「人を恋ふる歌」歌詞と解説             Counter

出典 http://duarbo.air-nifty.com/songs/2007/09/post_a53f.html
   http://uraaozora.jpn.org/poyosano1.html
   http://ci.nii.ac.jp/naid/110000203306/
英訳出典 http://jiten.cside3.jp/Hitowo%20Kouruuta.html

明治人の教養と気概がほとばしり出た詩、「明治は遠くなりにけり」を実感させられる。
作詞:与謝野鉄幹、作曲:不詳

与謝野鉄幹(てっかん)(本名は寛)は、明治6年(1877)、京都の寺の4男として生まれました。
落合直文に師事し、歌人・詩人として活躍。初期には壮士風の詩を作ったが、やがて芸術と恋愛を至上とする浪漫主義的な詩を作るようになった。
「君死にたまふことなかれ」の詩で有名な与謝野晶子は、3度目の妻。 
明治28年(1895)、招かれて漢城(現在ソウル)の日本語学校に教師として赴任。 
この歌は在韓中の明治31年(1898)に作られたといわれています。 
1.妻をめとらば 才たけて
  みめ美わしく 情けある
  友を選ばば 書を読みて
  六分(りくぶ)の侠気(きょうき) 四分(しぶ)の熱

  1番解説:
 「六分」は一般にリクブと読まれているが、四分に相対してロクブの方が良いという説もある。
 「侠気」は、苦しんでいる弱い者を見過ごせないような気持、おとこぎのこと。

  英訳:
  When you marry a woman, wed a bright one,
  Wed a beautiful woman with a warm heart.
  When you yearn for a friend, find one who loves books,
  His heart two-thirds chivalry, one-third fire.

2.恋の命を たずぬれば
  名を惜しむかな 男(おのこ)ゆえ
  友の情けを たずぬれば
  義のあるところ 火をも踏む

  2番解説:「義」は、他人に対して守るべき正しい道、人としてなすべき事柄、大義。

  英訳:
  When he's asked about how mere love should be,
  He as a man might value honor above it.
  When asked about fond friendship, though,
  He as a man would crawl through fire to have it.

3.汲めや美酒(うまざけ) うたひめに
  乙女の知らぬ 意気地(いきじ)あり
  簿記の筆とる 若者に
  まことの男 君を見る

  3番解説:
 「うたひめ」は妓生(キーセン)を指す。妓生はもとは宮廷に仕える女芸人だったが、日本の
 植民地主義的進出とともに高級娼妓の色彩をもつようになった。
 「うたひめに乙女の知らぬ意気地あり」は、憂国の至情をもつ妓生であることを示唆している。
 日本の幕末期、京都で勤王倒幕の志士を助けた勤王芸者に比すべき存在か。
 「簿記の筆とる若者」は、(文学青年ではなく)実業に従う青年で鉄幹が韓国で知り合った
 志士的な人物を指すと思われる。

  英訳:
  Pour excellent sake in the singing girl's cup.
  She proves more mettlesome than the girls we know.
  When asked about you, young man, bookkeeper,
  I'd answer I found one faithful comrade in you.

4.ああわれダンテの 奇才なく
  バイロン、ハイネの 熱なきも
  石を抱( いだ)きて 野にうたう
  芭蕉のさびを よろこばず

  4番解説:
 「ダンテ」はルネサンスの先駆となったイタリアの詩人(1265〜1321)。
 代表作は『神曲』『新生』。ダンテを「コレッジ」としているヴァージョンもある。
 どちらが先だったかは不明。「コレッジ」はイギリスの詩人コールリッジ(1772〜1834)のこと。
 コールリッジよりコレッジのほうが原音に近い。幻想的な作風でロマン主義の先駆となった。
 「バイロン」はイギリスロマン派の代表的詩人。反俗の青年貴族としてヨーロッパ大陸を遍歴し、
 ギリシア独立戦争に加わり、客死した(1788〜1524)。
 「ハイネ」はドイツロマン派の詩人。代表作は『歌の本』など(1797〜1856)。

 「芭蕉のさびをよろこばず」の「ず」は、打ち消しの助動詞ではなく、意志・推量の助動詞。
 「むず」が中世以後「うず」に変化し、さらに「う」がとれて「ず」だけになった。
 ここでは意志を表す。
 したがって、「芭蕉のさびをよろこばない」ではなくて、「芭蕉のさびをよろこぼう」という
 意味になる。
 「さび」は、一般的には「古びて枯れた味わい」のことだが、芭蕉の俳諧用語としては、
 句中における「深くかすかな趣、閑寂な情趣」をいう。

  英訳:
  Ah! I lack Dante's uncanny gift.
  I lack the passion of a Byron or a Heine.
  However, I can enjoy Basho the poet,
  Who was deeply moved even by a roadside stone.

5.人やわらわん 業平(なりひら)が
  小野の山ざと 雪をわけ
  夢かと泣きて 歯がみせし
  むかしを慕う むら心

  5番解説:
 「業平」は平安初期の歌人・在原業平(ありわらのなりひら)。六歌仙、三十六歌仙の一人。
 「忘れては夢かとぞ思ふ 思ひきや雪踏み分けて君を見むとは」という和歌に基づいている。
 業平が比叡山麓・小野の山ざとに訪ねたのは、彼が臣従していた惟喬(これたか)親王。
 文徳天皇の第一皇子で、剃髪して小野に隠棲していた。俗説では、藤原氏が推す異母弟との
 立太子争いに敗れたため、剃髪・隠棲したということになっている。
 韓国内の政治的不遇者に対する同情を惟喬親王の運命に重ね合わせて詠ったと見ることができる。
 「歯がみせし」はくやしがるの意。
 「むかしを慕う むら心」親王の悲運に泣く業平の慨世の情熱、その情熱を慕う私の心を
 物好きなむら気として人は笑うであろう、しかし私はそうせずにはいられない。

6.見よ西北に バルカンの
  それにも似たる 国のさま
  あやうからずや 雲裂けて
  天火(てんか )一度(ひとたび) 降らんとき

 6番解説:「バルカン」はバルカン半島のこと。
 民族大移動の昔から民族紛争が繰り返され、第一次世界大戦の発火点となった。
 最近も、旧ユーゴスラビアで、凄惨な民族紛争が続いた。
 「見よ西北にバルカンの/それにも似たる国のさま」日本の西北にバルカン半島に似た国情の
 国があるの意。朝鮮を指す。
 日本とロシアとの勢力争いの標的となって乱れていた韓半島の政治状況がバルカンの歴史に
 重ね合わされている。「天火」 大事変。
 なお、鉄幹は、韓国滞在中、日本帝国主義の立場に立って壮士的活動をしたという噂がある。

7.妻子を忘れ 家を捨て
  義のため恥を 忍ぶとや
  遠くのがれて 腕を摩(ま)す
  ガリバルディや 今いかに

  7番解説:
 「妻子を忘れ家を捨て」朝鮮半島の独立をめざして果たさず、追われて国外に亡命している
 志士・盟友たち。
 「義」は、他人に対して守るべき正しい道、人としてなすべき事柄、大義。
 「腕を摩す」力を振るいたくて、むずむずして腕をさすっている。
 「ガリバルディ」はイタリアの軍人で、幾度か国外へ逃れつつ、小国に分裂していたイタリア
 統一に生涯をささげた熱血の英雄(1807〜1882)。
 ガリバルディにたとえられるような人物が当時の韓国にいたのかもしれない。

8.玉をかざれる 大官(たいかん)は
  みな 北道(ほくどう)の 訛音(なまり)あり
  慷慨(こうがい)よく飲む 三南(さんなん)の
  健児は散じて 影もなし

  8番解説:
 「玉をかざれる大官」朝鮮の高級官吏を指す。
 「北道」は韓国(朝鮮)北部の黄海道・平安道・咸鏡道をいい、
 「三南」は南部の忠清道・慶尚道・全羅道を指す。
 「訛音」はなまり、方言のこと。
 「慷慨よく飲む」は世の中のことや自分の運命を憤り嘆き大いに酒を飲む。
 「三南の/健児/影もなし」朝鮮の親日派の人々はいなくなってしまった。

9.四度(よたび)玄海(げんかい)の 波を越え
  韓(から) の都に 来てみれば
  秋の日かなし 王城や
  昔に変る 雲の色

  9番解説:
 「四度(よたび)玄海の波を越え」九州の北の玄界灘を四度越え。
 鉄幹は韓国を4回往復したと書いているが、実際は3回という説が正しいらしい。
 「韓の都」は韓国の首都ソウルのこと。李朝時代は「漢城」、1910年の日韓併合後は「京城」
 と呼称され、1945年の解放後ソウルとなった。
 「昔に変る 雲の色」 政情・国情が変わっていることを暗示している。

10.ああわれ如何(いか)に ふところの
  剣(つるぎ)は鳴りを ひそむとも
  咽(むせ)ぶ涙を 手に受けて
  かなしき歌の 無からめや

11.わが歌声の 高ければ
  酒に狂うと 人のいう
  われに過ぎたる のぞみをば
  君ならではた 誰か知る

  11番の解説:
 「われに過ぎたる のぞみをば」自分の身に不相応な大きな望み、すなわち、半島の独立から
 ひいては東洋の平和をうち建てるという抱負を言うのであろう。
 「君ならではた誰か知る」君でなくていったい誰が知ろうか、君だけが分かってくれているのだ。

12.あやまらずやは 真ごころを
  君が詩いたく あらわなる
  無念なるかな 燃ゆる血の
  価(あたい)少なき 末の世や

  12番の解説:「あやまらずやは真ごころを/君が詩いたくあらはなる」
 君の詩ははなはだ飾り気がないが、それが君の真情を誤解させたりしないだろうか。
 「燃ゆる血の/価少なき/末の世や」今は血を燃やしても燃やし甲斐のない末世である。
 まことに無念千万だという意。

 以下、親友から作者への忠告の形。

13.おのずからなる 天地(あめつち)を
  恋うる情けは 洩らすとも
  人をののしり 世をいかる
  はげしき歌を ひめよかし

  13番の解説:
 「おのづからなる天地を/恋ふるなさけは洩すとも」自然を愛する詩は公けにしてもよいが。
 「ひめよかし」慎しんだ方が良い。

14.口をひらけば 嫉(ねた)みあり
  筆を握れば 譏(そし)りあり
  友を諌(いさ)めて 泣かせても
  猶(なお)ゆくべきや 絞首台

  14番の解説:
 今の世では、何か物を言っても書いても非難される。君の表現は激越だ。
 私がこんなに泣いて諌めてもなおやめずに国事犯に問われ絞首台にのぼる気か。

15.おなじ憂いの 世に住めば
  千里のそらも 一つ家(いえ)
  己(おの)が袂(たもと)と いうなかれ
  やがて二人の 涙ぞや

  15番の解説:
 憂国の情を同じくしている以上、日本と韓国と千里を隔てても一つ家に居ると同じこと、
 自分一人泣けばよいというものではない
 「袂」は「袂の露」で涙を意味する。

16.はるばる寄せし ますらおの
  うれしき文(ふみ)を 袖にして
  きょう北漢(ほくかん)の 山のうえ
  駒立て見る 日の出(い)づる方(かた)

 16番解説:
 「北漢」は、ソウルの北辺にある北漢山を指す。
 ソウル市を取り巻く山では最も高く目立つ山。昔の城壁が残っており、北漢山城と呼ばれている。
 北漢山は非常に険しく、頂上まで馬で登るのはとうてい無理なので、「北漢」は城趾を指している
 と思われる。
 ここで鉄幹は、身は京城にあって、日本からはるばる寄せた友情のこもった諌めの手紙を袖に
 入れて、北漢山上に馬を立て、馬上遥かに、日の出づる方日本を望むという形で、この長詩を
 締めくくっている。


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