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2002年10月20日
朝の詩(J.S.バッハチェロ組曲第2番を聴きながら)
時同じうして彼女に遭う
電飾のいまだ消えぬ朝
青空を背景に
月がまだ東の空に
何か言わねばならぬと
時間と意識の責任から
セロの響きに首うなだれ
言うべき事も定まらず
犬を散歩させる局外者としての主婦
「時は今来た。だが遅すぎる」
夜の酩酊をいまさら思い出す
強打された睾丸にうちのめされるのか
天井裏にて蝋燭の灯で楽譜を記し
救いをのベンと性風俗に近づく
律動する性器を必死でたぐりよせ
ただただ愛犬の写真のみ見つめ
底より地上を目指しただうねりもがき
男の静かなモノローグに耳を傾ける
低いDの音が無明に消える
再び舞曲に踊る彼女の表情は
踊りながらも未明に思い寄せている
広い舞踏会場に我ら2人
踊るのは彼女のみ
高まるセロの音に遠い心象がよみがえる
気分の高揚が消えた今
理性も消え
彼女の残像も消え
頭蓋の中の膨張のみ残る
J.S.バッハチェロ組曲第5番を聴きながら
ガス燈の灯が揺れている
腐りかけたパンをあさる
月が流雲に隠れた
これまた腐りかけた背広を老猫がくわえこみ
複雑な階段で構成された館の食事
思い出の光景としての晩餐会
蝶が闇夜にはばたく
終末でのかすかな希望
老婆が舞踏会を思い出す時間と
その形骸は二十ワットの部屋で
遠い未来としての少女を老婆は思う
冬の蝶もまた過去を想う
酩酊の中で聴くセロに
深いモノローグが始まる
冷気の部屋でエントロピーは氷結する
晩餐と舞踏のまるで形骸のような
抽象化された舞曲
単音による和音の進行を感ずる
やはり舞踏会には我ら二名のみ
羊たちも静かに踊り出す
雨の日の草原が思い出される
水車小屋はいつまでも回りつづける
つまらんもの(なちおなりすむ7)
エディンバラの宮殿で
羅紗の織物に接吻し
紅の空をひたすら仰ぎ
そして訪れる闇
悔いもなくまた酔いどれ
益体もなくやはり酔いどれ
しかし自分を棚に上げてよく笑えるものよ
ギナジウムの明るい性
揺らいでいく保守主義
神性をもった老人
かなりフツーだ
つまらんものになっちまった
これもすべて連中に責があると言えよう
2002年10月17日
夜景
夜道を歩く
雲が翔け飛ぶ
街燈が紫煙に霞む
それを見つめる太った虎猫
鋼管の群が山から降りてくる
神社の裏で行われる交易
あらゆる病が放たれた
裸の異性が倒れる
闇に溶け込む夜
市街地の簡素化
荒れた自然
未来の姿
ある来襲
廃虚と
革命
2002年10月16日
プロコフィエフ「束の間の幻影」に捧げて
黒衣を召した
宮殿に降りた闇の帷
ガラスのグラスが鳴る
水藻は静かに揺れる
炎が踊び舞わり
赤い炎青い炎黒い炎
果実がみずから転がり始める
沈んだ艦が陽に浮かぶ
大きな魚が重く喜ぶ
秋の日の公園でいない児が遊び
この葉のみがそよぐ
野原に栗鼠が綿帽子と戯れ
画面上の軍隊の臆病な行進
それは次第に滑稽味を帯びる
料理人が海のなかで弟子を叱るとき
金の星が獣と泳ぐ
草原を疾走する羊と馬の群れ
忘れられた槍が錆びついたまま天を射す
象が狼ほどの素早さで駈ける
泥の中でぼんやり夢見る胎児
思い出の断片がけむる
ゆらゆらと眼をつむり
しかし脅えるように社会の思念をみつめるが
再び眠りの中の諸相をめぐる
赤い月
2002年10月15日
北から帰る
崇拝される神話
月夜に艦が帰る
何事もない笑顔
詩集の中の水晶
駈けめぐる情報
墓地にある饗宴
幻影としての人
瞬間との未完成
魂を写した写真
こうしろの憂鬱
抱擁の影の怨恨
無明の中の回想
秋の風景
水晶でできた花束が
海辺の砂浜に置かれていたが
虹が消えるにつれ
静かに砂中に沈み始める
秋の風景
新たな愛嫌らし
まだ帰らざる人
遠い人影
夜の暴力は忘れられた
雷鳴のみきこえる
新たな暴力装置の準備が
いまはじまる
2002年10月14日
なちおなりすむ6
シリカゲルの波音がする
たちまち乱打される大地にある
意志に貫かれた岩塊
螺旋階段が砂漠に横たわる
羽音の豊かな蝶が近づく
村のはずれの水車小屋の夢
水晶球に捧げた魂が悲しく響く
理解するのでなく感ずるのだと君は言う
中味に関係なく自信が闇を発する
同じ生物に違う魂
血を分けたはずなのに
何故なら遡ればどんな生物も
穴の外
峡穴から脱け出してきた
雲のない空は
暑いぐらいに深く沈んだ青色だ
人は心の脱けた殻になっている
皆
考えることと身体を動かすことしかできない
感ずることができていない
穴から脱け出た私は
飢餓の為街中で倒れた
3時間後意識が戻って
強い飢餓を感じ
交差して行き交う無数の「脚」を見た
気付くと近くに落ちて潰れた果実が3つ腐っていた
それを食べアスファルトを嘗め3時間後力の復活を感じた私は
歩き出した
人々が私の身体を突き抜けて通り過ぎていった
今思えば私が彼らを突き抜けて行ったに違いない
小川の流れるゆるい谷間の空家に私は棲みついた
自給自足を何とかこなしながら
穴から脱け出した人を探しつづけている
収穫
やはり秋に
再び現れた
収穫の時
パイプオルガンの低音はひび割れ
どこか遠くで
おるごーるノりふれいんガキコエル
睨みつけるように虚空を睨み
玉・魚・果実
それを現出させんとす
好みの餌を虚空に垂らし
それがくいついてくるのをまつ
人気のない公園の
忘れられた高鉄棒
10/11補
鑑賞するのは誰か
騒音の中からピアノの調べがかすかに
欲情と劣情
分解されたアミノ酸を鼻孔で確認する
もう一度再びへの願い
芳香族に理解させる努力をするのは私ではなく
その分子自身でなければならない
久遠な大河へ導かせゆきうるのは
自身である
2002年10月11日
神話
ある所に国家があった
国民はなく「国家」だけがあった
国家が「社会あれ」と呟くと「社会」ができた
社会が「道徳と規律あれ」と呟くと「道徳」と「規律」ができた
最後に領土からにょきにょきとぼんやりした「民」が生えてきた
民は「国民」として
階級をつくったり
権力や軍隊をつくったり
搾取したりされたりして
死ぬまで楽しんだ
そして死にさいして意識がなくなる直前
真実としての死の本当の
底抜けの恐ろしさを絶大に恐怖し
そのまま死んだ
なちおなりすむ5
死者のもつ限界
たくましい岩山の隆起に
いかなる想いがこめられようか
雷神の握る太刀
破壊の魔王としての霊験はすべての衆生に
娘をさらっては貯蓄していく
皇らなる意志表示への
離合集散の見本がここに
内緒の内緒の内緒の事象なのだが
覆い被さる死神のマントは広がる
血にまみれることにナルであろうらゆる動植物
夏の中間の日は次第に意図的に忘れられてゆく
Karal Szymanowskyに捧げて
(Variation on a Polish Themeを聴きながら)
高まりゆく舞曲に
天空を抱いた大地の
二つの大樹は互いに身を揺する
落ちた果実を咥えた小川は
次第に集まり大河となる
雲から夕日が差し込む
丘の上の墓で
娘と一緒に母と祖父母を想う
子犬が蝶にじゃれつく
一陣の風が草原に波頭を造る
一連の変奏に
情熱は熱情となりく
女の柘榴の口唇
静まった夜に横たわる女
ガス灯の光が
風となって硬質に室内を照らす
捨てられた魚類辞典
町のざわめきが兵士を鼓舞する
老人の死臭が暗渠に溜まる
若い兵士の笑顔は異形化している
民族の唄がいつまでも絶えることなく空に広がる
太陽と麒麟
遊園地の騎馬部隊は
春の予感に震えて
朝の光に映えている
風あるのみの冬に比してなんと言う違いか
蒼白い鬼真面目な青年が四人
議論で互いにかけあう
終末論には違いないのだ
終末が間近にあることに違いないのだ
にもかかわらずである
春の生命と
哀しい希望に満ちているではないか
暗転などではなく
いわば
明転
いや
輝転
ある後ろ姿
氷の柱廊を歩む
結晶化した光が重なり
一部が淡い虹色になっている
そのとき
後ろ姿に
はっ
とする
思わず名を呼ぶが
早くも物語りの重層が折り重なり
声はどこにも届かず
暗黒に還る
香水
偽物の香水に
帰るところなく疲れ
手を出した
霧が広がるともなく
しかし
いくつかの景色が見え
重力は減少する
ある日
髭が伸びた
伸びに伸びた
身体は皮越しに骨格がわかる
痛みに耐えながら
宙の月に向かって
紫煙を吹きかける
シマノフスキ幻想曲Op.14に捧げて
1
古門に立つ
海底の
大きな古門
あわはいくつとなくたちのぼるが
光をうけて輝きだすにつれ
急に質量をもち
沈み出したそれは
門の向こうに丘を造る
2
馬が海底を疾走する
風がまきおこり
月光の粒を蹴ちらす
丘の上でひらかれる
ゆるゆるとした
舞踏会
いくつとなくたちのぼったあわが
上空で
魚と戯れる
客たちのまわりを
硬い氷がとりかこみ
城が
たちまち出来上がる
上空から布がゆっくり降りてきて
尖塔のひとつをくるむ
3
さんざん傷ついた
労働者としての拳闘家が招かれている
上空から降りてきた布が
光ながら動き出し
それにつれ
拳闘家の傷も光を発しはじめる
いくつものファイティングポーズ
飛び散るのは
汗か
血か
光か
2002年10月10日
無垢の幻
唇は蠕動する
いくら手で整えても
冷えた身体は再び
だらん
としてしまう
無垢の幻
怠けずに殺せ!
なちおなりすむ4
選べる悩ましさが
裸体サーカスの陳列を襲う
くらくらめく作為と搾取の悦楽
総和を過去から行うと
訓示は未来へ向かう
むっつり黙り込む連中に
皇グルメの体臭を気づかせんと
臨界に達した怒りは未来からくる
ナビスコ学派の夢の枯渇
夭折した物理学者の志は
真のサムライとしての日本人を
難解な論理としての亡命者とせしむ
2002年10月9日
普遍的非普遍的演劇論
1
明るい思念の行方
演技としての性生活を続ける
どういう人類なのであろうか
伝統的戦争芸術の封建的束縛と
一連の武道家の群れ
松林の薫りが服に染みこむ
根底にある身体の暴力性
固定された亡霊の群れ
2
水瓶を覗き
精神の生命を占う
呪詛する神と
荒ぶる亀吉
3
順序づけられた役割を保て
それが文明からの指令であり
それこそが文化を創る
はて?
舞台の軍隊の硬いコミュニケーションによれば
言葉なんて要らぬそうだが
社会の等方性と
表現の異方性
4
放浪する電気伝導帯は
本棚の裏に隠された工場で
とんてんかん
とんてんかん
と人類が作られる
5
流行の形而上学
新たな形式を造れるか
生化学と
有機化学の発展は
円環をなしている
右廻り左廻りは極点で統合される
顕れる若さとは
常に一定であることを
肝に銘じよ
6
山奥の灯火
蝶は昇天す
川は見えず
その音のみによって
アセチルコリンは震えつづける
7
水の声
チベット寺院の
闇の上方彼方に
氷が溶けた小石が落ちる
偶然性の小石は
銅線の間合いを奏でる
真の即興性
8
伝統と現代
東の彼方の前衛
真実の能面を剥げ
よりどころなき心の暖かさ
散文的ニュースの朗読だけの
霞んだラジオ
2002年10月8日
げにふしぎな
現在に向かって放射される未来
人間の社会は生き続けられるのか
普遍な存在はすでになく普遍な論理さえあるのか危うい
「死」はまた別のもので難しそうでいてごく単純なことだ
擬人化というのも案外良い手なのかもしれない
悩ましいほどの理論の構築が待望されている
理解は自分でするものではなくもしや他人に委ねるものなのか
気ちがいの言説がなぜ芸術的評価を得ないのか不思議だ
最も根源的な自己表現であるというのに
能力に応じた社会を考える際第一に考慮されねばならぬ
難解なのではなくむしろ「面白い」のだ
南蛮渡来を貪欲に呑み続けてきた我らこそ
(利敵的などとは言わせないぞ)
基礎の基礎からもぎ取っていかねばならぬのだ
なげやりななちおりすむ(なちおなりすむ3)
何階?
死ねばあ?
四階
七曲り八起き
リンゴーのー木の下でーあなたーにあいーま
西瓜でも食べれば?
無理無理無理無理あんたにゃ絶対無理ッ
狂ってんのかねえ連中は一体全体
それともそんなこたーないのかねえ
首吊っちまう奴が出てくるぞそのうち
ランパルのフルートもアドリブならば
ええそりゃもうさらに結構なことでござんすよ
斜影に想う
影の貧しさが身に凍みる
陽の光は丘に射し
宮殿を浮かび上がらせているというのに
蓋のない底の抜けた壺
旅人としての我
人に倦いて
地殻に沈みこむ
嬰ハ長調の重い和音
風に吹かれる孤島のともし陽の
仏舎利よ恋人よ
虹の向こうの彗星を取ってくれ
眦
繊細な感覚である意識の流れが
ゆるやかに旋回する
屏風の向こうの薄明かりに澱むセックス
回想される恣意に
遠い風景は映し出される
亡霊の香料が静かに
空間を揺すぶる
思想から感覚へと回帰する
輪廻の波涛
拷問(ごおモン)の中での
完全黙秘
微分された月光の光量子が
その証だ
素晴らしい成功
スイッチから
やっと
手を離す
生きている間
ずっと
覆い被さっていた
ぶ厚い
ぶ厚い粘膜が今とうとう
小川に架かった木橋を渡り森から抜けると
ああ
見たことのある草原だ
ずっと考えていた幾何級数の問題が
一気に
解決しちまったのかな
なんだか失敗のような気がしてきた
3つのフェイズの相関
お洒落な戦禍が
音楽の街路に
自由を映し出している
廃墟の情熱が
沈黙の地図の中のボタンを押す
鬱血した冥土の真実の姿を
ただ「悲しい」だなんて言わせない
その時こそは
微笑みの凝視を
遠いラピュタまで
祭りに行かねばならないなあ
2002年10月7日
港の未来と現在
蒸気機関車の車輪が回る
極めてゆっくりと
宙で
錆びた鉄骨の谷間に咲く
黄色い花に
行動しつづければ実現するのだという
月光が触れる
静かに
冷凍倉庫用の厚い防寒服を
脱ぎ捨てる男
静かに
燃料を注入し終えた
大型単座宇宙船に搭乗する女
精神の中心から発する縦や斜めの輝く石の柱を五つの観念にたいし横
から射し込むことは私が右に行っても左に行っても生きるということ
は神なのだからやっぱり聖徳太子とか天皇とかもニーチェのように不
確定に実在していることは絶対のことでしょう?
とは一病者の弁
上と下
暑い真夏の間
廃坑ですごした
強い暑気
強い湿気
強い蟲気
全身の皮膚での
痛味と
痒味
暗黒へと溶け込み
上昇感と下降感
二つの矛盾した感覚を同時に
両の極を目指して
しかし
点としての極点は実在しないわけだから
どこまでも
どこまでも
結局
上も
そしてなんと
「下」も
ぎらつく星空だった
攻城
血を視よ
血の帯が城壁を登っていくぞ
血たちは手に武器を握っている
血が月光を蒼く映している
血にマッチの炎を近づけると一気に燃え上がる
血は何より酸素を身体いっぱい抱え込んでいて
血たちが炎の波涛となって城内にかけこむ
血たちを襲う水銀の飛礫
血たちのつくるアマルガムがそれを無力化する
血は森に覆われた丘の天辺に建つ城を
もはや落とすだろう
背広
何十年も
着られたことのない背広が
モーターバイクの呟きを聴く
「自転車ひとつここに置いてく?」
子供が応える
「だっておとーさんちっとも遊んでくれないんだもーんー」
ショパンのスケルツォ全集を聴きながらである
第三番が特に好きだねえ
金木犀が薫ると生活水準が上がった気になるから不思議だ
何?
便所の臭いだと?
昭和四十年代を想いなさい
背広は待ちつづける
子供の声を
背広は待ちつづける
裏庭の門が開くときの軋みを
なちおなりすむ1
絵描きの命
雷鳴轟く中で
暗闇を切り裂き
空から堕ちる
屑鉄の束をまとめ
無駄な悶えと知りながら
凄みがあるとでも思っているのか
了見のあまりに狭い
難癖とさえ言える
妖気漂わせ
白樺の森に彷徨う
なちおなりすむ
なちおなりすむ2
長い間の忘却
シンシナティシティの夕闇
呼びかけに応えるものもなく
夏の夜はふけて
リスの巣穴で今は蛇も眠る
素晴らしい夢の輝き
ムーンライト・セレナーデ
唇が突然黒くなる
ソドムの市
公公公公公公公公公と呻く獣
羅針盤なき道程
永遠の不毛になぜ気づかんのかねえ
彼らは