高知大学農学部 生理活性物質化学研究室

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研究内容



アブラムシの生活環

アブラムにはいろいろなタイプの生活環をもつ種が存在します。図1aに示すのは寄主転換を行うアブラムシの生活環の概略です。越冬した卵から孵化したアブラムシはすべて雌でこれを幹母と呼びます。この幹母は一次寄主植物上で単生殖を行い産仔します。生まれた仔虫は基本的にその場にとどまり植物を吸汁しながら成長し成虫になると母虫同様に単為生殖で産仔します。増殖が繰り返され一定条件(個体数密度、植物生理変化、時期など)になると有翅虫(すべて雌)が出現し飛散・分散し、二次寄主に移住します。うまく二次寄主植物に順応すると翅を落とし植物上で単為生殖を繰り返し増殖します。秋ごろになると二次寄主植物上で産性虫という雄と雌を産仔出来る個体が出現します。これは一般的には有翅虫であることが多いようです。産性虫は一次寄主(若しくは無関係な場所)に集まり雌雄を産仔します。産仔された有性生殖世代は成虫になると交尾し一次寄主に産卵し、卵は越冬します。

図1a アブラムシの生活環の一例

 



アブラムシの不思議

1.寄主をどのように決めるのか?

アブラムシに限りませんが多くの昆虫は自身の食べる餌の範囲が決まっています。それをどのように決めているのか? なぜ他の植物では生育できないのか? そんな謎が古くから問いかけられ、いくつかの昆虫と植物の間には、摂食行動や産卵行動を刺激したり、阻害したりする化学因子が存在していたり、誘因物質が存在したりすることが知られています。しかしほとんどの昆虫と植物の相互作用については未解明のままです。

特に一部のアブラムシでは「寄主転換」を行います。「モンシロチョウが幼虫の時にはキャベツの葉を食べ、成虫は花の蜜を吸う」のも寄主(食餌)転換ですが、アブラムシの寄主転換は図1aに示したようにかなり変わっています。なぜこのようなことをしなければならないのかは幾つかの仮説が提案されていますが未だに謎です。

研究室では、どうしてあるアブラムシが特定の植物を寄主にするのか? そして、どうして寄主を転換するのか? このメカニズムを主に有機化学と分子生物学を用いて解明しようとしています。

 

2.ゴール(虫こぶ)をどのように作るのか?

 植物の葉や茎が異常に膨らんでいる様子を見たことはありませんか? 人にこぶが出来ると病気のように思われますが、植物にこぶができるとほとんどの場合は昆虫によるものです。こぶを作る昆虫にはアブラムシの他、ハチ、ガ、ハエなどが存在します。昆虫がこぶを作る理由は彼らにとっての家(シェルター)と考えられています。確かに植物の奥深くに潜んでいれば外敵(捕食性の昆虫や動物、あるいは寄生性のハチやハエ)からより高い確率で身を守ることが出来ます。しかしそれだけではありません。彼らはゴールをシェルターとして作るだけでなく、ゴールの中に栄養素を選択的に蓄積させていることもわかっています。彼らにとってゴールはまさに「お菓子の家」のような状態になっているのです。

 研究室ではどのように栄養素を蓄積させるのかを有機化学と分子生物学の両面から研究すると同時に、ゴールの形成メカニズムの解明にも挑戦しようとしています。

 



オカボノクロアブラムシのゴール形成と栄養変化

図1b オカボノクロアブラムシの生活環

 オカボノクロアブラムシ(Tetraneura nigriabdominalis Sasaki)は陸稲や小麦、大麦などイネ科作物の害虫ですが、このアブラムシはニレを一次寄主として春に発生し、幹母はニレ葉上に閉鎖した袋状のゴールを形成します。その後、幹母の産仔虫が有翅虫に達するとゴール側面が開口して、有翅虫はニレから分散し二次寄主であるイネ科植物の根部に移住し増殖します。さらに秋に有翅虫が再度発生しニレに産卵し卵は越冬します。このオカボノクロアブラムシの春季発生におけるゴール形成の意義を考察するため、アキニレ(Ulmus parvifolia Jacq.)に形成されたアブラムシによるゴールの形成過程を観察するとともに、ゴール組織および非寄生の葉部に含まれるイオン性化学物質の分析を行いました。

 

その結果、日章キャンパス内のアキニレを観察すると4月上旬からアキニレの芽吹きが若干展開した新葉の中に黒色のT. nigriabdominalis の幹母の発生が確認された(図1b)。


 

図 1c アキニレ葉上のゴールの成長過程

この発生は樹木が初めて芽吹く時期に合わせ4月中旬ごろまで観察された。ゴールの形成開始が確認された5つのゴールの成長を調査したところ3つのゴールが成長を続け、縦・横ともに約10日で最大(縦約1.2cm, 横約0.7cm)に達し(図1c)その後約20日間、変化は観察されず、ゴール形成開始3035日後にゴールに開口が生じ、有翅虫の脱出が観察された。その後約10日に渡り有翅虫の脱出が確認され、5月中旬よりゴールの委縮・腐敗などが観察された。

 

  アブラムシ未寄生の完全葉とゴールに含まれるアミノ酸量を測定すると、いずれのアミノ酸も完全葉に比べてゴール中で増加していることが確認され、特にアスパラギン濃度はゴール中で100倍近くにも増加していた。ゴールの大きさごとの濃度を測定するとゴールの生育期(ゴール小・中)ではアミノ酸の誘導量は小さく、大きなゴールの半分以下であった(図1d) さらにステージが進んだ開口したゴールや萎凋したゴールではアスパラギン濃度はさらに減少した。

 

図 1d  ゴールおよび完全葉のステージ別の

アスパラギン含有量

 

 アスパラギンはグルタミンとともにアブラムシの共生微生物であるブフネラへの窒素供給源として利用されていると考えられている。本研究の結果からオカボノクロアブラムシはゴールの形成とともにこれら栄養源を誘導し利用しているものと考えられた。