アデナンセラ・パボニナ
Adenanthera pavonina Linn. (1753)
科 名 : ジャケツイバラ科 Caesalpiniaceae
属 名 : アデナンセラ属
Adenanthera Royen ex. Linn. (1737)
和 名 : ナンバンアカアズキ
現地名 : Saga (シンガポール植物園)
中国名 : 海紅豆 Hai hong dou
台湾名 : 孔雀豆
原産地 : 中東から東南アジア、マレーシア
用 途 : 観賞用、装身具に加工
 
撮影地 :
ガイアナ協同共和国 、 シンガポール

南米ガイアナの首都ジョージ・タウンの植物園で初めて見たこの豆科植物。 「赤い実」の植物は世界にごまんとあるが、この赤いタネ!!。

艶々と美しく思わず拾い集めて持ち帰ったが、頼りにする2冊の植物事典には載っておらず、長い間名前がわからなかった。

モザンビークの出張の帰りがけに寄ることができたシンガポール植物園に大木があり、ようやく学名が判明した。
 
持ち帰った種子
この色! この艶! 大きさは7~9mmで、小さな蜆貝(シジミガイ)のような形である。  世界一美しい種(タネ)であること 間違いなし。
 
ガイアナの木 シンガポールの木

2005年11月

2007年8月
 
ガイアナの植物園では優雅な橋の架かった池の縁に立っていた。
幹の太さはせいぜい 40cm程度。
 
シンガポール植物園のものは、園内に11本ある遺産樹木 (Heritage trees) のひとつである。
 
じつはこの木を危なく見過ごすところであった。 
 
朝から暑い中、広い植物園を歩き回って熱射病気味になり、もう帰ろうと一度はこの木の前を通り過ぎてしまったのである。 
出口に向かってかなり歩いたところで、待てよ、と考え直した。 今度いつ来られるかわからない植物園なのだから一応は見ておこう、と戻ってみたらこの「赤い種子」!
頭が痛くて感激は今一つだったが、大収穫であった。

皆が種を持ち帰るためか、少し探したが2個しか落ちていなかった。

そのあとで出かけたドミニカ共和国では、皆の関心がないらしく、いやというほど落ちていた。
 
枝の太いこと! 板根状になっている


幹の太さは 70cmぐらい。高さはそれほどではなかった。

右の写真、根の影を見ると 夕日が傾いているのがわかる。

 
シンガポール植物園のホームページの解説では、
亜高木で20mぐらいになる。丸いが不規則に広がる樹冠をもつ。じょうぶで成長が早い。落葉樹で完全に落葉してむき出しの樹冠となる。
花は小さく星の形をしており、房状となる。色は淡いクリーム・イエローからオレンジ色で芳香がある。花は年に二回咲く。
種子は通常鮮やかな赤色で艶があり、ハート型に近い。その重さは均一である。
とある。
 
上記「花の形は星型」の記述から、クロンキストの分類による「ジャケツイバラ科」であると判断した。

いったいどんな花が咲くのかと、ハワイ大学の Carr 教授のホームページを見てみると、ちゃんとありました。
 
ハワイ大学のアデナンセラ Copyright : Dr. Gerald Carr

 

 
この3枚の写真ⒸDr. Gerald Car
ジャケツイバラの花とはずい分違う、まさに「星型」の花である。
葉と較べると、花の大きさは極めて小さい。
黄色い「スターダスト」だ。
 
ガイアナの樹上の実

 
同じく 落下した莢の状態
2枚の写真とも、複数の莢が写っているのでわかりにくいが、白い色は果実 (いわゆる豆果) の皮の内側で、裂けた心皮が反り返って螺旋状に丸まるので、このような状態となる。 豆果の表面はこげ茶色。

各くぼみに種子が収まっていたわけであるが、ひとつ前の写真のように、成熟すると樹上で裂開するため、落下した時には赤い種子はほとんど離れ落ちてしまっている。
 
 
名前の由来 Adenanthera pavonina
 
和 名 ベニクジャク (仮名) :
赤いタネと学名の種小名の意味、孔雀から。
ナンバンアスアズキ 南蛮赤小豆 : 種子の色から
南方の植物で、種子の色が小豆よりも赤く美しいため。
 
種小名 pavonina : 孔雀の という意味
動物園でよく見かける「インドクジャク」 Pabo cristatus などの羽の色は緑と青である。
「赤い種子」そのものを青い孔雀と表現するのはおかしいので、由来は別のところにあると思う。


インドクジャク
 
Wikipedia より

学名の出典となっているリンネの『植物の種』 (1753) 384ページを見ると、Adenanthera属の記載は本種1種のみである。
そこには参考文献が5件あげられている。
 
ラテン語を訳してみると、
① ADENANTHERA属、葉は複葉:
    ロイエン著『ライデン植物園誌』(1740) 462ページ、
    リンネ著『クリフォード氏庭園誌』(1737) 36ページ、
    リンネ著『セイロン植物誌』(1747) 160ページ
② Poinciana属、葉は二重の羽状、小葉は互生:
    リンネ著『クリフォード氏植物園誌』(1737) 158ページ
③ Mandsiadi、リード著『マラバリア植物誌』 625ページ

インド原産、木本。
 
植物の特徴に関する記述内容は極めて短く、豆類全般に共通の複葉のことしか書かれていなくて、赤い実のことは見あたらず、参考にならない。

そこで私なりに、孔雀が付けられた由来を考えてみると...、

1) 赤い実が散りばめられた「丸い樹冠」を、オスの孔雀が広げた尾に見立てた。(ガイアナの木 参照)
 
2) こげ茶色のサヤが弾けると、真っ赤な種子が現れる。この驚きと感激をクジャクが尾を広げた時のすばらしさに例えた。
 
といったところであろうか。
 
Adenanthera アデナンセラ属 :
『植物の種』の参考文献① にあるように、アデナンセラの名前は、リンネと同世代であるロイエン (1704-1779) が名付けていたもので、リンネが『植物の属』(1737) に記載したものである。
 
aden (腺の) と anthera (葯) の合成語であるが、どこの「腺」のことを指しているのか、「葯」はどういう関係にあるのか、それとも葯に腺があるのか、不明である。
「腺を持つ花が咲く」という意味かも知れない。
 
ちなみに「adenoid アデノイド」は扁桃腺であり、「扁桃」はアーモンドの中国名である。
 
また Adena あるいは Adeno ではじまる属名がいくつかあり、種小名は数え切れないほどある。 adenanthera という種小名の植物も数種あるようだ。
 
シンガポール現地名 Saga
シンガポール植物園の木の前に「遺産樹木」の解説パネルがあり、ホームページの解説とは違うものであった。
Sagaの木はその輝く赤い種子でよく知られている。中東から東南アジアまで、その種子は重さの標準として使われたといわれている。「Saga」の名称は、かつてこの種子が金の重さを量るのに用いられていたために、金細工職人が使うアラビア語に由来するものと思われる。
 
この説明では、Saga の意味や由来がわからない。
 
また、きれいな種子に難癖を付けるようで申し訳ないが、私が拾ってきた種子は、一瞥しただけで大きさ(重さ)のバラツキがあることが分かる。
そんなものが、高価な「金」を量る標準器として本当に使われていたかどうかも疑われる。
 
そこでさらに、植物園の売店で買った文献、『Trees of Our Garden City』というシンガポール植物園出版のガイドブックの「用途」の部分の解説を見ると
用途:
比較的 重さやサイズが均一であるため、Sagaの種は過去に、金や銀を量るための「重り」として使われた。現在でもこの輝く赤い種子は、数珠やネックレス、装飾品を作るために集められる。
また種は炒って食べることができ、大豆のような味がするといわれている。
時に「赤白檀」として知られる硬く赤みがかった材は、緻密で均一な木目を持ち、高級家具・住宅建築・家具・装飾的な木製品を作るのに役立っている。また燃料材としても有用で、粉末にすると赤の染料となる。
 
成長の早さと広がる樹冠のために、Sagaは公園や広い庭園の緑陰樹や鑑賞樹に適している。しかし強風の被害を受けやすく、年を経ると樹形が乱れて、大量の落ち葉を撒き散らすため、街路樹や個人庭園には不向きである。
 
用途の項目であるために、ここにも Saga の名称の解説はない。
 
分銅としての役割は、1個ではなく、何個かで金どれだけ、というように用いられたものと思われる。
 
「落ち葉」の問題は、Sagaの成長が速く、6~8か月に一度、つまり年2回 葉を落とすことによる。
 
ジャケツイバラ科  Caesalpiniaceae
カエサルピニアは、ローマ法王クレメンス8世(在位1592 - 1605) の侍医で植物学者の、チェザルピーノ (A. Cesalpino ラテン語の綴り Caesalpinus) を記念している。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎、
        Species Plantarum 復刻版/植物文献刊行会、
        リンネとその使途たち/西村三郎、
        Trees of Our Garden City/National Parks Board、
        云南天然植物図鑑/云南科技出版社、
        台灣賞樹情報/張 碧員 ほか
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