ここが変だよ!床ずれの常識
29 誤嚥性肺炎について(1)
食べ物や飲み物を飲み込むことを「嚥下」といい,嚥下が正しく働かないことを嚥下障害といいます.
  • 嚥下障害の主な病態は@飲み込みの障害A気道内への流入(誤嚥)に大別されます.
  • 誤嚥とは,正常な嚥下の過程において,食物が咽頭および気管に入り込むことと定義されます.誤嚥は,いろいろなときに生じます.
    1. 飲み込むとき,食べ物などが気管に入ってしまう.
    2. 睡眠中(特に薬物の影響下にあるとき)に喉に逆流した胃液などを,知らずに気管に吸い込んでしまう.
    3. 嘔吐したときに吐瀉物を気管に吸い込んでしまう.
  • 誤嚥性肺炎は,食物,液体,胃内容物または咽頭分泌物を誤嚥あるいは誤飲し,咳反射などでこれを排除できないときに発生します.
嚥下障害の原因
  • 嚥下障害は,脳血管障害,口腔・咽頭・喉頭疾患,食道疾患などにみられ,その結果,患者さんは低栄養,脱水症状,食べる楽しみの喪失,誤嚥性肺炎や窒息の危険など,さまざまな不利を被ることになります.
  • 生理的な原因には,嚥下咀嚼に関与する神経・筋,知覚の低下,唾液分泌低下に伴う口内乾燥,ムシ歯,義歯などの関与が挙げられます.
  • 高齢になると飲み込みにくくなるのは,老化に伴って起きる生理的な変化のほか,病気や薬の影響があることもあります.
  • 病気では,痴呆症,脳血管障害,神経系の病気などにより,うまく飲み込めなくなることがあります.
  • さまざまな医療処置(気管切開,経鼻胃チューブの留置,胃ろう等)や,薬物(睡眠薬,精神安定剤,向神経薬)も原因になります.
  • 服薬の影響でだ液の分泌が悪くなって,飲み込みにくくなることもあります.
注意すべき症状
  1. 嚥下障害で,まず初めに起こるのが,「食べ物が口に残る,口からよくこぼす,食事の時間が長引く,パサパサした食べ物が飲み込みにくい,お茶にむせる」などの症状です.これらの症状が見られた場合は,飲み込む能力が低下し始めていることが疑われます.
  2. もう少し進むと,「せき込む,むせる,たんが出る」の3つの症状が見られ,さらに悪化すると,誤嚥するようになります.また,「食後,ガラガラ声になったり,声がかすれる,食事をすると疲れる,原因不明の体重減少」などの症状も起こります.
  3. 飲み込む能力がさらに低下すると,気管に入った食べ物やだ液が肺に入り,肺炎(誤嚥性肺炎)を起こしたり,食べ物がのどに詰まって窒息することもあります.
  4. また,食べる量が減って栄養不足になったり,水を飲む量が減って脱水状態になるなど,全身の健康状態を悪化させます.
    誤嚥性肺炎の発症機序
    1. 狭義の誤嚥
      • 飲み込むとき,食べ物などが気管に入ってしまう.
    2. 微少吸引
      • 嚥下動作を伴わず,口腔内あるいは咽頭内容物が咽頭から気管へ落ち込む吸引または流入.
      • 経鼻チューブが入っている方は,常にこの現象が起こっています.
    3. 胃内容物の誤嚥
      • 嘔吐後などに胃内容物を誤嚥した場合に生じます.食物残渣による気道閉塞,胃液による化学性肺臓炎が起こり,著しい低酸素血症をきたします.
      • 寝たきりの高齢者は便秘しやすく,便秘が原因の腸閉塞を起こして嘔吐することが少なくありません.また,食道裂孔ヘルニアのある高齢者は,睡眠時に胃内容物が逆流しやすいといわれています.
      • 胃ろ流動食をトロメリンで固形化すると,逆流を減らすことができます.
    予防
    • 誤嚥防止
      • 誤嚥性肺炎は,基礎疾患をもった全身状態の低下した患者さんに発生しやすく,いったん発症すると治療は困難で,死亡率も高いため,発症の予防が大変重要になります.そのためには,誤嚥を起こしやすい病態の改善が重要であり,それぞれの基礎疾患に対する治療,ならびに可能な限り機械的要因の除去が必要となります.
      • 誤嚥を起こしやすい患者さんの食事介助では,起座位または上半身をやや高くした体位とし,少量ずつゆっくり時間をかけて,患者さんの嚥下能力に合わせる必要があります.日常の排便コントロールや,食後の半座位の保持などの工夫により腹圧をかけないことが食物残渣の胃食道逆流や嘔吐の防止に有効とされております.
      • 食道裂孔ヘルニアのある患者さんや,腹満があり嘔吐をきたしやすい患者さんでは,日常より排便のコントロールを行い,食後半座位の保持などの工夫により腹圧をかけないようにし,食物残渣の胃食道逆流や嘔吐を防止するようにします.
      • 誤嚥に備えて吸引器を常備するとともに,痰の多い患者さんは食事前に吸引しておくことも大切になります.
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    • 口腔ケア
       
      • 加齢により唾液の分泌量は低下するため,口腔内の清潔度は低下し,各種の細菌が繁殖してきます.また,残存歯が少なくなると,咀嚼,発音に支障をきたすので,患者さん自身の口腔管理に加え,介護者による清潔の援助すなわち口腔ケア≠ェ必要となってきます.
      • 口腔ケアが適切に行われると,口腔内の汚れは取り除かれ,唾液の分泌は促進し,自C浄作用も働き口腔内分泌物は清浄化されていきます.したがって,口腔・咽頭粘液が微少吸引により下気道に流れ込んでも,ただちに肺炎を発症する可能性は少なく,特に就寝前の口腔ケアは,寝たきり患者さんの肺炎の予防に有効と考えられます.
    治療
    • 経口摂取や経腸栄養を一旦中止して,点滴をします.酸素吸入,抗生物質などの投与をして肺炎の治癒を期待します.ほとんどの誤嚥性肺炎は市中肺炎(病院外で発症した)ですから,MRSAなどが検出されてもバンコマイシンなどの高価な薬は使いません.
    • 筆者の治療プロトコールは,@皮下注射による1000ml以下の補液,Aパンスポリン1-2g・日またはユナシン1.5-3g・日を点滴に混注.Bラシックス10-20mgを点滴に混注.という,至って簡略なものです.
    • 1週間以内にNSTによる評価を行ないます.ほとんどの場合,1週間で酸素吸入を離脱し急性期を乗り切ります.
    • 問題は,経口摂取や経腸栄養の開始時期と摂取量です.
      • タイミングが遅れるとこの間に栄養低下が進みます.
      • タイミングが早すぎると,肺炎再発になります.
      • 肺炎を再発すると,治療再開している間に栄養低下が進むという悪循環に陥ります.
      • 胃ろう手術の時期も問題です.理想的には栄養の良い状態のときにするのが一番です.要するに,順調に経鼻経管栄養ができている,あるいはまだ少しは食事ができる時期にやっておけば良いのですが,ご家族の理解を得るのが困難です.
      • 多くの場合,,肺炎を繰り返すようになってやっと了解してもらえたものの,栄養状態が悪すぎて胃ろう手術ができないことになりがちです.

    痴呆(認知症)患者が誤嚥性肺炎を繰り返す場合の比較研究.
    • 自分で食事ができる方での検討です.
      @好きなように食べさせた.A食事を禁止して(経鼻・胃ろう)経管栄養をした.
      いずれの場合も平均余命3ヶ月であったとそうです.
      またいくつかの研究でも,胃ろう手術をしても誤嚥性肺炎を防ぐことができなかったという結論が出ております.
    次の章では,誤嚥性肺炎の説明書(私家版)について解説します
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