ここが変だよ!床ずれの常識
41 ドライスキンの傾向と対策について (05/10/18)
高齢者の褥創を診療していますと,大変多くの方々が皮膚のかゆみを訴えるのに気がつきました.痒いあまり,体中血が出るまで引掻いている様子は気の毒なものです.夏に痒いのはあせもや体部白癬症が,冬に痒いのはドライスキンが原因であることがほとんどです.
傾向:ドライスキンとは
  • 特集『アトピー性皮膚炎などのドライスキンが改善』セラミド配合外用剤の保湿効果
    1998年12月「メディカル朝日」(朝日新聞社)別冊掲載
  • ドライスキンのタイプ:
    • 手荒れ,乾皮症,皮脂欠乏症,乾燥性皮膚掻痒症,いわゆるアトピー性皮膚炎・・・要するにヒビ,アカギレ,カサカサ,カユミをともなうものです.
  • 皮膚のいちばん外側にある角層は,皮脂,天然保湿因子,角質細胞間脂質(主成分はセラミド)の3つの保湿成分によって,皮膚の潤いを保っています.しかし,体質や加齢のためにこの保湿成分が減少すると,皮膚が乾燥しやすくなります.
  • 角質層のさらに外側には,皮脂膜があります.これは,皮脂腺からでた脂と,汗や水蒸気が混じり合ってつくる天然のクリームのようなものです.
  • ドライスキンではバリア層に隙間ができ,隙間から水分が蒸発(経表皮水分喪失という)してカサカサした鱗屑ができる.この鱗屑がズボンやストッキングに触れると痒くなり,掻きこわすと鱗屑がはがれて皮膚はバリア層のないむき出しの状態になります.こうなるとちょっとした刺激にも過敏に反応し,水分はさらに蒸発し…という悪循環になるのです.
対策: 保湿が基本です.
  • 痒みを抑える:抗アレルギー剤・抗ヒスタミン剤・ステロイド剤の内服・外用
    • 角質内の水分量を増やすと痒みが抑えられるといわれております
  • 保湿剤の外用:
    • 保湿剤の分類:保湿剤には2種類あります.
    • emollient エモリエント:ワセリンなどを塗ると,皮表からの水の蒸発が抑えられて角層内の水分量が増える.
    • moisturizer モイスチュライザー:外用剤に含まれる成分自身が水と結合して蒸発を防ぐことによって蒸散を抑える.
  • お勧めは,エモリエントの外用です.
  • 処方例:プラスチベース(大正製薬)または白色ワセリン
    • ヒドロカーボンゲル軟膏基剤:流動パラフィン95%,ポリエチレン樹脂5% .不飽和基(二重結合など)を持たないので化学的に安定で,抗原性が低いので軟膏剤の基剤として広く用いられています.100グラム約300円です.
  • 用法:
    • 乾燥している部位(白く粉をふいている部分),痒い部位(引っかいた痕があります),ヒビワレの部位にたっぷり(ベタベタするくらい)塗ります.皮膚の皺やひび割れ(亀裂)を軟膏で埋めるのがコツです
    • それから乾いたタオルでゴシゴシ拭き取ります.床のワックス掛けの要領です.このようにして皮膚に脂の層をつくって蒸散を防ぐのがポイントです.軟膏はベタベタするので敬遠されることが多いのですが,この方法なら大丈夫です.
    • 入浴後が効果的です.
    • トッピング:赤い部分(炎症部位)にはステロイド軟膏(キンダベート軟膏・弱 やアンテベート軟膏・強)をチョンチョンとつける.
      • 角化性の白癬症の場合は,抗真菌剤クリームをチョンチョンとつける.これを毎日繰り返します.
      • 爪が白くなっていたら爪白癬症を疑います.爪白癬症の多くの方は,体部白癬症(インキン・タムシ)を合併しています.爪白癬には,ラミシールやイトリゾールの内服が有効です.
解説: 人体(皮膚)の最大の水源は「汗腺=自前の水」です.
  • 教科書的には「保湿剤」としていろいろなものが挙げられています.
  • しかし,人体(皮膚)の最大の水源は「汗腺=自前の水」である事を忘れてはいけません.薄い油脂層(軟膏)がこれを閉じ込めれば十分です.通常の外用療法では軟膏(またはクリーム)を薄く塗るだけなので「皮膚の皺」の奥まで軟膏が到達せず,ここからの蒸発を防げなかったのです.
  • 軟膏とクリームの違い:
    • 軟膏基剤は融点の高い油脂(プラスチベース,白色ワセリンなど)です.
    • クリームは,乳化剤で水と油脂を混合したものです.
    • 乳化剤は水と油を混合する合成洗剤のようなものです.これを皮膚に塗ると皮脂が乳化されます.皮脂が失われた結果は乾燥です.洗剤を皮膚につけて生活するようなものです.
    • どうりでカサカサしてくるわけですね.
  • 界面活性剤とは:
    • ある教科書にはこのように記載されています.
      界面活性剤とは要するに洗剤であり,びらんなどの湿潤性の病変に使用した場合,しみて痛いことがある.またクリームを塗ることは,界面活性剤即ち洗剤を塗ることでもあり,皮膚がかさついてくることがある.このような欠点も界面活性剤の改良で,近年あまりなくなってきている.
    • 木花 光:皮膚外用剤―その適応と使い方,原田敬之編.南山堂 ,東京,2002;p30.
  • 保湿剤モイスチュライザーは,さらに二つに分類できます(鳥谷部).
    • 高浸透圧性モイスチュライザー:尿素製剤など.
    • 等浸透圧性モイスチュライザー:セラミド,グリセリンなど
    • 尿素製剤:これは乾燥剤かもしれません.
      • 尿素は浸透圧作用により水を吸収します.ナント,10%尿素は,5%食塩水に相当する!
      • 水は 皮膚→尿素 の方向に移動します.ナメクジに塩をかけるのと同じ理屈です.
      • 皮膚はナメクジ,尿素は塩に相当します.
      • 尿素含有クリームを塗ると刺激がある>ヒリヒリするのはこのためでしょう.
      • 特集記事の中ほどでは,尿素の刺激性が「高浸透圧によるもの」と的確に指摘しております.ドライスキンの引っかき傷やひび割れには,表皮や真皮の細胞が露出しており,そこに尿素製剤が擦り込まれると,細胞が脱水されると推測できます.
        角質に入った尿素はどうなるでしょうか.尿素が水を引き寄せるとその結果,高濃度の尿素液(高浸透圧)ができ,低浸透圧の表皮細胞から水を引寄せます.要するに,浸透圧の勾配が形成されるのです.
        セラミドは,アブラ(あるいは乳化剤のようなもの)ですから,浸透圧勾配を形成することなく水を蓄えます.
  • いわゆるアトピー性皮膚炎の場合:
    • プラスチベース(大正製薬)をたっぷり塗ってゴシゴシ空ぶきしたあと,副腎皮質軟膏を,炎症の強い部位に重ね塗りします. 副腎皮質軟膏が節約できます.
:尿素製剤の生物化学 尿素製剤 ウレパール
  • 「高校生物 細胞膜と物質の出入り 池田博明」
  • 第3項 水の出入り=受動輸送
  •  
    • 浸透:半透膜を隔てての水の移動 浸透により,水は濃度の低い方から高い方へ移動する.
    • 浸透圧の計算式 π=CRT で計算するとややこしいので,生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム)=等浸透圧として計算します.
    • 塩化ナトリウム NaCl 分子量 58.44 (Na+Clに電離します)
    • グラム等量=58.44/2=29.22
    • 0.9%塩化ナトリウム(9g/Kg):9/29.22=308[mOsm/Kg]
    • 参考までに,5%ブドウ糖水溶液の浸透圧を計算します.
    • ブドウ糖「C6H12O6」で表わされ,分子量は180.16です.50/180.16=278[mOsm/Kg]
    • 10%尿素水溶液の浸透圧を計算してみましょう.
    • Urea 和名 尿素 分子式 H2NCONH2 分子量 60.06
    • 10%尿素水溶液(100g/Kg):100/60.06=1665 mOsm/Kg
    • これは,4.865%食塩水(海水より濃い!)に相当します.
    • (48.65/29.22)×2=1665[mOsm/Kg]
  • [結論]
  • ×表皮内に残留した尿素が水分を保つ
  • ○表皮内に残留した尿素が水分を吸収する.
  • 表皮の細胞は尿素に水を奪われて,脱水されている可能性があります.
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42 ラップ療法事始
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