
京極派の作品の中から、自分の気に入った100首を選びました。この100首は、必ずしも文学的に評価の高い100首、というわけではないと思います。なにしろ素人が選んだものなのですから。しかし、今まで京極派を知らなかった人がこの100首をきっかけに京極派の歌人たちに興味を持ってくれれば光栄です。(現代語訳なども載せる予定です。)
思ひそめき四の時には花の春はるのうちにも明けぼのの空(京極為兼)
めぐりゆかば春にはまたも逢ふとても今日のこよひは後にしもあらじ(京極為兼)
梅が香は枕にみちてうぐひすの声より明くる窓のしののめ(京極為兼)
なほ冴ゆる嵐は雪を吹きまぜて夕暮さむき春雨の空(永福門院)
木々の心花ちかからし昨日今日世はうすぐもり春雨の降る(永福門院)
入相の声する山のかげ暮れて花の木の間に月出でにけり(永福門院)
なにとなき草の花さく野べの春雲にひばりのこゑものどけき(永福門院)
花の上にしばしうつろふ夕づく日入るともなしに影消えにけり(永福門院)
のどかにもやがてなり行くけしきかな昨日の日影けふの春雨(伏見院)
山の端も消えていくへの夕霞かすめるはては雨になりぬる(伏見院)
ねやまでも花の香ふかき春の夜の窓にかすめる入がたの月(永福門院内侍)
昨日けふ世はのどかにてふる雨に柳が枝ぞしだりまされる(徽安門院一條)
枝にもる朝日の影のすくなさに涼しさふかき竹のおくかな(京極為兼)
夕立の雲も残らず空晴れてすだれをのぼる宵の月影(永福門院)
風はやみ雲の一むら峰こえて山見えそむる夕立のあと(伏見院)
さなへとる山もと小田に雨はれて夕日の峰をわたる浮雲(進子内親王)
ふりよわる折々空のうすひかりさてしもはれぬ五月雨のころ(徽安門院)
風高き松の木陰に立よればきくもすゞしき日くらしの声(光明院)
いかなりし人のなさけか思ひ出るこしかた語れ秋の夜の月(京極為兼)
月の色も秋にそめなす風の夜のあはれうけとる松の音かな(京極為兼)
夢路まで夜半の時雨の慕ひきてさむる枕に音まさるなり(京極為兼)
心とめて草木の色もながめおかん面影にだに秋や残ると(京極為兼)
空清く月さしのぼる山の端にとまりて消ゆる雲の一むら(永福門院)
むら雲にかくれあらはれゆく月の晴れも曇りも秋ぞかなしき(永福門院)
その色とささぬ夕べの悲しきは尾花が風に薄雲の空(永福門院)
我もかなし草木も心いたむらし秋風ふれて露くだるころ(伏見院)
宵の間のむら雲つたひ影見えて山の端めぐる秋のいなづま(伏見院)
花の色はかくれぬ程にほのかなる霧の夕の野辺の遠方(京極為子)
吹きしほる四方の草木の裏葉みえて風にしらめる秋の曙(永福門院内侍)
わが心すめるばかりにふけはてて月を忘れてむかふ夜の月(花園院)
野山にも秋のうれへやひとつならじ男鹿妻とひ虫も鳴なり(後伏見院)
今よりの秋とは風にききそめつ目にはさやかにみか月のかげ(正親町公蔭)
更ぬなり星合の空に月は入て秋風うこく庭のともし火(光厳院)
行さきは雪のふぶきにとぢこめて雲に分け入る志賀の山越え(京極為兼)
おのづから凍りのこれる程ばかり絶え絶えにゆく山川の水(永福門院)
風の音のはげしくわたる梢よりむら雲さむき三日月の影(永福門院)
月影は森の梢にかたぶきて薄雪しろし有明の庭(永福門院)
降る雪にしられぬ程にまじる雨の暮れゆく軒に音をたてぬる(永福門院)
さむからし民のわらやを思ふには衾の中の我もはつかし(光厳院)
かれつもるもとの落葉のうへに又さらに色にてちる紅葉かな(京極為子)
来ずも来ず頼まじ待たじ忘れむと思ひながらも月にながめて(京極為兼)
初時雨思ひそめてもいたづらに槙の下葉の色ぞつれなき(京極為兼)
物思ふ心の色にそめられて目に見る雲も人や恋しき(京極為兼)
常よりも涙かきくらす折しもあれ草木をみるも雨の夕暮(永福門院)
憂きも契りつらきも契るよしさらば皆あはれにや思ひなさまし(永福門院)
契りけり待ちけりあはれその時のことのは残る水茎の跡(永福門院)
こぼれおちし人の涙をかきやりて我もしほりし夜半ぞ忘れぬ(伏見院)
思ふ人こよひの月をいかに見るや常にしもあらぬ色にかなしき(伏見院)
それをだにおもひさまさじ恋しさのすすむままなる夕ぐれの空(伏見院)
あくがるゝ魂のゆくへよ恋しとも思はぬ夢に入りやかぬらん(伏見院)
そのまゝに添はまし見ましいたづらにをしや哀れやよその年月(伏見院)
うき人よ我にもさらばをしへなんあはれも知らぬ心強さを(京極為子)
恋ひうれへひとり眺むる夜半の月かはれや同じ影もうらめし(京極為子)
我もいひきつらくは命あらじとはうき人のみやいつはりはする(京極為子)
恋しさも人のつらさもしらさりしむかしなからの我身ともかな(京極為子)
たのみありてまちし夜までの恋しさよそれも昔のいまの夕暮(京極為子)
心にもしばしぞこむる恋しさの涙にあまる夕暮の空(源親子)
いかにせむ雲のゆくかた風のおと待ちなれし夜ににたる夕を(延政門院新大納言)
誰が契り誰が恨みにかかはるらむ身はあらぬ世のふるき夕暮(冷泉為相)
夕暮はかならず人を恋ひなれて日もかたぶけばすでに悲しき(遊義門院)
ながむらむ人の心も知らなくに月をあはれと思ふ夜半かな(遊義門院)
思ひ絶えて待たぬも悲し待つも苦し忘れつゝある夕暮もがな(花園院)
照る月はわが思ふ人のなになれや影をし見れば物のかなしき(花園院)
空の色草木をみるもみなかなし命にかくる物を思へば(進子内親王)
憂くつらき人の面影わが涙ともにぞ浮ぶ月の夜すがら(花園院冷泉)
たのましと思ふ心はこゝろにて暮行空のまたいそかるゝ(花園院冷泉)
一度のあふせにかへし命なれはすてもおしみも君にのみこそ(花園院冷泉)
我は思ひ人にはしゐていとはるゝこれを此世の契なれとや(光厳院)
我が恋よけぶりもせめてたちななんなびかぬまでも君にみゆべく(光厳院)
思ふてふことはかくこそ覚えけれまだしらざりし人のあはれの(徽安門院)
すべてこの涙のひまやいつならんあはれはあはれうきはうしとて(儀子内親王)
久方の月はむかしの鏡なれやむかへば浮ぶ世々のおもかげ(西園寺実兼)
物思ひに消なばけぬべき露の身をあらくな吹きそ秋のこがらし(京極為兼)
浪のうへにうつる夕日の影はあれど遠つ小島は色暮れにけり(京極為兼)
降りよわりまた降りまさり夜もすがらたゆまぬ雨の音に明けぬる(京極為兼)
種となる人の心のいつもあらば昔におよべやまとことのは(京極為兼)
物ごとにうれへにもるゝ色もなしすべてうき世を秋の夕暮(永福門院)
なくなくも雲居を恋ひて年ふりぬ我が世ふけひの浦の友鶴(伏見院)
鐘の音をひとつ嵐に吹きこめて夕暮しをる軒の松風(伏見院)
夢はたゞぬる夜のうちのうつゝにてさめぬる後の名にこそありけれ(伏見院)
惜しむべく悲しむべきは世の中に過ぎて又こぬ月日なりけり(伏見院)
松に嵐あさぢが露に月の影それより外にとふ人はなし(京極為子)
人も世も思へばあはれいく昔いくうつりして今になりけん(京極為子)
先立つをあはれあはれといひいひてとまる人なき道ぞ悲しき(源親子)
あはれそのうきはて聞かで時の間も君にさきだつ命ともがな(永福門院内侍)
ことの葉に色はなけれと思ひやる心をそへて哀とや見る(花園院)
あし原やただしき国の風としてやまとことばの末もみだれず(花園院)
わかれにしそのちりぢりの木のもとにのこる一葉もあらし吹くなり(永福門院右衛門督)
さ夜ふくる窓の灯つくづくとかげもしづけし我もしづけし(光厳院)
心とてよもにうつるよ何ぞこれただ此れむかふともし火のかげ(光厳院)
むかひなす心に物やあはれなるあはれにもあらじ灯のかげ(光厳院)
ふくる夜の灯のかげをおのづから物のあはれにむかひなしぬる(光厳院)
過ぎにし世いまゆくさきと思ひうつる心よいづらともし火の本(光厳院)
ともし火に我もむかはず灯も我にむかはずおのがまにまに(光厳院)
てりくもりさむきあつきも時として民に心のやすむ間もなし(光厳院)
四海すみかたき世の思ひ出にふるきにかへれ和歌の浦浪(光厳院)
うきも夢うからぬも又まほろしの世をなくさむる我もはかなし(光厳院)
十年あまり世をたすくへき名はふりて民をしすくふ一こともなし(光厳院)
誰待ちて御津の浜松霞むらむわが日の本の春ならぬ世に(光厳院)
瀬をはやみ行水よりもとめがたく過し昔そ猶しのばるゝ(崇光院)