パンスペルミア説

近年の話題

大気圏外からの生物
 2001年7月 地球の生命は宇宙に由来するとするパンスペルミア説を支持する研究者たちが、地球大気圏の上層部に生命体が存在することを示す最新の調査結果を発表しました。
 この報告書は、カリフォルニア州サンディエゴで7月30日に開催された『光工学国際学会』に提出されたもので、地表から41キロメートルの成層圏から大気のサンプルを採取し、そこから生きた細胞の集まりを取り出したというのです。

 プロジェクトを率いるチャンドラ・ウィックラマシンゲ教授(Chandra Wickrama Singhe イギリス、カーディフ大学)は、今回の調査結果を「地球外の微生物」が飛来した証拠だと主張しています。

 「論証に間違いがなければ、これは完璧な証拠だ。すなわち、われわれは宇宙で生まれた生物だということだ」とウィクラマシンゲ教授は語りました。今回の発見は、地球の生命の進化に関する今後の研究に重大な影響を与えるものだと教授は確信しています。教授の説明では、サンプルを採取した高度にまで地表近くの空気が達することは通常不可能であり、見つかった微生物が宇宙から来たに違いないと判断できる論拠の一つになるといいます。

火星の生命
 1996年 ジョンソン宇宙センターとスタンフォード大学の研究グループは、火星から飛来した隕石中に生命の痕跡らしきものを発見したと発表しました。この隕石はALH84001とよばれ、1984年 南極で発見されたものです。
 研究チームは 隕石が36億年前の火星でつくられ、1500万年前に火星から飛び出し(火星に落下した物体によって飛び散った)13000年前に南極に落下したものであると推定しました。この隕石が火星起源であることは、成分がバイキングの調査した火星の物質と似ていたことからわかったのです。
 この説はいったん生物化石ではないという意見が多数を占めたものの、その後 やはり生命の痕跡ではないかという分析結果が出たりするなどいまだに決着はついていません。しかし隕石を介して地球と火星のあいだを生命が移動することができるかもしれないという可能性を与えてくれました。またこれは太陽系全体についてもあてはまります。

地下生命圏
 最近「地下生命圏」という言葉を耳にします。地下数十キロメートルの高温・高圧の岩石の割れ目にもバクテリア様生物が存在していることが明らかになってきました。その量は地表で見ることのできる生物以上らしいこともわかってきました。化石燃料である石油の起源を地下生物に求める研究者もいます。そうなれば石油は現在も作られていて埋蔵量は無尽蔵ということになります。
 太陽エネルギーに頼らない生物圏の存在は、恒星間移動をする彗星のような天体の内部で生命が活発に活動できる可能性を示唆しています。また地表には生物の存在を示さない火星にも地下生物圏が存在する可能性を否定できません。

その歴史

 「パンスペルミア説」とは一般に「地球の生命は宇宙に由来する」という考え方であるとされています。パンスペルミアの考え方は18世紀末(1787)アッペ・ラザロ・スパランツァニ(Lazzaro Spallanzani 1729〜1799)の説が最初だと考えられています。スパランツァニは肉汁を加熱して容器を密封すれば容器内に微生物が発生しないことを証明して、生物の自然発生説を否定した人物です。ただし当時のパンスペルミアは現在のものと異なり、「大気中のどこにでも微生物は存在する」という考え方でした。
 現在の意味の「パンスペルミア」という言葉を考え出したのはスウェーデンのノーベル化学賞学者のアレニウス(Arrhenius,Svante August 1859〜1927)です。地球の生命の起源は地球ではなくどこか他の天体で発生した微生物の胞子が地球に降り立ったというものです。

 その後 オパーリン(Oparin,Aleksandr Ivanovich 1894年〜1980年)が1922年に生命の起源に関して化学進化の一段階としたコアセルベート説を提出し、生物学者・生化学者に強い影響を与えました。最初の生命体は無酸素状態で生育した有機栄養生物であるという考え方で、今日の生命の起源説の基礎をつくりました。以後の生命起源説はすべて 化学進化によってできた周囲の有機物を取り込み自己修復・分裂できる分子膜のようなものから始まったとされていますし、今日 一般に「ありそうな説」として受け入れられています。
 生命は地球で誕生し、独自に進化する様子をその原動力を含めて「ネオダーウィニズム」といいます。生物は地球という環境の中で誕生したと考えられているので、当然DNAなどの遺伝子は地球生命独自のもので、もし他の天体に生命が発見されても それはたとえ形は似ていても地球の生命とは違うシステムで生命活動をしていると予想されます。トンボの羽根と鳥の翼はまったく異なる起源を持ちますが、空を飛ぶという目的にかなった形をしているため、よく似た形をしています。また魚とイルカはまったく異なる生き物ですが海中を速く泳ぐため流線型の似た体型をしています。他の天体の生命も地球の生命と形は似ている可能性はありますが、その進化の方法は地球とは異なったものに違いありません。

ホイルとウィックラマシンゲ

 ところがパンスペルミア説を受けいれると、地球の生命は宇宙に満ちている生命がたまたま地球に到達して、そこで独自に進化したものと考えますから、他の天体にも生命が存在する可能性が高く、もし他の天体で生命が発見された場合、その生命の基本構造は地球の生物と同じか少なくとも似通っていると考えられます。
 20世紀後半におけるパンスペルミア説の旗手はフレッド・ホイル(Fred Hoyle 1915-2001 写真)とその弟子のチャンドラ・ウィックラマシンゲ(Chandra Wickrama Singhe 1939-)です。
 ホイルは人間原理を適応して核融合反応における炭素の生成理論の予言をしたり、ビッグバンを否定する定常宇宙論を論じたり、またSF作家としても著名な物理学者でイギリスではサーの称号を与えられていた人です。またウィックラマシンゲはスリランカ出身の物理学者です。彼らの考え方では、宇宙の年齢は現在考えられているより遙かに古く、他の惑星または分子雲内で生まれた生命が長時間をかけて彗星などの移動天体に載り地球に飛来したというものです。
彼らの主張は、
 ● 星間物質のスペクトルがバクテリア(大腸菌など)と酷似していること。
 ● 病気の流行周期が媒介動物を介さず、大気圏外からもたらされた病原体が下降気流に乗って地上に到達すること。
 ● 一部の病原体(インフルエンザウイルスなど)とその流行周期が、周期彗星の回帰周期と似通っていること。
 ● 大彗星の接近と、新しい疫病の発生に関連がみられること。

などで、を挙げています。状況証拠ばかりですが、実際に彗星探査機がサンプルを地上に持ち帰らないと完全に否定することもできません。
図はイギリスの百日咳の流行曲線ですが、エンケ彗星の回帰周期3.3年と同じだと述べています。エンケ彗星は過去の大型彗星が分裂して現在のものになったようで、残りの破片はおうし座流星物質として毎年6月下旬と10月中旬に地球に接近します。ツングースカの爆発もおうし座流星物質の一部ではないかと考える学者もいます。彼らによると流星物質のなかに病原体となるバクテリアが混入しているというのです。以前は昆虫などの大型多細胞生物ですら隕石中に存在するというような考え方を出していたようですが、現在はそのような主張はしていないようです。
 

現状と将来

 科学における「オッカムのカミソリ」という考え方は「より単純な説明のほうが真実である」とされています。どこかわからない宇宙空間でどのようにして発生したかわからないバクテリアが飛来し地球大気上空で採取されたと考えるより、火山爆発などで上空に押し上げられた地球のバクテリアが採取されたと考える方が合理的なのです。
 しかしパンスペルミアが魅力的な学説であることも事実です。生命は宇宙全体に広がっていて地球人は孤独ではないという可能性が高くなるからです。火星やエウロパだけでなく太陽系の多くの天体に生命が宿り、他の恒星系にも知的生命がいるかもしれないことは、希望を与えてくれます。
 パンスペルミア説の旗手ホイルは2001年に死去しましたが、パンスペルミア説は生命起源説とネオダーウィニズム(ダーウィン流進化説)に対するアンチテーゼとして将来も存続することは確実でしょう。
 1999年に発射された彗星探査機スターダストは2004年にビルト2彗星に接近しそのサンプルを地球に持ち帰ることになっています。彗星のなかに本当に細菌がいるのかどうか2006年にはわかります。その時が待ち遠しいものです。

関連サイト

COSMIC ANCESTRY 宇宙生命の起源についてのページ


2003.04.27


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