「En Famille」の
日本で最初の抄訳本
「雛燕」

 FWDさまから、「En Famille」の日本で最初の抄訳本、「雛燕」のテキストを頂きました。

 これは世界でもかなり早い段階で出版された訳本なのです。

 「雛燕」を公開されている図書館でコピー&テキスト化して下さいました。
 (他にも所蔵する図書館はいくつかあるのですが、古くて痛みが激しいためか、閲覧禁止になっています。)


 FWDさま、ペリーヌ資料充実へのご尽力、本当に感謝いたします。
  <(_ _)>

 

 翻訳者の五来素川氏没後50年を過ぎ、著作権が切れたと言うことで、公開させて頂きたいと思います。

 


ひなつばめ表紙

 

書籍データ

 書名

雛燕

 翻訳

 五来 素川 

 出版者 

 婦人之友社 

 出版年 

1917年

 

雛燕テキスト配布

  このままクリックするとブラウザに表示されます。
 右クリックで「対象をファイルに保存」を選ぶとダウンロードできます。

 *ご利用上の注意
 
ノーミスを保証するものではありません。
 ご利用は自己責任でお願いいたします。

 *テキスト化にあたって

 ・ルビの表記など「青空文庫」さんの仕様に準拠。
 http://www.aozora.gr.jp/KOSAKU/txt_chu_kigo.html

 ・雛燕テキストでは、上記URLにある「二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)」は平文に展開しました

 ・傍点はすべて省略しました

 ・漢字は新字を使用。

 ・冒頭、「伊太利《いタリー》文字、」となっていますが、原文通りで御座ゐます。

 

 情報追加!

 国会図書館の近代デジタルライブラリーでWEB閲覧が可能になっています。

http://porta.ndl.go.jp/service/servlet/Result_Detail?meta_item_no=I000130669&meta_repository_no=R000000008

 PDFでの保存も出来ます。

<09.11.04>

 


三五郎空地の挿絵

 

解説1

 翻訳者・五来素川氏について

 

 http://www.littera.waseda.ac.jp/sobun/k/ko037/ko037p01.htm

 早稲田大学にゆかりの作家のページに先生の肖像有り。

 

http://www2.obirin.ac.jp/~ushiogi/recentpub/yuushinkai.html

本名「五来欣造」
明治8年6月茨城県生まれ
明治33年7月東京帝国大学法科卒業
フランス・ドイツ留学、大正3年帰国
読売新聞主筆、明治大学講師をへて、
昭和2年(1927)早稲田大学教授
昭和19年8月1日没

「素川」は俳句の雅号。
他に「斬馬剣禅」のペンネームで京大・東大の学風評論を書いている。

 

 

http://www.jca.apc.org/~altmedka/yom-3-7.html より抜粋

 五来は、東京帝大仏政治科を出て読売に入社し、一九〇四年(明37)に特別通信員の肩書きでパリに派遣され、ソルボンヌ大学に学び、ついでベルリンで政治学を修めた。
 その間、“在巴里”として、『白野弁十郎』(シラノ・ド・ベルジュラック)の翻訳脚本を掲載したこともある。

 

 

 国立国会図書館・国際子ども図書館の書籍案内より

『未だ見ぬ親』(1903)マロ/作 五来素川/訳 <大阪国際児童文学館所蔵>
  『家なき児』の初訳。人物も地名も日本名に変え、日本の話として紹介。母親探しの旅物語は感動を呼んだ。

 

 ご紹介した「雛燕」も日本風に置き換えた抄訳本なのですが、五来氏は「まだ見ぬ親(家なき子)」も「白野弁十郎(シラノ・ド・ベルジュラック)」をもこの手法で翻訳されているようです。

 幼き日の宮沢賢治氏が五来氏の「まだ見ぬ親」に非常な感銘を受けた旨が宮沢賢治氏を扱うページで見受けられます。

 面白そうなので是非読んでみたいです。

 

解説2 
登場人物名・地名紹介

 「雛燕」は地名、人名が和風に変えられています。

  1917年と言うと、大正6年です。

 おそらく、まだ外国文化や外国名に慣れていない子供の為に和風に改められているのだと思いますが、それが他になく、大変面白いです。

 パリの北にあるマロクール村なので、東京の北で「宮古」なのでしょうか。
 マロクール編の登場人物がズーズー弁だったりします。

 

 女工さんの記述、相続争いなど、日本に置き換えて十分面白さが伝わります。

 ここまで置き換えがあるので、お話がもっと変更されているかと思いきや、かなり忠実だったのでそれにもびっくりです。

 後に作られた映画に、日本が舞台になっているものがありますが、こんな感じなんでしょうか。

 この映画は「雛燕」がヒントになってる?


1939年新興東京による映画チラシ

 

 でも、ここまで和風にしているのに、「サンタクロース」の記述があるのですが、当時、サンタさんって既に一般的だったんでしょうか??

 それと、和風の地名の中に「ベルシー」だの混じっていて、これには意味があるのかとか疑問も湧きました。
 全部日本の地名で良かったのに、なぜ?

 ビルフラン様の屋敷の馬の名前もココのままだったりします。

 

 

 それと今回、この雛燕を読んで、中国語版を読んでいるような感じがしました。

 貨幣単位フランや国名の漢字は中国と共通なんですね。

 

 

人名対比
ペリーヌ・パンダボアヌ 橋本 花枝
オーレリー
マリ(スチーブンソン) 島崎家の令嬢 萩子
エドモン・パンダボアヌ 橋本 新太郎
ビルフラン・パンダボアヌ 橋本 新右衛門
パリカール アミ
*恐らく仏語の「ami(友達)」では?
マルセル(サーカスの少年) 玉吉《たまきち》
シモン荘 三五郎空地
シモンじいさん 焼石《やけいし》
飴屋さん 飴屋の小父さん
侯爵夫人カロリーヌ お局《つぼね》様
ガストン 前垂《まえだれ》のお爺さん
・無口爺さん・無口の小父さん
医師・サンドリエ 斉木先生
ラ・ルクリ お浅 
(焼石の飲み仲間の茂助《もすけ》のおかみさん)・紙屑買ひ
ロザリー お里
ファブリ 古川《ふるかは》
ベンディット 溝澤《どぶさは》
フランソワーズ お松(居酒屋と乾物屋)
オメール(フランソワーズの弟) 舎弟の文吉
ゼノビ叔母さん お虎伯母さん
ラ・ノアイエル お六
ライード(ラ・ノワイエルの同宿者) 君ちゃん
タルエル 黒塚《くろづか・こくづか》
テオドール 橋本鐵雄
(新右衛門の弟の子)
*原作ではビルフランの兄の子
ブルトヌー夫人 鐵雄のお母様
(新右衛門の妹)
*恐らく人物相関の間違い・正しくはブルトヌー夫人はビルフランの姉でカジミールの母
カジミール

古川勝彌
(新右衛門の妹の子)
*本来「ブルトヌー姓」であるから「古川」なのだろう

オヌー 小野
モンブール 細野
ラ・シューズ夫人 「玉川」の女主人
ヴィルジニー(ラ・シューズの店の売り子) 安川
ギョーム 喜助《きすけ》
ブノア 高水《たかみづ》
ジャック(サン・ピポワ工場構内でヴュルフランさまがあいさつをかえした工員) 虎吉
パスカル(同上) 三之助
フィルズ(英語の手紙のダッカのイギリス人神父) 蛭戸《ひるど》
ルクレール(ダッカのフランス人神父) 呉野《くれの》
ベルシェ(エドモンとマリが知り合ったお宅) 別所
ルセール(ダッカのエドモンの友人) 小栗
マッカーネス(デラの神父) 牧村
セバスチャン 政吉《まさきち》
フェリックス(御者) 平蔵
ベローム先生 高山先生
チビルスばあさん お虎婆さま
アミアンの銀行家 井口
リュション先生 登場なし

 

 

地名比較

アンヴァリード 招魂社
城塞の大通り 大瀬田圃
*読み《おほせたんぼ》と文脈から察すると、街の名前「オーセール」と混同しているのでは。
シャロンヌ 田町
アミアン 網井・網野
聖堂に近いリブレット街 緑町の寺院《てら》の側
マロクール 宮古
クレイユ 呉井
ピキニー 引毛
フレクセル 櫻井
サン・ピポワ 白岡
カンブレー 神部《かんべ》
アブリーヌ兄弟社 岡野商会
マロクール工場 宮古麻織物会社
ダッカ 田塚
デラ 照井
トラブニク 鳥部
ブーソヴァチャ 畑野
ルーアン 坂本

 

古語国名
仏蘭西 フランス
巴里 パリ
希臘 ギリシア
独逸 ドイツ
伊太利 イタリー
印度 インド
埃及 エジプト
土耳古 トルコ
欧羅巴 ヨーロッパ

 

 

わからなかったところや気が付いたところ

 ★甥の出自の変更

  テオドール&カジミールの甥の出自が変更されているのですが、日本の家督制度に合わせたのでしょうか。

 原作では、ビルフランはパンダボアヌ一族の末子で、ビルフラン一代で築き上げた財産(会社)なのですが、「雛燕」で、長子になっているのは、弟の財産を兄・姉が狙うのは不自然だからでしょうか。(そういうのがないことはないと思うんですが。)

 日本のお家騒動のようにわかりやすく、本家の跡取がいないので、分家が相続を狙うと言った形にしたのかも。

 テオドール(ビルフランの兄の子)
  ↓
 橋本鐵雄(新右衛門の弟の子)

 カジミール(ビルフランの姉の子)
  ↓
 古川勝彌(新右衛門の妹の子)

 

 ★アンバリッド(招魂社)
  ナポレオンが眠る墓所として有名なオテル・アンバリッドは、、傷痍軍人や戦没者慰霊のためのもので、普通の翻訳では「廃兵院」と訳されています。
 軍事博物館が併設され、広い敷地は軍事式典にも利用されています。
 行ってみたら、退役軍人や右翼のおっちゃんでいっぱいで、写真が撮れませんでした。
 (私が興味を持った個所は、多分普通の観光客とは違うので、それを撮影したら問題にされそうだった)

 ともあれ、「招魂社」とは「廃兵院」より絶妙の翻訳だと思う。
 今、翻訳したら「靖国神社」かな?(問題になる?)

 ★どうやら昔はポケットのことを陰嚢というらしい。

 ★「リボンのお婆さんは毎日町をながして歩くよかよかだと」

  よかよか?
  検索すると福岡の地域通貨単位とか出てきた…

 ★アミは20フランで売られた

 ★貨幣価値は5フラン=2円換算
 もしかして、当時の日仏レートなんでしょうか?

  でも、突然1両という単位も現れる
  「今に働き者の若い衆と一緒になんなされば日に一両は楽に取れやすからね」

 ★フランスフランは中国漢字と同じだったらしい

 「花枝は焼石に宮古行の汽車のことや時間を訊ねた、朝の六時と九時に発《で》ると解つた。汽車賃は九法《フラン》二十五参《サンチーム》であつた。」

 台湾版「孤女努力記」より

  佩玲從一大堆舊報紙裡、找到了火車時間表、知道往比基尼去的共有兩班早車、一班是六黒點、一班是十點。三等車票的票價毎張是九個法郎二十五生丁。

 ★シトロン・ソツプ

  調べるとシトロンはレモンより皮が厚いそうで、レモンとはちょっと品種が違うようです。

 もしかしてシトロンやスープがわからなかったのでそのまま表記したのかな?と思っていましたが、お友達に伺ったところ、どうやら昔はフランス語の「シトロン」の方が英語の「レモン」よりも一般的だったようです。

 リボンシトロンの方が
http://www.sapporo-inryo.jp/product/carbon/citron/
http://softdrinks.org/asd0212a/ribbon.htm

 キリンレモンより古い
http://softdrinks.org/asd9703a/kirinl.htm

 「ソツプ」とされるスープの表記も、当時は普通に使われていたようです。
  内田百氏の「第二阿房列車」中「雷九州阿房列車」に登場するそうです。


  

 ★パリ滞在中に比べ、一人でマロクールへ歩く描写はかなり少ない。
  パン屋のエピソードはこれだけ。

 「日没《ひぐれ》にならない間に、花枝は汽車から下りて、麺麭《ぱん》を買ひに行つた。彼女は五法《フラン》の金で、麺麭《ぱん》を一斤求め、釣り銭を貰はうとした。けれども其《そ》の金は贋造の貨幣であつた。彼女は麺麭屋《ぱんや》の店頭で、通行の人々にまで罵られて、しほしほと去つた。」

 

 ★お里ちゃん(ロザリー)は常に「敬語」で話してる?

 ★お里ちゃん(ロザリー)の怪我の描写なし。
  ただ具合が悪いとだけになっている。

 ★小屋での生活シーンも少ない
  当時の日本人は、わらじや下着など自作するのが普通で、珍しくもなかったのだろうか。描写が非常に淡白である。

  「呉服屋へ行つてキヤラコの切《きれ》と糸針《いとばり》を買い求め、それで粗末ながら自分の肌着を造つたり、野生のたゝみ草《ぐさ》で靴を編む様になり」

 ★ビルフラン様の目の手術なし 

 ★アミ(パリカール)を買い取る前に終わる。

 

 

 

抄訳本考察

 英語抄訳「Nobody's Girl」1922年出版、「The Adventures of Perrine」1932年出版を考えれば、1917年出版の「雛燕」は世界でも先んじた翻訳本だとわかりました。

 全ての日本語ダイジェストが英語からの重訳という訳ではなく、オリジナルのフランス語原作から、フランス語でのダイジェストが作られていて、そこから英語・イタリア語・日本語・中国語訳(筆者確認分)が作られていた流れもあったと推察されます。

 同じお話をまとめているとは言え、流れがあまりにも似通っているためです。

 

 一口に抄訳本と言っても、様様なパターンがあります。

 考えられる抄訳本の流れ

 

 五来素川氏は、原本から編纂して翻訳したのでしょうか。
 他の抄訳本と比較すると、ダイジェスト版のフランス語文書から翻訳されたのでは、と、推測します。

 原書と大きく違うのは、ペリーヌの出自が最初から語られているか否かだと思います。

 この仏語ダイジェストを編纂した方は、マロ氏ご自身なのか、どうか…

 マロ氏は1907年に没されているのですが、その前から体調がすぐれず(伝記に「麻痺していた」との記述有り)、もうお仕事をされてないようで、「家なき子」も「家なき娘」もダイジェストは他の編集者が存在しているように思います。

 筆者はアシェットから出版されていたフランス語ダイジェスト文庫を1997年、2000年に確認しており、なぜあの時に買わなかったのか、激しく後悔しております。
 (当時完全オリジナルを探していたので、「ダイジェストなんか」と思っていた…あああバカだー!)

 今更ですが、ダイジェストでそれを確かめたい…

 

他の抄訳本とのサブタイトル比較

雛燕

偕成社・水島あやめ氏版 岩崎書店・平井芳夫氏版 台湾・孤女努力記
王夢梅氏版
アミの悪戯《いたづら》 少女ペリーヌ 旅路の親子 流浪的母女
孝行娘 さよならパリカレ 母の病気 無奈的決定
名高いお医者 あはれ、みなし兒 さらばパリカレ 再見吧!伯力卡!
引越 パリーをあとに マロクールへ 難開巴黎
馬市場 なげきの旅路 世間の人 旅途中的暴風雨
永劫《なが》の別れ めぐりあひ めぐりあい 樹林裡的奇遇
ひとり旅 最初の友だち 少女ロザリー 初識羅莎麗
邂逅《めぐりあひ》 なつかしのマロクール 父の故郷 爸爸的故郷
途《みち》すがら 馬車の中の人 花うらない 看見了彭達福祖父
盲目《めくら》の旦那 眠れぬ一夜 下宿の一夜 難以入睡的一夜
酔ひどれのお六 おとぎの小屋 おつとめの日 進入工廠做工
手車押し 工場へ 友だちのけが 童話裡的小屋
通弁役 その日の出来事 浮き島の小屋 費盡苦心做成的鞋子
意外のお手柄 新しい宿 ひとりぐらし 成功的宴會
身の上ばなし ある思ひつき 小さい通訳 意想不到的幸運
サンタクロース たのしい工夫 おじいさまの手 拉著祖父的手
濡衣《ぬれぎぬ》 ままごと宴会 さびしい人 得到祖父的鍾愛
泥酔者《よひどれ》の代り 思はぬ幸運 秘密の手紙 羅莎麗吃了一驚
秘密の手紙 お祖父さまの手 おやしきへ 一封神秘的信
夢の王宮《みや》 相寄る心 村人の気持 唯一的知己
女先生 うれしい役目 ペリーヌの願い 搬進嚮往已久的家
悲しい報知《はうち》 秘密の手紙 かわいい孫 看見了爸爸的照片
火事がもとで 約束を守つて 明るい村 晴天霹靂
大団円 ただ一人の味方 誕生パーティ 替工人們謀福利
  お父さんの家   占卦有了霊験
  悲しい知らせ   可愛的孫女兒
  ペリーヌの願い   玫瑰花蕾般的臉龐
  かはいゝ孫   七千人的掌聲
  めぐり来し幸福    
  よろこびの日    

 

 

 

 

 

2005年6月4日作成

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