平成27年度日韓文化交流研修シンポジウム報告書

伝統仮面劇芸能についての日韓文化交流シンポジウム 
-韓国仮面劇(河回別神クッ仮面劇)を通して-

  

201510

公益社団法人中央日韓協会

 

Ⅰ第一部 河回別神クッ仮面劇についての講演
日時:平成27102()1530分~17
場所:韓国安東市河回村 河回別神クッ仮面劇保存會伝授教育館公演場
講師:河回別神クッ仮面劇保存會会長林 衝奎
講演内容:
①河回別神クッ仮面劇がこれまでたどってきた経緯についての説明
②仮面劇に登場する九つのキャラクターについて、実際の仮面を使いながらの説明
  カクシ(閣氏)、ヤンバン(両班)、ソンビ(儒学者)、ブネ(芸技役)
  チョンレイ(召使い)、ハルミ(老婆)、イメ、パゲスン(破戒僧)、ペクチョン(白丁)
③参加者に対する実技指導
  河回別神クッ仮面劇についての講演の後、林會長より参加者全員参加の実技指導を受けた。(写真-2参照)
  実技指導により河回仮面劇の特徴の一つである仮面の表情が演じ手のしぐさで変化することのすごさ、両班(貴族)、常民(庶民)、白丁(賤民)などが存在する階級社会での共同体としての繋がりに河回仮面劇が果たしてきた役割の理解につながった。

Ⅱ第二部 伝統仮面劇芸能についての日韓文化交流シンポジウム
-韓国仮面劇(河回別神クッ仮面劇)を通して-

      日時:平成27103()9時~12
場所:韓国安東市河回村 河回別神クッ仮面劇保存會伝授教育館講堂
発表者:林衡奎(河回別神クッ仮面劇保存會会長)
    孫祥洛 (安東市文化芸術課学芸研究員、河回別神クッ仮面劇保存會伝承助教)
    金井三喜雄 (写真家・韓国仮面劇映像研究会会長)
    間宮武美 (Team MAMIYA主宰、鎌倉安東友好交流会元事務局長)
出席者:約40名    日本側約20名、韓国側約20名  (写真-3参照)
司会、シンポジウムコーディネーター:片山 修氏 (公益社団法人中央日韓協会副会長)
通訳:崔 宗燮氏 (大邱慶北経済自由区域庁誘致二室専門委員)
プログラム:別紙参照

シンポジウム内容:
①開会の辞の後、河回別神クッ仮面劇保存會林衡奎(イムヒョンギュ)会長より開会の挨拶があり、引き続き公益社団法人中央日韓協会稲葉会長から同じく開会の挨拶(片山副会長代読)があった。

②意見発表
○保存會の林 衝奎會長からは、「河回別神クッ仮面劇復元と保存會の設立過程」と題して以下のような発表がされた。
 河回仮面は800年間村を守ってきたが、1928年には仮面劇の伝承が途絶えた。しかし、仮面劇を復元するため、若者たちが心を合わせて、「安東河回仮面劇研究會」を設立し、仮面劇の資料調査を大変な苦労をしながらも進め、そして多くの試練と逆境を乗り越え、河回別神クッ仮面劇の復元と現在の保存會の設立に至った過程について説明があった。
 現在の保存會にいたる最大の試練は、河回別神クッ仮面劇が途絶えてから四十数年が経った時点で、当時の最後の演じ手のみならず観客までを探し出し、資料の提供を受けたり聞き取りを行い、仮面劇の構成と台詞全体を復元することに心血を注いだことである。
 河回仮面劇は、村で起こり得る様々な葛藤と矛盾を表現し、日常生活で起こる階級間の葛藤を解消できる風抜きとして村共同体を結束させる一つの装置であった。
 こうした河回仮面劇に係る経緯を聞き、河回村、そして保存會の皆さんの壮絶な熱意を感じた。

○保存會の孫祥洛(ソンサンラク)伝承助教からは、「国家指定無形文化遺産 河回別神クッ仮面劇 -村民俗から公共民俗へ-」と題して、以下のような発表があった。
 中世社会において河回村では、支配階級と被支配階級が存在する中で生活共同体として文化を育み、伝承されていた。都市とは違った形で自然の優しさの中で自然に溶け込み、社会的変化にも柔軟に対応できる、そのような民俗文化を次世代に繋いできた。
 韓国においては、1970年代に近代化が図られ、セマウル運動が進む中で、若者が村を離れ、伝承文化そのものの現場が減少し、また大衆文化に飲み込まれ、文化伝承の力が弱まった。しかし、河回村ではセマウル運動の波から逃れ、800年続いた河回村の文化を残すことができ、韓国民俗村としての地位を築き上げることができた。
 もともと河回村仮面劇には、両班という支配階級と常民という庶民とが存在する中で、その闘争を解消し、共同体として暮らす知恵が溢れている。
 時代が変わりながらも多様な文化を受け入れて発展させてきた河回村全体が重要民俗資料122号に指定され、そして保護され、また、2010年にはユネスコ世界遺産として登録された。
 
そして、河回村仮面劇は、村の守護神に捧げる特別大祭、庶民の息抜きを与える風穴としての「村民俗」から、現在の公演を中心とする文化観光、安東を内外に広報する地域の象徴としての「公共民俗」に変化しており、河回村の垣根を大きく越えて韓国文化を代表するシンボル的役割を果たしている。
 以上のような話を聞き、河回村文化の意味、その中で河回村仮面劇の果たす役割を知り、村文化と河回村仮面劇が韓国のシンボル的存在であることが理解できた。

○日本の金井氏は、「韓国仮面劇について」と題して以下のような発表をされた。
 韓国には、重要無形文化財に指定されているソウル市と周辺の松坡山台(ソンパ・サンデ)ノリ、楊州別山台(ヤンジュ・ピョルサンデ)ノリ、今は北朝鮮地域の鳳山(ポンサン)タルチュム、康翎(カンニョン)タルチュム、殷栗(ウニョル)タルチュム、北青獅子(プクチョン・サジャ)遊び(この4つの仮面劇は北朝鮮から韓国に移り住んだ人々が復元して公演活動を実施)、そして釜山の水営野遊(スヨン・ヤリュ)、東萊(トンネ)野遊、慶尚北道の統営五広大(トンヨン・オガンデ)、固城(コソン)五広大、駕山(カサン)五広大、慶尚北道の河回別神クッ(ハエ・ピョルシンクッ)、江原道の江陵官奴(カンヌン・クアンノ)仮面劇の13の仮面劇だけでなく、晋州(チンジュ)、醴泉(イエチョン)、済州島(チェジュド)など、韓国各地で行われている仮面劇がある。
 河回別神クッ以外は、仮面は粘土紙でできており、仮面劇が終わると燃やして天に帰していた。また、「河回」と「江陵」とは他の11の仮面劇とは異なり、「城隍(ソナンゼ)祭信仰(悪霊を追い払い、村を守り、豊作を願う信仰)」により行われたものである。
 さらに、河回の仮面劇の特徴を話す中で、河回の仮面は、人間的で、登場人物の役割・個性を木の仮面の中に見事に表現されているなど、他の仮面と違うことを指摘している。
 金井氏は、これらの仮面劇を実際に見ており、その体験に基づいたその分析的説明は、誰にでも理解できる説得力のあるものであった。

○日本の間宮氏からは、「鎌倉市の長谷(坂の下)に伝わる「面掛行列」と題して、以下のような発表をされた。
 日本の鎌倉市にある御霊神社が行っている「面掛行列」は、行列奉行の采配のもと、金棒、御榊(オサカキ)、御鉾(オンホコ)、白旗などを持った大勢の氏子による行列である。また「面掛行列」で使われる仮面は、奈良時代、仏教布教のために日本全土の寺院で上演された「伎楽」と呼ばれる仮面劇の面を原型にしている。「伎楽」は、インドで創作され、東南アジア、シルクロード周辺の国に伝わり、紀元7世紀に朝鮮半島を経て日本に伝わったと言われており、面には様々な人種の顔貌が見られる。
 現在、この種の行列は御霊神社が伝えるのみとなったが、全国的にも希少となった「仮面風流」を現在に伝える文化遺産として、神奈川県の無形文化財に指定されている。
 また一方で、安東市と日本の鎌倉市との間には、共通点、中でも仮面文化を大事にしている共通点があることから、両市による文化交流が始まり、8年間の市民交流を通じて20137月に、パートナーシティの締結に至った。
 当時、間宮氏自身が、「鎌倉安東友好交流会」の事務局長として両市のパートナーシップ締結に尽力されたことに敬意を表する。

③質疑応答:
・質疑応答においては、発表者による補足説明が主となった。

Ⅲまとめ
①第一部
・河回村仮面劇に登場する9つの仮面を実際に見ながら、その意味と役割についての説明を受け、その後、参加者が全員参加して、林會長自らによる踊りの実技指導を受けた。自分が実際に9つの役割を踊りで表現することにより(踊りそのものは全く形になってはいないが)、河回村仮面劇の真骨頂であり、トータルとして共同体のベースを流れている調和と寛容を感じ取ることができた。これは、十分に国の垣根をも越えて理解し賛同できるものであった。

②第二部
・今回は、韓国を代表する河回村仮面劇を通して、日韓の伝統仮面劇芸能をテーマとしたシンポジウムを行った。日本における能等については、発表の対象とせず、河回村仮面劇につながりのある鎌倉の面掛行列を発表の対象とした。
4人の発表を聞くことにより、河回村における仮面劇の元々の意味と役割、河回村の800年に亘る文化の継続、そして1928年に一旦途絶えた仮面劇の四十数年後の復活とその復活のために心血を注いだ保存會の執念と熱意を十分に理解できた。このことは、我々日本人にも文化の意味、役割について改めて考える一つのきっかけともなり、文化交流の必要性、重要性を認識することとなった。
・質疑応答では、発表者に補足をしてもらい、発表内容に対する理解はさらに進んだが、時間の関係で、会場の参加者からの質問等を受けることができなかったことは、惜しまれた。
・今回の研修シンポジウムを通じて、これまで見たことのない韓国の文化に触れ、共同体の本質、知恵とについて考えることができた。
・ある者の言によれば「文化とは、知識、信仰、芸術、法律、風俗など、社会の成員である人間によって学習し獲得されるすべての能力や習慣を包含した全体であり、後天的で歴史的に形成された外面的かつ内面的な生活様式の体系である。そして、一集団または特定の一部の人々が、その文化を共有する。人間は文化を持つことで、初めて人間らしさを備えるようになったのである。」とある。
・文化交流をすることにより、これまでとは違った視点で自分たちの文化を見ることができ、それが自分たちの文化をさらに進化させ、明日につなげる可能性を生むことが期待される。
・今回のシンポジウムにより、国境を越えて、お互いの理解が深まったといえるし、信頼関係も進んだものと評価でき、シンポジウムに一定の成果があったものと思慮される。
・今回の研修シンポジウムの実施にあたっては、韓国仮面劇と深い繋がりを持つ金井三喜雄氏や鎌倉の面掛行列を通して安東市や河回クッ仮面劇と親交の深い間宮氏の協力に負うところが大きい。
 
また、日本側と河回クッ仮面劇保存會との間に入り各種調整に尽力された崔 宗燮( チェ ジョンスプ)氏や現地での宿泊、移動等に多大な協力をしてくれた韓 楠洙(ハン ナムス)(写真家・イベントプロデューサー)がいる。
 さらに、今回のシンポジウムは、安東国際仮面舞フェスティバルの期間中であり、共催を引き受けてくれた河回別神クッ仮面劇保存會としても多忙を極める状況であったにもかかわらず、全面的に協力してくれた。林會長には、自ら講演、実技指導、発表までしていただいた。
 これらの皆様方に、心より深く感謝と敬意を表する次第である。

     

      写真ー1 研修シンポジウムに日本から参加した人々






       写真-2 講演における実技指導(金井三喜雄氏提供)






   
       写真-3 シンポジウム風景

 

                                                               以上

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