
極私的名曲? その16
世界の国歌を聞き比べる
| 今回は趣向を変えて世界の国歌を聞いてみることにする。われわれが知っている国歌というと日本、アメリカ、フランス、イギリス、そしてここに来る方ならドイツ国歌もご存知だろう。今年からはEUの歌も制定されたが、なぜか日本人が全員知っている曲だ。年末になると日本人はこぞってEUの歌を歌いだす。ベートーヴェンの印税の3分の1は間違いなく日本発である。 しかし世界には200近くの国家が存在し、それだけの国歌がある。歌詞にはそれぞれの歴史、理想、優越願望、闘争本能、そして時の権力者の趣味が反映されていたりする。私は大抵の国歌を聞いたが、歌詞はどこも鼻息が荒いか、やたらと崇高ぶっているという共通項を残しながらも、お国柄がよく反映されている。無理矢理反映させている、といっていいかもしれない。しかしその割りに音楽そのものは似たり寄ったりなのには驚く。西洋和声による軍歌調のものか、コラール調のものか、ほぼこの2種類に分類される。ところどころその国「らしさ」が垣間見えるものの、意外にフツーなのである。日本全国の校歌を聞き比べるのとさして変わらないような気がする。ジャマイカならレゲエ国歌、ブラジルならサンバ国歌とか、そんなつきぬけたファンキーさは、どこにも、ない。 ところが時々、とんでもなく個性的な国歌にめぐり合う。その大抵が「民族」のニオイの香ばし目の国である。今回は歌詞は置いとくとして、国歌の「音楽だけを」聴いてみることにする。なお、聞き比べに際してはできるだけmidiも聞いて、おなじ条件で比べられるように配慮したつもりである(民族楽器、民族歌謡で聞いたらどれでも個性的に聞こえますからね)。 非西洋和声系 まず、世界の国歌の中で、西洋和声から外れまくって個性的なのが、間違いなく日本である。 real audioファイル(雅楽、歌唱つき。長野オリンピック時の斉唱) : http://www1.sphere.ne.jp/m-sinano/olra/kimi.ra midiファイル : http://www.lengua-translations.de/anthems/japan.mid これに関しては世界のどの国も文句をつけられない。曲の短さ、テンポの遅さ、展開の読めなさ、コーダのすわりの悪さ、世界の国歌の中でもダントツである。なにしろ調性がない。しかも当の日本国民も歌詞の内容をよく理解できていない、曲をめぐって未だに悶着がある(建国当初や新体制発足直後、あるいは分離独立派がいるというのなら分かるが)というのも、すごい現象であろう(多分)。昔、オーケストラが来日したときは演奏の最初に自国と相手国の国歌を演奏していたということだが、そのときにミュンシュやベームが、ものすご〜〜く遅いテンポで君が代を用意してきたというのもよく分かる。楽譜を見て音楽を組み立てる人間からすると、この曲はそうとうとっつきにくいことは想像に難くない。世界の国歌集を聞いて、つまんねえなあと思っているときに君が代を鳴らすと、異常に恍惚感を味わうことができる。ちなみにこの拙文に政治的意図は、まったくない。純粋にいい曲だと思う。 次に驚いたのが、国歌という概念からはちょっと外れてしまうが、ダライ=ラマのチベット自治政府の歌。 rmmファイル(アカペラ) : http://www.tibet.net/audio/9.rm midiファイル : http://www.bekkoame.ne.jp/~miyatani/tibet_w.mid こちらも非西洋和声。したがって調性の分からなさ、展開の読めなさがセットでついてくる。おまけに拍子も分からない。チベットの音楽進行を知らない者にとっては、何らかの歌詞にテキトーに音程をつけてみた感じに聞こえる。こりゃスゴイ。midiで聞いてみたいが、それでも多分個性は消えないだろう。でもちょっと聞き進めるとなんとなく展開がつかめてくるのはわれわれががアジア人なゆえか。そこはかとなく中国民謡に近い感じで親しみを覚える。 何だこりゃ系 というと当の国民の皆様に失礼だが、なぜか大佐が実権を握るリビアの国歌。 ramファイル(映像つき、ブラスバンドと男声合唱) : こちら ※manar-tv の旧サイトにあったビデオクリップだが、このページの国歌ファイルへのリンクが切れているため、やむを得ず以前保存したものを掲載することにします。 midiファイル : http://www.flags-and-anthems.com/imgs/anthems/120.mid 国歌というよりプロモーションビデオにたまげているのかもしれない。300キロバイトの容量の中に音楽だけでなく、2分ちょっとの映像まで詰め込むというその強引さにホレた。で、その映像というのが画像が悪すぎてよく分からないのだが、内戦かなんかのもよう。60数年前の日本の戦況ニュースとまったく同じノリで、血なまぐさい。曲間に誰かさんの演説が入るのだが、まさかこれも国歌の一部ではないだろうな。でもアンタ誰?少なくともカダフィではないのは分かるのだが・・・そして社会主義国なのにアッラーアクバルとシャウトするその国家原理のユルさがたまらん(「イスラム社会主義国」という概念があるのは分かっていますが・・・)。ちなみにmidiだけを聞いてみると、曲自体は多少エキゾチックなものの、まあ国歌としてありえる範囲の曲のようだ。それにしてもこのガタガタの映像の展開、2chなんかで見かけるフラッシュのフォーマットそのものだよ。 同系統でもうひとつ。ここも国家というには微妙だが、チェチェンの国歌。 mp3ファイル(ポップスバンドとソロ歌唱。ダウンロードに少し時間がかかるかも) : http://www.ce.berkeley.edu/~asaritas/Chechen%20Anthem.mp3 midiファイル : 現在捜索中 Cecen Milli Marsi というからには軍隊行進曲らしいのだが、これで聞くかぎり、「エーンヤーァトットット」をモチーフに3分間繰り広げられるフツーのアラブポップス。曲から悲壮感はまったく感じられず、血なまぐささもなし。テケテケとにぎにぎしくていい。リビアとチェチェン、逆のほうが国情に合っているような気もするが・・・まあ国歌くらいは楽しく歌ってたほうがいいのかもね。 短調系 ということで、ほとんどの国歌の長調で作られている中にあって異彩を放つ短調の国歌をいくつか。 まずは黒海カスピ海周辺から4国つづけて。ブルガリア、トルコ、アルメニア旧国歌、アゼルバイジャン。この4国、地理的にもつながっているが、よりにもよって短調国歌でも連なっているのは、小アジアあたりの風土だろうか。オスマン帝国の崩壊の後に生まれたこれらの国々は、苦難克服が国家目標にらざるを得ないという歴史的背景が大きいような気もする。 まずは、ブルガリア。 mp3ファイル(ブラスバンドと混声合唱) : http://www.gotterdammerung.org/bulgaria/symbols/himn.mp3 midiファイル : http://www.imagesoft.net/midi/bulgaria.mid この4国の中でもやはり一番西洋寄りで、割と垢抜けている。時折現れるペンタトニック音階がオリエントを感じさせて、いい。この曲は個人的に好きである。 そしてお隣のトルコ。 wavファイル、オーケストラ(ブラバン?)と混声合唱 : http://www.jp-tr.com/media/anthem.wav midiファイル : http://www.imagesoft.net/midi/turkey.mid 昭和3,40年代の日本の歌謡曲にありそうな湿っぽさと垢抜けなさ、泥臭さが哀愁を誘う。初期のスポ根モノにも使えそうな気もする。サンプルで聞いた録音のせいか。 アルメニアからはソ連時代の旧国歌を推薦。 mp3ファイル(オーケストラと混声合唱) : http://www.marxists.org/history/ussr/sounds/mp3/Armenia.mp3 midiファイル : こちら 作曲はなんとハチャトゥリアン。冒頭の節回しは、オリエントな音進行を使いながら長調とも短調とも見分けがつかない旋律を奏でる、留学中に毎週聞いていたアルメニア聖歌の旋法と一緒である。ものすごく民族の個性が出ているのはやはりハチャトゥリアンのワザか。しなやかな旋律をものすごいエネルギーで盛り上げていくのもやはりハチャトゥリアンのワザか。これは圧倒されます。現在しこしことマイ着メロ用に変換中。ちなみに新生アルメニア共和国の国歌は明るい行進曲だが、他の国とあまり変わらなくなってしまった。残念である。 そしてアゼルバイジャン。 ramファイル(オーケストラと混声合唱) : http://www.azer.com/aiweb/categories/music/AudioPages/arealaudio/az_hymn_independence.ram midiファイル : http://www.imagesoft.net/midi/azerbaid.mid こちらも国民的作曲家ウゼイル・ハジベヨフによる曲であり、近親国家(民族的にも言語的にも近い)トルコの国歌と同じにおいがする。こちらのほうがもっと叙事詩的であり、その分印象に残りにくくなっている気がする。 ここでエキゾチックものをもうひとつ。モロッコの国歌である。 mp3ファイル(オーケストラと男声合唱) : http://www.mincom.gov.ma/french/generalites/intro/nachid.mp3 midiファイル : http://www.mincom.gov.ma/french/generalites/intro/nachid.mid 初期のジャッキー=チェンモノのテーマソングのような泥臭いメロディと、ハバネラを鈍くさくしたようなリズムが病みつきになる。初代の水戸黄門ソングのような感じか。伴奏に時折聞こえるシドシドシドというのも妙に耳に残る。そしてさくっとしたエンディング!!悪いけどこりゃ本気かね?と思ってしまう。 そして、短調といって忘れてはならないのが、イスラエル。 http://www.science.co.il/Israel-anthem.asp にmidiから合唱、女性ヴォーカル版まで色々とあります。 ド演歌風ド短調である。これをしのぐ短調国歌は絶対にない。題名は「希望」というが、音楽は、希望というよりむしろ「絶望」のほうがちかい。澱んだモルダウのようにも聞こえるし、赤い靴〜にも聞こえるし、女声ヴォーカルのヴァージョンは日曜朝のテレビ番組「遠くへ行きたい」のテーマソングにも聞こえてくる。2000年の苦渋辛酸がつまりまくった、素人がうかうか手出しできない重さを持った、ダントツで記憶に残る曲である。 以上10カ国の個性豊かな国歌を聞いたが、いずれも国そのものの印象が強いところばかりなのが興味深いところである。なお私はこの中では日本、アルメニア旧国歌、ブルガリア、イスラエルが好みである。そしてここに上げた他にもロシア、チェコ、イタリアの国歌は音楽として大変魅力的であり、世界的なメロディとしてもっと知られてもいい傑作だと思う。いずれ第2弾ででも取り上げてみたい。ちなみに私の現在の着メロは、まるでオペラのアリアのようなイタリア国歌である。せっかくなのでこれも載せます(midiファイル、前奏つき)→こちら。 |