知識としてのALS

聖隷浜松病院 神経内科 渥美 哲至 先生

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筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic LateralSclerosis)は、全身性に筋萎縮を来す疾患である。アミトロ(和読略称)、ALS(英名略称)とも略称される。全身性の骨格筋萎縮を来す疾患で、その病巣は脊髄の外側部に硬化病巣があることにより、筋萎縮性側索硬化症の名がある。実際には全身の骨格筋の萎縮とともに、骨格筋の保持、運動に最も関わりのある下位及び上位運勤ニューロンに変性、脱落がある。そのため運動ニューロン疾患とも称される。

疫学:

筋萎縮性側索硬化症の有病率は人口10万あたり1.5〜7.0人、発生率は10万あたり1〜1.5人と報告されている。男女比は1.5:2.0と男に多い。発病年齢は中年の40〜50代以降が多い。若年発病もある。患者の20%前後は5年以上生きるとされる。人口呼吸器を装着することで、より長期に生存する例も増して来ている。稀に10年以上にわたる長期生存例もあり個人差が大きい。多くの説があるが、原因は未だ不明である。

臨床症状:

筋萎縮性側索硬化症の臨床症状は、下位、上位運動ニューロン障害による骨格筋萎縮と筋力低下である。ALS患者の骨格筋の障害は主に球部、頸部、 胸部、 腰部の4つに分けられる。いずれかの骨格筋の筋力低下、筋萎縮と、それぞれに対応する下位運動ニューロン(延髄、 頸髄、 胸髄、腰髄の運動神経組胞)が変性している。上位運動ニューロンは大脳皮質運動野にあり、内包、大脳脚、 錐体交叉、脊髄側索をとおり、脊髄前角の下位運動ニューロンに達している。阻害されると痙性麻痺の原因となる。

発病は自然で、いつとはなしに筋力低下に気付くことが多い。どこから始まるかは障害される部位により、症例ごとに異なる。もし下位運動ニューロン変性が優位であるなら、筋力低下、筋のやせ、および筋織維束れん縮がある。通常一側性である。最も良くあるのは手が最初に障害され、手指に力が入らず、不器用になり、やせてくる。ほかに腕が挙がらない、しゃべりがおかしい、 うまく飲み込めない、 むせる、 脚が疲れやすい、足先が上がらない、脚がつるなど、さまざまに骨格筋の筋力低下が始まり、弛緩性麻痺を呈する。症状に気づいてからはかなり急速に進展する例が多い。

球麻痺は会話や嚥下のための喉頭、 咽頭、舌の筋萎縮により、仮性球麻痺はそれらの筋の協調運動の障害により、会話や嚥下障害をもたらす。球麻痺、仮性球麻痺の区別は難しい。上位運動ニューロン変性は筋力低下と共に痙性をもたらす。座性麻痺、深部腱反射亢進、 病的反射陽性が特徴である。仮性球麻痒、 強制泣き・笑い、情動失禁を来す。括約筋障害は稀で、インポテンツはおきない。知能低下もこない。不安やよく欝はき得る。臨床経過は次第に進展しついには臥床状態となる。

診断:

1990年、世界神経学連合のALS委員会によるALS診断基準では、以下の項目が挙げられている。

<必要条件>
下位運動ニューロン徴候(臨床、 筋電図)、 上位運動ニューロン徴候、進行性。
<支持項目>
他に原因のない、肺、 言語、 嚥下、喉頭機能異常、筋力低下、筋生検による脱神経変化。
<ALSの診断にそぐわない臨床所見>
感覚障害、 括約筋障害、 自律神経障害、 視覚路障害、 運動異常、認知障害。
<鑑別疾患名>
頸髄変形症、 運動性多発根障害、 多発性硬化症、 原発性側索硬化症、HAM(熱帯性痙性対麻痺)、 SMON、 脊髄性筋萎縮症、 限局性筋萎縮症、脊髄空洞症、 クロイツフェルド・ヤコブ病、 神経筋接合部疾患、放射線脊髄症、 脊髄灰白髄炎、 ポリオ後症候群、 筋炎ほか。

検査名:

画像診断(単純X線検査、 MRI、 ミエロ、 CT、アンギオほか)、髄液検査(細胞数、 細胞診、 蛋白、 IgG、 梅毒、ライムほかの抗体)。酵素測定(ヘキソサミニダーゼA/B)、 生化学検査(血沈、電気詠動、 交叉反応蛋白、 抗核抗体、 補体、 RF、 パラプロテイン血症、甲状腺、 副甲状腺、 膵臓機能検査、 クレアチンキナーゼ、 GMI、 MAG抗体、ライム、 HIV-1、 HTLV-I、 鉛、 水銀、 アルミニウム)

ALS症候群の分類:

「孤発性ALS」「合併所見を有するALS」「ALS疑似症候群一ALS一minic syndromes」「変異型ALS-ALS variants」

<孤発性ALSの診断確度>
definite ALS、 probable ALS、 possible ALS、 spespected ALSの4群に分ける(詳細略)。
<ALS疑似症候群>
検査室異常所見、 臨床経過と合う、化学、 物理、感染因子、既存の構造異常があり、それらを矯正することで臨床的改善がもたらせる例。
<変異型ALS>
主な症状は孤発性ALSにみられるものであるが他の神経系統異常像を1つ以上有する。

症候と介護:

筋力低下

進行性筋萎縮による筋力低下は日一日と変わりうるので注意深い観察及び評価が必要である。筋の緊張状態は上位運動ニューロンが障害されているためなら痙性であるし、下位運動ニューロン病巣のためなら弛緩性である。患者は自分で思うように体位を取れないので注意深い体位の確保と看護が患者の心地良さを決めるのに最も大事である。理学療法は変形予防と残存機能保持に必要である。

痛み

感覚神経は障害されないのに、患者は痛みがある。肩関節の硬縮がしばしばある。注意深い位置決めと受動運動を含む理学療法が手助けになる。痛みが強い時は鎮痛剤が使われる。筋けいれんがあり痛みを伴うことがあり、陳痙剤が効く。皮膚圧による痛みもある。患者は動きづらく、体位交換しにくい。規則的な体位交換が基本である。

呼吸因難

呼吸筋は弱くなり呼吸困難を来す。末期にはほとんどの患者に認められる。患者は注意深く姿勢を保持する。呼吸困難は不安を伴う。英国などではモルフィンのごとき鎮痛剤は呼吸困難感を減らすのに有益であり、強い呼吸困難の急なエピソードや、終末期に注射で与えられるべきであると記載されている。わが国ではまだあまり行われていないと思われる。人工呼吸器装着については最終的には患者本人の意向によると考えられているが、さまざまな問題があり、慎重な判断が必要とされる。もし感染症の所見があるなら、抗生物質を考慮すべきである。

嚥下障害

半数以上の患者で問題となる。食事はゆっくり摂ることが必要である。液体より半固形物が飲み込み易い。氷のかけらにすると飲み込み易い。過量の唾液分泌が問題となる。アトロピンがある程度有効である。経口摂取困難となると経鼻胃管、胃ろう、 食道ろうが必要となる。

構語障害

ほとんどの患者に言語障害がくる。言語治療士がいるところではその指導があるとよい。患者のQOLを制限する最も大きい要素の一つである。患者の基本的な要求、要望項目をあらかじめ整理しておくことが役立つ。介護者は患者自身の性格、考えを早めに知っておくことが必要。会話以外のコムニケイションの工夫が必要で、簡便で役に立つのに文字盤がある。さまざまなコムニケイションエイドが工夫されつつある。現在は日常生活用具として車椅子同様給付の対象となっている。

乾燥

顔面神経麻痺のため瞬き、閉眼が不十分となり、眼球乾燥を来す。点眼や夜間の閉眼に注意ずる。

筋緊張亢進

上位連動ニューロン障害による痙性麻痺のため、筋緊張亢進がくる。硬く曲げにくくなり、強いと痛みが伴う。抗痙縮剤が有効である。過量になると脱力を来すこともある。

便秘

運動不足と食習慣より便秘となることが多い。緩下剤が必要となる。

排尿障害

腹筋力低下のため、排尿不十分となることがある。動けないための尿失禁はあり得る。この病気そのものでは排尿が障害されることはない。

不眠

痛み、 不安、不快などのため不眠となることが多い。規則的な体位交換が必要となる。ナースコールは常に作動可能となっていることが必須である。作動スイッチは単に指で押すのみでなく、場合によっては顔、膝、 さらには瞬きなどわずかの筋力で連絡できるような工夫が要る。

精神面

ALSは、人工呼吸器を装着しない場合、致死的疾患であるので、わが国では癌と同様必ずしも全例には告知されていないが、はじめてALSと診断を告知された人のほとんどはショックと孤独感を感じている。ショックの後、不安、拒否などを示すこともある。これらの反応は障害をもたらす疾患への精神適応の過程の一部である。時間とともに多くの患者はじぶんのおかれた状態へより積極的取り組みをするようになる。ALSではこの適応の過程が、身体障害の進むスピードに追い付かないことがある。症状がつぎからつぎと進み、一つの機能消失と折り合う時間がないかも知れない。

ALSは家族にも影響する。家族内の役割変更が必要となり、最終的には生活習慣や、計画の根本的変更も必要になるかもしれない。公的ないしその他の可能な助力についての助言をすることが必要である。

知能

ALS患者は経過中、明噺で活発な頭脳を持っている。そして自分の人生について(特に言語が失われた時に)出来るだけ多くコントロールできるような手段が与えられることが必要である。

チームと人

ALS患者の介護には、家族のみでなくそれを支える人のチームを作っていく必要がある。臨床チーム、つまり看護スタッフ、保健婦、 ヘルパー、 理学療法士、 職能訓練士、 言語治療士、 臨床工学士、ソーシァルワーカー、さらには様々なボランティアがいると良い。またその人たちの連携が大事である。ALS患者の大部分は、介護者が問題に直面したり、訓練を必要とする終末期まで家庭にとどまることが多い。わが国では在宅高齢者への福祉として、ホームヘルパー、保健婦の派遣が不十分ながら行われつつある。神経難病患者に福祉制度の適応を広げていく必要がある。まだ自治体により対応がかなり異なっており、各地域での積極的な取り組みが必要である。

援助、 情報交換システム

日本ではまだ充分な援助システムが作られていない。神経難病をふくめ、多くの難病患者会が作られ、難病連も形成されてきている。筋萎縮性側索硬化症の患者会はまだ出来たばかりである。日本ALS協会が作られ、各地で支部作りがおこなわれつつある段階である。患者、家族、 その関係者、介護に関わる人たちの入会が増えつつある。日本ALS協会から立派なケアブックが出版された。関係者はぜひ一冊手元において活用してほしい本である。