![]() | (脱力と腕・手首・指の機能強化の方法) | ![]() |
1.脱力するとピアノが弾ける |
2.「腕・手首その1」脱力体操 |
3.「腕・手首その2」重みを乗せる |
4.「腕・手首その3」不必要な力を抜く |
5.腕や手が痛くなるのはなぜ? |
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「脱力」という言葉を聞いたことはありますか? ・・・リラクゼーション、つまり身体の力を抜くということです。 この脱力が実はピアノを弾く上でとても大切なことなのです。 柔らかいムチを想像してみてください。しなやかな動きに重みが集約されて頑強な岩をも打ち砕きます。ところが、固い剣を力いっぱい振り降ろして岩を割ろうとしても、頑強な岩はビクともせず、逆にヒビが入るのは剣の方です。 固いものにできることには限りがあり、柔らかいものには可能性が込められています。頭が固い、頭が柔らかい、というような言い方にも当てはまるように思います。 野球でも一流の打者は、不必要な力を一切抜き、体を柔らかく使って向かってくる球の重みを利用すると聞きます。不思議なことに、力いっぱいガチガチになったスイングよりも、柔らかいスイングの方が、球が簡単に遠くまで飛ぶそうです。サッカーにしてもゴルフにしても共通するところがあることでしょう。柔よく剛を制すと言ったところでしょうか。 皮肉なものですが、一生懸命になるあまり、知らず知らず筋肉を固めてしまって、本来できることすらできなくなってしまっている現状があちこちで見受けられます。人間関係など心の問題もそうです。 ピアノに話を戻しますが、演奏する人の身体がガチガチだったらどういうことになるでしょう。微細な音色のタッチや、きれいな音の響かせ方や、跳躍・和音・スピードなどといったあらゆる技術の可能性を狭めてしまうことでしょう。最悪の場合、不必要に力むことで、聴覚神経や音楽を感じ取る心までこわばってしまい、聴き手の方々とのコミュニケーションにまでヒビを入れてしまうことも考えられます。 しかし、一口に「余計な力を抜く」と言っても、あまりにも言葉足らずです。というのは、ピアノ演奏に関する様々な技術の一つ一つに、最も合理的な筋肉の働かせ方があるからです。例えば、フォルテでオクターヴを鳴らす時、上腕からの重さとスピードが鍵盤に乗る必要があります。この時、ほとんどの人は腕をガチガチに固めてしまい、前腕だけしか動かしていません。その結果、芯のある大きな音は鳴らず、緊張させる必要のない筋肉を不必要なまでに固めてしまうおかげで音色のコントロールもできず速く弾くこともできません。最悪の場合、腕を痛めてしまうこともあります。 理想的な演奏技術とは、自然に持っている体の重さと地球の重力を最大限に利用することです。重さを鍵盤に伝えるのに最低限必要な「とめ(各箇所の固定)」だけに、(必要な分だけの)わずかな筋力を使い、そのような支えが出来上がってしまったら後は腕の重さを何パーセントか分けて(落として)あげるだけでいいのです。音色のコントロールをする時には、打鍵速度を変化させます。大きな音を出す時にはスピードを増してあげるために瞬発力も使いますが、それ以外に不必要な力は一切使いません。 ただ落としてあげた音色というものが、一番解放されたきれいな音色の原石です。鍵盤をぐいぐい押し付けて弾くタッチだと固い音色(響かない音色)になってしまいます。解放された音色というのはピアニッシモでも遠くまできれいに響いていきますが、固い音色だとすぐに消えてしまい、空間に響き渡りません。 これから、様々なテクニックに関する脱力と指の神経の働かせ方をお話ししていきたいと思いますが、どんな時でも自然体(楽な状態)であるかを常に確認しつつ、実践していってください。また、音楽のための技術ですので、なによりも大切なのは耳です。目的意識とイメージを持って、よく聴き分けながら、ゆっくり体感(そして体得)していってください。 |
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腕には上腕(二の腕)と前腕(肘から先)があります。それから手首があります。(注意:この場合の手首は、いわゆる手首の関節より先の部分全てを言います) この3箇所を自由にコントロールできることがまず大切です。 1)布団の上にあおむけになって、腕をまっすぐ自然な形のまま体に沿って置きます(つまり普通に棒の形で寝ます)。そのまま上腕から腕をまっすぐ動かし、手の先が30cmくらいの高さになるまで前向き(ピアノに向かって構える方向)に上げます。その状態から、フッと一瞬で完全に上腕から力を抜きます。腕全体が布団にバフッと落ちたら成功です。痛いのではないか、と躊躇するのは禁物です(完全脱力ができないため)。布団の上でなら痛くないので安心してください。そして2秒ほど休みます(動作を確認できる速さで、ということです)。慣れてきたらインターバルは1秒でも構いませんし、連続でも構いません。「上腕あげる!」「上腕脱力!」という脳からの指令が速く神経を伝わるようになればなるほど、速いテンポで(一定リズムを崩さず、そして疲れず)できるようになります。 2)今度は同じことを前腕からします。上腕は完全に寝たまま(布団についたまま、力も全く入れないまま)です。手首は前腕と連結していると思って角度をつけないでください。手の先が15cmくらいの高さになるまで前腕を1)の要領で上げていきます。前腕から上がっているのか感覚としてわからないうちは目で見て確認してください。そして、上がったら1)の要領でポフッと落とします。以下、1)と同じです。 3)次は手首だけです。手の先は楽にして自然に丸まっている形のまま、指先が5cmくらいの高さになるまで手首を上げます。1)2)よりもわかりやすいかと思います。上がったら完全脱力して布団にポンと落とします。慣れてくると(脳からの脱力の指令が速くなると)メトロノーム120の中に4回(1回はテンポ480)入るようになります。上腕などに比べると手首の方がずっと速いことを確認してください。 4)次はあおむけではなく立ち上がります。1)のヴァリエーションです。立った姿勢で腕をまっすぐにして(立てば自然にまっすぐぶら下がっているのでそのままの形のまま)上腕から動かし、前に上げます。この時、肩を動かさないよう気をつけてください。あまり考えすぎず、素直にそのまま腕を前に持ち上げる感じです。90度近くまで上げてみても構いません。上げたらフッと一瞬で完全に上腕から力を抜きます。腕が体の横をブランブランブラと揺れてすぐにまっすぐ下を向いて止まると思います。これ以降、2)3)のヴァリエーションも同様です。 |
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ピアノの鍵盤を押す時に、肩や肘や手首を固くして、鍵盤を力で押し付けて音を出す癖をつけないように気をつけてください。特に初歩から中期レヴェルくらいの段階の人は今のうちに正しい楽な腕の使い方を覚えておくことをおすすめします。悪い癖がついてしまうと、後々力を入れて打鍵する癖がついたままになり、硬い音しか出なくなってしまいます。
ちなみに歩く(左足から右足へ体重が移動する)のと同じで、指を変えていくときも重さの移動だと考えてください。きれいなレガートが成功している時は秤の針がほとんど振動しません。ところがノンレガートや、重さの移動で弾いていない場合は指が変わる度に針が大きく振動してしまいます。 |
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固い人の多くは鍵盤に腕を構えた時点で、必要以上に力を入れてしまっています。腕を上げるために無意識に筋肉を強く緊張させすぎるということです。 必要以上に力が入っていないか確かめる方法があります。立つか座るかしてリラックスします、その状態でピアノの鍵盤に向かったつもりで腕を構えます。そのまま目をつぶります。もう一人の人に前腕を上から軽くポンと叩いてもらいます。そこで、簡単に腕が落ちれば(軽く叩いただけで下に動けば)必要最低限の力だけを使っていたことになります。ところが、筋肉を使いすぎの人は、かなり強く叩いても、肘が曲がったままで落ちないのです。 これはとても大切なことです。筋肉の使いすぎの人は、できるだけ少しの筋肉で、上腕や前腕を上げては、すぐ脱力する練習をしてみてください。 同じように手首を上げる筋肉も使いすぎている人が多いです。 やはりこれも練習が必要で、前腕や手首を最小の筋力で軽く上げ、パッと落とす、という練習をしてみてください。驚くほど改善されると思います。手首だけでしたら、外出して、乗り物を待っているような時でも目立たずに簡単にできるので思い出した時にやってみてください。そこの部分の神経がどんどん良くなっていきます。 まりつきやお手玉をすると知らないうちに良い結果が得られるでしょう。指の訓練にはおはじきなどオススメです。 これまでは「腕・手首」の脱力とそのための神経の訓練をお話ししてきました。次からは演奏技術に絡めて「腕・手首」の使い方と神経の訓練方法について話を進めていきたいと思います。 |
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ピアノを弾いていて腕や手が突っ張ってしまったり痛くなってしまうという悩み相談を受けることがよくあります。その答えはただ一つ「打鍵に必要なだけの筋肉を使わずに、不必要な筋肉にも力を入れて弾いている」ということです。また必要な筋肉に必要以上に力を入れてしまっているケースもあります 実際、どのようなパッセージを弾いていて手を傷めるケースが多いかと言うと、オクターヴや幅の広い和音を練習した時というのが大多数のようです。 日本人は手が小さいから手を拡げると傷めやすいとよく言われますが、実は手を傷めるか傷めないかに手の大小はほとんど関係していません。外国の手の大きい人でもオクターヴの練習時などによく手を傷めるそうです。 どういう時に手を傷めてしまうかと言うと、手を緊張させたまま(筋肉に力を入れ続けてこわばらせたまま)弾いている時です。手の大きい外国の人でも、指を開く動作に関係のない筋肉にまで力をいれてオクターヴを取ろうとすると傷めてしまうようです。上手なピアニストのオクターヴの打鍵動作を専門医がコンピューター解析したところによると、彼らは手をいつも同じように開いたままなのではなく、打鍵の瞬間だけ必要な筋肉が緊張して、手を上げた時には力を抜いているそうです。僕自身、生徒のレッスンを通じて「オクターヴの打鍵直後に手を緩めて縮ませるといい」とアドヴァイスしてきたので、専門医の解析には深く納得がいきました。 さて、手首がこわばってしまうのは一体なぜなのでしょう?実は親指を拡げる時に、親指の筋肉以外に手首を内側へ曲げたり上下させるための筋肉を同時に使う癖をつけてしまっている人が多いのです。なので、本来は親指を開いても手首は自由にリラックスしていられるはずのところで、親指を開いただけで手首までガチガチに固めてしまっているのです。さらに、5の指を外側に拡げるときも全く同じことが言えて、5の指の筋肉だけを独立させて働かせることに慣れていないため、親指の時と同じように手首をガチガチに固めてしまうことが多いようです。そうすると打鍵するために手を構えただけで、既に手首が硬直してしまいます。 オクターヴの構えをした瞬間に手のひらを下からパッともう一つの手で持ち上げてみます。手首にまで力が入っている人はこうして跳ね上げようとしてもビクともしません。上述の通り、親指と5の指が手首を連動しないで独立して働かせられる人は楽に構えていられて、下からパッと叩きあげても指は開いたまま手首は楽に跳ね上がります。 オクターヴの幅が届く手の大きさにも関わらず、1指と5指を開いた時に手首を硬くして、フォルテを出そうとすると、肘や手首に力を入れてキーを強く押さえつけて音を出そうとする人がいます。合理性を考えないで、そこらへんの筋肉を全て固めて力づくで音を出すのが一番手っとり早いと思って、そういう癖がついてしまうのでしょう。大きな手を持った外国の人でも手を傷めてしまう原因はそこにあります。 しかし、耳で聴いて音が硬くて美しく響かないことに気付けば、その癖を直したいと思うようになることでしょう。 また、指の独立に関してもう一つ言うと、打鍵前に指を上げる際、決して力を入れ過ぎないことです。打鍵準備として指を上げる、つまり伸展(伸筋と言って指でも腕でも、上に上げる方の筋肉を使うこと)させる際に、伸筋を不必要に緊張させる人がとても多いです。一つの指を上げるとそれに連動して他の指や手首などに力が入り、硬直して不自由を招いてしまいます。
指の独立の第一歩として、まずはこのように指を上げる際に他の余計な筋肉を緊張させてしまう癖を直すことから始めましょう。 |