登録有形文化財の趣きを生かしながらたゆまざる努力を

向瀧(福島県・会津 東山温泉)
 2005/11  2泊

会津白虎隊の里、その昔天平年間(729〜749)に発見された温泉として発祥し、会津藩の指定保養所として「きつね湯」が存在、そして明治時代に創業という歴史ある宿。その後数多くのVIPなどによって利用された来た風格ある建物は、職人の技の集大成、平成8年に国の登録有形文化財に指定されました。「向瀧」はそんな一見重々しい歴史と由来をもつ宿ですが、泊まってみて、アイデアと努力に頭が下がる思い。その自ら持つよさを生かしながら、快適な滞在を求める人々へ語りかける、そんなひとときを私たちに提供してくれました。

会津市街から車でわずか10分ほどの地、湯川渓流を臨むこの閑静な地、東山温泉。「向瀧」はそんな場所の比較的入口近くに位置します。会津武家屋敷の通りを過ぎて奥にはいっていくと、湯川を渡る橋と昔ながらの和風建築の建物が見えてきます。江戸時代から風格のある建物に、入口は比較的小ぢんまりとした感じ。橋を渡ってやどの前に車をつけるや否や、ハッピを着た宿の方が駆け寄り、暖かく迎えてくださいました。

「帳場」といった旅籠の風情の玄関をあがると、ぴかぴかに磨かれた廊下と階段へ。宿は庭園を囲んで斜面に建てられており、何度か増築されたこともあって、かなりのアップダウンの多いつくり。部屋へ案内される間、廊下を曲がり、階段も上り下りあり・・・ずっと奥まで行くと、ようやく私たちの予約した「竹の間」に到着しました。予約の時点でこの宿自慢の庭を望む部屋は満室で、そのかわり部屋に源泉かけ流しのお風呂が付いているというこの竹の間を選んだのでした。連泊ということもあり、昼間もお風呂にはいれるこの部屋でのんびりしようと。

「竹の間」は数寄屋造りで入口に3畳の前室と8畳の本間、そして角部屋のため8畳間の2辺に回廊があります。板の間の回廊にレトロな椅子2客とテーブルがあり、ここから東山の山並みが見られます。大変残念なのが、バブル全盛期に増築したという別館の外壁が直ぐ眼下にはいってしまい、眺めの半分はちょっとさえないことです。でも山並み側を眺めは、ほっと落ち着くのんびりした風景です。部屋の真ん中にはテーブルと座卓ですが、冬になるとこれがコタツとなります。部屋付きのお風呂は露天風呂ではありません。かなり小さい浴室で、窓も小さく、北側につけたしたようなユニークなつくり。かけ流しの蛇口はほんとうにすごくて、湯の花がびっしりと付着した状態。熱いので蛇口を止めようかと思ったりするのですが、何でも湯量がたいへん多いので、止めないでほしいとのこと。とても贅沢なんです。継ぎ足しの建物の横にはトイレもついています。もともとに建物が相当古いせいもあるのでしょうか、継ぎ足しで建てたつなぎの部分はやや朽ちたりしていて、やはり古めかしさが否めません。このトイレ、お風呂の部分もそういった感じです。それでもトイレは2005年にウォッシュレットに改築し、部屋には暖房をかなりしっかり入れるなど、古い伝統を守りながらも、快適な滞在への配慮を怠りません。HPの頻繁な更新、FreeSpotの無線LANをとりいれるなど、宿は常にお客様の要望への取り組みを模索しているようです。

この宿の特徴は、各部屋の名前にある通り、そのテーマにちなんだ建築の巧みが施されていることです。私たちの泊まった竹の間は、その名のごとく「竹」がテーマ。床の間の掛け軸、床柱、天井、ふすまの引き戸の取っ手まで、職人の技が見事に実現した竹材での芸術品が部屋中に施されています。そしてなんと、この部屋に竹久夢二の書の額物があることです。彼の掛け軸というのはかなりあるそうですが、額物は珍しいよう。8畳といいながら、前室、回廊、床の間などのスペースで、かなりゆったり感じられました。そして、階段やトイレ、ちょっとした柱なども実はすばらしい芸術品で、建築に明るい方なら興味がつきないといったほどです。

この宿はインターネットでの予約のみ部屋が指定できるというユニークなシステムがあります(電話予約ではだめなんです)。そのため、私の場合は部屋の様子を確認するために事前に電話で相談し、最終的にインターネットで予約したという段取りでした。(その他インターネット予約のみの特典として、お土産等がつき、4種類ほど選べるのでリピーターにもOKです。)行ってみて、確かに選ぶ部屋によってかなり滞在の印象が変わるなと思いました。眺めは庭側でも三方から見える景色でずいぶん趣がかわります。山側はまた違った風情。階段が多く、お風呂に行くにも場所によりかなり時間がかかるため、お風呂に近いという利便を取る人もいるわけです。その分眺めがちょっとというところもありますし。宿は電話のときから非常に対応がよく、宿泊時も到着から部屋係の方までてきぱきと好印象で、とても気持ちよくすごせました。若い方が、一生懸命なだけでなく、柔軟に対応できる物腰の柔らかさがとても印象的でした。食事の際に思わず心づけをお渡ししましたら、なんと帰りにお土産が渡され、宿全体でわけているのだということがわかりましたが。

ここのお風呂は、昔ながらのタイルを敷き詰めたスタイルの浴室で、熱湯の「きつね湯」とぬる湯の「さるの湯」に分かれます(それぞれが男女別湯船あり)。どちらも源泉かけ流しの完全放流式。さらりとしており、ふんだんに流されるお湯が楽しめます。「きつね湯」は44-45度のかなり熱めで、洗い場はこぢんまり。高窓のため眺めはありません。一方「さるの湯」は大理石で作られた浴槽に、庭を眺められるゆったりしたつくり。お湯はややぬる目の42-43度。実は写真などでよく紹介される壁の彫刻は男性のお風呂のほうにのみあり、女性の私はちょぴり残念でした。両方とも脱衣場は清潔に保たれていますが、古さを否めず、水道蛇口も1箇所で特にアメニティはありません。おしゃれな旅館の設備を想像するとがっかりかもしれませんが、昔ながらなお風呂を純粋に楽しむといった感じでしょうか。さらに、3箇所の家族風呂もあり、こちらはきつね湯並みのかなり熱いお湯が滔々と流れています。天井にはお風呂の名前の通り、テーマの蔦、瓢、鈴が模してあり、ここにも建築の粋を感じます。

大変なのはこんなに立地の宿にもかかわらず、ここは全室部屋食なのです。仲居さんは、ころあいを見て1〜2品ずつ運び込んでくださるという配慮まであり、相当な重労働です。にもかかわらず・・・感激したのは、熱いもの、冷たいものがきちっとその状態で供されたことです。これはとても大切なことなのですが、この環境に甘んじず努力をしている宿やスタッフの皆さんの姿勢には頭が下がります。食事の内容は会津の地のものを食べさせようという気持ちのこもった素朴なメニュー。山の素材が中心で、無理に海の幸を押し付けるようなことをしません。その中のひとつ、こちらの名物の「鯉の甘煮」。正直、最初は田舎料理のどかーんとしたのが出てくるだけでたいしたことがなかろうと軽くみていたのです。これがけっこういけるのでびっくりしました。臭みがなく、まろやかな醤油と甘みが鯉にとてもマッチしているのです。ただ量が多いので、1つは持ち帰りにしていただきました。会津の地鶏もうまみがあって良かったですね。あとで街中で地鶏を買って帰りました。ルームサービスでいただけるソフトクリームもなかなかおいしくて、湯上りにヒットでした。そして、野口英世博士の墨書「美酒佳肴」(びしゅかこう)にちなんだ向瀧限定の日本酒、これがまろやかなお味で、ついお酒がすすんでしまいました。

宿のある東山温泉街は、残念なながらかなりさびれており、店も人もまばらでした。来る人たちは直ぐ近くの会津市内に出かけてしまうのでしょう。温泉街らしい散歩もしてみたいなと思っていた私たちにはちょっと残念でしたが、立地上止む得ないのかなと思いました。宿の庭を散策するのはなかなか楽しくて、小ぢんまりの中にも季節感を肌で感じました。紅葉がもう少しといったところで、秋のシンと冷える朝、池の周りは澄んだ空気がとても気持ちよかったです。春は桜、冬は雪見灯篭など、宿らしい工夫を凝らしながら季節感を感じられる演出をしているようです。

この宿は貴賓室があり、庭の奥に離れが一棟立っています(玄関から廊下でつながっています)。続き間のゆったりしたつくりに専用風呂、回廊からはすばらしい庭を満喫できます。その昔から「宮内庁指定棟、各皇族の方がお泊りの御殿」という由緒ある部屋。うーん、この部屋泊まってみたいなと思いましたが、御値段もそれなり(笑)。外から眺めるばかりでした。

会津には何度か立ち寄ったことがありましたが、東山温泉は初めて。街を楽しんだあとにゆったりすごす宿として、ちょっぴりタイムスリップした老舗のレトロな雰囲気を味わいながら、のんびりと庭を眺める滞在にお勧めです。宿の誠意あるおもてなし、そしてたゆまざる改善の努力・・・古い宿にありがちな押し付けがなく、大変好印象でした。機会があれば、あのすばらしい庭を堪能すべく、桜や雪見灯篭の季節に来てみたいなと思いました。


データ: 福島県会津若松市東山町大字湯本川向200

TEL: 0242-27-7501  FAX: 0242-28-0939  email: ryokan@mukaitaki.com
客室: 膳4室(和室)
お風呂: きつね湯、さるの湯それぞれ男女1つずつ、家族風呂3つ
アクセス: 磐越道会津若松ICより約7Km 、15分。JR磐越西線 会津若松駅からタクシー約15分

(左)宿の入口、帳場
(下)やどの廊下や階段
竹の間の様子
部屋からの眺め
(左)竹の間の天井
竹久夢二の額
(右)竹の間の浴室とトイレ
(左)宿の廊下の会津塗り展示と
温泉認定証
(右)家族風呂
(左)きつね湯
(下)さるの湯
(左)自慢の庭

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