星の距離を測る
「星の質問箱」への質問のなかで、「星までの距離はどうやって測るのか?」という質問が何件かありましたので、簡単にまとめることにしました。
 夜空に見える天体までの距離はどのように測るのでしょう。日食のときは太陽が月に隠されるので太陽は月より遠いと考えられます。また惑星が月に隠されることもしばしばおこり、惑星も月より遠いことがわかります。17世紀初めにはケプラーが惑星間の相対距離を知る法則を発見しました。おなじ17世紀にはニュートンが力学を完成させ観測の理論的な裏付けはできていました。
しかし天体がどれくらい遠いのかということは18世紀になるまでよく分からなかったのです。

月までの距離

視差
 月は地球に最も近い天体です。月までの距離は比較的簡単に測ることができます。その方法は三角測量です。月が他の天体を隠す現象を掩蔽(えんぺい)といいます。掩蔽は地球上のある地点ではおこるが他の地点ではおこらないということがあります。日食のとき皆既の場所と部分食の場所があるのと同じ理由です。
 地球上のA地点から見て、恒星が月の北の縁を通過したのに、Aより北にあるB地点から見ると月の上方を通過したというような場合、恒星と月とのなす角は月の視差pと等しくなります。A地点とB地点の地球上での距離がわかれば、月までの距離を計算することができます。
 現在では月に向かって電波や光を発射し戻ってきた時間を測定して距離を測定しています。

惑星・太陽までの距離

太陽視差
 地球と太陽の距離(1天文単位)は現在でも宇宙の広さを知る基準となっています。
 太陽までの距離を実際に測る方法を考案したのは ハレー彗星で有名なエドモンド・ハレーです。彼は金星の日面通過のとき金星と太陽の接触時間を正確に計れば太陽までの距離を計算できると考えました。この内容は「金星の日面通過」に詳しく記載しています。
金星の日面通過は100年以上の間隔でおこるため、18世紀に実施された観測では誤差が大きすぎ19世紀後半(1874年)まで待たねばなりませんでした。その間に別の方法が考案され1天文単位の長さが少しずつ精度よく測定されるようになりましたが、やはり基本は三角測量でした。
光行差
 三角測量に対して、別の方法を紹介しておきます。
 光速は秒速約30万kmです。その中を地球が運動すれば、恒星からの光は前方からやってくるように見えます。ちょうど真上から降る雨なのに傘を差して走ると雨が斜め前から降ってくるように感じるのと同じです。
 このような現象を光行差といい、太陽の周囲を公転する地球の速度を求めることができます。公転速度がわかれば1年間に動く距離がわかり太陽までの距離を知ることができます。
レーダー観測
現在では、金星や火星に向けて地球から電波を発射し、その反射して戻ってくるまでの時間を計り距離を求めています。最も直接的な方法といえます。 こうして1AU=約1.5億キロメートルの値が求まりました。

恒星までの距離

年周視差
 太陽系内の天体は上の方法で直接測ることができるようになりましたが、太陽系外の恒星や星雲などの距離はどのようにして求められたのでしょう。
 16世紀の天文家ティコ・ブラーヘは、コペルニクスの地動説を否定する理由として恒星の年周視差が測定されないことをあげています。年周視差とは、地球が公転することによって近くの恒星がより遠くの恒星に対して位置を変えるように見える現象で、地球−恒星−太陽のなす角です。実際には太陽から見た視差は測れませんから、まず恒星の位置を正確に測定し、地球の位置が半回転ずれる半年後にもう一度観測することによって年周視差を決めます。  年周視差がはじめて測定されたのは1838年のことです。

 年周視差が1″(1″は角度の1°の3600分の1)になるような距離を1パーセク(persec=pc)といいます。1pc=3.26(光年)です。
求め方は次のようにおこないます。(右の図を見てください)
 今、半径1pcの円を考えます。中心から1″角の円周が1AUになるようにします。1AUの値を知っていれば1pcの距離を計算できます。
円周 =360×3600 AU ですから 半径は 360×3600/2π=206264 AUとなります。約20万天文単位ということにしておきます。図では地球−太陽は円周の一部とされていますが、正確にはO−S−Eの直角三角形のはずです。しかし1pcは1AUにくらべて非常に大きいので、Oを頂点とする二等辺三角形と考えてもよいし、Oを中心とする円周の一部と考えても問題ありません。20万天文単位は約30兆kmです。
 ところで宇宙での距離を示す単位として「光年」が用いられますが、光が1年間に進む距離のことです。1秒間に約30万km進む光は1年で約9.4兆km進みます。
そこで1pc=3.26光年であると計算できます。計算はおおまかに桁数だけを間違えずやるので、こまかいところは気にしないでください。天文学の世界では「光年」を用いずに「パーセク」を用いる方が多いのです。
太陽に最も近いαケンタウリ星の年周視差は0.76″ですから距離は1.32pc=4.3光年 となります。年周視差は誤差10%で1000光年くらいまで測定できます。

HR図
 年周視差の測れない遠い星はどのように距離を測定するのでしょうか。
 明るい恒星でも遠くにあれば暗く見えます。見た目の明るさを実視等級(m)といいます。そこで恒星を10パーセクの距離に置いたと仮定したときの明るさを絶対等級(M)といいます。同じ距離に置けば明るさの違いは明白です。
恒星の明るさは数字が大きくなるほど暗くなります。5等級の明るさの比は100倍となるように決められています。1等星は6等星より100倍明るいのです。
実視等級(m)から絶対等級を(M)を求めるには次の式を用います。pは年周視差です。

 年周視差のわかっている恒星を、縦軸に絶対等級(M)、横軸にスペクトル型(ほぼ恒星の色を示しています)を取った図に記入していきます。このような図をHR図(ヘルツシュプルング・ラッセル図)といいます。
 図を見ると恒星の配置に一定の規則があることがわかります。明るく青い星のある左上から暗く赤い星のある右下へ列をなしています。この列を主系列といい太陽も含まれています。また右上を赤色巨星、左下にある数個は白色矮星とよばれます。
   たとえばスペクトル型がB0(ビーゼロ)の恒星の絶対等級はマイナス2.5等級であるとわかります。すると距離のわからない暗い恒星の実視等級 m=7.5等 であれば 10等級の差があり明るさの比は10000倍 明るさは距離の2乗に反比例するので距離の比は100倍 すなわち3260光年と計算できます。
 ほとんどの恒星はスペクトル型をくわしく分析して、その恒星までの距離を知ることができます。銀河系の大きさはこのようにして決めることができました。しかしこの方法には同じスペクトル型の恒星は同じ絶対等級であるという大きな前提があります。銀河系の場所によってはその恒星を作っている元素の組成比が異なるなどするため完全に正確ではないかもしれないのです。あくまで統計的なもので、個々の恒星の距離が正確にわかっているわけではありません。
 HR図は恒星の距離を決めるだけでなく恒星や宇宙全体の進化を解き明かすためにも用いられています。恒星の進化についてはシリウスとアルゴルパラドクスでもう少しくわしく述べています。

銀河までの距離

セファイド(ケフェイド)
 セファイド(ケフェイド)とよばれる恒星群があります。これはケフェウス座δ星を代表とする変光星で、自身が膨張と収縮を周期的に繰り返す老年期の脈動変光星の一種です。小マゼラン雲の中に25個のセファイドが見つかりました。小マゼラン雲内の恒星は太陽系からほぼ等距離にあると考えられるので、その絶対等級と変光周期の間には明るい物ほど周期が長いという関係が見つかりました。

 M=a logP + b
  M:絶対等級 P:変更周期
  aとbは観測から求められた係数(a=-2.90 b=-1.18)

 年周視差を直接測れるセファイドは無かったので、セファイドと連星を形成している主系列星を探します。HR図からこの主系列星までの距離がわかれば、セファイドまでの距離もわかります。また連星の軌道と公転周期から質量も求めることができます。北極星(ポラリス)はセファイドの巨星A(周期約4日)と黄色の主系列星Bの連星です。中型望遠鏡なら両者を分離して見ることができます。ポラリスBまでの距離はHR図から導かれますのでセファイドであるポラリスAまでの距離もわかります。
 同様にして距離の求まったセファイドは30個程度ですが、絶対等級と周期の間にはっきりした関係があることがわかったのです。セファイドは絶対等級の明るいものが多く銀河の点滅する灯台と考えることができます。
 銀河系外にある他の銀河(アンドロメダ銀河など)中にあるセファイドを発見すればその周期と実視等級(m)を測定しさえすれば、銀河までの距離を知ることができます。しかし1個の恒星であるセファイドを発見できるのはハッブル宇宙望遠鏡を使ってもせいぜい20Mpc(約6千万光年)です。
 別の種類の脈動変光星を用いるときもありますが、原理は同じです。
 なお現在では北極星までの距離は年周視差で測定されていて約430光年とされています。
 また正確には種族Tのケフェウス座δ型(DCEP)と種族Uのおとめ座W型(CW)に細分類されます。種族Tは太陽など水素以外の重元素を多く含む恒星で、種族Uは重元素をほとんど含まない古い恒星で、変更周期に違いがあります。
球状星団
 セファイドが見つからない場合、あるいはセファイドでの観測を補完する目的で用いられます。
 銀河の周辺には約10万個の恒星でできた球状星団が100個ほどあります。他の銀河でも球状星団を発見できれば球状星団全体の実視等級と絶対等級の差から距離を求めることができます。
タリー・フィッシャー関係
 渦巻き銀河のガスの回転速度を測定すると、銀河全体の質量を求めることができます。同じ程度の質量で距離のわかっている銀河の全体光度との比較から距離を求めることができます。しかしこの関係は経験的なもので根拠がはっきりしません。100Mpc 程度まで測定可能です。
 楕円銀河では同様のフェーバー・ジャクソン関係が用いられます。
超新星の最大光度
 超新星は一つの銀河の中で百年に一度くらいしか出現しない恒星の大爆発です。われわれの銀河でも記録は4個しかありません。しかし多くの銀河を見ていれば毎年多くの超新星が出現します。他の方法で距離のわかっている銀河内でのTa型超新星という爆発は、その最大光度がほぼ同じであることがわかってきました。もっと遠くのTa型超新星を発見すればその超新星を含む銀河までの距離がわかります。およそ1000Mpc(30億光年)まで測定可能です。
銀河の赤方変移
 1929年 ハッブル(Hubble,Edwin Powell 1889‐1953)は多くの銀河を観測して、銀河系からの距離の遠いものほどより速く遠ざかっていることを発見しました。
 銀河からの光は、ドップラー効果により波長の長い方にズレている(赤方偏移といいます)のです。現在ではこの後退速度(ハッブル常数)は 73±8 km/s/Mpc 程度とされています。(いろいろな説があります)
 クェーサーは非常に遠くにある銀河で、星のようにしか見えませんが、赤方偏移が光速の80%に達するものも観測されています。クェーサーの距離を知る方法は赤方変移を測定するしかなく、宇宙の年齢が130億年とすれば、その80%の100億光年ということになります。

距離の梯子(はしご)

 ここに紹介した以外にも天体までの距離を見積もる方法は多く発表されています。しかし月から銀河の果てまで一つの物差しではなく何段階もの物差しを交換していかなくてはなりません。このことを距離の梯子といいます。もしどこかで大きな間違いがあり梯子を乗り違えると遠方へいくほど大きな狂いになってきます。
 観測に誤差やノイズはつきものです。星の位置のズレや明るさを正確に測定するには観測機器の精度、地球大気、地球の自転、地球の公転、太陽系全体の銀河内での運動、銀河系の運動などすべて考慮しなければなりませんが、後のものになるほど正確な値は知られていないのです。10%の誤差が各段階で生じたとします。年周視差・H・R図・ケフェイド・ハッブル常数です。すると1.1の4乗で1.46となり5割近い誤りが生じることになります。宇宙の距離は遠くへ行くほどあまり信頼できないことになります。実際はハッブル常数はもっと大きな誤差を含んでいると考えられています。宇宙の年齢が120〜150億年と幅があるのも当然といえます。

 2003年1月 宇宙の年齢は136億歳で誤差1%というような発表がありました。現在の宇宙を矛盾なく説明できる妥当な年齢ですが、それでも今後見直される可能性は大きいと考えられます。

2003.01.21
2006.12.30 追補

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