ここが変だよ!床ずれの常識

 

 

83 開放性ウェットドレッシング療法 Open Wet-dressing Therapy (OpenWT)
―ラップ療法の新しい名称です―

 

  • What's in a name? that which we call a rose
    By any other name would smell as sweet;
    「名前に何の意味があるの…」
    ―ロミオとジュリエット第2幕第2場 (ウィリアム・シェイクスピア)

 

 

 

ラップ療法という呼称は,食品用ラップを創に貼って治療することに由来します.

  • その後多くの方々により改良が積み重ねられ,いろいろな「ラップ療法・変法」が生まれました.そのためもあってか,「ラップ療法」にはさまざまな誤解が生じているようです.名称を変更する目的のひとつは,この新しい理論を正しく理解していただくことにあります.
  • 開放性ウェットドレッシング療法という新しい創傷治療概念に由来する名称が受け入れられることされることを願ってやみません.

 

ラップ療法の批判に次のようなものがあります.

  1. 創を閉鎖して滲出液を溜めやすい.
  2. 感染創を閉鎖するのは間違いだ.
  3. 創を閉鎖しないので,汚染により感染する

 

これらはすべて誤解に基づくものです.
  
正しい解釈は次のとおりです.

  1. ラップ療法は創を閉鎖しません.滲出液は貯留しません.
  2. 創を閉鎖すると感染の危険性を増します.
  3. 創の汚染だけでは感染は生じません.創の閉鎖が加わって感染が成立します.

 

以下の記事で,次の問題を解説いたします.

  1. 開放性ウェットドレッシング療法Open Wet-dressing Therapy (OpenWT)は創傷治癒に最適な条件を与える.
  2. ドレッシングを4分類し,創傷治癒理論におけるOpenWTの位置づけを論ずる.
  • 湿潤環境を維持する創傷の治療法は,閉鎖性ドレッシング療法 Occlusive Dressing Therapy (ODT) あるいはウェットドレッシング療法 Wet Dressing Therapy と呼ばれ,ほとんど区別されずに用いられてきました.ラップ療法が誤解されてきた原因はまさしくこの点にあります.
  • 創に食品用フィルムを貼ることは「非閉鎖性」でありながら創を「ウェット」な状態にすることなのです.
  • 閉鎖性ドレッシングの最大の弱点は感染でした.創を開放性に治療することによってこの問題が克服されました.

 

20世紀中ごろより創傷の治療法は大きく変わりました.

  • ガーゼを当てて創を乾燥させる方法からワセリン軟膏ガーゼやポリウレタンなどのプラスチックフィルムを貼って治療する方法への転換は,湿潤環境が創傷治癒を促進させるという理論を生み出しました.
  • その理論によると,傷ついた皮膚が再生するためには,実験室での細胞培養と同じように肉芽細胞が増殖する条件が必要とされました.また,基礎研究からは次のような事実が明らかになりました.
    1. ガーゼを貼り,消毒をすると創感染が増加する.
    2. 低酸素条件下で線維芽細胞や栄養血管の増殖が促進され,創の修復が進む.
    3. 湿潤環境下で創の修復が進む.
    4. 抗菌薬(抗生物質ではない)は生体細胞に有害である.
  • ウェットドレッシングのほとんどは創に密着し閉鎖するので,ガーゼドレッシングと差別化する意味で「閉鎖ドレッシング」と呼ばれました.そして,閉鎖療法=ウェット(湿潤)療法,ガーゼ=開放療法=乾燥療法 と位置づけられてきました.
  • これらの研究はもっぱら「表皮欠損」が研究対象とされました.言い換えるとV-W度褥創のような「皮膚全層欠損」に関する研究はほとんど存在しないのが実情です.
  • T-U褥創が閉鎖ドレッシング療法の適応とされ,V-W度褥創はガーゼドレッシングの適応となっているのはそのような事情から来るのでしょうか.

 

ドレッシングの4分類

  • 開放性ウェットドレッシング(OpenWT)は,これまでの閉鎖性ドレッシングとどこが違うのでしょうか.以下の4分割表をもとに解説します.

 

ウェットドレッシング

ドライ ドレッシング

開放性

T.開放性ウェットドレッシング

U.開放性ドライドレッシング

閉鎖性

V.閉鎖性ウェットドレッシング

W.閉鎖性ドライドレッシング

 

T.開放性ウェットドレッシング

  • 食品用フィルム.
  • 紙おむつに粘着性ポリウレタンフィルムを貼ったもの.
  • 持続陰圧閉鎖療法(滲出液は強制的に排出されるため「開放性」です.)

 

U.開放性ドライドレッシング

  • 乾燥ガーゼ.

 

V.閉鎖性ウェットドレッシング

  • いわゆる閉鎖性ドレッシング(ODT)がこれに相当します.
    • 粘着性ポリウレタンフィルム,ポリウレタンフォーム,ハイドロコロイド,軟膏ガーゼ(ゲーベン,オルセノン,アクトシンなど)..
    • ガーゼドレナージ(創をデブリドマンしてカーゼを詰め込むと,膿汁がガーゼに吸着されて糊のようになります.創に対しては「ウェット」ですが,滲出液の排出が妨げられるので「閉鎖」になります.
    • 壊死組織で閉鎖されたV-W度褥創では,エスカー(全層の皮膚が壊死したもの)がまるで閉鎖性ウェットドレッシングのように創を閉鎖し,滲出液の排出を妨げています.
    • 低温熱傷で生ずる壊死した皮下組織も同様に「閉鎖性」にはたらき,創感染を起こしやすいのです.

 

W.閉鎖性ドライドレッシング

  • 軟膏ガーゼ(カデックス,ユーパスタ,マクロゴール基剤の軟膏).
    • 滲出液の量を調整する機能が謳われていますが,実際は脱水をしています.

 

ウェット × ドライ

  • ウェット(湿潤)とは,滲出液の多寡ではなく「生体細胞の周囲が等浸透圧的である」条件と考えるのが,理論的な考え方です.同様の考え方を適用すると,ドライ(乾燥)とは「生体細胞の周囲が高浸透圧的である」ということになります.このような基準でいろいろなドレッシングを分類しました.
  •  

    ウェット

    ドライ

    生体細胞の周囲が等浸透圧的である.

    生体細胞の周囲が高浸透圧的である.

    • フィルムドレッシング.
    • 食品用ラップ.
    • デュオアクディブ.
    • ハイドロサイト.
    • ワセリンガーゼ.
    • 生食ガーゼ+フィルムドレッシング.
    • 紙おむつ+オプサイト.
    • 紙おむつ(大量の滲出液がある場合).
    • 乾燥ガーゼ.
    • カデックス軟膏.
    • ユーパスタ.
    • マクロゴール基剤の軟膏.
    • ハイドロコロイド(滲出液が少ない場合).
    • ポリウレタンフォーム(滲出液が少ない場合).
    • 紙おむつ(滲出液が少ない場合).

     

    「滲出液を吸収させる」考え方の商品は,結果的にドライな創面をつくることが多いようです.

 

閉鎖性 × 開放性

  • 創の深部から外部に向かう滲出液の流れを妨げれば「閉鎖」ということになります.
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    閉鎖性

    開放性

    • ハイドロコロイド,ポリウレタンフォーム(…ドレッシングが水を含んで膨らみ,体圧のために創が閉鎖します).
    • 軟膏ガーゼパッキング.(ポケットに軟膏ガーゼを充填すること.ガーゼが水を含んで膨らみ創を閉鎖します.)
    • フィルムドレッシング.(…滲出液が貯留すると容易に剥離して「開放」になります).
    • 食品用ラップ.
    • 持続陰圧閉鎖療法.(…滲出液の流出という観点では,開放になります.)
    •  

 

 

 

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