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2008年2月25日



河川敷で

そよ風に光る
河の堤を散歩する

黄色い花が咲いていて
どこか遠くでヒットの音が冠とする

買ったラムネを飲んでいると
昔の夢の景色が泡立ち
古い写真のマドンナは微笑みかける

目の前を走っていく
ジャージ姿の高校生のかけ声





池の上

池の上を歩いた

冬の月光が
ハスを照らしていた

眠っているカモが
身じろぎした

世界の終わりが
凍りはじめていた





LCL

LCLの海に
身体が拡散していく
意識が膨張していく
自我が偏在していく
過去へ未来へ往還していく

三次元ポテンシャル井戸に
おかれた粒子としての私

井戸壁の外側にも
トンネル効果でにじみだしていく

LCLの波動方程式





東方見聞録

旅をつづける
木の靴を履いて
エシャロットの束を背負いて
亡き仔を偲んで
汚れた自分を汚すため
東の一番星に向かって
旅をつづける





悔恨

蒼白い墓石の前で告白する
相対論の世界では4年たっても半年で
いや
いかなる弁明も許されない
もはや極刑をもって臨むしかない

今日、生まれて初めて
アジのひらきが喋りました

「金剛石号機による遂行を望む」

尻の蒼痣は
未だ消えやらむ

皆が親しい兄弟でいられたパンゲア
生き延びることが処刑台に近づくテロメア
別れの曲が悲愴な熱情を革命する

同じ人生が繰り返されるカルマ
絞首索を積まれたロバが荒地を行く

夕暮れの荒原に消滅した
十六柱のモノリス





アンドロイド

明紫色の空に絶え間なく流星が降り続ける
漂着したアンドロイドは携帯した観念果実を食べ
大気に残存して流動する滅亡した世界の
猜疑心に鳴動するかつての国家群に
耳を澄ませていた

数千年が経ち
セラミックの体皮に苔が厚く積もったころ
流星の一つにパラシュートの花が咲き
近くに落ちてきた
中から人間が出てきた
「どこから来たのか」
「銀河系の地球の南村山村からきました」
アンドロイドと男は
その後数十年ともに仲良く暮らした
その中には奇天烈な冒険譚もあったし
ひどい口喧嘩や仲違いしたときもあった
しかしそれらも実に愉しいものであった

いつしか二人は
互いに愛し合っていた

男は
やがて老い
そして死んだ

男の遺言に従い
アンドロイドは
男の亡骸を
愛をこめて食べ
鄭重に葬むった

涙を拭いて空を見上げると
相変わらず流星の雨が降っていた

赤く肥大した
二つの太陽が宙天にいた







なんだか肩が
冷え冷えしたので触ると
掌が
じと
と濡れた
のを感じた

はて
と手を見ると
一面に赤く
厚ぼったい血糊がついていた

目を下にやると
腹から足先まで
赤黒い血で塗られていた

血塗れた手を見つめたまま
どうすることもできず
フリーズしていると
戸を開けて妻が入ってきた

「あなた。お客さんよ。
 ライオンさんがいらっしゃったわよ」





部屋

羽根ペンで書かれた日記
テーブルに置かれたブルーベリー
ずいぶん昔に壊れた冷房機
埃をかぶったチェス盤
無人の部屋にそよぐ風に揺れるカーテン
黄ばんだ壁から聞こえる昔のにぎわい
絵に描かれたメランコリア





ネズミ

ブレヒトとバロウズを読んでから
兇暴になったと噂されるネズミである

通勤電車にロケットブースターを取り付けたり
ナポリタンスパゲティにいれるトマトペーストの変わりに唐辛子ペーストを入れたり
殺人上等極悪暴走特攻鬼動隊武装前衛親衛隊特別指令隊長に「老子」をプレゼントしたり
オセアニアに哺乳動物を移住させたり
煙草をふかしたり

もう大変な騒ぎ

去年はうりぼうが騒がしかったが
どうやら今年がネズミ年であることと関係あるらしい





椅子

ゲッティンゲンを訪れた
アールヌーヴォの椅子を買った
その後、陸路でウラル地方まで行った
暖炉と煙突のある家を買った
香り高いマッシュルームを探す犬を飼った
原書で「純粋理性批判」を読んでいたとき
椅子が
「そうじゃない。それもダメ。これもダメ。あれもダメ」
と云い出した
ジャムを入れた紅茶には
ルーシの歴史が浮かんでいるようだった
草原の麦畑の中を
散歩して戻ると椅子はまた沈黙していた
最近発明したなかでは
「自動空中浮遊尊師ピンポン玉」がよくできている
玉が自由に上下するのを見ながら
「カフカ全集」を読んでいると
ピンポンに酷似したボールの短編が出てきたので
慌てて表紙を閉じた
椅子が
「書物を捨てよ
 無為に椅子に座れよ」
と云い出したので
些か気分を害し
キャンバスを広げて
カンディンスキーの模写を始めた
椅子は酒を呑むのが好きだ
酒好きの数理物理学者が来訪したときは
椅子は喜んでメモを取りながら酒の相手をしていた
椅子は煙草も好きなようで
煙草のヤニが身体につくと年代がつくのだと喜んでいる
ある日激怒した私は
このアールヌーヴォの椅子を滅茶苦茶に叩き壊した
しかし翌日
椅子は素知らぬ顔で
もとどおりに部屋の窓際に納まっていた
それ以来私は椅子に逆らわないようにしている





森についての挿話

牛飼いの呼び声が
森の向こうから聞こえる昼の半ば
カラスが小高い岩の上から森を見おろす
古老の詠嘆調の朗唱がうなる
遠い歴史の栄光は反復により神話となる
一人個人の力はたかだか加算無限個だから
音楽に作られた和声が情動を揺さぶる
風窟より抜け出た風は
森のシンフォニィを内在する
幾多の出会いが幅広い絵筆で描かれた
無理に不釣合いに大きい教会に
単旋律の聖歌が響く
森は次第に霧に覆われ
梟と郭公の声が妖精に歌い継がれる
別れの弁証法が実存の現象学を問いかける
彼方より水晶を透きとおしたようなラッパの声が聞こえる
いつしか砂礫が互いに連帯をしはじめ岳嶺となりゆく
伝来されたペシャワールの伝承は蔵にしまわれ
にぎやかなバザールの街角の喧騒がもれてくる
水銀で造られた時計台は夜目にも耀いている
盛大にぶちまけられる胡椒の山は崩れないがはみだす
霧の湖の反対側の岸には
人跡の届かぬ鍾乳洞があり
広い地底では月の母が飛び廻る流れ星たちを産んでいる
崩れた砲台には錆びた大砲が傾いている
シクラメンの行商人は淋しそうに歩いていく
伝説の聖者たちはみな故郷で「この変態!」と石を投げつけられたものだ
明るい月夜に澄んだ湖の景色
ヴェニスの舟歌が月面の影を通り過ぎる
大粒の雪のような綿帽子がちらちらする
賢者たちは査定しながら岩地に五体投地する
銀河の大質量ブラックホールはまばゆく耀き
森の隅ずみまでを照らし
あまねく動植物に幸せの夢を与える
弦楽の奏でるコラールは救いの願いを
一人の自由な旋律に穏やかな笑みを託し
再び静かに深閑な森へ消えてゆく





乙女

雪が積もった次の日
朝の通勤電車はとても暖かい
ふと
わきを
瑞々しい爽やかな
甘い香りが通り抜けた


「てめェら ざけテんじゃねェゾ?
 なに ケータイ シカト ブッこいてんだヨ こんバガ」

「わりィわりィ マジギモいジジィがうッさくてよオ
 超ウゼェんですけど? みてェナ?」

「ぎゃはは ぎゃはは」
「ぎゃはは ぎゃはは」

朝陽に耀く女子高校生たち
ニムフの光が称揚する
美しい乙女たち





祝宴

五軍の長が天帝に跪いた
三万人の隷僕が恩赦された
笙が奏され銅鑼が乱打された
太陽が体細胞分裂し奉げられた
その一方の細胞はアポトーシスされた
全てのビルのてっぺんに旗がひるがえり
全ての街路に青く光る風船がかかげられた

月末にあらわれるメドゥーサの首





系譜

河豚の肝が美味なのは舌が痺れるからで
燃える人形はいつまでも燃え続ける

富士の高嶺は灰を吐きつつ
西ベンガルの劣った虎は
支配者のカーペットとなったのち
白い子供を食い殺す

隔離されたトリコモナスが書いた手紙
マンションの土台に昔からあった田圃は
不発弾を抱えて爆発した

式神の土地で結界を破って青く光る
レーザー光が干渉するテトラへドロン





仮構の生

モルグでピクニックした

乱痴気騒ぎが続き湧くイージースピーキン
玄関の階段で頭を抱え蹲るジャンキー

スモ−クサーモンを食べたら干物の味がした
大トロの刺身を食べたら古い赤身の味がした

不吉なことに目を閉じ耳をふさぐ鈍愚

自分はいま生きているのだろうか
家賃収入で遊び暮らす男はポルシェを買い続ける
貨物列車につながれた主旋律





湖畔の村

虫の卵が死んだ乾いた木の実
古生代の水上バスが霧の湖面にかすれ
繰り返された民話が君主を告発する

弱いものの味方のコオロギは
いつしか落陽の帝国主義を奉ずる

明るい村落の未だ冷めやらぬ
かまどより立ち昇る一筋の煙

満開の風景の花弁に謙遜する
一つのキュビズムのキャリオカ






2008年2月24日


むじな

くぅ くぅ
ホームで貉に出会った
茶色の背広を着ていたが
どこどなくよれているようだった
凝固した血の
暗赤色に汚れた恒星について語った
たまさか先生の誓いはたちまち悟った
吾について論ずる書
そのとき電車がやってきた
くぅ くぅ





殺人事件

お仲間が来たよ。と冷然な皮肉を云う
早朝の草いきれに車掌の屈託は申し渡される

イージス艦「あなご」に
巡洋艦「なると」は
護衛艦「はるさめ」と
駆逐艦「しなちく」と
行動をともにし
中国を駆逐するなどと云い出して
はなはだ物騒なことである

ポインセチアは
窓ガラスの遠くを常に見つめている
だからとても博識だ

と云うわけで以上のことを
今日の夕刻にとりあえず
教えてくれた





ノクターン

昔も ノクターン
歪んだ オルゴール
両手に抱えた 巴旦杏
トレイに怯えた レジナール卿
ラテン語で喋り続ける 偏執狂
世界の群集に トリコロール
世界の醜聞に ヘリオトロープ





探偵たち

眼前が暗くなった男は
貧血かとつぶやき
壁に手をつき吐こうとし
そのまま崩れ落ち横たわった

封建的な世界の
建物の夢を観た

整列させられた名探偵が
町内会の指示で引きずり舞わされ
最終点呼を取らされている

真夜中に目醒める男





冬景

星が雲に隠れていた
月が円く冬を照らしていた
人工衛星は恥ずかしげに横切った
アパルトマンで一人なされた射精
目の奥でチェレンコフ放射が光った





自爆

白い布をかかえたタヌキが
ダイナマイトを背負ったまま
白い布に火をつけた
かちかち山の
タヌキさえ自爆する時代





睡むる

最後に死んだのは
庭の楡の樹のある病院で
大勢の鳥たちが
別れに集ってくれた

右手の指先を動かし
衰弱の具合を測る
倒れているのか
夢みているのか
サス4の和声の
フーガが聞こえる

錆びたアルミニウムに
刻まれていた情報
熱い肉欲の下僕があらわれる

病室から
冷気が
拡がっていく

耳元で
撃鉄が
落ちた
音がした

臨終の日々





黒曜石

黒曜石の私
夜の友の灯火に
身投された河を見つめる子犬に
哭く天性の禿る夜の歌
軽薄な塗装の秘密が
明らかにされる
午後三時の喫茶店
エスプレッソ・コーヒー





村会議員

パステル画の谷間の
村会議員は吊るされた

村に
ポストモダン工場を誘致し
多くの若い娘をかどわかしたので

今でも
広がる畑の真ん中に
鳥獣除けに
吊るされている

屍が笑う
昨日のφ







大きな翼が拡がっていく
強い風に飛散する砂塵
オアシスの小都市は武装する
田園の地から来た部隊は
想像だにしえなかった翼に屈服する
走り出し叫ぶコスモポリタンの美しい肉体

死にかけた指は
石盤に震えながら白墨で
解放戦線の呪文を走らせる





書記に頼る

アイデスの地を皺が襲う
洞窟の指導者はタイプを奔らせる
よみがえったのか書記法が
癇癪を起こした女が面白いことを云う
アラブの意志に手籠めにされた少年
稲が造った城砦にある塑像
仕事は休息されながらなされる
腰が発する未練
都市が発する痙攣
宇宙空間を疾走するフラーレン
バテレンの鍾乳洞は蒸発する





音叉

頭をガムランにぶつけた
白い氷砂糖の伽藍に
幾千の鈴の音が
木魂を重ねる
ザラメを膝と足裏で踏み潰した
グルコースを豊かな胸で揉みしだいた
二十六時の
保つ静寂





日光の

華厳の瀧に巣食うアルカイダ
ロケット砲は束になって
裏の元気な八百屋で売られた

パスタに盛られたメタンフェタミン

三猿法師は猿侯陛下に拝謁し
トロイの包まれた木像として
芥子を塗ったハンバーガを食べながら
メガファックなドデカ盛りをメルトダウンさせる

郵便受けに暗躍し始める
山刀を提げたコロポックル





身体性

烈風が身を斬る二月
炎症をおこした耳たぶは
呪文の伝言に身をまかせた
痙攣する太古はジュゴンに手渡され
子供をケルベロスに寝取られた父親は嫉妬し
総身に智恵がまわりかねる者の
明治村のガス自殺





部屋

柱のあくび
扉の気配
壁を伝って
窓より景色
床より生活

天上は暮らしを見つめる





眺めると

伸び上がるように空を眺めると
母子が嘆き悲しむ声が聞こえた
いつものジャンは帽子を被って靴をみがいている
煙突掃除夫が見つけ出したドラゴンの卵
焼けた身体にショパンのピアノの粒が染みついている
禅寺の弓道に見出す求道士の一念
営業課長の世界販売戦略が聞こえた
麦畑は
いつまでも
いつまでも
波打ち続ける





n の日

途切れる佐助の齢
哀しみに揺れるカーテン
赤紫色に染まった広原の教会
異国の民謡が重たく振れている
哀歌を奏でるケンタウロスの竪琴
オオバコの花が咲いている





夏風

ある夏の日に
風邪をひく

一年を思い返す
血尿が出る

コロッセオの歌声





量産型産業

量産型作画砲
と云う罵詈罵詈が
聞こえればいいのだ

シシの肉のシシから香る
時代ハズレの炭焼き小屋の隅っこ
チョピンは二度あらわれない
鐘の鳴動は角笛となり
草原に散りゆく





トビ爺

トビ爺の巣に近づくと
焦げたスルメの臭いがした
ビニールシートをのけたが誰もいなかった
そこで私たちは油を注ぎ火を放ち帰った
翌日行くと灰の中に
一体の
千手観世音菩薩像があった





中毒

薬が効きすぎて
ふらふらになった
グレープフルーツジュースをのんだら
ふらふらが
ふわふわとなり
床の上でもベットの上でも
常に 30 cm 宙に浮いている
床を歩くとき冷たくないかわりに
ベッドでは寒い
風呂場では危ない
頭が茫っとする
舌が痺れる
次から次へと悪夢を見続ける
嗜眠性の夢
夢は嗜眠性
嗜眠性
嗜眠





個人

どんどこ どんどんど どんどこどんど
どんどこ どんどんど どこどんどんどんど
ラディオは東洋の美味で
γ-那須のトロピカル・テレビ
踊りだす個人のピコ・ラディカル
けれん味を咥えたトリオの駱駝
どんどこ どんどんど どんどこどんど
どんどこ どんどんど どこどんどんどんど





料理

馬鈴薯が散財したターメリックは
シナモンの香水をまぶした凍土で
アライグマに説教される
黒い剛毛が朝露に輝き
トレイに載せられた世界の料理