領内にも領地をもっていたことを発端に100年戦争に突入します」

  「フランス王家の内紛?」

  「はい。今までのフランス王家のカペー朝の主系は断絶したため、傍系のヴァロワ朝の王が継いだのですが、

 イングランド王も親戚筋であっため、自らがフランス王であると宣言して、戦争になりました」

  「100年戦争はフランスの内乱にイギリスがつけこんだ形なの?」

  「そうですね。序盤はイギリス側がフランスの軍をクレシーの戦いやポワティエの戦いなどで破り優位に立ちました」

  「フランスの軍隊って弱いの?」

  「なんかあんまり強そうなイメージじゃないわよねぇ」

  「フランス軍の主力は重装備の騎兵です。

 ただ、軍隊の思考が硬直して戦術の開発が遅れたため、

 強力な長弓兵を揃えるイギリス軍の遠距離攻撃に散々な目にあっています」

  「長弓?」

  「ロングボウのことですね。

 連射が利くので、拠点を防御する長弓兵には単純な突撃で突破は困難です」

  「ペガサスナイトの天敵ね」

  「それはゲームの話でしょう(苦笑)」

  「フランス側はこのときパリも陥落し、王家はオルレアンに逃れています。

  「フランス、オランダ、チベット、京都、ロンドン、ロシア、オルレアン♪」

  「なにそれ?」

  「電波ソング♪」

  「出ている都市に関連性は?」

  「ないんじゃない?」

  「……理解できないわね」

  「その後、イギリス側でも内乱があったり、フランス側でも内乱があったりしますが、

 ジャンヌダルクの登場で100年戦争に終止符が打たれることになります」

  「おお、ジャンヌダルク」

  「5人組の男性バンドグループ」

  「神風怪盗の」

  「……まぁ、そういうネタは必ずくるかなと」

  「ええと……」

  「放置して先に進めてください」

  「はぁ…… 1429年、オルレアンを包囲していたイギリス軍を

 ジャンヌダルクを含めたフランス軍が救援して勝利したことにより、フランス軍の士気が高まり、一気に優勢になります。

 途中でジャンヌダルクはイギリス軍の捕虜になり、魔女として処刑されてしまうのですが、

 フランス側はイギリス軍を現在のフランスの領域からほぼ駆逐することに成功します。

 こうして100年戦争はフランスの勝利に終わりました」

  「フランスという形ができたのがこの戦争の勝利によるものというわけですね」

  「100年戦争が終わると、東のドイツ、

 つまり神聖ローマ帝国の皇帝を世襲していたハプスブルグ家との争いになります」

  「なぜ争いになったのでしょうか?」

  「フランスと教皇の関係は当時は冷めており、教皇は逆にオーストリアのハプスブルグ家と親密でした。

 当時のフランス王シャルル8世はイタリアでの勢力拡大と、ドイツ皇帝位を狙ってイタリア半島に進出します。

 ハプスブルグ家もこれを阻止しようと出兵しました、これをイタリア戦争といいます」

  「イタリアの回で少しやりましたね」

  「フランスとハプスブルグ家の争いって奴ね」

  「はい、フランスは隣国のイギリスだけでなく、オスマン・トルコ帝国とも同盟するのですが、

 結果的にはフランスは敗北し、ハプスブルグ家側が勝利します」

  「あんまり上手くいかないわね〜」

  「その後、フランスは宗教改革の影響でプロテスタントとカトリックの内戦に突入します。

 フランスではプロテスタントのことをユグノーと呼ぶので、ユグノー戦争といいます」

  「またフランス国内の内戦?」

  「はい。プロテスタントは英独のプロテスタント諸侯が支援し、カトリック側はスペインと教皇が支援しています。

 ヴァロア朝の王が暗殺されて断絶し、ブルボン朝の王が継承するなどありましたが、

 結局、内戦は1598年にナント勅令を公布して、カトリックとプロテスタントの権利を同等とすることで解決します」

  「お互い同等の権利を認めて、めでたしめでたし♪」

  「それで解決するなら早くやれ、というかんじだけど?」

  「いえ、これは外交的に見ると、単なる時間稼ぎの停戦です。

 フランスは、徐々にですが国内のプロテスタントへの圧力を強めていき、プロテスタント住民を追い詰めていきます。

 1685年には最終的にナントの勅令を破棄しました」

  「どうやって圧力を強めていったんですか?」

  「有名なのが竜騎兵(ドラグーン)です」

  「ファンタジーには必ずいる兵種だな」

  「なんか、強そう」

  「ドラゴンに跨る騎士ってカンジ?」

  「竜騎兵は国王の直属の兵で、マスケット銃と剣の装備で騎乗し、プロテスタントの多い村などに駐屯し、

 住民に対して略奪、強姦、殺人を繰り返して、無理やりカトリックへの改宗を迫るというものです」

  「最低の竜騎兵だ……」

  「ぜんぜんカッコよくない」

  「むしろ、最低?」

  「この迫害のため、多くのプロテスタント住民は改宗するか、殺されるか、他国へ亡命するしか道がなくなりました。

 しかし、フランスはこのやり方で王権を強化し、国内基盤を整えることに成功し、経済的に発展します。

 主に主導したのがリシュリューです」

  「リシュリューって、確か三銃士に出てくる悪役よね〜」

  「実際のリシュリューは凄腕の政治家でさまざまな改革を実行しました。

 私腹を肥やす悪役ではないです。もちろん、多数の人からは恨まれたでしょうが……」

  「主人公のダルタニャンは銃士を目指していて、三銃士の銃士達と親友なのよね」

  「……銃士の装備って、さっき出た竜騎兵に似てない?」

  「王の直属でマスケット銃と剣の装備で騎乗…… ですね」

  「はい。三銃士の銃士は竜騎兵です」

  「ってことは「独りはみんなの為に、みんなは独りの為に」とかスローガンを掲げて、

 実際は国内のプロテスタント狩りをしていたというのが彼らの仕事というわけ?」

  「そうです」

  「なんだか、どっちが正義なんだか……」

  「正義の定義はわかりませんが、実際に国内のプロテスタントを排除して他国に先駆けて強国に成りえたので

 正義はともかく、成功したのは間違いないでしょう。

 フランスはイギリスと同盟し、スペイン、ポルトガル、オランダなどに続いて、

 北米やインドなどへの植民地進出にも成功しています」

  「王権の強化でフランスは欧州の強国になったんですね」

  「はい、しかし、一国が強国になるとそれを包囲するように同盟関係が出来るのが欧州情勢です。

 特にフランスは植民地獲得を狙って、当時スペインから独立したばかりのオランダ共和国を狙っていました」

  「この時代はオランダはスペインに取って代わり植民地獲得競争の主役だったんですよね」

  「はい。この時代オランダは海外進出を強めていました。特にインド洋とアジアへの進出が顕著です」

  「日本の江戸幕府との日蘭貿易は日本では極めて有名ですね」

  「1672年ルイ14世はオランダに侵攻、オランダ戦争が始まります」

  「軍隊が強くなったからさっそく侵略戦争というわけね〜」

  「一時はオランダ共和国を敗退寸前に追い込みますが、

 敗退寸前のオランダはオランダ独立時の総督ウィレム1世の孫ウィレム3世を総督に指名します。

 彼はフランス軍に対して堤防決壊戦術で対抗、またハプスブルグ家と同盟を組み、

 オーストリアとスペイン、スウェーデンなどとの同盟締結に成功します。

 結果フランス軍は撃退され、オランダから撤退します。フランスの侵略意欲に警戒した諸侯は対仏で同盟を結成しました。

 この同盟をアウグスブルク同盟といいます」

  「アウグスブルグで結んだからアウグスブルグ同盟というわけね」

  「それでもルイ14世は勢力拡大を諦めず、

 続いてライン川中流域のファルツ選帝侯の継承権問題につけこんで進軍すると、

 同盟側も参戦し、アウグスブルグ同盟戦争が勃発します」

  「でもオランダで同盟側に負けてるんでしょ? いくらフランス軍が強くてもそのまま戦ったら不利じゃない?」

  「1683年にはオーストリアとオスマントルコの間で第二次ウィーン攻囲が行われています。

 その後もバルカン半島で両国の戦闘は激化していました。

 つまり、ハプスブルグ家が介入できない隙をついたのです」

  「なるほど……」

  「フランスはイギリスと同盟していたので、しばらくは有利だったのですが、

 先ほどのオランダ総督ウィレム3世は追放されたイギリス王ジェームズ2世の娘メアリーと結婚していましたので、

 議会側の要請によりイギリスに上陸し、ウィリアム3世として即位します」

  「1688年の名誉革命ですよね」

  「つまり…… クーデターってこと?」

  「イギリスの王室がオランダに乗っ取られた?」

  「当時のイギリスは議会が力を持っていました。

 イギリスの国益に有利になる君主を選択して導き入れたといえるでしょう。

 王位についた彼は、即座にアウグスブルク同盟側にたって参戦。

 イギリスとの同盟を失ったフランスは植民地では敗戦を重ねるのですが、

 それでも陸戦ではサヴォイア王国やスペインを撃破し、両陣営はレイスウェイク条約を結んで和平が成立します。

 その後もフランスはスペイン継承戦争、オーストリア継承戦争と他国の継承問題に口を出しては戦争を仕掛けていました」

  「この2つはオーストリアの回でもやりましたね」

  「フランス対ハプスブルグ家の構図だっけ?」

  「いろいろ利害関係関係国同士が、組んだり離れたりみたいな」

  「ヨーロッパって同盟が好きねえ……」

  「それは当然ではないでしょうか? ヨーロッパの国々の利権は複雑に絡み合っていますし、

 常に利権の絡む戦国時代なので利害に基づいて同盟関係が築かれるのは当然です」

  「日本でも戦国時代の同盟関係はとても多いわよね」

  「はい、そうしないと生き残れないものと考えてください。

 さて、フランスとイギリスは植民地を巡って競い合っていました。特に激しかったのが北米大陸とインドです。

 北米大陸では、この頃になると入植者達の人口も多くなり、英仏とも比較的多くの駐留軍がいました」

  「北米の沿岸部は中南米に比べて資源が乏しいですよね」

  「入植者達はなにをして利益を得ていたのだろう…… 土地を活かした農業?」

  「フランスは、現在のカナダとアメリカの間、五大湖周辺でインディアンと取引をして毛皮貿易を、

 イギリスはインディアンを追っ払って農地経営をしていました」

  「イギリス側は全然平和的じゃないわね(苦笑)」

  「はい、インディアン達とイギリスの対立は日増しに高まっていき、

 インディアンと取引するフランスとイギリスも土地の領有を巡って対立していきます。

 そしてイギリス海軍がフランスの船を拿捕したことを発端に、両国の植民地派遣軍の間で戦闘が起こりました。

 フランス側はインディアンと同盟をしていたので、これをフレンチ・インディアン戦争といいます」

  「フランス・インディアン連合対イギリスね」

  「戦闘はイギリス側が先手を打ち、フランスのデュケイン砦、現在のアメリカのピッツバーグを攻撃しますが、

 フランス軍とインディアンの攻撃により敗退します。

 フランス植民地軍は序盤は有利だったのですが、ドイツの情勢が戦闘に変化を与えます。

 ドイツでオーストリアと新興のプロイセンとの間で敵対関係が強まると、

 オーストリアの女帝マリア・テレジアはいままでずっと敵であったフランスと手を結びます」

  「外交革命とオーストリアの回で習いましたね」

  「マリア・テレジアの娘マリー・アントワネットは、この時の墺仏同盟の結束を強めるためフランスに嫁いでいます」

  「マリー・アントワネットは有名よね〜」

  「オーストリアとフランスとロシアが手を組んでプロイセンをフルボッコ〜♪」

  「オーストリアとプロイセンの間で始まった7年戦争では、

 プロイセンのフリードリッヒ2世の巧みな戦術によりフランスは陸戦のロスバッハの戦いで大敗してしまいます。

 フランスは両方の戦争に中途半端な兵力しか戦力を送れなくなり、

 逆にイギリスの首相ウィリアム・ピットは次々と増援を北米に送って戦況を逆転させます。

 フランスの補給が鈍ると、ケベック、モントリオールなどのフランス側の拠点は次々と陥落し、

 北米の戦闘はフランス軍が全面敗北して終わりました」

  「今でもカナダのケベック州はフランス語が話す人が多いですよね」

  「はい、この時期にフランス人が多く入植していたからです。

 ちなみにデュケイン砦がこの戦いの後にピッツバーグと名前を変えたのは、

 この当時のイギリス首相ウィリアム・ピットの名前にちなんだものです」

  「ヨーロッパの戦争って、なんかこう…… 1対1の対決みたいにはならないわよね」

  「日清戦争とか、日露戦争とかは当事者が分かりやすいのに」

  「第二次世界大戦でも日本の相手は99%は米軍でしたし」

  「古くて元寇もそうよね」

  「広義でいえば、日露戦争も多国間戦争の一環なのですが、見た目はそう見えないですし

 日本は実際に旗色が途中で変わる外交がらみの戦争をほとんど経験したことがないので、この辺りの外交戦は苦手です」

  「いくら日本史を勉強しても出てこないしねぇ……」

  「しかし現在の国際関係では、そんなのは当たり前です。日本も当然それに対応しなくていけません。

 ひとつの紛争や争点に別の国が顔を出して利益を得ようと画策するのは当たり前のことだともいえます。

 しかし、外交によって国の衰亡が決まる以上、1対1の戦いにこだわって周りが見えなくなってはいけません」

  「敵はひとつとは限らないというわけか……」

  「さて、これらの外交と戦争の失敗と植民地の喪失はフランスの経済に大きな打撃を与えます。

 また、ルイ16世の妻、マリー・アントワネットは浪費家で享楽的な性格であったため、さらに財政を逼迫しました」

  「ベルサイユのばらの世界ね〜」

  「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」

  「名ゼリフキターーー」

  「それは後の創作という説が有力なんだが、

 彼女の母のマリア・テレジアは娘の享楽的な生活を諌める手紙を送っていることからみても、散財家だったのは間違いないな」

  「ベルサイユのばらでは、マリー・アントワネットが贅沢したというより、

 お気に入りのポリニャック伯夫人なんかに騙されてお金を遣ったので、マリー・アントワネットは悪くないともいうけど?」

  「むしろその方が最悪だな。

 王様には権威というものもある。王や王妃がある程度の贅沢というか、権威を失わない程度の派手な暮らしをするのは、

 他国に対して劣等感を持たせないためにも必要なんだ」

  「まぁ、自分の国の王様が貧相な暮らしをしていたら、それを理由に侮辱されたりすることもあるかもしれないわね」

  「しかし、一部の貴族ばかり寵愛して他の貴族を無視し、

 お気に入りの貴族にお金を遣っていては、他の貴族だって黙ってはいまい」

  「実は孤児に寄付したりする心優しい性格とも言うけど?」

  「それこそ、長期的な視野に立たず、短期的ないきあたりばったりの放漫財政の典型ともいえなくもないな。

 収入を増やして支出を減らす努力をしないで、一時的な寄付で誤魔化しをするのは、ダメな政治の良い例だ」

  「ちなみに、マリー・アントワネットの中の人はここの作者が最も好きな人だ」

  「は?」

  「中の人?」

  「井上喜久子様、声優さんだ」

  「なんで、マリー・アントワネットの声優さんが井上喜久子という人なの?」

  「作者が見たことのある映像などでは、マリー・アントワネットの声は全て井上喜久子様が演じているぞ」

  「だって、歴史を題材にした作品なんてたくさんあるでしょ?」

  「例えば、TV番組の偉大なるトホホ人物伝とか、パチンコのCRベルサイユのばらでも、みんな井上喜久子様だ。

 タイトルは思い出せないが他にもあった。マリー・アントワネットの中の人は井上喜久子様以外考えられん」

  「……いや、どうつっこんでいいか」

  「喜久子厨の妄言だと思って無視してください」

  「けっ、優香や井川遥が癒し系だと? ふざけるな! 喜久子様以外に癒し系など存在しない!!!!!」

  「……」

  「……喜久子厨の妄言だと思って無視してください」

  「ええと…… フランスは更にイギリスに対抗するためアメリカ独立戦争でアメリカを支援しますが、

 それによりフランス財政はさらに破綻に向かいます。

 そこで増税の必要から、国王ルイ16世は三部会というものを召集します」

  「三部会?」

  「身分制度別の会議?」

  「そうですね。聖職者、貴族、平民の3勢力が主に課税について話し合うものでした」

  「話し合って税金をどうするか決めるというものね」

  「いえ、実際は三部会に課税の否決権はないので、単に話し合って納得させるためだけのものです」

  「えーっと…… 税金を納得させるだけ?」

  「上から一方的に通告するだけだった課税の通告を、

 その税金の必要性について話し合わせることで、もう少し彼らに納得させようというわけですね」

  「一方的に課税させられるよりは、

 その必要性について説明と話し合いがあったほうが、税金を払うほうも納得するってこと?」

  「そういえますね」

  「でも否定することは出来ないのか……」

  「なんか、ダマされている感じもするけど……」

  「いつごろできたんですか?」

  「十字軍の失敗で財政負担が大きくなった14世紀初頭に始まりました。

 しばらくずっと召集されていなかったのですが、財政破綻を受けて増税のため、再び三部会が召集されたのです」

  「なるほどね」

  「しかし、この召集は失敗に終わったといえます。

 聖職者や貴族が税制で有利でとても不公平だったため、

 平民達は三部会の決定に納得せず自分達で国民議会を発足させます。

 ルイ16世は妥協策として国民議会を承認しますが、特権を持つ貴族達は平民達に圧力を強め、

 平民出身の財務長官が罷免されると、怒った民衆はバスティーユ牢獄を襲撃。

 その暴動はフランス全土に飛び火し、フランス革命が起こります」

  「牢獄なんて襲撃して意味あるの?」

  「政治犯とか解放するんじゃない?」

  「いや、バスティーユ牢獄というが、実はバスティーユはパリを守る要塞だ。まぁ、軍事力の象徴だな」

  「軍事力の象徴が倒されたことで暴動が広がったのね」

  「そうだ」

  「国民議会は封建制を廃止し、人権宣言を採択しました」

  「フランス共和国になったの?」

  「いえ、軟禁されているものの国王はいるのでイギリス型の立憲君主制ともいえます」

  「共和制になったらもう国王なんていらないじゃん」

  「それはそうだが、国王擁護派の貴族や平民もいたし、

 なにより王妃はオーストリアの皇女だから外交関係を懸念したのだろう。

 神聖ローマ皇帝レオポルト2世はマリー・アントワネットの実兄だしな」

  「妹萌えなお兄様が、妹を助けるためフランス革命に介入してくるかもしれないってこと?」

  「そうだ。革命に成功したフランスの貴族もその辺りはちゃんとわかっていた」

  「国王はそのような理由で軟禁されていたのですが、

 革命によって先行きが不安になったルイ16世とマリー・アントワネットは国外に逃亡を謀ります。

 しかし、あまりにもお粗末な逃亡計画だったため国境の手前のヴァレンヌで捕まってしまいます」

  「この辺りの計画性の無さは、やはり弁護の仕様がないな」

  「国外逃亡を謀った国王に国民は失望しますが、

 国王夫妻に危害を加えないように神聖ローマ皇帝レオポルト2世はプロイセンと組んで圧力を掛けます。

 これをピルニッツ宣言といいます」

  「妹萌えの兄様が介入してきたのね(苦笑)」

  「ところが、フランス国内の政府はこれを重大な脅迫だと受け止め、

 先手を打ってオーストリアとプロイセンに宣戦。フランス革命戦争が勃発します。

 プロイセンとオーストリア軍は快調に進軍しますが、フランス側はジャコバン派による独裁体制を強めて

 国家総動員体制の整備をはじめとする軍事的革新を進めて、より多くの兵力を整えヴァルミーの戦いでプロイセンを破りました」

  「ええと、いろいろ出てきたけどジャコバン派って?」

  「パリのジャコバン修道院を本拠にしていた政党だ。

 ロベスピエールが有名だな、彼はジャコバン派で公安委員会や革命裁判所などを支配していたため

 対立するライバルに次々と罪を着せて処刑していったのだ」

  「国家総動員体制の整備っていうのは?」

  「徴兵制の前段階だな。それまでは国が雇う傭兵が軍の主体だったんだが、国防の為に国民全員を兵士にする。

 つまり国民軍を誕生させたわけだ」

  「即席の徴兵された兵より、プロの傭兵の方が強そうだけど?」

  「この時代は、小銃で戦う戦争だからな。

 重い鎧を着て馬に乗って、敵に突進して直接槍を振るうのはちょっと訓練しただけでは難しいだろうが、

 軽装で銃に弾を込めて離れたところから撃つだけなら少し訓練すれば誰でもできる」

  「なるほどね」

  「独裁を強めたロベスピエールは、国王夫妻を処刑します。

 国王が処刑されたこの時点でフランス第一共和制といいます」

  「国王夫妻を殺しちゃって、妹萌えの神聖ローマ皇帝の兄貴は怒らないの?」

  「レオポルト2世は既に亡くなって息子が後を継いでいましたが、

 各国とも王政でしたので、革命の波及を恐れて一斉に参戦、これにより第一次対仏大同盟が結成されます。

 参加したのは、ハプスブルグ家のオーストリア、イギリス、プロイセン、スペイン、ナポリ、サルディニアです。

 また、フランス西側のヴァンデでは大規模な住民叛乱が発生し、フランスは追い詰められます」

  「参加した勢力だけ見れば、四方を包囲されているものね」

  「しかし、フランスは120万という大規模な兵士の徴兵を実施し、

 数の力ですべての戦線で同盟軍を跳ね返し勝利を重ねます。

 ヴァンデの住民叛乱は、恐怖政治を背景として住民虐殺という形で終結させ、

 プロイセン、スペインに対して反撃に転じこれらの国々と個別に停戦しました」

  「120万の軍って凄いの?」

  「当時の戦争はせいぜい数万単位で行わている。圧倒的な大軍といえるな」

  「またこの戦いの中でナポレオンが優れた戦術でトゥーロン港を包囲していたイギリス軍を破り一躍有名になります」

  「ナポレオンが歴史の表舞台に登場したわけね」

  「プロイセン、スペインを各個撃破して危機が去ると、恐怖政治に反対する勢力は、

 ロベスピエールらジャコバン派を処刑し、新しく5人の総裁が権力を共有する総裁政府を樹立します。

 北イタリアではオーストリアとサルディニアが優勢に戦闘を進めており、イギリスと共にまだ戦闘を継続していたので、

 フランス政府はイタリアにナポレオンを派遣して戦況の打開を謀ります。

 このナポレオンのイタリア遠征は兵力も装備も補給も少ない状態でしたが、

 ナポレンは巧みな戦術指揮でオーストリア軍を次々と撃破し、オーストリアを停戦させて同盟から離脱させました」

  「残るはイギリスだけね」

  「はい、イタリア遠征の後、ナポレオンはエジプトを攻略して

 イギリスのインドへの植民地へのルートを断つためエジプト遠征を行います」

  「うーん…… エシプトって結構インドから離れているわよね」

  「アフリカをぐるっと回るんじゃ遠いんだろうけど、この時期スエズ運河があるわけじゃないんでしょ?」

  「はい、まだ70年以上先ですね」

  「地中海を通る輸送ルートもあるんだろうけど、それだけでイギリスが屈服するとは思えないし、

 ちょっと無理のある遠征じゃない?」

  「そうですね。事実、ナポレオン率いるフランス軍は陸戦では勝利するものの、

 海上をイギリスに押さえられて、補給に苦労し結果的に敗退しています。

 おそらくエジプトの防御が手薄だという情報を狙っての攻撃だったのでしょう。

 事実オスマン・トルコのエジプトの防御は周辺に敵国もないことから極めて弱小でした」

  「弱いところを狙う予定だったのかもしれないというわけね」

  「さて、イギリスはナポレオンがフランスからいなくなったことを機会にオーストリアとロシアを誘って、

 第二次対仏大同盟を結成しフランスを攻めます」

  「ナポレオンのいないうちにフランスを倒そうというわけね」

  「考えることがセコイわねぇ〜」

  「ロシアの援軍を得たオーストリアは北イタリアを奪還し、ライン方面でも優勢に戦闘を進めますが、

 スイスのチューリッヒで敗れるとロシアは単独講和に応じて同盟から離脱。

 ナポレオンはエジプト遠征軍を捨てて帰国し、クーデターを起こして独裁政権を樹立します」

  「捨てられたエジプト遠征軍はどうしちゃったの?」

  「帰国できないまま最後には追い詰められて降伏しました。

 ナポレオンは敵前逃亡の罪に問われていたので、クーデターを起こすしか選択肢がなかったようです。

 その後、ナポレオンは有名なアルプス越えを実施して北イタリアにおいてオーストリア軍を撃破。

 再びオーストリアと講和して同盟から離脱させます」

  「またイギリスだけが残ったというわけね」

  「ナポレオンは革命以来対立していたローマ教皇と結び、さらにイギリスともアミアンの和約を結んで停戦します。

 しかし、両国ともこのまま停戦するつもりはありませんでした。

 両国とも翌年、再びイギリスはフランスに宣戦して戦闘が再開されます」

  「なんでそんな簡単に停戦したり開戦したりできるのかしら?

 戦うなら最後まで決着つければいいのに」

  「和約も外交作戦のひとつなのです。この時代は極めて頻繁にそれが行われました」

  「時間稼ぎというやつね」

  「ナポレオンはローマ教皇から戴冠を受けナポレオン1世として即位すると帝政を開始し共和制を終わらせます。

 ナポレオンの皇帝即位はドイツ諸侯に影響を与え、この戴冠に反対するイギリスとオーストリアは

 フランスに対抗してロシア、ナポリ、スウェーデンと同盟し、第三回対仏大同盟を結成します」

  「またオーストリアとロシアが敵になっているのね」

  「オーストリアが今まで神聖ローマの皇帝だったのに、

 ローマ教皇から認められた皇帝がナポレオンということになっちゃったわけだからということね」

  「はい、しかし戴冠したことによってナポレオン側にスペインやバイエルンなどが味方についています。

 オーストリア軍とロシア軍はバイエルン軍を撃破しますが、ナポレオンは驚異的な侵攻速度でオーストリア軍を撃破し、

 ウィーンを占領、撤退したオーストリア軍はロシアの援軍を得てアウステルリッツで決戦を挑みますが、

 ナポレオンはこれも撃破し、オーストリアは対仏大同盟から離脱します。

 しかし海上ではスペイン、フランス連合艦隊はトラファルガーの海戦でイギリス艦隊に撃破され、

 イギリス本土への上陸は不可能となりました」

  「ナポレオンは陸では勝利するけど、海上では常にイギリスが優位というわけね」

  「さらにナポリ王国を征服し、神聖ローマ帝国を解体して親仏のドイツ諸侯を集めライン同盟を結成します」

  「えっと、第三回対仏大同盟で残っているのはイギリスとロシアとスウェーデン?」

  「はい。フランスのドイツへの侵入に警戒するプロイセンは同盟に参加し、第四回対仏大同盟が結成されます」

  「オーストリアが倒れたあとにプロイセンが参加したのね」

  「プロイセンのこの遅い外交対応はフランスによって各個撃破される運命でした。

 フランス軍はプロイセンとロシアが合流する前に素早い行軍で進軍し、プロイセン軍を次々と撃破してベルリンを占領、

 さらにワルシャワに進んでポーランドを解放します。

 ポーランドはプロイセンとロシアによって分割占領されていたので、ポーランド人はナポレオンを解放者として迎えました。

 プロイセンはロシアと合流して決戦を挑みますが、結局敗退してプロイセンは全土をフランスに占領されてしまいます。

 その後、ナポレオンはプロイセン、ロシアと講和し同盟から離脱させます」

  「ええと、同盟で残っているのは後はイギリスとスウェーデン?」

  「ナポレオンはスウェーデンを外交策でもって屈服させる方法を取りました。

 ロシアと密約を結び、ロシアにスウェーデンを攻めさせたのです。

 スウェーデンはイギリスと同盟してロシアに対抗しますが、バルト海海戦では勝利したものの、

 フィンランドから陸路で迫るロシアに完敗しスウェーデンはフィンランドをロシアに割譲することになりました。

 さらにスウェーデンはロシアによって対仏同盟から強制的に離脱させられてしまいます」

  「……あれ? ロシアってナポレオン率いるフランスを倒した敵じゃないの?」

  「どうみてもフランスと手を結んでいるけど……」

  「学校の授業ではそう習いますね」

  「そうなのですが、各国とも思惑があり、場合によって手を結んだり敵対したりしているのです。

 だからロシアをナポレオン率いるフランスの敵とは一概にはいえません」

  「む…… やっぱり外交は難しいのね」

  「ちなみにナポレオンはベルリン占領時に大陸封鎖令を出しています。

 これはイギリスを経済的に追い詰めるためイギリスと貿易をしないようにするためのものでした」

  「イギリス製品の締め出しを狙ったと学校の授業では習いますね」

  「それと同時にフランス製品を買わせるという目的があります」

  「つまり自分の店の商品だけ買わせて、

 他の店から物を買わせないようにさせて、その店を干上がらせようというわけね」

  「そんなに簡単に上手くいくのかしら?」

  「上手くいかないだろうな。

 ナポレオンは戦術に関してはそれなりの能力だが、この外交経済に関しては疑問符をつけたくなるな」

  「でも、イギリス経済にダメージを与えられるんでしょう?」

  「実際はフランスの同盟国の経済の方がダメージを受けたともいわれていますが……」

  「いいですか? もし、自分の製品を買え、他国の製品を買うな。と言ったとします。

 でも、それは安くて優良な製品が他国の方であると認めたことになりませんか?」

  「まぁ、自分のほうが良い製品を売っているのなら、そんなことをする必要は無いわね」

  「いくらガンダムファンだからってガンダム●●を無理に買わされて困るなぁ……」

  「伏字になってねーー」

  「他国の製品を買わせない為には他国の製品を禁止することではなくて、

 自国の製品の生産性を高める工夫を奨励することと、それを宣伝することなのです」

  「は? 改良と宣伝??」

  「改良はともかく宣伝もなの?」

  「宣伝が下手では商品は売れません。

 まず、商品の質を高める方法ですが、この時期、イギリスは自国の製品の生産性を高める発明が盛んに行われていました」

  「産業革命というわけ?」

  「はい、この時期イギリスでは紡績の改良に続いて、蒸気機関が発明されています。

 これは発明と言われていますが、自国の製品の生産性を高めるための工夫の一貫といえるでしょう。

 改良による製品の生産性向上という意味ではフランスはまったく立ち遅れていましたし、

 ナポレオンは国内の法制などは整備するなどしましたが、経済感覚に関しては独裁者としては失敗です」

  「「瓶詰め」はナポレオン支配下のフランスで採用されたと聞きますが……」

  「瓶詰め妖精キター」

  「瓶詰めと聞いて、なぜ瓶詰め妖精がすぐ出てくるのかと……」

  「なにそれ? ゼルダの伝説??」

  「いや…… つっこまない方がいいでしょう」

  「瓶詰めよりも生産効率のいい缶詰は、そのすぐ後にイギリスで発明されています。

 瓶詰めの発想をさらに効率の良い物にしようという発想があるのなら、缶詰の発想にはすぐに辿り着くでしょう」

  「つまりそれがイギリスとフランスの決定的な違いというわけですね」

  「じゃあ宣伝は?」

  「ナポレオン占領下のプロイセンではフランスに対抗するため、しきりに宣伝による国威高揚が行われていました。

 フィフテの行った講演「ドイツ国民に告ぐ」は有名ですね」

  「ジークジオン!!」

  「ジオンじゃないって……」

  「平行してプロイセンは軍制改革を実施し、強力な軍隊を作り上げることに成功します。

 さて、もともとイギリスとの関係が強かったポルトガルは、ナポレオンの大陸封鎖令を破ってイギリスと取引を行いましたが、

 ナポレオンは直ちに軍隊を派遣してポルトガル全土を占領します。

 ポルトガル王室はイギリス軍の護衛のもとブラジルに王宮を移しました」

  「対仏同盟には入っていないけど、ポルトガルはイギリスの同盟国なのね」

  「また、スペイン王家の国王と王子の対立による問題に介入して

 自分の兄をスペイン王にすると、スペインの民衆はイギリスの支援を受けて一斉に蜂起しました。

 ナポレオン自ら鎮圧にあたりますがスペインの民衆はゲリラ戦でフランスに対抗し、

 結果的にはこれがナポレオン衰退の序章になります」

  「ポルトガルとスペインのゲリラはイギリスの支援もあって蜂起したんですよね」

  「はい、スペインでナポレオンが苦戦しているのを見たオーストリアは

 再びイギリスと第五次対仏大同盟を組んでフランスと戦うことにします」

  「ん? 大同盟っていっても今回はイギリスとオーストリアだけ?」

  「はい、もっともスペインのゲリラは同盟軍の一翼ともいえますが」

  「それでもちょっと行き当たりばったりじゃない?」

  「オーストリアも敗戦の反省から軍政改革を行っていましたが、ナポレオンは苦戦しながらもオーストリアを撃破し、

 オーストリア皇帝フランツ2世は娘の皇女マリー・ルイーズをナポレオンに嫁がせることで講和しました」

  「オーストリアの回で解説した婚姻が外交というわけですね」

  「実際、オーストリアはかなりの領土と賠償金を課せられますが、

 戦闘の経緯とオーストリアが決して外交的に優位でないことを考えるともっと喪失が多かったはずです」

  「ハプスブルグ家の皇帝の娘という権威にも価値があるということですね」

  「はい、続いて有名なナポレオンの失敗の最大要因、ロシア遠征が始まります」

  「反フランス諸国はまた対仏大同盟を結成したの?」

  「いえ、イギリスとロシアは同盟していたものの結成はされていません。

 というのもイギリスではフランスのロシア遠征と同時期に、

 アメリカがイギリスのスペイン援護している戦闘の隙を狙って始めた米英戦争が始まってしまい。

 ロシアを援護することができなかったからです」

  「みんな隙をみて攻撃してくるのね……」

  「ロシアに侵攻したフランス軍の構成は以下の通りです」

国名兵力
フランス約45万
オーストリア及びポーランド約10万
バイエルン約2万
ヴェストファーレン約2万
プロイセン約2万
イタリア約2万
スイス約1万
ロシア約50万
スウェーデン及びオスマン・トルコ約10万

  「あら? 意外と兵力差が小さい……」

  「ロシア側が防御側であることを考えると、それほどの差というわけではないですよね」

  「スウェーデンとオスマン・トルコ軍が10万もいるって?」

  「フランス軍が圧倒的多数だったけど、冬将軍で倒されたんじゃないの?」

  「結果的にはそうですが、このナポレオンの遠征にはスウェーデンとオスマン・トルコはロシアを救援しました。

 軍隊だけでなく実際にロシアが焦土作戦をするうえで、両翼に位置する両国の援護は効果的であったでしょう」

  「だって、スウェーデンとオスマン・トルコってロシアの仇敵じゃないの?」

  「ある時期においてはそうです。ロシア遠征の少し前はロシアとスウェーデンは戦っていましたし、

 オスマン・トルコもわずか15年前にはロシアと戦い、クリミア半島を失っています」

  「敵が味方になったり、味方が敵になったり、一概に敵味方で色塗りできないのね……」

  「フランス軍はモスクワまで進軍しますが、ロシア軍の焦土作戦の影響で補給を喪失して、遂に撤退。

 ここでロシア軍の激しい追撃が行われ、フランス軍は壊滅してしまいます。

 フランス軍の衰退を察知したプロイセンは、イギリス、ロシア、オーストリアと組んで、ただちに第6回対仏大同盟を結成します。

 ナポレオンは急いで軍を立て直そうとするのですが、多方面から連合軍が迫り、

 フランスの同盟国であったバイエルン、ザクセンなども連合国に寝返って対応しきれなくなりました」

  「一気に形成不利になったのね」

  「ナポレオンは確かに優れた将軍で、このような時期でもナポレオンの巧みな戦術眼は冴え渡りましたが、

 それでも一人の力では限りがありました。対仏同盟軍はナポレオンのいない軍を攻撃する戦法をとり、

 フランス軍は次第に追い込まれ、遂にパリは降伏。ナポレオンは退位し、エルバ島に流されました」

  「何回も勝ったのに1回の敗戦で負けちゃうなんてねーー」

  「途中で停戦するのではなく、一方的に敗戦するとその影響は致命的になります。

 さて、連合軍に降伏した時のフランス臨時政府を率いたのがタレーランという人物です。

 タレーランはこの外交講座において、重要な人物のうちの一人といえます」

  「誰それ?」

  「聞いたことないわね」

  「タレーランはナポレオン時代の外務大臣です。

 大陸封鎖令などではナポレオンの方針と対立していったん大臣を引退しているのですが、

 ナポレオン失脚時に再び政権を担い、連合軍との講和を行った人物です。

 歴史上で外交を考える上で、およそ考える限り五指に入る凄腕の外交官といえるでしょう」

  「ナポレオンの序盤の外交的成功も実はそのタレーランという人の功績というわけね」

  「どう凄いんだろう」

  「本来なら敗戦国であるフランスは連合国から厳しい要求を突きつけられることになりますよね?」

  「それはそうね」

  「タレーランは連合国の利害の対立を突いて、フランスに極めて有利な講和を引き出すことに成功します」

  「連合国の利益が対立しているのはわかるけど」

  「ここは外交講座的にも詳しく解説します。長々とフランスの歴史を語っているのは、

 全てこのタレーランの外交を理解するために必要なことだからともいえるでしょう」

  「そんなに重要なの?」

  「まず、連合軍は対仏大同盟を組んでフランスに攻めてきていますよね、彼らの大義名分は何でしょうか?」

  「フランスが侵略戦争をしたからでしょう」

  「フランスの侵略に対する自国の防衛?」

  「ロシア戦役はそうともいえますが、第6回対仏大同盟は違います、

 自国の防衛は連合軍の大義名分にはなりません。

 連合国の共通したフランスへの警戒はフランス革命でした」

  「どこの国も王政なわけだから市民革命は困るというわけか」

  「はい、そこでタレーランはイギリスに亡命していたルイ16世の弟のルイ18世を国王にします。

 つまり政治制度を改革前に戻したのですね」

  「連合国の主張を押し付けられただけじゃないの?」

  「それだけではなく、スペインとナポリにもブルボン朝の王を復活させています。

 つまり連合国が恐れる王政が打倒される状況を徹底的に排除したのです。

 そのため当時の共和国であったジェノバ共和国やヴェネチア共和国、オランダにも矛先を向けさせました」

  「でも、ヴェネチアやジェノバ、オランダはフランス革命以前から共和国で、フランス革命とは関係が無いんじゃない?」

  「そうなのですが、相手の結束の旗印に合わせて、目標を逸らしたのですね」

  「……つまり、今回の戦争は、フランスの所為じゃなくて、共和国の所為なんだ! としたってこと?」

  「そうです」

  「なんか卑怯じゃない? ヴェネチアやジェノバ、オランダは関係ないのに」

  「敵が連合を組んでいるときには、

 その相手が連合組んでいる理由をまず排除しなくてはなりません。これは現代の外交でも当てはまります。

 その為にはスケープゴートも必要です。ヴェネチアやジェノバは併合され、オランダは王国になりました」

  「むむぅ……」

  「次に各国の利害を個別に処理しました。

 まず、フランスに常に敵対していたイギリスはマルタ島と南アフリカのケープ植民地を領有することになりました」

  「両方ともフランス領じゃないでしょう」

  「マルタ島はナポレオンが占領しました。このマルタ島は地中海の制海権に極めて重要な島です。

 またケープ植民地はオランダ領だったのですが、オランダの政治形態はナポレオンに解体されてしまっていたため、

 その植民地は講和の為の材料として利用しました」

  「なんでケープとマルタが重要なの?」

  「アメリカ独立後は、イギリスの最重要な勢力圏はインド洋です。マルタ島と南アフリカは

 欧州からインド洋へ向かう海洋ルートの南北の中間地点ともいえます」

  「なるほど……」

  「オーストリアはヴェネチアを含む北イタリアを獲得しました」

  「オーストリアってどうして北イタリアに拘るのかしら?」

  「まずオーストリアは内陸の国ですので、港が必要です。

 これはヴェネチアを解体することでオーストリアのものになりました。

 次に北イタリアはオーストリアがイタリア戦争から継続してフランスと抗争してきた争地です。

 これを獲得することは、オーストリアをフランスに勝利したという気分を満足させるのに必要でした。

 そして、ロシアはポーランドのほとんどを獲得しました。過去にポーランドに征服されたこともあるロシアにとって、

 ポーランドは絶対に支配下に置きたい相手だったのです」

  「ポーランドとロシアって仲が悪かったのね」

  「つまりこれもその国の感情を利用した個別外交というわけですね」

  「プロイセンはライン川西岸地区、つまりラインラントを獲得します。

 この地域はその後ライン川の海運を活かした水運により経済的に発展し、

 さらにイギリスからの工業機械の輸入でドイツの最も大きな工業地帯になります」

  「有名なルール工業地帯もラインラントの一部ですよね」

  「産業革命が始まっていた状況で、重要な土地というわけなのね」

  「スウェーデンはデンマークからノルウェーを割譲させました。

 これは常にイギリス寄りの姿勢だったスウェーデンに対するイギリスの譲歩ともいえるでしょう。

 後にイタリアを統一するサルディニアはジェノバ共和国を併合しました」

  「各国がそれぞれ自分の権益を拡大させているだけでフランスが成功しているようにはみえないですけど……」

  「フランスの本国は領土を安堵していますし、

 フレンチ・インディアン戦争で失った植民地のセネガルをイギリスから返還させることにも成功しています」

  「セネガル?」

  「首都はダカール。パリ=ダカールラリーでよく知られるように、フランスのアフリカでの拠点ですね」

  「どうして敗戦国が戦勝国から領土を受け取れるのよ?」

  「ええと、例えば連合して戦った国の中で一国だけたくさん利益を得る国が出たら他の国はどう思いますか?」

  「不満なんじゃないの?」

  「同じぐらいの苦労をしたなら当然利益は等分であるべきだと思うでしょうね」

  「そうです。タレーランはこの各国の勢力の均等配分に最も力を傾けました。

 その中から自国の役割、つまりイギリスの独り勝ちを防ぐという意味で、フランスの立場を強調したのです」

  「……だからセネガルを返還させたってこと?」

  「はい。もちろんイギリスが最も欲しいところのインド洋周辺の寄港地や領土には配慮しています」

  「うーん、なんでそんなことが成功するのかしら……」

  「フランスを戦勝国で等分に分けちゃうこともできたんじゃない?」

  「フランスの王家にはそれなりの権威があります。最初の頃に説明したフランス王家の権威を思い出してみてください」

  「ええとカールの戴冠から分離して、東フランクと西フランクで分けたというやつね」

  「で、タレーランが盛んに主張した正統主義、つまり王に権力を戻そうという主張ですが、

 王権の権威はこの戴冠が始まりですよね?」

  「フランス王家無しにはドイツ…… つまりプロイセンとオーストリア王家の体制も揺らぐということね」

  「けっこう昔のことを掘り起こして主張の根拠にしているのね」

  「だからフランスを完全に潰すことはできません。これは抜群の利害調節能力がないとできないでしょう。

 続いてタレーランは演出にも優れていました」

  「演出?」

  「例えば、このウィーン会議の最中、ナポレオンは追放先のエルバ島を脱出し、

 パリに戻って再び政権を獲得して戦いを挑みました」

  「百日天下ですね」

  「このため諸国はあわてて第7回対仏大同盟が結成されるのですが、

 結果的にこのナポレオンの復帰は、ウィーン会議の交渉で優位に働きました。

 ワーテルローでナポレオンが敗れた後には、ウィーン議定書はあっさり決定されることになります」

  「でも、ナポレオンは自力でパリに戻って復位したんでしょう?」

  「これは憶測ですが…… タレーランは本気でナポレオンを処分する気になれば出来たはずです。

 だが、それをしなかった」

  「タレーランが逃がしたの?」

  「それは分かりませんが、少なくともその状況を最大限に利用したとはいえます。

 いえ、ナポレオンの配下としてよく彼に仕え、心理を読むことに長けているタレーランなら

 ナポレオンが自分から脱出する可能性も計算していたと思います」

  「そこまで読めるものなのかしら……」

  「確証は永久に得られないから、証明する方法はないが、よく知っている相手なら行動が読めることはあるだろうな」

  「タレーランは他にも演出に気を配っています。例えば次のヒラメ料理の逸話などはその典型といえます」

  「料理の逸話が?」

  「ヒラメは高級品なのですが、タレーランはこれを2匹手に入れました。これを客に振舞うことにします」

  「料理で相手を満足させて納得させようというの」

  「しかし、高級品のヒラメを2匹も出せば、タレーランが自分の権威を自慢しているように見えます」

  「……自分が突出しないようにということ?」

  「じゃあ1匹は自分でこっそり食べちゃうとか」

  「それでは2匹手に入れた意味がありません。こういう状況で2匹のヒラメを最も活用する方法を彼は取りました。

 彼は一匹目のヒラメを客に出そうとして、わざとその料理を落として台無しにしてみたのです」

  「もったいないーー」

  「と、客が残念がったところで、もう一匹あったのですと、もう一匹のヒラメを出して客に振舞います。

 客は大喜びしてヒラメを食べたそうです」

  「……え?」

  「つまり演出です。このほうが最初から2匹食卓に並べるより効果が高いという判断です」

  「つまり絶対領域を持つ萌っ子を最初から2人並べるより、

 普段はニーソを履いていない子が恋愛フラグを立てると、ニーソを履くようになると、オタには効果が高いというわけだな」

  「いや、意味わかんないから」

  「じゃあ、ガンダムを2体並べるよりも、1体倒された後に、

 新しいガンダムがもう1体出てくるほうが、ガンオタは喜ぶというわけだな」

  「いや、もういいって……」

  「さらにタレーランは料理が外交で効果的であることを理解していました。

 彼は料理人カレームを雇い、新しい料理を開発させてフランス料理の基礎を育てます」

  「え、フランス料理ってタレーランが広めたの?」

  「開発したのは彼が雇ったカレームだが、広めたのはタレーランだ。

 ウィーン会議でもタレーランは夕食会をたびたび開き、その料理で他国の代表を唸らせている」

  「なんというミスター味っ子の世界……」

  「いや、最近では焼きたてジャぱんで」

  「フランス料理というものは、今では単なる高級料理のように思われるかもしれませんが、

 実はタレーランがウィーン会議で自国を守るのに準備していた演出のひとつなのです」

  「むぅ、なんというマメ知識……」

  「料理といえども外交なのね」

  「食卓外交というわけですね」

  「特にタレーランがカレームに指示したことで注目すべきは、

 全て違う食材を作った1年間のメニューを作ることを命じている点です。

 これはどういうことかわかりますか?」

  「毎日違う味のものが食べられるということでしょ?」

  「食べ物というのは、主食でなければ何度も食べると飽きます。

 相手に飽きさせないということ、相手に自分が必要だと常に思わせるということです。

 そこまで計算してタレーランは違う食材を使ったメニューを作るように指示しているのですね」

  「利害の調節と人の感情把握が上手いということか……」

  「こうしてフランスはナポレオン戦争の敗戦を切り抜けました。

 戦後欧州は戦勝国のイギリス、オーストリア、プロイセン、ロシアの四国同盟が中心となる神聖同盟が成立しますが、

 すぐにフランスも加わって五国同盟の体制が築かれます。

 この結果、近代世界はこの欧州の五国が王政を維持して進むことになりました」

  「共和国はなくなってしまったのね」

  「フランスの王政はしばらく続きますが、それでも貴族社会などに対する身分制度への不満は高まってきます。

 立憲君主制として議会も設置されていたのですが、選挙権が資産家しか持っていないなど、極めて制限されていました」

  「不平等な選挙制度じゃ、次第に不満は溜まるわよねぇ」

  「また産業革命により資産家と労働者の貧富の差が広がると、

 中小規模資産家や労働者は選挙を公平なものにするよう改正運動を展開したのですが、

 政府はこれを弾圧すると市民暴動が発生し、1848年、二月革命が発生して、国王ルイ・フィリップは退位に追い込まれます。

 ちなみに三月にはオーストリアのウィーンでも三月革命が発生して、ハンガリーが独立し

 サルディニア公国がイタリア統一を狙ってオーストリアに宣戦しますが、

 こちらはロシアがオーストリアに援軍に出たことにより鎮圧されました」

  「遂に王政への批判が爆発したということね」

  「国王追放の後、第二共和政が始まり臨時政府が設置されますが、

 すぐに革命を成功させた資産家と労働者の対立が表面化します」

  「なんかいろいろな勢力が出てきているんだけど……」

  「また、労働者を支援する社会主義者達の動向も気になるところでした」

  「アカどもきたわね〜」

  「社会主義?」

  「この時代はまだマルクスやエンゲルスが提唱した資本論が実際に提唱した科学的社会主義とはちょっと違う」

  「科学的社会主義??」

  「まぁ、ようは労働者の権利を保護しようということだが、そのやり方の違いというわけだ」

  「やり方の違い???」

  「説明すると長くなる。これは別項目で説明しなければならないことなので、今回はいい」

  「うーん、まぁいいや」

  「要は資産家と労働者の対立が問題だったというわけね」

  「はい。フランスでは両者の利害を調整できる強力な指導者が望まれていました。

 このような中、ナポレオンの甥ナポレオン3世は選挙で大統領に就任すると、

 資産家にも労働者にも受けのよい政策を実施して支持を集めると、さらに国民投票を実施して皇帝に即位します」

  「あのー、ナポレオンの甥があっさり権力を握ってまた皇帝?」

  「せっかく共和国になったのにまた昔に戻ったみたい」

  「混乱していると昔の良かった頃に戻ろうという市民感情を活かした反動です。

 フランスは特に反動が多い国家であるといえます」

  「いや、反動しすぎでしょ」

  「ホッピングじゃあるまいし……」

  「いや、いまどきホッピングなんて知っている人いないでしょう……」

  「じゃあ、スーパーボール」

  「レベルが変わらない」

  「しくしく(泣)」

  「ナポレオン3世はイギリスと同盟して、クリミア戦争で勝利。

 またサルディニアと同盟してオーストリアを破りサルディニアからニースとサヴォイを獲得、

 さらにベトナムを植民地化して、アジアに進出を強めアロー戦争では清を破って不平等な条約を結ばせます」

  「ナポレオンと違って、この3世はイギリスと同盟を重視しているのですね」

  「また、パリの市街を今のように美しく放射線状になるように作り変えたり、

 パリ万博を開催したりと国内への点数稼ぎに躍起でした」

  「まぁ、日本でもオリンピック招致しようとしたりして点数稼ごうとする政治家は多いわよね」

  「ナポレオン3世は幕末の日本の徳川幕府とも同盟を結んでいますね」

  「しかしこのようなナポレオン3世も失敗をすることになります。

 メキシコで保守派と改革派の内戦が起きたのですが、改革派が勝利したものの

 保守派は嫌がらせでイギリス・スペイン・フランスからなる連合軍にメキシコの港町ベラクルスを占領させます」

  「嫌がらせ……」

  「イギリス・スペイン軍は改革派と話をつけて帰国しましたが、

 フランスはメキシコを属国化しようと増援を繰り返して進軍し、メキシコシティを占領。

 オーストリアから王弟のマクシミリアンを帝位につけて、欧州各国にそれを認めさせました」

  「一応、欧州の国々に承認させたということは、成功ともいえるのよね?」

  「しかし、メキシコの改革派は南北戦争が終了したアメリカの支援を受けると反撃して、

 マクシミリアンを捕らえ処刑してしまいます。

 このときナポレオン3世はメキシコからフランス軍を撤退させて彼を見捨ててため、彼の権威は失墜しました」

  「自分が招聘して皇帝にしたのに見捨てたから、外交的信用を失ったというわけね」

  「そして、プロイセンのビスマルクが謀ったエムス電報事件に煽られた国民の反独世論を引きずったまま、

 普仏戦争に突入し、彼は叔父のナポレオンを真似て一軍を率いて戦場に向かいますが

 戦闘では無能な彼は、セダンで包囲されて捕虜になってしまいました。

 フランス政府は直ちに彼を廃位し、再び臨時政府が設置されてプロイセンに降伏しましたが、

 パリの労働者達はこの降伏を不服として蜂起し、パリ=コミューンを結成して市街地に立てこもり、

 フランス臨時政府軍と戦闘になりました」

  「このパリ=コミューンは社会主義者達の間では最初の革命と評価されているな」

  「でもさ、プロイセン軍が迫っているわけでしょう?

 労働者が蜂起の革命っていったって、政権の隙をついて権力を握っただけじゃないの?」

  「それはそうだ。しかし、マルクスなどはこのパリ=コミューンを評価している。

 結果的にこれは後の社会主義者のやり方の基本になった感があるな」

  「さて、フランスを倒したプロイセンはドイツとして統一しさらに強国になりましたが、

 フランスはドイツの外交官ビスマルクによって外交的に孤立させられ、極めて厳しい状況になりました。

 しかし、そのビスマルクがドイツ皇帝ヴィルヘルム2世との対立から失脚すると、ドイツはロシアとの関係が悪化します。

 フランスはそこを見逃さず、ロシアに対してたくさんの投資や技術援助を行って同盟関係を強化しました」

  「露仏同盟というわけですね」

  「露仏同盟はドイツを挟み撃ちにしようという同盟よね」

  「はい。ちなみにロシアのバルチック艦隊が日本海まで遠征する際、フランスは港を使用させています。

 これも露仏同盟の協力関係の一環です。

 さらにヴィルヘルム2世は他国との対立を省みない強固な海上進出を行い、イギリスの反発を招きます。

 イギリスはドイツの拡大によって孤立路線を諦めまずフランスと次にロシアと協商を結んで、三国協商としました」

  「協商っていうのは、商の字が含まれているけど、商売の条約なんですか?」

  「いえ、この協商というのは「商」の字が含まれているため、時に通商条約のように誤解されますが、

 原語のフランス語の「誠意ある相互理解」という単語の訳を商業としたことによるものです。

 三国協商に商業協定的な側面はありません」

  「うーん、ということは原語からみても、三国協商はフランスが中心になって展開したようね」

  「ドイツの暴走はまだ続きます。

 ドイツはこの時期、調整による外交よりも軍事力によって問題を解決する姿勢が更に顕著になっていました。

 ドイツはオーストリアと同盟していたのですが、セルビアでサラエボ事件が発生し、オーストリアがセルビアに宣戦すると、

 セルビアと同盟していたロシアの介入に対して先手を打って、フランスに雪崩れ込みます」

  「オーストリアの回でも少しやりましたけど、フランスを軍事的に瞬殺してからロシアに対抗しようとしたわですよね」

  「ドイツはこのとき中立国のベルギーを占領して通過しようとしましたが、

 イギリスはベルギーと同盟を結んでいたので、これを口実に参戦しました。こうして第一次世界大戦が始まります。

 フランスはイギリスの援軍を得て、さらにロシア側もフランス救援のため無理に前進してフランスを助けたため

 ドイツの計画していた早期のフランスは瓦解はなく戦いは長期戦になりました」

  「なんでそんなに長期戦になったのかしら?」

  「塹壕戦による防御主体の戦いだったからとも言われていますが……」

  「他にも指揮系統が各国ばらばらであったことも要因としてあげられます」

  「一緒に戦っているんだから指揮系統は統一してもいいんじゃないの?」

  「各国とも自国の指揮権は自国で保持しておきたいのです。

 それは現代においても同じです」

  「軍隊というものは自国の権益を守ることが最優先だから、他国の指揮下に安易には入りたくないものだしな」

  「勝利の理由はアメリカの参戦?」

  「それもありますが、

 これも指揮系統が統一されたことも大きいでしょう。ロシア革命によりロシアが崩壊してソビエト連邦が誕生すると、

 東側戦線の脅威が無くなったドイツ軍は一気に西方に攻勢を強めてきました。

 アメリカが参戦したばかりで、ドイツ側もこの機を逃せばアメリカ軍の増援が次々と来援し、

 西方での勝利も難しくなると考えられていた時期でした。

 ドイツ軍はパリ近郊まで進軍し、パリを砲撃します。連合軍は浮き足立ちますが、逆に指揮系統を統一して反撃に転じました。

 この指揮系統の統一は連合軍の反撃において大きな要素になります」

  「アメリカの来援だけが勝利の決め手というわけではないのね」

  「はい、フランスはドイツを打倒して多くの賠償金と普仏戦争で奪われたアルザス・ロレーヌの領土を獲得しました。

 またアメリカの提案で、戦勝国として英、仏、日、伊の四カ国が国際連盟を発足させます。

 しかしフランスは極めて損害が大きく、工業力は衰退してしまいました。

 ドイツの賠償金支払いの遅れからフランスはベルギーと組んでドイツのルールを強制占領しました。

 しかしこれはイギリスが逆に反発、フランスは結局ルールから撤退します」

  「外交も上手くいかないんだ」

  「なんでこんなになっちゃのかしら?」

  「第一次世界大戦の余りの被害に、国民に倦怠感が広がっていたといいます」

  「やる気が無くなった?」

  「戦間期のフランスはあらゆる面で低調でした。軍事費を軽減して経済を安定するべく資金が投入されましたが

 国民にやる気が無いので、ほとんど効果がなく終わっています。

 イギリスはフランスを働く気が無いキリギリスに例え、積極的に働いて復興するドイツをアリに例える風潮まで発生しています。

 またドイツをけん制するためにチェコやポーランドと条約を結びますが、その実行力はほとんどありませんでした。

 特に海軍の衰退は激しく、1922年にワシントン海軍軍縮条約が締結されましたが

 条約範囲内の海軍すら整備することが出来ませんでした」

  「うーむ、日本では条約で海軍力が制限されることで反対まで起こったのにね」

  「そして1929年、世界経済恐慌が発生しました。

 フランスは植民地を持つ国でしたのでブロック経済を導入して打開を図りますがそれでも好転しませんでした。

 こんな中、社会主義を基調とした政権が誕生します。首相についたのが、レオン・ブルムです」

  「アカの指導者?」

  「はい、彼はユダヤ人であり、ドイツで台頭してきたファシズムに対抗するため、

 国内の反ユダヤのファシズム組織を解体させました」

  「反ドイツというわけね」

  「それだけではなく、彼はソ連を樹立したレーニン型社会主義を認めず、社会党と共産党は分裂しました」

  「ええと、ロシア革命のような革命を目指す勢力が共産党ね」

  「さらに反ソ連というわけね」

  「しかしそれでもフランスの政治は混乱しました。

 そのまま第二次世界大戦が勃発、軍事は大幅に立ち遅れていて、

 第一次大戦からの倦怠感を引きずっていたフランスはあっさりとドイツに敗北してしまいます。

 ちなみにレオン・ブルムは亡命せずにフランスにとどまり、家族ともども収容所に送られました。

 彼の弟はアウシュビッツの収容所に送られて処刑されています」

  「アカでユダヤ人なんて凄く危険じゃない。なんで逃げなかったのかしら?」

  「やはり彼は理想主義者であったのでしょう。ブルム自身はオーストリアのチロルの収容所に送られましたが、

 チロルではナチスの命令は完全には遵守されなかったので、彼は運良く大戦を生き延びました。

 しかし国から逃げなかったという意味では、彼はイギリスに亡命した軍人のシャルル・ドゴールの自由フランス政府や、

 ドイツの傀儡政権のヴィシー政府よりも連合国の評価は高いです。

 彼は実際に大戦前に首相を務めたこともあって、

 戦後、シャルル・ドゴールの臨時政府の後にフランスの首相に復帰しています」

  「まぁ、逃げた人と傀儡になった人よりも高い評価をされるのはそうでしょうね」

  「さて、第二次世界大戦は、連合国の勝利に終わりました。

 この戦争ではフランスは倒されただけであまり役割がありませんでした。

 戦後はブルム首相が引退した後の社会党が政権を運営していましたが、彼が病気で引退して亡くなった後の社会党は

 シャルル・ドゴールの国民連合の右派、共産党の左派から激しい攻撃を受けて、政権は混乱します。

 また、植民地のベトナム、アルジェリアで相次いで叛乱が発生し、スエズ動乱でも軍事的に失敗すると

 政府の弱腰に憤慨した軍部はクーデターを起こして、自由フランスの代表シャルル・ドゴールを担ぎます。

 こうしてシャルル・ドゴールはフランス大統領に就任し、大統領の権限は強化されました」

  「アメリカも大統領制ですけど、フランスの大統領とはどう違うのですか?」

  「そうですね、例えばフランスの大統領は政権中はほぼ裁判にかけられません」

  「アメリカではクリントンのわいせつ事件なんかで裁判してたわよね〜」

  「また条約は議会の承認なしに締結できます」

  「そういえばアメリカでは議会が反対して条約を結べないこともあったわよね」

  「どっちがいいのかしら……」

  「どっちがいいのかは分かりません。しかし権限が強いのはフランスの大統領です。

 戦後のフランスですが、西ドイツ、イタリア、ベネルクス三国とローマで条約を締結し経済協力関係を築きます。

 これが現在のEUの前進である、欧州経済共同体(EEC)です」

  「えっと、これはどうして成立したんですか?」

  「これは、シャルル・ドゴールが推進した仏独同盟を基軸とし、

 この2国を軸として欧州の情勢をコントロールしようという意図からです」

  「イギリスに対抗するため、ドイツと同盟してフランスを欧州の中心的役割にしようというわけですね」

  「はい、フランスは平野が多く温暖な気候を利用して、

 欧州一の農業国として、穀物、野菜、畜産などで欧州トップですが、それでも安いアメリカ産の商品には適いません。

 ですから、フランスの農業を守るための経済同盟がEECであるといえます」

  「フランスの農家を守る為に同盟を結んだというわけね」

  「イギリスはEECに対抗して、欧州自由貿易連合(EFTA)を結成します。

 EEFTは現在もありますが、実際イギリスやポルトガルなどの所要国はEU参加してEFTAを脱退し、

 今ではEUに加盟したくないスイスやノルウェー、アイスランドだけの中身の無い組織となっています」

  「つまり、仏独同盟が主導するEECが欧州経済の統合に成功して、

 イギリスや他の国もその枠組みに加わったということですね」

  「また、フランスは世界の国の中で最も原子力への依存が大きい国として知られます」

  「原発とか?」

  「はい、フランスは国内の約8割ものエネルギーを原子力発電に依存しています。

 また、軍事力も核兵器に頼る傾向が強いです。軍備は大幅に縮小されましたが、

 国家防衛の要として、戦略級原潜による大きな核軍事力を保持しています」

  「フランスのル・トリオンファン級原子力潜水艦4隻は、核弾頭6発搭載の大陸間弾道ミサイル16基装備している。

 その攻撃力は破滅的なまでに強力だな」

  「核軍事力ねぇ……」

  「またアメリカに対抗して原子力航空母艦シャルル・ド・ゴールも保持しています。

 これはイギリスなどのヘリ空母のような小さい空母ではなく、アメリカの巨大空母に匹敵するもので

 艦載機やミサイルは自国製のものを使いアメリカのものを使用していません」

  「アメリカに対抗しているというわけ?」

  「はい。ここでも仏独同盟を重視していることが分かる部分があります。

 例えば、ティーガーという……」

  「ドイツの虎戦車キターーー」

  「いえ…… 仏独同盟が開発したティーガーという攻撃ヘリがあります」

  「なんだ違うのか……」

  「他にもローランドという地対空ミサイルも仏独による共同開発です」

  「英仏開発というものはなくて、どれも仏独自か、仏独開発なのね」

  「はい、現在のフランスがドイツとの同盟関係をどれほど重視しているかがわかると思います」

  「対日関係などはどうなんですか?」

  「基本的にフランスは日本に対しての敵意はありません。

 第二次大戦も直接戦火を交えたわけではないですし、利害も特に対立していません。

 前のシラク大統領は個人的に極めて親日家であったことも知られています。

 その為、日仏関係は非常に良好なものでした」

  「親日家?」

  「シラク大統領も積極的に日本文化を導入したため、文化面の交流が深いです。

 相撲をはじめとした日本文化がフランスで開催されるなど隆盛です。そして……」

  「そして?」

  「フランスでは日本のアニメが特に人気です」

  「フランスキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━.」

  「オタク外交なんて気持ち悪いからやめて」

  「なにをいう! これこそ真の魂の共鳴ではないかっ!!」

  「特に「鋼の錬金術師」は世界設定がフランスに近い所為もあって、フランスでは最も人気があります」

  「腐女子キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━. 」

  「いや、もう……」

  「そうえば、ハガレンは、名前とか設定がフランスに近いですよね、元首も大統領だし」

  「しかし、現在のサルコジ大統領は嫌日家といわれています。あまり楽観視はできないでしょう。

 他には、日本からフランスに対する一種の誤解としてパリ症候群という病気も発生しています」

  「なにそれ? 新しい伝染病?」

  「いえ、フランスという華やかな文化に憧れて行ったはずが、理想と現実のギャップに起こる一種の精神病です。

 20代〜30代の女性に多いといわれています」

  「まぁ、確かにフランスって、華やかなイメージあるわよね」

  「フランス料理もそうだし、ファッションなんかも有名よね。ベルサイユのばらなんかも……」

  「もちろん、ある一部ではとても華やかですよ?

 だけど、ちゃんと欠点もあります。偏った憧れだけで理想を描くのはどうでしょうか」

  「フランス人って、英語が話せるくせに、フランス語で話さないと対応してくれないとか、

 英語で話しかけると嫌な顔をされるとか聞くけど、ほんとなの?

 イギリス人やドイツ人が嫌いだし、フランス語に誇りをもっているから英語は話さないのだとか」

  「ええと…… まぁ、場所や相手にもよります。フランス人が自国の言語に誇りを持っているのは本当ですよ。

 イギリス人やドイツ人があまり好きではないのも間違ってはいませんが、かといって嫌いなわけではありません。

 統計では5割ぐらいがフランス語しか話せないことになっています」

  「半分かぁ」

  「フランスでは中学から、英語とドイツ語の選択ですが、日本と違って受験教科ではないので

 熱心な人は熱心ですがそうでない人は別に興味もないでしょう。

 ラテン語系のフランス語はゲルマン語系の英語とは違いが大きいのですが、それでも語彙は似ているので有利ではあります」

  「ふーん、人によるということね」

  「ただし、近年はフランスも含め欧州各国の英語使用率は格段に上昇しています」

  「なんで? アメリカが強いからとか?」

  「インターネットの普及です。プログラムは英語ですから、志のある若い人は英語を勉強するのでしょう。

 また、YouTubeなどのインターネットメディアの台頭も少なからず関係していると思われます」

  「英語ができれば、手に入る情報が何倍にも増えるだろうしなぁ」

  「日本でも最近、小学校から英語を始めようとさせているのは、

 欧州の英語使用率が跳ね上がったから、らしいわよ」

  「小学校から始めても、熱心な人は使えるだろうし、そうでない人は使えないんじゃないか」

  「それはどこでも同じということね」

  「そういえば、東京都の石原都知事が

 「フランス語は数を勘定できない言葉だから、国際語として失格している」と言ってたけど」

  「それはフランス語の数字の数え方についての他との違いを扱いにくいと言っているのでしょう。

 確かにフランス語は10進法で表現しないので、10進法に慣れている人から見れば数え難いです」

  「どう数えにくいの?」

  「例えば、99という数ですが、日本語では「きゅうじゅうきゅう」と発音します。英語では「ninety nine」です。

 ところがフランス語の場合は「quatre vingt dix neuf」、これは「4つの20と10と9」という発音です」

  「た、確かにそれは分かり難い」

  「逆にフランス語のほうが有名な言葉もあるぞ。

 b、d、gとかの単位は国際的に有名だな」

  「つーか、なんで一文字?」

  「まぁ、これも外交と同じく一側面だけ見て考えてはいけないということね」

  「さて、今回はかなり長くなってしまいましたが、フランスを扱いました。

 フランスと日本の友好度は60%ぐらいでしょう」

  「フランスを知るためには、まずハガレンからというわけね」

  「こんなに長く解説して結論はそれなの……」

 第31回 終了


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○参考資料

・外務省のホームページ

・フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

・世界史講義録


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