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2002年1月

女と私

女の声がする
天井全体がそれに共鳴してうすぼんやり光る
枯れたサボテンの影が床に映る

南風の午後
女の哀願が胸の奥に届かぬよう
窓の外にある遠くの工事現場をみる
いったい何の為に地下迷宮なぞ造る必要があるのか
などと考える

しかし間近で発せられる涙混じりの音列に邪魔されながら
きちんと思考するのは困難だ。
仕方なく眼鏡を外したりかけたりすることで眠気を防ぐ
音列が邪魔だ
なら消せばよいのだと開き直るなり
元栓を閉じる

静寂が訪れると同時に
いともたやすくひらめく

なぜ地下迷宮を造るか
未来に向かって元栓を開くためなのだ

それならおれにもできるとばかりに
迷宮様の思考回路に屍をひとつ放り込んだ

ほりこめ
ほりこめえっ






2001年11月

寸描

森の中へと通ずる道を
羊たちが球面調和関数を伴いながら
あれよあれよと言う間に
咲き乱れたる喜びをかみしめながら
一本又一本と
呆れ顔の司祭を尻目に
おかしみあふれる表情で
一対のβ崩壊の間にとどろく
はじける雨粒の轟音に耳を傾け
薄汚れた公安刑事の視線をものともせず
いきなり最終回を迎えるところの
遠い乙女の心に想い致し
さながら飛行機よりまき散らされた
数々の論文の行方を気にしつつも
一意専心のネガフィルムの
硬質な思念に驚き跳躍し
大海の波涛を一気に飛翔せんとする
ペン先に依存する傾向性癖の始末書に
ただただ視線の向くままとらえるままに
旅の終わりの近きを予感しつつ
前後左右の区別なく
息をも富めて描き続ける魂に敬礼!






館に於いて

薄暗い廊下を行くと
蛾の二、三匹もまたわりつく静かな白熱灯のぼやきに
扉の沈黙が浮かび上がる
復活の予感
精霊たちのささめ雪に感謝しつつ
労教授の屍に黙祷する
黒光りする油虫の呼び声
じっと天窓より差し込む
細い細い月光がまきおこす
微小変動する弱小交響楽
柩に鋲を打ち終えた葬列に向かい
ゆっくりゆっくり
大型蒸気機関車が

横付けされる
柱時計の鐘を合図に
陸地は次第に沈み始める






訊いてみよう

水道管に訊いてみな
柿の熟成の全歴史は
その甘味と渋みをいかに滞らせるやと

蓄音機に訊いてみな
故人の残した書籍を
いかに潮騒の谷間の歌声に転じせしむやと

鉄亜鈴に訊いてみな
日課の散歩の中途に於いて
いかに酒豪と文豪の区別をつけるやと

音波の位相に訊いてみな
遠い国の煽動者は
いかに世界を恒久平和へと導くやと

専務のペニスに訊いてみな
バイセクシャルの二人の愛人に
いかに常なる満足を与えるやと






あれまあなんとあっけないことよ

狭い部屋だって
何もなければ
広々しているのさ

そして
じっと
自分の中へと深く深く沈んでいけば
次から次へと
あふれでる魂の数々に出会うことができる
なぜ
四年半も忘れていたのか
四年半ぶりの再会
四年半ぶりの媾合
四年半ぶりの復活劇に
感謝感謝
ただ
感謝






大学

そう
何故か皆
背広に着替えるのよ
この不思議

また
たむろう連中は
普遍的にみられるのだが
そう
視線の先のどこにでもね
あるいは目を閉じてさえ
いやまあ
あの連中、何がそんなにも不安なのか
とんとわからぬ

そしてまた
猫が年々増えていくのも
これ不思議
仔猫は可愛いけどね
くれぐれも共食いだけは勘弁な

学年があがるにつれ勉強しなくなる文系と
学年があがるにつれ勉強量がいや増す理系

そして
何故か
戦国時代でもないのに
丘に建てられた大学






呟く体言止による一例

聖職者の犯罪様式
二枚貝の心理療法学者
モハベ族の存在理由
ひとつの領空侵犯
調味料の奇形
紫色の警棒の陳述
女性崇拝の鼻っ先
辞書のたわごと
家具の反対論証
ブロントザウルスのあざけり
律動的な不可触賎民
水性塗料の流出物
修道会の踊り
題名のない詩
膨張する海軍少尉
奴隷の至福
どうでもよいいきづまり






時勢

水に濡れた髪は
そこはかとなく悲しい

トレーラーに踏みつぶされた眼鏡もまた
そこはかとなく哀しい

そういう事態が
まさに
ウヨ吉雀どもの大群の
「個」なき「公」への渇望によって
惹起されんとしているのは明らかなのだぞ!

あー情けなやー
チチンプイプイ

うーん
海外逃亡といっても
ワシャ英語ができんのよ

厭だ厭だ
多勢に無勢

嵐の中を進むより
丘の大樹の陰で涼む方が安楽だ
とは言ってもねえ

自分は自分だ
それ以外に何もない






訥弁

金剛インコ
ホームの売り子
電脳空間の罵詈雑言

立ちすくむ少女も
そしていつしか
荒々しいウヨ吉だ

運子
珍子
萬子の三女傑

今や吐き気を催す社会の到来が
現実のものに

あな恐ろしや
非常に息苦しいっス!






工場と時代

工場の赤錆に
夕陽が溶ける

静かな月夜を迎え
焚き火に照らし出される
アニマル法廷団

さあ今こそ
歴史の歯車を動かそう

やがて来る豪雨に
詩人の魂が
木霊する

幾千万の戦闘爆撃機が
アーマゲドンの準備に余念がない
(もっとも
 あきれたことに
 当人にその自覚がおありにならないのが
 こまりものなのだが)

朝陽の一滴が
引き込み線路のあいまに生え
シロツメクサの露を光らせる
 





無題

湾曲した伝承
柔らかな謙遜
凍りついた微笑
忌まわしきかな悦楽
むきだしの学童
静止する酋長
考えあぐねてこの始末






近景

岩山の頂上を目指すうちに
いつしか迷宮の中の階段を昇っている
壁には造りつけの本棚が続き
分厚い洋書で満たされている

経済的困窮にもかかわらず
冷たい仕打ちが予想され
これだから事務方とは恐ろしい

拡声器から響く
ひび割れたアジテーション
自己確認のしつこい連続によって
七年ぶりに取り戻した
我が暦

また今日も雨が降りゆく
天佑の如くに与えられた
静寂の部屋
凍え始める月光の射影に
秋の虫の声も今や途絶えた

二週間の逃避と急速のあとに
恐る恐る復活してみれば
あの毒々しい毒に満ちた罵詈空間は今いずこ
うって変わって天上のような居心地のよさは快い