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 平安院政期の絵画 絵巻物、男絵と女絵

唐絵と大和絵 言葉と絵画
  奈良 平安前期 平安中後期 鎌倉   江戸
仏画 顕教絵画 密教絵画 浄土教絵画 密教絵画    
神道絵画     神道絵画 垂迹画    
風俗画 中国の風景、風俗
騎像胡楽図、樹下美人図etc.
唐絵
中国の風景、風俗
白楽天草堂etc.東寺山水屏風
    南蛮風俗図
  大和絵
日本の風景、風俗
月次絵、四季絵、名所絵etc.
近世風俗画
   →浮世絵
   日本画へ

文学
(ハレ 公用語)漢文   漢文
万葉仮名 和歌 (ケ 日常語)ひら仮名、カタ仮名 和歌 物語 かな文学
3段階(2段階)技法:1.線の墨描き→2.岩絵具の彩色(→3.墨(朱)線の描起し)

大和絵
平安後期の絵画観:『源氏物語』雨夜の品定め
唐絵よりふつうの景色(大和絵)がよい→上品(じょうほん)よりふつうの女性がよい
 また絵所に上手多かれど、墨がきに選ばれて、次々にさらに劣りまさるけぢめ、ふとしも見え分かれず。かかれど、人の見及ばぬ蓬莱の山、荒海の怒れる魚の姿、唐国のはげしき獣の形、目に見えぬ鬼の顔などの、おどろおどろしく作りたる物は、心にまかせてひときは目驚かして、実には似ざらめど、さてありぬべし。
 世の常の山のたたずまひ、水の流れ、目に近き人の家居ありさま、げにと見え、なつかしくやはらいだる方などを静かに描きまぜて、すくよかならぬ山の景色、木深く世離れて畳みなし、け近き籬の内をば、その心しらひおきてなどをなむ、上手はいと勢ひことに、悪ろ者は及ばぬ所多かめる。(『源氏物語』帚木 光源氏17歳夏)

本質的な日本画論:
1.唐絵−大和絵の二重構造を指摘
2.そのうちふつうの身近な様子を写実的に描いた大和絵を選択
3.大和絵の美は、「なつかしく」「やわらいだ」「静かな」自然の美と「心調べ置く」細やかな人口の美。それを描くには「勢い」が大切(筆力、構成力)。

形式
[大画面]障屏画
障子(襖)  遺品少い 画中画、文献から知られる
●1053年 平等院鳳凰堂扉絵 各約374×137.5cm
 南面扉下品上生図山水 北面扉中品上生図山水
 東面南扉上品下生図山水 東面北扉上品中生図山水
●1069年秦致貞 聖徳太子伝絵 障子 各約186×270cm 東京国立博物館
1136年旧永久寺真言堂内陣障子絵(永久寺は明治初期の廃仏毀釈により消滅)
●旧永久寺 藤原宗弘 両部大経感得図 179×143cm 藤田美術館
   善無畏金粟王塔下感得図 胎蔵界(東壁)裏面 春夏
   龍猛南天塔相承図    金剛界(西壁)裏面 秋冬
◎旧永久寺 真言八祖行状図 8面各約172×111cm 春秋各4面 出光美術館
   龍猛、龍智、金剛智、不空、善無畏、一行、恵果、空海の事跡
屏風(→日宋貿易により中国へ輸出)
●11C後 山水(せんずい)屏風 一帖六扇各146×43cm 東寺伝来 京都国立博物館 唐絵の例
●13C初 山水屏風 一帖六扇 各111×38cm 神護寺 秋の大和絵
[小画面]
絵巻物 伊勢、源氏など(下記に説明)
冊子
扇面(→日宋貿易により中国へ輸出、中国で評判)

言葉と絵画の密接な関わり
1.平安時代は和歌・物語文学の黄金期
905年『古今和歌集』編纂 四季歌、恋歌の四季による編集
『竹取物語』、和歌物語『伊勢物語』から物語『宇津保物語』へ
11C『源氏物語』紫式部(?-? 関白藤原道長の娘・中宮彰子に仕えた女房)

2.かな書・女手の完成
公の漢詩文(男手)に対し、日常書写の日本語の音訓表記が
 万葉仮名→草仮名→平仮名 と実用化
和様の美の粋であるかな書・「女手」の高度に洗練された絵画的な書に至る
◎高野切 伝紀貫之 11C中 五島美術館東京国立博物館など
◎継色紙 伝小野道風 10C後〜11C前 五島美術館東京国立博物館など
◎寸松庵色紙 伝紀貫之 11C後 五島美術館東京国立博物館など
 升色紙 伝藤原行成 11C後 五島美術館東京国立博物館など
●古今和歌集(元永本) 藤原定実(-1077-1119-)1120年頃 東京国立博物館
●本願寺本三十六人家集 藤原定実等20人寄合書 西本願寺

3.「歌絵」 和歌と絵画
文献では早く平安の中頃から知られるが、遺品は平安時代にない
歌絵」という言葉の初出:999年弘高が歌絵書きたる冊子に行成(藤原行成)の君の歌書きたるなどいみじうをかしうご覧ぜらる(『栄華物語』)
A.和歌のテキストがあって、そのイメージが絵で表わされる 色紙形の存在
B.絵があって、そのイメージが和歌で表わされる場合
C.和歌と絵と同時に同一作者が作ることはない
屏風歌
A.大嘗会屏風(悠紀主基ゆきすき屏風) 倭絵屏風6雙、本文屏風4雙
 山水屏風 密教寺院の儀式 東寺、神護寺山水屏風 
 『前麗景殿女御歌合』和歌→絵の例
B.『古今和歌集』雑歌上 9C田村の御時 屏風→三条町の和歌 おつとは見れど
        秋下  竜田川紅葉屏風→そせい、業平の和歌
 『権記』常則絵→行成以下和歌 『散木奇歌集』絵→和歌の例
月次絵
1214年定家月次歌詠 1月柳・鶯、2月桜・雉、3月藤・雲雀など 江戸時代月次絵へ
名所絵
1207年名所事以伝伝説難事、明石須磨 向各見 書進絵様(藤原定家『明月記』)
以下、中世「歌絵」の例
歌仙絵:南北朝『水蛙眼目』百家仙
 人麻呂像の流行 歌仙の象徴 14C慕帰絵の画中画
扇絵:室町時代後期 『扇の草子』屏風 高津古文化会館 和歌と絵画が一対
葦出絵:絵の中に和歌の文字と象徴化した図を織り込む 蒔絵、衣装など

4.物語絵 物語と絵画
絵巻物 伊勢物語絵巻、源氏物語絵巻etc. 以下の女絵男絵を参照

女絵
女絵」という言葉の初出:『蜻蛉日記』
をかしげなる女絵どもの、恋する男の住まひなど描きまぜ、山里のをかしき家居など、心々に世のありさま描きたる(『源氏物語』総角)
  形式 題材 技法 造形の特色 内容 現代
女絵 段落式 恋愛物語 つくり絵
3段階技法
吹抜屋台
引目鉤鼻
心理移入 静的
あわれ 象徴的
少女コミックの世界
男絵 連続式 説話
ノンフィクション
打込みや肥痩のある線
線描を生かす着彩
異時同図法
デフォルメ
写実的 動画的
おかし
アニメーションの世界

●寝覚物語絵巻 奈良大和文華館 
●12C扇面法華経冊子 四天王寺,東博 装飾経 貴族や庶民の生活自体が法華世界
●平家納経見返し絵 厳島神社 装飾経 平氏一門の奉納

●源氏物語絵巻
12C前 紙本著色 『源氏物語』54帖より各1-3場面を絵画化
オリジナル:80-90段、10-12巻 日本の絵巻の中で最古
源氏物語絵巻全54帖の復元案

第1巻:01桐壺 02帚木 03空蝉 04夕顔 05若紫 06末摘花
第2巻:07紅葉賀 08花宴 09葵 10賢木 11花散里 
第3巻:12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 
第4巻:19薄雲 20朝顔 21乙女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 
第5巻:27篝火 28野分 29行幸 30藤袴 31真木柱 
第6巻:32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下
第7巻:36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
第8巻:41幻 42匂兵部卿 43紅梅 44竹河 45橋姫
第9巻:46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
第10巻:51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋


詞書(ことばがき)つくり絵 4,5グループによる共同制作か
つくり絵A 13図
主場面 22×48cm
 詞書 つくり絵B 6図
副場面 22×39cm
 詞書
段落式:詞書+絵を交互に繰り返す形式  AタイプBタイプの変化をつけ配置
詞書:正方形の料紙金銀砂子切箔野毛などで装飾)+ちらし書のかな
 詞書は五種類の新旧の書風:
 旧様の書風:第一類
  11C中期以降の連綿体、重ね書き、段落し 寂蓮,または世尊寺伊房筆の極め
 新様の書風:第四類
  奔放で肥痩にとむ、伝飛鳥井雅経、法性寺流藤原忠通1097-1164の書風
  (「今城切古今和歌集」の藤原教長1109-80か)
つくり絵:入念な3段階技法 引目鉤鼻
 絵の作者:12C中宮廷画家藤原隆能?-1126-74?の伝 「隆能源氏」
      統括者のもとに4,5グループによる共同制作か
 空間描写:吹抜屋台(俯瞰視した建物の天井を取り去り室内を表す)
       斜投影法(11場面)→等軸側投影法(7場面)へ
詞書 絵の特色
第一類 柏木・横笛・鈴虫・夕霧・御法 柏木・横笛・鈴虫・夕霧・御法 繊細な象徴性
第二類 蓬生・関屋・絵合・松風 蓬生・関屋 おおらか
第三類 若紫・末摘花・乙女・早蕨・宿木・東屋 若紫・早蕨・宿木・東屋 明快で説明的
第四類 竹河・橋姫 竹河・橋姫 可憐な情趣
第五類 薄雲・螢・常夏 なし  

来歴:
江戸時代初期 三巻強 尾張徳川家       →徳川美術館
       一巻弱 阿波蜂須賀家→江戸末民間→五島美術館
1932年巻物→詞書と絵を分離し桐箱入り額装に
現在:13帖19場面の絵と詞書20段(54帖全体の約4分の1、四巻分)現存
   その他 詞書断簡9種類

現存各巻の構成:
第5帖若紫断簡1図 東京国立博物館 現存 補筆多い
第15帖蓬生 徳川美術館
第16帖関屋 徳川美術館

オリジナル1巻分】第36-40帖(5帖8段)
光源氏晩年の宿命的な悲劇を描くクライマックス
柏木第一段第36帖柏木第一段 徳川美術館
女三の宮の物語 女三の宮の出家
柏木との不義により、その子・薫を出産した源氏の妻・女三の宮は、良心の呵責に悩み、出家を志す。朱雀院と源氏、女三の宮の発心をとどめさせようと諭す。
柏木第二段第36帖柏木第二段 徳川美術館
柏木の物語 夕霧の見舞いと柏木の死
女三の宮と通じ、自責の念にかられる柏木は、重い病にかかる。 昇進の祝いをかね、見舞に訪れた友人夕霧に後事をたくし、別れを告げる。
柏木第三段詞書第36帖柏木第三段詞書 徳川美術館

柏木第三段第36帖柏木第三段 徳川美術館
光源氏の物語 若君の五十日の祝い
横笛詞書第37帖横笛詞書 徳川美術館
横笛(副次的エピソード)
鈴虫第38帖鈴虫第一段 21.8×47.4cm 五島美術館
柏木との不義に悩み出家した女三宮が、前庭を眺め、夫の光源氏が放った鈴虫の音を聴いている。現存図中、絵の具の剥落が最も激しい画面。下描きの墨線や文字「たゝみ」「にわ」「すすむし」等が見える
鈴虫第38帖鈴虫第二段 21.8cm 横48.2cm 五島美術館
月見の宴に招かれた光源氏が、弟の冷泉院(実は源氏と継母藤壺との不義の子)と対座し語り合う。右上の群青の空と銀の満月が夜を象徴する。「吹抜屋台」を斜投影法で描く
夕霧第39帖夕霧 21.8×39.5cm 五島美術館
(副次的エピソード)夕霧(光源氏の子)が、落葉宮(亡き柏木の妻)の母からの手紙を読んでいる。その手紙を落葉宮から夕霧への恋文と誤解した雲居雁(夕霧の妻)が、嫉妬のあまり背後から忍び寄って奪い取ろうとする

御法第40帖御法詞書第一面 21.8× cm 五島美術館

     みのり(御法)
 中宮は、参りたまひなむとするを、「今しばしも御覧ぜよ」と、聞こえまほしく思せど、さかしきやにもあり、内裏の御使の隙なきもわづらはしければ、さも聞こえたまはぬに、あなたにもまいりたまはねば、宮ぞまいりたまふ。
 「かたはらいたけれど、げにえ見たてまつらねばかひなし」とて、こなたに御しつらひことにせさせたまふ。いとどこよなく痩せ細りたまへれど、「かくてこそ、あてになまめかしさもまさりて、さかりにめでたかりけれ」と、来し方は、あまり匂ひ多く、あざあざと、ものしたまひし盛りはなを、この世の花のにほひにぞよそへられたまひしを、限りなくらうたげに、をかしげなる御さまにて、いとかりそめに世を思ひたまへる、心苦しく、すずろにもの悲し。風のけしき、すごく

御法第40帖御法詞書第二面 21.8× cm 五島美術館

 吹き出でたる夕暮に、前栽見たまふとて、脇息に寄りかかりてゐたまへるを、院渡りたまひて、
 「今日は、いとよく起きゐたまへるは。この御前にて、こよなくおほむ心ちはればれしきなめりかし」
 と聞こえたまふ。かばかりの隙あるをも、「いとうれし」と思したる御けしきを見たまふも、いと心苦しく、「つひに、いかに思し騒がむ」と思ふもあはれなれば、
 「おくと見るほどぞはかなきともすれば 風に乱るる萩のうは露」
 げにぞ、折れかへりとまるべくもあらぬに、花の露はよそへられ、折さへぞ忍びがたきと、見出だしたまひても、
 「ややもせば消えをあらそふ露の世に 後れ先だつほど経ずもがな」
 とて、御涙をのごひもあへたまはず。(宮)
 「秋風にしばしとまらぬ露の世を 誰れか草葉のうへとのみ見む」

御法第40帖御法詞書第三面 21.8×27.3cm 五島美術館
 行を重ねたちらし書きにより物語のはかなく切迫した様を表わす

 と聞こえ交はしたまふ御容貌ども、あらまほしく、見るかひあるにつけても、「かくて千年を過ぐすわざもがな」と思さるれど、心にかなはぬことなれば、かけとどめがたく、悲しかりけり。
 「今は渡らせたまひね。乱り心地いとあしくはべり。いふかひなくなりにてはべるほどと言ひながら、いとなめげにかたはらいたく」とて、
 御几丁引き寄せて臥したまへる
  さまの、常よりもいと頼もしげ
  なく見えたまへば、「いかに思え
  たまふにか」とて、宮は、御手をと
  らへたてまつりて、泣く泣く見
  たてまつりたまふに、まことに
消えゆく露の心地して、限りに見えたまへば、御誦経の使ひ、数もなく立ち騷ぎたり。先ざきも、かくて生き出でたまひし折にならひて、御もののけのしわざと疑ひたまひて、夜一夜さまざまのことをし尽くさせたまへど、明けゆくほどにたえ果てたまひぬ。
御法第40帖御法 21.8×48.3cm 五島美術館
光源氏の最愛の妻紫上が重病にふし、源氏と明石中宮に最後の別れを告げる
命のはかなさ 萩の露 和歌を詠み交わす
画面左 風に吹かれる秋草が三人の悲しい心を象徴する
 平安の〈かなし〉の美を結晶  →参考曲:平安末の今様から蓬来山

第44帖竹河第一段 徳川美術館
竹河第44帖竹河第二段 徳川美術館
春三月の玉鬘(たまかづら)の邸、桜咲く壺前栽(つぼせんざい)を囲み、その桜を賭けて大君(おおいぎみ)・中君(なかのきみ)の姉妹が碁の勝負を争う。その傍の簀子(すのこ)に侍女達も居並んで囃し立て、数々の歌を詠み交す。そしてそれを蔵人少将(くろうどのしょうしょう)が物蔭からそっと覗く
第45帖橋姫 徳川美術館
有明の月のもと、宇治の八宮の山荘を訪れた薫は、琴と琵琶を合奏する美しい姉妹、大君と中君を垣間みる。

第48帖早蕨詞一二絵 徳川美術館
宿木第49帖宿木第一段 徳川美術館
秋の時雨のそぼ降る頃、帝は碁の相手に薫を召された。「今日は先づ、この花一枝許す」と、帝は古歌に託して、暗に女二の宮の降嫁をほのめかされる。
宿木第二段第49帖宿木第二段 徳川美術館
宇治の中君を自邸に迎えた匂宮は、一方で左大臣夕霧の懇望により、その六君の婿として通い出す。匂宮と六君との婚姻三日目の次の朝、露顕(ところあらわし)の情景を描く。
宿木第三段第49帖宿木第三段 徳川美術館
秋の夕暮れ、久しぶりに身重の中君のもとに訪れた匂宮(におうのみや)は、中君の心を紛らわせようと、端近に座し、琵琶を弾く。「秋果つる野辺の気色もしのすすきほのめく風につけてこそみれ」と中君は離れゆく二人の心を歌に詠む 吹抜屋台の建物を等軸側投影法で描く典型例
第一段 徳川美術館
東屋第一段第50帖東屋第一段 徳川美術館
絵を見ながら女房が朗読する物語を聞いて楽しむ
御所から帰宅した匂宮は、浮舟を中君の異母妹とは知らず強引に言い寄る。あやうく急場をまぬがれた浮舟の傷心を慰めようと、中君は優しく語りかけ、絵物語などを出させて、右近に詞書を読ませつつ見せる。絵に見入る浮舟の容貌は、亡き姉大君、ひいては故父八宮を彷彿とさせ、中君は涙ぐむ。
第50帖東屋第二段 徳川美術館
秋の冷たい雨がそぼ降り、八重葎の庭も闇に包まれた頃、三条あたりの隠家にいる浮舟を訪ねた薫。緑に座し、中空をながめつつ「さしとむる葎や繁き東屋のあまり程ふる雨注ぎかな」と、薫は詠じ待つ。

●白描絵料紙金光明経、理趣経
1192年頃 金光明経巻三 京都国立博物館など(目無経(めなしきょう)とも呼ばれる)
後白河法皇による未完成の『隠れ蓑物語』絵巻下絵 法皇の死後弔うために写経
3段階技法の製作過程のうち墨描き下絵の遺品として
平安の源氏と鎌倉の紫式部絵巻を結ぶ院政期女絵として重要


男絵
描写形式:男絵の動的な時間空間表現の特徴
 1.多元視点 2.時間順行(左向)と時に逆行 3.異時同図 4.霞による場面転換
描写内容:基層としての風俗表現
 大和絵系統のモチーフとして平安以降、一貫して描かれる
 図様の類型化と伝播(絵手本)、細部の加工(佐野)
 (例:女性の洗濯、井戸端 男性の門前の居眠り、腕掻きしながらのあくび)
 聖俗を媒介する役割:視る者(俗)の共感を引き起こし画中(聖)に引きいれる
以下は男絵の代表作

●信貴山縁起絵巻
12C中 紙本著色 奈良信貴山 朝護孫子寺蔵 後白河院宮廷画家が描くか
 詞書の改変:オリジナル「かうちにしきといふところ」(都から見て「河内」)
           →「やまとに」(信貴山から見て「大和」)(笠島)
【第1巻】山崎長者飛倉)の巻 31.7×879cm 
 詞書が失われる(『古本説話集』『今昔物語集』から知られる) 絵1段
10C初信貴山 毘沙門天信仰により奇跡を行う修行僧命蓮 命蓮の飛ばした鉄鉢 山崎長者の倉を信貴山上まで運ぶ 長者の懇願 ふたたび長者の邸に
【第2巻】延喜加持の巻 31.7×1290.8cm 詞絵各2段
醍醐帝の病気 命蓮の法力、剣の護法童子を飛ばせ帝の病を癒す(時間逆行)
【第3巻】尼公(あまぎみ)の巻 31.7×1424.1cm 詞絵各2段
弟の命蓮を信濃国から訪ねてきた老尼公 見知らぬ村を訪ねる、村のさまざまな風俗 東大寺大仏の夢のお告げ(異時同図) 信貴山中の命蓮と邂逅し余生をともにする
1.下図(絵様、紙形)→
2.本紙を透かして線描き(速度と肥痩のある線 奈良の落書き、おこ絵)→
3.淡彩(霞の淡緑、白)、アクセントの着色
物語の流動的な進行と一体となったおおらかな田舎の風俗、奥行きのある自然が展開する大和絵空間

●伴大納言絵詞
12C後 紙本著色 出光美術館蔵 後白河院宮廷絵師常盤光長か
当初1巻(『看聞御記』)の都市を舞台に描く長大な絵巻
 →中世:若狭国松永荘 (福井県小浜市周辺) 新八幡宮→江戸:領主酒井家
 →現在:出光美術館 上中下3巻
【上巻】31.5×827cm 詞書なし 866年放火された応天門に向かう検非違使や群衆
 水墨と丹、朱による迫真の炎の描写
【中巻】31.5×849cm 詞書(13C《宇治拾遺物語》巻十「伴大納言応天門をやく事」に同じ) 馳せつける赦免の使い 大納言伴善男809-868に讒訴された政敵である左大臣源信の屋敷の悲嘆 赦免の喜びに変わることを暗示 子どものけんかから真相が暴露(異時同図)
【下巻】31.5×918cm 伴大納言が失脚 (藤原良房の他氏排斥事件の一つ)
写実的な線描と作絵表現の組合せ 空間構成、時間展開の工夫
一定した視点の流れ 樹木や霞により区切られた場面 異時同図法
人物の姿態や表情、人間洞察 群集シーンなどたくみな演出と構想力

●鳥獣人物戯画
4巻 白描絵巻 高山寺蔵(現在、甲・丁巻東博、乙・丙巻京博に寄託)
甲乙巻作者 園城寺鳥羽僧正覚猷1053-1140(密教図像と風刺画に巧み)か、定智か、絵仏師か、宮廷絵師か
【甲巻】
12C中 1紙30.6×53〜4cm標準の料紙23紙、全長1150cm
しなやかで表現力ある白描の線「白画」(線描中心の画)
現状
甲巻:第1グループ1-10紙,第2グループ11-15紙,第3グループ16-19紙,第4グループ20-23紙
断簡:東博断簡 益田家旧蔵断簡 Brooklyn Museum断簡 MIHO MUSEUM断簡
模本:住吉家伝来模本 梅沢記念館
   長岡家旧蔵模本 ホノルル美術館 など16C以前の状態を伝える模本
16C以前(細川晴元による高山寺兵火)さらに多くの場面からなる2巻仕立て
復原案:上野憲示説(第1グループ等の損傷痕、第2-4グループの虫食い痕等から)
 A巻:東博断簡-第3グループ-長岡模本-第4グループ-第2グループ-長岡模本(蛇登場)
 B巻:住吉模本-益田断簡ab-住吉模本-Brooklyn断簡-Miho断簡-住吉模本-益田断簡c-住吉模本-第1グループ
 A巻は高手(渇筆など水墨人物描写に習熟)、B巻は劣る
 山根有三説:秋草は後補
辻惟雄説:上野説B巻の第1G以下(旧手)は別の巻、本来2巻+A巻(新手)の計3巻か
内容:擬人化された、兔、狐、などの〈あそび〉や法会の場面
A巻:蛙と兔の相撲、猿と兔の囲碁、腕相撲、首相撲、高飛び、猿僧正の法会、猿蛙兔の刀打ち、蛙の田楽、蛇の登場
B巻:猿と兔の競馬(鹿)、蹴鞠、舟遊び(笛と笙の音楽)、水遊び、蛙と兔の賭弓(のりゆみ)
おりおりに白描の秋草 月の夜の出来事の様な夢幻的な舞台を演出
平安の〈おかし〉の美を結晶
【乙巻】甲巻2巻と共に獣物絵三巻として伝来か
12C中 馬。牛、鷹、犬、鶏、鷲、玄武、麒麟、豹、山羊、虎、獅子、龍、象、獏など空想上の動物を加えた白画
【丙巻】
13C初 前半に人間の悲喜劇 後半に擬人化した動物たちの遊戯
【丁巻】
13C中 即興的な筆致で人間の滑稽卑俗な様態を描き出した戯絵 (ざれえ) (参照:◎将軍塚絵巻 高山寺)
 断簡:前山観空庵蔵断簡(MIHO MUSEUM


参考書
【全般】
日本美術全集 平安の絵画・工芸2 王朝絵巻と装飾経 佐野みどり等編 1991年
日本絵巻大成 26巻 別巻1 中央公論社 -1979年
新日本絵巻大成 20巻 中央公論社 -1985年
【源氏物語絵巻】
源氏物語は「源氏学」と呼ばれるほど膨大な研究の蓄積があります
近年は絵画や音楽などからの源氏学へのアプローチが盛んになっています
稲本万里子, 木村朗子, 龍澤彩 すぐわかる源氏物語の絵画 東京美術 2009年
 源氏物語絵巻以降、各時代の源氏物語絵の約束事がわかる入門書
光学的手法による国宝・源氏物語絵巻調査報告書 東京文化財研究所美術部編 2004年
佐野みどり じっくりみたい『源氏物語』 小学館アートセレクション 2000年
秋山光和 王朝絵画の誕生『源氏物語絵巻』をめぐって 中公新書173 1968年
【伴大納言絵詞】
黒田泰三 伴大納言絵詞の研究 上 出光美術館紀要 2007年
黒田泰三 『伴大納言絵詞』 小学館アートセレクション 2002年
黒田日出男 謎解き伴大納言絵巻 小学館 2002年 歴史学者による図像解釈
【鳥獣人物戯画】
辻惟雄『鳥獣人物戯画』 [大型本経折本仕立] 小学館 2007年
五月女晴恵「鳥獣人物戯画」甲・乙巻の研究 東北大学博士論文 2004年3月
五月女晴恵「鳥獣人物戯画」甲・乙巻の筆者問題について-宮廷絵師制作の可能性をめぐって 仏教芸術266 毎日新聞社,2003
五月女晴恵「鳥獣人物戯画」甲巻の主題について 美術史学23 東北大学,2002
辻惟雄 絵巻鳥獣人物戯画と嗚呼絵 日本の美術300 至文堂 1991年
小松茂美,上野憲示 鳥獣人物戯画 日本絵巻大成6 中央公論社,1977

参考サイト
五島美術館 源氏物語絵巻
徳川美術館 第六展示室 源氏物語絵巻
国宝源氏物語絵巻にみられる彩色材料について
 東京文化財研究所保存科学部の蛍光X線分析装置による顔料分析の調査報告
絵巻で見る 平安時代の暮らし
 大妻女子大学倉田実先生による絵巻に描かれているものの詳細な解説
源氏物語の世界ヘ 『源氏物語』の本文、現代語訳など  源氏物語の語彙検索
絵巻物データベース 国際日本文化研究センターのページ
Digital Scrolling Paintings Project
 Center for the Art of East Asia, The University of Chicago

おすすめ美術展
五島美術館 毎年春5月連休期間 1週間程度 源氏物語絵巻特別公開
徳川美術館 毎年秋 源氏物語絵巻特別公開
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2005年11月12日-12月4日 徳川美術館
2010年11月3日-11月28日 五島美術館
5年に一度、五島美術館と徳川美術館が交代で現存する20段19画面(13帖分)全てを展示
東京国立博物館常設展:鳥獣人物戯画図巻甲巻
国宝「鳥獣戯画」甲巻を東京国立博物館国宝室にて不定期展示
2007年3月27日-4月22日 2004年10月13日-11月21日
鳥獣戯画 京都 高山寺の至宝
2015年4月28日(火)〜6月7日(日) 東京国立博物館  公式サイト
現存するすべての鳥獣戯画を展示
修理完成記念 国宝 鳥獣戯画と高山寺
2014年10月7日(火)〜11月24日(月・休) 京都国立博物館  公式サイト
開館記念特別展「鳥獣戯画がやってきた!―国宝『鳥獣人物戯画絵巻』の全貌―」展
2007年11月3日(土)-12月16日(日) サントリー美術館
国宝「鳥獣戯画」甲乙丙丁4巻を一堂に展示。甲巻の原状を可能な限り復元
大絵巻展
2006年4月22日(土)-6月4日(日) 京都国立博物館  展覧会サイト
国宝「源氏物語絵巻」「鳥獣戯画」など一堂に公開


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 日本美術史ノート 平安時代の絵画   2002.5写 

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