褥創のラップ療法入門(1)
08/07/02

 

ラップ療法OpWTとは、「傷を消毒をしない,抗菌薬を使わない,閉鎖しない,ガーゼを使わない,ドライドレッシング(ユーパスタ,カデックス)を使わない褥創の局所療法」です.

 

褥創のラップ療法を安全に行なうためのお願い.

  • 褥創のラップ療法は,褥創=慢性皮膚潰瘍の局所療法です. 
  • 筋肉や骨の壊死組織を取り除いてから,後療法としてラップ療法を行ってください.
  • 壊死組織の切除は,早めに行ってください.
  • ドレナージ目的です.壊死組織が柔らかくなったら,こまめに切除し,浸出液の流れる道を確保しましょう.

 

はじめに

  • 「あれ,褥創は治るんだ!」ラップ療法を初めて体験した方の率直な感想です.「研修会にも行った.学会にも参加した.高価なドレッシングや外用薬もいろいろ試した.体位変換もやった.栄養管理もした.それでも治らなかった褥創が,水で洗ってラップを貼るだけで治った.」
  • ラップ療法は,それほどに画期的な治療法です.「ラップで何故治るのか」を考えることから,新しい治療理論が誕生しました.それが開放性ウエットドレッシング療法です.

 

ラップ療法の10年の歩み

  • 1996年のこと,自治体病院に勤務する筆者は,褥創(最大径14−17Cm)が3ヶ所もある患者を前に,途方にくれていました.そのころすでに,消毒をしないで生理食塩水で洗い,フィルムドレッシング(オプサイトなど)を貼ると褥創が治ることを経験していました.しかしこんなに大きな褥創に使えるようなフィルムドレッシングは市販されておりません.当時評判になっていた商用ドレッシング(ハイドロコロイドやハイドロサイトなど)の健康保険で許される使用期間は,わずか3週間に制限されていました.
  • いろいろ考えた末(倫理上の問題もありましたが),3ヶ所ある褥創のうち1ヶ所に思い切って食品用ラップを貼ってみました.するとどうでしょう.創がどんどんきれいになっていくではありませんか.患者さんも傷の痛みを訴えなくなりました.創がだんだん小さくなってきたので残りの褥創も同じように治療してみました.結果は満足いくものでした.
  • 症例をまとめて,1997年に全国自治体病院学会(山形市)で発表しました.1999年には第1回日本褥瘡学会(東京都)で発表しました.反響はさまざまで,褥創治療の新しい治療法として受け入れる方がいる一方で,褥創の専門家からは,「新味の無い治療法」という受け止め方をされました.その後,ラップ療法は全国の病院,施設,在宅医療の現場で静かに広まっていきました.日本褥瘡学会でのラップ療法関連の発表は会を重ねる毎に増え,2005年の大会では,約20演題に達しました.そして,多くの方の創意工夫によりラップ療法は一層実用的なものになるだけではなく,開放性ウエットドレッシング療法という新しい治療概念にまで進化しております.
  • 2005年8月,「褥創治療の常識非常識」を三輪書店より上梓したところ大きな反響がありました.
  • 2006年は,ラップ療法10周年です.この節目の年に,ラップ療法が褥創の標準治療として日本の医療現場に受け入れられることを願ってやみません.

 

ラップ療法をはじめて試みる方へのお願い

  • ラップ療法は,効果の優れた治療法です.しかし,ラップ療法といえども治すことができない褥創があります.全身状態が悪く,余命が限られている患者さんの場合,『褥創だけ治る』というわけにはいきません.また,足にできた閉塞性動脈硬化症は褥創とよく似ているのですが,ラップ療法では治りません.治療法も異なり,重症化しやすく,ついには死に至ることが少なくありません.紛争をさけるためにも,医師の診断が必要です.
  • ラップ療法は,新しい考え方に基づく治療法です.従来の治療法になじんだ方にしてみれば,「消毒もしない,台所用品を使う,薬も使わない,本当に大丈夫なのか」と不安に駆られるのは当然のことです.勇気を奮ってはじめてみたところ,予想しなかった経過になったら,「これは失敗」とばかり,消毒・軟膏・ガーゼの治療に逆戻りしてしまう心配があります.そこで,「失敗しないラップ療法」を考えてみました.
  • 失敗!と思いがちな事例
    1. 浸出液が多くなる
    2. においがきつい
    3. 壊死組織が溶けて,どろどろした膿のようなものが出てくる
    4. デブリドマンしないまま治療したので,膿瘍を形成
    5. 創の周囲が赤くかぶれた…

 

失敗なしのラップ療法

  • 以下の方法で治療すれば,99%失敗はありません.
    1. 症例を選びます. 全身状態がよい,食事ができる患者さんを選びます.皮下脂肪が薄い,肺炎を繰り返すような方は,ラップ療法に習熟してから治療します.
    2. 部位を選択します.仙骨部や大転子の褥創を治療します.「ASOではない」ことが確実なら,足の褥創を治療してもいいでしょう.
    3. 赤色期の創を選択します.壊死組織がない,感染がない褥創を対象にします.
    4. ハイドロサイトやデュオアクテイブなどのウエットドレッシングを3週間使い,ある程度良くなってからラップ療法で治療します.商用ウエットドレッシングでうまく治療できた褥創は,赤色期の治癒傾向のある状態になっているはずです.
    5. 医療用フィルムを使います.医療用フィルム(オプサイトなど)を紙おむつに貼ると,ウエットドレッシングになります.浸出液はフィルムの周囲から漏れて紙おむつに吸収されますから,「開放性」です.これは,「衛生上の不安」を回避するためです.
    6. 生理食塩水で洗浄します.これも,「衛生上の不安」を回避する方法です.
    7. 除圧を確実にします.高機能エアマットを使います.踵の褥創の場合は,膝関節の拘縮を考慮してクッションをあてます.
    8. 創を下にする体位変換をしてはいけません.大転子の場合は,体位変換をしないほうが,確実に除圧できます.
    9. 説明と同意をします. 同意書の様式(例)を用意しました.

 

褥創の治療は医療行為です.かならず主治医の指示のもとで実施してください.

  • 褥創の治療は,説明と同意の上で行いましょう.
  • 食品用ラップなどの日用品の使用には,説明と同意が必要です.
  • 医療用のドレッシングを使う場合も,説明と同意が必要です.
  • 何例か治療して,「ラップ療法の治り方」が分かるようになったら,壊死組織のある創や感染のある創に挑戦してみてください.軟膏・ガーゼと全く違った治療経過が眼前にあらわれてくることでしょう.経験を積み重ねるにつれ,説得力が増してきます.水道水で洗うことや,台所用品を使うことに対する不安もなくなっていることでしょう.

 

ラップ療法は,誰でもできると聞いたのに?

  • いろいろ難しいことを書きましたが,ラップ療法は実のところそんなに難しい治療法ではありません.
  • 消毒・軟膏・ガーゼの治療経過を思い出してください.どんなに症例を選んでも,どんなにケアに細心の注意を払っても「失敗なしに」治療できなかったはずです.ラップ療法にも,「失敗」はあります.しかし,治療の「失敗」はラップ療法に限らず,従来の治療法にもあったはずです.
  • 同じ「失敗」でも,ラップ療法の場合は治療の経過が「見える」ため,誰にでも原因が分かります.患者さん・ご家族と一緒にラップ療法をすれば,「失敗」が治療のせいなのか,病気の経過のせいなのか,一緒に考えることができます.
  • ラップ療法は,見える治療法です.そして患者参加型の治療法です.コミュニケーションの欠けた治療関係が「紛争」の温床になります.
  • ラップ療法を機会に,分かりやすい高齢者医療を始めたいものです.

 

ラップ療法か,開放性ウエットドレッシング療法か

  • ラップ療法は,多くの方々の手で改良され,いまやラップを使わないラップ療法にまで進化しております.治療の基本的な考え方(プラスチックフィルムを用いたウエットドレッシング療法)は一貫して変わりませんが,もはや「ラップ療法」の一言でひとくくりにできないほど多様化しているので,このような新名称を提案しました.
  • 「開放性Open」の一語を付け加えたのは,「閉鎖療法(ODT)」との治療理論上の違いを明らかにするためです.いつの日かラップ慮法が標準治療として定着し,閉鎖療法という用語が歴史のかなたに消え去ってしまった暁には,簡単に「ウエットドレッシング療法(WDT)」と呼んでもいいでしょう.
  • 呼称については,ラップ療法のほうに個人的愛着があります.ラップには,包む(wrap)という意味があります.傷を優しく包んで治療するとうけとめてください.二つの名称は,商品名と学名の関係のようなものと考えてもいいでしょう.ラップ療法が「味の素」,開放性ウエットドレッシング療法が「化学調味料」に相当するとご理解ください.本サイトでは,特にお断りしない限り両者を区別しないで使います.

 

 

 

ラップ療法入門(2)へ続く

 

 

 

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