○ 蹴り方の基本
 鞠庭に入るにも作法があり、鞠を蹴る時もその姿勢がきわめて大切であ
る。即ち、腰や膝を曲げることなく、足の高さも足裏の見えない程度に上
げ、総て端正優雅の趣がなければならない。
 鞠の蹴り方は、地面に落ちるまでをよく見通して、右・左・右の足の運
びの三挙動目に合わせ、鞠の落ちる地上寸前において足の甲に当て、蹴り
上げるもので、その要領は鼓を打つ手拍子のようでないと、爽やかな音が
出ないものである。動作は総てすり足で行い、ちょうど水鳥が水面を滑り
泳ぐかのように動くよう、そして上半身は動かさないことになっている。
この基本姿勢と動作の習得には、『吊り鞠と言って、軒から吊るした鞠を
蹴って練習をする。昔は「吊り鞠3年」と言って、基本ができないあいだ
は鞠庭に出してはもらえぬものであった。      」
 鞠を蹴る高さは、およそ身丈の2.5倍(約4メートル)が限度とされてい
て、あまり高い鞠は受け鞠が大変難しいので良くないとされている。鞠を
蹴る配分は『軒』が責任を持って−座の鞠足によく行き渡るよう配慮する。
また、鞠が自分の領域に来た時は、3足で蹴るのを定法とする。先ず、よ
そから来た鞠を受け止める『受け鞠、次いで自分の鞠を蹴り上げて、3度
目に他に渡す鞠を蹴る。これが3足である。
 鞠を蹴る時の掛け声には、「アリ」「ヤア」「オウ」の3声がある。これは
「マリヤ−、マリ」とか、相手の蹴る意志を問う「アリヤ、ナシヤ」などの
意味あいのものでは無く、前に述べた鞠の三柱の御神名「春陽花=ヤウ」
「夏安林=アリ」「桃園=オウ」であって、鞠庭の隅の式木にこ
の神々が御宿りになるので、その御名を称えながら蹴るわけである。掛け
声の長短・抑揚によって鞠の受け渡しに正確を期し、鞠を奪い合ったり、
互いに遠慮したために受け損じる事の無いようにする。 
 蹴られた鞠の状態は、その速さ・高さ・方向・回転により干差万別であ
って、これを瞬間の判断によって、手を使うことなく身体の正面で作法通
り蹴り止めることはたやすいものではない。鞠を地面に落とすことなく、
次から次へと蹴り続けるためには、長年の修練が必要なことは言うまでも
無く、また一座の鞠足の間にも呼吸が緊密に一致しないと、長く蹴り続け
る事はできない。 
 傍から見ているといかにもたやすく思われがちだが、実際に鞠を足に懸
けてみる時、予想外にその難しさが分かるものである。鞠の高さ・回転・
音と3拍子揃った良い鞠を蹴り上げた時の喜びというものは、まこと筆舌
に尽くしがたく、いわゆる無我三昧の境に達するものである。また、非常
に難しい鞠を、周到な用意と努力によって蹴り止めた時の楽しさは文字通
り胱惚の境地であり、これは、体験してみなければ判らないものなので
ある。