恵方と寿司屋
 私の住む大阪には奇妙な風習があります。毎年節分の日に定められた恵方(えほう)を向いて無言で巻きずしを丸かぶりするというものです。最近では全国的な習俗として広まってきたようで節分いはコンビニに多くの巻きずしが並んでいます。
 恵方とは何か? またなぜ寿司を食べるのか? 調べてみることにしました。なお私は京都と奈良の境目あたりの山村の出身で大阪・京都への通勤者も多く完全な関西文化圏に育ったのですが、この風習を知ったのは1980年、大阪出身の妻と結婚してからです。
 科学の発達した現代といいながら、今なおこのような迷信が信じられているのですが、まあ気休めとしては良いのかも知れませんが盲信するとろくなことになりません。
 恵方が非科学なのは明らかです。科学には普遍性があります。根拠があっていつでもどこでも、また普通ではありえないような極端な条件でも成り立つものがより正しい考え方というわけです。北極点にいる人はどちらを向いても南ばかりで、恵方と言われてもねぇ・・・

恵方(えほう)

 恵方は「明けの方(あきのかた)」ともいいます。その年の歳徳神(としとくじん)のいる方向をいいます。古くは正月の神の来臨する方向を指していたのですが、九星術が流行してから現在のような意味になりました。その方位とは

  甲・己の年 甲(寅卯の間)の方位(東微北)
  乙・庚の年 庚(申酉の間)の方位(西微南)
  丙・辛の年 丙(巳午の間)の方位(南微東)
  丁・壬の年 壬(亥子の間)の方位(北微西)
  戊・癸の年 丙(巳午の間)の方位(南微東)

で、その年の十干(じっかん)で決まります。十干は甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・壬・癸(こう おつ へい てい ぼ き こう しん じん き)の順で循環していて、これを十二支と組み合わせて六十干支(ろくっじっかんし)を作っています。つまり60年で一周するので還暦というわけですね。
 2003年は癸未(みずのと・ひつじ)年ですから、節分の恵方は丙の方角 すなわち南微東となります。節分に寿司を買うと恵方は南南東と書いてありますが図のように真南から15度ばかり東の方を向くのが正解です。
 恵方はすべてのことに大吉で、特に本命星と恵方が同一である場合はさらに吉というわけです。本命星(ほんみょうしょう)とはその人の生まれた年に中宮にあった星のことで下で詳しく述べます。
 ではなぜ4つの方角が恵方なのかというと科学的な根拠はありませんから迷信です。

歳徳神(としとくじん)

 どの暦本にも最初のページに美しい姫神として描かれます。これが歳徳神で下に「あきの方よろず吉」と書いてあります。歳徳神の由来については多くの説があります。須佐之男神(=素戔嗚尊 すさのおのみこと)の妃・櫛稲田姫(くしなだひめ)という説は『内伝』(ほき)に「歳徳頗梨采女也、八将神母也、容顔美麗忍辱慈之躰也」とあるのが根拠ですが、異論もあるようで頗梨采女(はりさいじょ)は牛頭天皇の后とも伝えられています。  いずれにせよ「魔訶陀国(印度)から南海の沙竭羅と呼ばれる竜宮に住む竜王の三女で、頗梨釆女と呼ばれ、「容貌は美麗で、忍辱と慈悲を体現している。」という意味の内容です。
 歳徳神はなににつけても神秘的な作用をおよぼすとされ、歳徳神のいる方位を選んで家屋の建築・造作・結婚・移転・取引などをおこなえばすべて吉とされます。

九星と方位

 九星とは人間の運勢や吉凶の判断に用いられる九つの星のことで、実際の星とは無関係なものです。市販の暦には必ず木・火・土・金・水の五行を配していて、一人一人の生年月日によって吉凶をが別々であるので一種の占星術になっています。  一白水星生まれの人は坎宮からスタートして 坎→ 坤→ 震→ 巽→ 中→ 乾→ 兌→ 艮→ 離 の順で循環していきます。その人の九星が中宮にあるとき本命星(ほんみょうしょう)といいます。この順番がどのようにして決められたかは西洋の魔法陣とおなじ規則に従っていますが、ここでは詳しく述べません。ではその規則はどうやって決めたのかといえば、中国の伝説で神亀の紋様「河図」とか「洛書」に記されているというのみでもちろん科学的根拠などあろうはずもありません。
 枠の数字を縦横斜めに加えると15になるので魔法陣と呼ばれています。

  一白水星(いっぱくすいせい) 坎宮(かん)
  二黒土星(じこくどせい) 坤宮(こん)
  三碧木星(さんぺきもくせい) 震宮(しん)
  四緑木星(しろくもくせい) 巽宮(せん)
  五黄土星(ごおうどせい) 中宮(ちゅう)
  六白金星(ろっぱくきんせい) 乾宮(かん)
  七赤金星(しちせききんせい) 兌宮(だ)
  八白土星(はっぱくどせい) 艮宮(ごん)
  九紫火星(きゅうしかせい) 離宮(り)

寿司屋の陰謀説

   さて恵方のことは少し分かったのですが、なんで寿司をまるかぶりするのでしょうか。普通に考えればバレンタインデーのチョコレートをまねた寿司屋の陰謀ということになるのですが、実際のところどうなのでしょう?
 調べてみると、大正の初め、大阪花街でお新香の漬けかかる節分の時期にお新香を巻いた海苔巻を恵方に向かって食べるという風習がありました。その後昭和23、4年頃(1948〜9)海苔の消費拡大のため関西の寿司屋と海苔業者が組んで考え出したのが現在の習俗のようです。太巻きに変わったのもこの頃で、「福を巻く 切ると福がこぼれる」ということで丸かぶりとなったようです。また寿司に巻く具が7種類で七福神を示すなどというこじつけもあるようです。

これからの恵方

   2003年から10年間の恵方を書いておきます。十干で循環しますから2013年は元に戻ります。

2003年 癸未(水の弟)  丙(巳午の間)の方位(南微東)
2004年 甲申(木の兄)  甲(寅卯の間)の方位(東微北)
2005年 乙酉(木の弟)  庚(申酉の間)の方位(西微南)
2006年 丙戌(火の兄)  丙(巳午の間)の方位(南微東)
2007年 丁亥(火の弟)  壬(亥子の間)の方位(北微西)
2008年 戊子(土の兄)  丙(巳午の間)の方位(南微東)
2009年 己丑(土の弟)  甲(寅卯の間)の方位(東微北)
2010年 庚寅(金の兄)  庚(申酉の間)の方位(西微南)
2011年 辛卯(金の弟)  丙(巳午の間)の方位(南微東)
2012年 壬辰(水の兄)  壬(亥子の間)の方位(北微西)

まあ九星・八卦・暦注・占星術など暦は迷信と非科学の宝庫です。寿司でも食べながらゆっくり非科学を楽しみましょう。

関連サイト

おこよみ焼き いろいろな暦に関する内容豊富なサイト
八坂神社 京都八坂神社 歳徳神に関する記事があります
こよみのページ ここも暦に関する内容豊富、日食シミュレーションもあります

2003.01.02

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