******************************* 考える短歌  作る手ほどき、読む技術 俵万智 新潮新書 660円(税別) *******************************  讃美歌関係の委員会に行く途中、立ち寄った書店でタイトルと著者の名前に惹かれて手にした本書の帯 には「一文字の力 表現のうらわざ 『言葉の技術』教えます」と大書されていました。詩や歌を作るた めの「うらわざ」や「技術」を正面切って取り上げた本は、かなり珍しいのではないかと思います。  讃美歌の歌詞を作詩しようとすると、そこには分量的にも構造的にもかなりの制約があります。その制 約の中で、正しい意味を、誰でも歌えて、誰にも分かることばに写し取らなければならないのですから、 讃美歌を作詩することの難しさは散文や自由詩の比ではありません。そこにはどうしても「技術」が必要 になります。  短歌も31文字(5.7.5.7.7)の制約の中に、様々な情景や感情を詠み込むという点で、日本語の讃 美歌作詩と技術的に似通ったところがあります。優れた歌人である著者は、短歌の添削という作業を通し て「表現のうらわざ」「言葉の技術」を、分かりやすく提示してくれています。具体的には、助詞や副 詞、形容詞を使うときの注意点や句切れや語順のことなど、まさに、「うらわざ」「技術」というに相 応しいポイントが扱われています。 ******************************* LIFT EVERY HEART Collected Hymns 1961-1983and some early poems Timothy Dudley-Smith Hope Publishing, $19.95 *******************************  本書は、現代英語圏における代表的な讃美歌作詩家の一人、ティモシー・ダドリー=スミスの個人讃美 歌詩集です。  彼は、30年以上に渡って讃美歌詩の創作を続け、その作品数は200を越えています。本書には、彼が讃 美歌作詩家としての歩みを始めるきっかけになった「あがめよ、わが魂」(讃美歌21-174番)"Tell out, My Soul"や、聖書同盟の100周年記念礼拝のために書いた"Lord, for the Years"を始め、1961-1983年 の創作の成果が収められています。  彼は、ジョン・ストットなどと同じく英国聖公会の福音派に属しており、彼の創作する讃美歌詩も聖書 信仰に立った福音的なものです。中でも聖書のテキストを直接の題材とした讃美歌詩は彼の得意な分野です。  ダドリー=スミスには、本書以外に3冊の個人讃美歌詩集がありますが、本書には著者自身による42 ページに及ぶ前書きが付され、彼の生い立ちや讃美歌詩についての考えを知ることができます。 ダドリー=スミスについて知りたいと思う者が、まず最初に読むべき本です。 ******************************* 新しい賛美歌作家たち 横坂靖彦著 日本基督教団出版局 ¥2,400 (税別) *******************************  以前、この欄で横坂氏の「現代の賛美歌ルネサンス」を紹介したことがありますが、本書は、同じ著者 が17人の讃美歌作家たちと実際に会っておこなったインタビューの記録です。本書よりも後に書かれた 「現代の賛美歌ルネサンス」が、横坂氏の分析と評価を経た讃美歌についてのすぐれた二次資料だとすれ ば、本書は讃美歌作家自身の肉声が聞こえる貴重な第一次資料です。  ここで讃美歌作家と言われる人たちの中には、作詞家、作曲家から讃美歌集の編集者までが含まれてい ます。特に編集者へのインタビューを通して、あまり表に出ることのない讃美歌集編集作業の一端を垣間 見ることができるのは貴重です。また、地域的にはアジアからも2名の日本人を含めて4名(オーストラ リア、ニュージーランドを含めると6名)の作家がとりあげられ、現代の讃美歌創作の世界的な広がりを 見ることができます。  彼らすべてに共通しているのは、信仰の深みを、現代の会衆の心に届くことばと音楽で表現しようとす る努力であるということができるでしょう。 ******************************* WWJD Interactive Devotional Compiled by Dana Key Zondervan. US$12.99 *******************************  アメリカにはロックやポップス好きのクリスチャンたちが大勢いて、CCM(クリスチャン・コンテンポ ラリー・ミュージック)という音楽ジャンルが成り立っている。日本では数年前に DC Talk のアルバムが 東芝EMIから発売されたが、音楽も信仰もすばらしいのにまるで軽薄なラップバンド扱いだったのは残念。 他のCCMのミュージシャンたちを聴こうと思うといまだに輸入盤に頼るしかないようだが、最近では Amazon や HMV で簡単に入手できるので、ぜひ聴いてください。 「そう言われても何から聴けばいいの?」とおっしゃる方。まず、この本に載っているアーティストから どうぞ。ここには DC Talk をはじめ The Newsboys、 Steven Curtis ChapmanなどCCMのトップアーティス トが、クリスチャンとして生きる中で難しい問題にぶつかった体験を書いている。それから聖書が数節引 用され、そんな時「イエスさまならどうされただろう」と考えさせられ、最後に「あなたはどうする」と 問いかけられる。それが30日分で、ちょうどひと月のインタラクティブ・デボーションガイド(祈りの手 引き)になっている。アメリカで芸能界?に身を置いている彼らが、まじめに真剣にクリスチャンしてい るのを知るだけでも読む価値あり。 ******************************* 現代の賛美歌ルネサンス 横坂靖彦著 日本基督教団出版局 2900円(税別) *******************************  本書は『讃美歌21』の編集にも深く関わってきた著者によるヒム・エクスプロージョン(賛美歌爆発) の紹介です。著者の横坂氏はアメリカ留学中、実際に賛美歌集改訂に関わりながら研鑽を積み、英語圏の 賛美歌の流れを日本に積極的に紹介してきた気鋭の賛美歌学者です。  ヒム・エクスプロージョンとは、20世紀半ばの英国に始まる爆発的な賛美歌創作のムーブメントで、 『讃美歌21』の中にもヒム・エクスプロージョンの中で生まれた賛美歌が多数収められています。本書に は、ヒム・エクスプロージョンの中心に位置するフレッド・プラット・グリーン、フレッド・カーン、ブ ライアン・レンなどの賛美歌作家の経歴や業績と一緒に、彼らが現代のさまざまな賛美歌集の編纂現場で どのように受けとめられ、評価されてきたか、そして新しい世代にどのような影響を残したかが広い視野 で紹介されています。  新しい賛美歌の流れを知り、その内容を正しく評価するために、まず手に取るべき一冊です。 ******************************* EV'RY TIME I FEEL THE SPIRIT Gwendolin Sims Warren OWL BOOKS $15 *******************************  副題に「アフリカン-アメリカン チャーチで最も愛されている101の聖歌、福音賛美歌、霊の歌」と あります。アフリカン-アメリカン チャーチとは要するにアメリカの黒人教会のことです。そこでは新 しいゴスペルソングと同時に古い黒人霊歌(スピリチュアルズ)が歌われ、白人と共有できるアイザッ ク・ワッツやジョン・ニュートンの讃美歌(私たちに馴染み深い曲もたくさんあります)が歌われてい ます。  本書は、それらの豊かなレパートリーの中から特に愛されている101曲を選び、楽譜と歌詩、著者に よるコメントを収録したものです。コメントは作者や曲のなりたちについての説明に留まらず、時に霊 的な洞察や、自分たちがどのようにその曲を愛し歌ってきたかという証しを含み、とても興味深いもの となっています。  本書のタイトルは有名な黒人霊歌 "Ev'ry time I feel the Spirit, Movin' in my heart, I will pray" (聖霊に感じるといつも、心動かされ祈りたくなる)からとられていますが、著者はきっと "I will praise" (賛美したくなる)と言いたかったのでしょう。 ******************************* 魂のうたゴスペル 信仰と歌に生きた人々 チェット・ヘイガン著 椋田直子訳 音楽の友社 2200円(税別) *******************************  「ゴスペルミュージック」を強いて訳せば「福音音楽」ですが、それがどんなジャンルの音楽かと聞 かれると、説明しようのない広がりと曖昧さがあります。ただ、その本流がいつもアメリカにあったと いうことは言えるでしょう。この本で取り上げられているのは黒人霊歌からカントリーやCCM(クリス チャン・コンテンポラリー・ミュージック)まで、黒人も白人も含めた10数名のゴスペルシンガーたち です。  本書には、彼らの生涯の印象深いエピソードが語られ、彼らが書きあるいは歌ったゴスペルが人々に どのように語りかけ、救いへと導いていったかが記されています。  チェット・ヘイガンは「はじめに」で彼らに一つ共通することをあげています。それは「一人ひとり 固有のやり方で、『新しい歌を主に向かって歌え』という聖書のことばを守りつづけたこと」です。  最後に、いまアメリカではゴスペルミュージックはひとつの巨大産業に成長してしまい、そのために 生じるさまざまなプレッシャーがあります。それでも、本書はこう結ばれています。「ゴスペル音楽の 松明は受け継がれて、いまも明るくもえつづけている」。 ******************************* 中世音楽 の 精神史 グレゴリオ聖歌からルネサンス音楽へ 金澤正剛著 講談社選書  1785円(税込) *******************************  学生時代、ディビッド・マンロウの「ゴチック期の音楽」を通してノートルダム学派、アルスアン ティクァ、アルスノヴァの音楽に触れ、その透き通った響きに魅せられました。それから当時廉価で 出ていたハルモニアムンディのLPを通して、中世の宗教音楽を聴いてきました。本書を通して、その 頃わからずに聞いていた中世音楽の精神に触れたように思います。  音楽というと私たちは耳に聞こえるメロディー、和声、リズムを考えます。けれども中世以前には 音楽(ムジカ)の概念は今と全く違っていました。金澤氏によると、それは「根本的に数の関係上に 成り立った『調和』で(あり)・・・それが未だ鳴り響く状態でなくとも、すでにそれは「ムジカ」なの である」ということです。  本書はそのような中世音楽論の基礎となったボエティウスの音楽理論のエッセンスを紹介し、それ が中世の教養の中でどのように位置づけられてきたか、また中世ポリフォニー音楽を読み解く上でど のような意味を持つかを実例をもって示します。 そのようなムジカの広がりを取り扱う本書は、中 世音楽だけでなく中世に関心を持つすべての人に必読の書です。  金澤氏はICU教授でいま最も活動的で実り豊かな音楽学者のお一人です。 ******************************* 「リーメンシュナイダーの世界」 植田重雄 著 恒文社 2800円(税別) *******************************  まず、大好きなリーメンシュナイダーが本書を通して広く紹介されることを心から喜びたいと思いま す。  彼はルターと同時代にドイツに生きた彫刻家です。私がリーメンシュナイダーに出会ったのは大学生 の頃で「ドイツルネッサンスの画家たち」(土方定一著)という本に、20頁ほどの紹介と数枚の写真が 載っていたのが最初でした。その後も、何枚かの写真や絵はがき以上の出合いはなかったのですが、そ れでもリーメンシュナイダーの彫刻には観る者の心に迫る何ものかがあり、消し難い印象を残すので す。まるで彼の鑿(のみ)で心が切り出され、そこに何か人間にとって本質的なものの形が浮き彫りに されるような感じ、とでも言えばよいでしょうか。  本書は二部からなり、第一部「リーメンシュナイダーとその時代」には、彼の生きた時代とその生き ざまが、第二部「リーメンシュナイダー紀行」には、植田氏が30年にわたってドイツの各地を訪れ、美 術館や記念館、大聖堂や修道院だけでなく、寒村の小さな教会にも足を運んでひとつひとつの作品と出 会った感動が、作品についてのコメントとともに記されています。何より嬉しいのは、たくさんの彫刻 の写真が載っていることです。氏のようにリーメンシュナイダー巡礼などできない者にとっては、これ は最高の贈物です。  今月から「福音と世界」誌にも田川健三氏の連載「リーメンシュナイダーの世界」が始まりました。 田川氏とリーメンシュナイダーの取り合わせは正直いって意外なのですが、本書とはまた違った趣のこ の連載が、これからどんな展開を見せるのか楽しみにしています。