これまでの「あらすじ」
これまでの
  「あらすじ」
メールマガジンの説明 メルマガ
  サンプル
読者登録
メルマガ
  読者登録
キャラクター人気投票 人気投票
 和歌・解説
リンク集
リンク集

 源氏物語の物語の中で、登場人物たちが贈り合った手紙や恋文、独り言など
 メルマガで紹介した和歌をまとめております。

■ 使える恋文集 和歌の解説・掛詞の紹介 ■



第1帖【桐 壺】
第1文 限りとて 別るる道の 悲しきに いかまほしきは 命なりけり
第2文 宮城野の 露吹き結ぶ 風の音に 小萩がもとを 思ひこそやれ
第3文 鈴虫の 声の限りを 尽くしても 長き夜明かず ふる涙かな
第4文 荒き風 防ぎし陰の 枯れしより 小萩がうへぞ 静心なき
第5文 雲の上も 涙に暮るる 秋の月 いかで澄むらむ 浅茅生の宿
第6文 いときなき 初元結いに 長き世を 契る心は 結びこめつや

第2帖【帚 木】
第8文 手を折りて 相見し事を 数ふれば これ一つやは 君が憂き節
第9文 木枯らしに 吹き合すめる 笛の音を 引き止むべき 言の葉ぞなき
第10文 咲き混じる 色はいづれと わかねども なほ常夏に 如く物ぞなき
第11文 打ち払ふ 袖も露けき 常夏に 嵐吹き添ふ 秋も来にけり
第12文 逢ふ事の 夜をし隔てぬ 仲ならば 昼間もなにか 眩ゆからまし
第13文 つれなさを 恨みも果てぬ 東雲に 取りあへぬまで 驚かすらむ
第14文 見し夢を 逢ふ夜ありやと 嘆く間に 目さへ合はでぞ 頃も経にける
第15文 帚木の 心を知らで 園原の 道にあやなく まどひぬるかな

第3帖【空 蝉】
第16文 空蝉の 身を変へてける 木の元に なほ人柄の 懐かしきかな
第17文 空蝉の 羽に置く露の 木がくれて 忍び忍びに 濡るる袖かな

第4帖【夕 顔】
第19文 心あてに それかとぞ見る 白露の 光添へたる 夕顔の花
第20文 咲く花に 移るてふ名は つつめども 折らで過ぎ憂き 今朝の朝顔
第21文 前の世の 契り知らるる 身の憂さに 行く末かねて 頼みがたさよ
第22文 夕露に 紐解く花は 玉鉾の 便りに見えし 縁にこそありけれ
第23文 光ありと 見し夕顔の 上露は たそがれ時の 空目なりけり
第24文 見し人の 煙を雲と 眺むれば 夕べの空も 睦まじきかな
第25文 空蝉の 世は憂きものと 知りにしを また言の葉に かかる命よ
第26文 蝉の羽も 裁ち替へてける 夏衣 返すと見ても 音は泣かれけり
第27文 過ぎにしも 今日別るるも 二道に 行く方知らぬ 秋の暮れかな

第5帖【若 紫】
第29文 おい立たむ ありかも知らぬ 若草を おくらす露ぞ 消えむ空無き
第30文 初草の 若葉の上を 見つるより 旅寝の袖も 露ぞ乾かぬ
第31文 さしぐみに 袖濡らしける 山水に すめる心は 騒ぎやはする
第32文 夕まぐれ ほのかに花の 色を見て 今朝は霞の 立ちぞ煩ふ
第33文 見ても又 逢ふ夜まれなる 夢の中に やがて紛るる 我が身ともがな
第34文 世がたりに 人や伝へむ 類なく 憂き身を醒めぬ 夢になしても
第35文 手に摘みて いつしかも見む 紫の 根に通ひける 野辺の若草
第36文 葦わかの 浦にみるめは 難くとも こは立ちながら かへる波かは
第37文 立ちどまり 霧のまがきの 過ぎうくば 草の戸ざしに 障りしもせじ
第38文 ねは見ねど 哀れとぞ思ふ 武蔵野の 露分けわぶる 草の縁を

第6帖【末摘花】
第40文 里わかぬ かげをば見れど 行く月の いるさの山を 誰かたづぬる
第41文 鐘つきて 閉ぢめん事は さすがにて 答へま憂きぞ かつはあやなき
第42文 晴れぬ夜の 月待つ里を 思ひやれ 同じ心に ながめせずとも
第43文 朝日さす 軒のたるひは 溶けながら などかつららの 結びほつらん
第44文 ふりにける 頭の雪を 見る人も おとらず濡らす 朝の袖かな
第45文 なつかしき 色ともなしに 何にこの 末摘花を 袖に触れけん
第46文 くれないの 花ぞあやなく 疎まるる 梅の立枝は なつかしけれど

第7帖【紅葉賀】
第48文 もの思ふに 立ち舞ふべくも あらぬ身の 袖うち振りし 心知りきや
第50文 いかさまに 昔結べる 契りにて この世にかかる 中の隔てぞ
第51文 よそへつつ 見るに心は なぐさまで 露けさまさる なでしこの花
第52文 笹分けば 人や咎めむ いつとなく 駒なつくめる 森の木隠れ
第53文 人妻は あなわづらはし 東屋の 真屋のあまりも 慣れじとぞ思ふ
第54文 つつむめる 名や漏り出でん 引きかはし かくほころぶる 中の衣に
第55文 中絶えば かごとや負ふと あやふさに 縹の帯は 取りてだに見ず
第56文 尽きもせぬ 心の闇に 暮るるかな 雲居に人を 見るにつけても

第8帖【花 宴】
第57文 おほかたに 花の姿を 見ましかば つゆも心の 置かれましやは
第58文 深き夜の あはれを知るも 入る月の おぼろげならぬ 契りとぞ思ふ
第59文 うき身世に やがて消えなば 尋ねても 草の原をば 訪はじとや思ふ
第60文 世に知らぬ 心地こそすれ 有明の 月のゆくへを 空にまがへて
第61文 心いる 方ならませば 弓張りの 月無き空に 迷はましやは

第9帖【 葵 】
第63文 影をのみ 御手洗川の つれなきに 身の憂きほどぞ いとど知らるる
第64文 はかりなき 千尋の底の 海松ぶさの 生ひゆく末は 我のみぞ見む
第65文 儚しや 人のかざせる あふひ故 神のゆるしの 今日を待ちける
第66文 袖濡るる こひじとかつは 知りながら 下り立つ田子の 自らぞ憂き
第67文 なげきわび 空に乱るるわが魂を 結びとどめよ したがひのつま
第68文 限りあれば うす墨衣 あさけれど 涙ぞ袖を 淵となしける
第69文 のぼりぬる 煙はそれと 分かねども なべて雲居の あはれなるかな
第70文 人の世を あはれと聞くも 露けきに 遅るる袖を 思ひこそやれ
第71文 秋霧に 立ちおくれぬと 聞きしより 時雨るる空も いかがとぞ思ふ
第72文 あやなくも 隔てけるかな 夜を重ね さすがに馴れし 夜の衣を
第73文 新しき 年ともいはず ふるものは ふりぬる人の 涙なりけり

第10帖【賢 木】
第75文 少女子が あたりと思へば 榊葉の 香を懐かしみ とめてこそ折れ
第76文 行く方を 眺めもやらむ この秋は 逢坂山を 霧な隔てそ
第77文 年暮れて 岩井の水も こほりとぢ 見し人影の あせもゆくかな
第78文 嘆きつつ 我が世はかくて 過ぐせとや 胸のあくべき 時ぞともなく
第79文 風吹けば まづぞ乱るる 色かはる 浅茅が露に かかるささがに
第80文 長らふる 程は憂けれど ゆきめぐり 今日は其世に あふ心地して
第81文 あひ見ずて 忍ぶる頃の 涙をも なべての秋の 時雨とや見る

第11帖【花散里】
第83文 をち返り えぞ忍ばれぬ ほととぎす ほの語らひし 宿の垣根に
第84文 橘の 香をなつかしみ ほととぎす 花散る里を 訪ねてぞとふ

第12帖【須 磨】
第86文 鳥辺山 燃えしけぶりも 粉ふやと 海女の塩焼く 浦見にぞゆく
第87文 行きめぐり 遂に澄むべき 月影の しばし曇らむ 空な眺めそ
第88文 逢瀬なき 涙の川に 沈みしや 流るるみをの 初めなりけん
第89文 別れしに 悲しき事は 尽きにしを 又ぞこの世の 憂さはまされり
第90文 身はかくて さすらへぬとも 君があたり 去らぬ鏡の かけは離れじ
第91文 こりずまの 浦のみるめの ゆかしきを 塩焼くあまや いかが思はん
第92文 浦人の 潮汲む袖に くらべ見よ 波路へだつる よるの衣を
第93文 知らざりし 大海の原に 流れ来て ひとかたにやは 物は悲しき






第1文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 限りとて 別るる道の 悲しきに いかまほしきは 命なりけり

 【補足】
 かぎりとて わかるるみちの かなしきに いかまほしきわ いのちなりけり

 【状況】
 光源氏のお母さんが、他の女性たちの嫉妬によりいじめられ、精神的にも
 肉体的にも弱っていき、ついに命の炎が消えそうになっている時に、帝に
 詠んだお別れの挨拶の和歌です。

 【掛詞】
 「いかまほしき」の「いか」が、前半の「別るる道を→行く」という意味
 と、後半の「生きる←命」という2つの意味に使われております。
 『行』と『生』の掛詞

 リストへ戻る
第2文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 宮城野の 露吹き結ぶ 風の音に 小萩がもとを 思ひこそやれ

 【補足】
 みやぎのの しもふきむすぶ かぜのねに こはぎがもとを おもいこそやれ

 【状況】
 今は亡き妻と自分との間に授かった幼い子供が、妻の実家で寂しく暮らし
 ているのを可愛そうに思い、また自分自身も息子と一緒にいたいという気
 持ちに気付いた帝が義母に詠んだ和歌です。

 【掛詞】
 「小萩」の「こ」には「小=小さい・幼い」と「子=子供」という2つの
 意味が含まれています。勿論、ここでいう幼い子供とは光源氏のことです。
 『小』と『子』の掛詞。
 ちなみに「露」は涙を意味する表現として使われることが多々あります。

 リストへ戻る
第3文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 鈴虫の 声の限りを 尽くしても 長き夜明かず ふる涙かな

 【補足】
 すずむしの こえのかぎりを つくしても ながきよあかず ふるなみだかな

 【状況】
 はかなく美しく優しかった桐壺の更衣さまのことを思い出すと、涙が限り
 なく出て、鈴虫が鳴くように声を上げて一晩中泣いても涙は尽きない…。
 という気持ちを込めて、使いの者が桐壺の母へ詠んだ和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「鈴虫」の「鈴」から「鈴を振る」という言葉が縁語(連想できる言葉)と
 なって最後の「降る涙」に繋がっているのです。
 また「ふる」は「長い夜を経る」という意味にもとれます。
 『振る』と『降る』と『経る』の掛詞。

 リストへ戻る
第4文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  荒き風 防ぎし陰の 枯れしより 小萩がうへぞ 静心なき

 【補足】
 あらきかぜ ふせぎしかげの かれしより こはぎがうえぞ しずごころなし

 【状況】
 産みの母である桐壺の更衣が亡くなった今、御所に孫の光源氏を行かせたら、
 あの子が他の妻たちにいじめられるような気がして心配で心配で…という、
 帝を頼りなく思っている祖母の、帝へ送った率直な気持ちの和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「小萩」の「小」が「子供」の意味を含んでいます。勿論、ここでいう子
 供とは光源氏のことです。『小』と『子』の掛詞。
 ちなみに「荒き風」というのは、他の妻たちからの「冷たい風当たり」の
 意味にとして使われています。

 リストへ戻る
第5文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 雲の上も 涙に暮るる 秋の月 いかで澄むらむ 浅茅生の宿

 【補足】
 くものうえも なみだにくるる あきのつき いかですむらん あさじうのやど

 【状況】
 宮中で不自由なく暮らしている帝ですら妻・桐壺の更衣を想うと涙で月が
 かすむのだから、寂しい田舎で祖母と暮らしている息子もさぞかし辛い思
 いをしているだろうと帝は勝手に想像し、この和歌をつぶやきます。

 【掛詞・かけことば】
 涙で月が澄んで見えないという「澄む」に、浅茅生の宿(田舎)に光源氏
 が「住む」という意味を掛けています。『澄む』と『住む』の掛詞。
 ちなみに「雲の上」とは帝のいる宮中を指しますが、同時に「雲の上」か
 ら関連して「月」という言葉が縁語として登場しています。

 リストへ戻る
第6文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 いときなき 初元結いに 長き世を 契る心は 結びこめつや

 【補足】
 いときなき はつもとゆいに ながきよを ちぎるこころは むすびこめつや

 【状況】
 その美しさが後に世の混乱を招くであろうという占い師の予言により、
 帝の後継ぎ候補から外れ家臣となった光源氏は、左大臣の娘・葵の上と
 結婚します。この光源氏を行く末長く見守って欲しいと願う帝が左大臣
 に詠んだ親心の和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 長き世という詞は、社会でも大人として世渡りしていけるようにという
 意味の「世」と、これから若い夫婦が共にしていく「夜」という意味を
 込めています。『世』と『夜』の掛詞。

 リストへ戻る
第8文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 手を折りて 相見し事を 数ふれば これ一つやは 君が憂き節


 【補足】
 てをおりて あいみしことを かぞうれば これひとつやわ きみがうきふし

 【状況】
 君の悪いところはココとココと…と、指を折って数えてみれば、結構欠点
 がある人だったと気付き、別れ話を持ち出した左馬頭の和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「手を折りて」の「折り」は2つ、3つ…と指折り数える「折る」の意味
 と、ちょうど良い機会だから…という「おりふし」の意味が込められてい
 ます。「折節」という言葉自体は和歌に登場していませんが、その代わり
 「あいみし」「うきふし」という韻を踏んだキーワードが「おりふし」を
 連想させるために用いられているのです。『折る』と『おりふし』の掛詞。

 リストへ戻る
第9文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 木枯らしに 吹き合すめる 笛の音を 引き止むべき 言の葉ぞなき

 【補足】
 こがらしに ふきあわすめる ふえのねを ひきとどむべき ことのはぞなき

 【状況】
 彼氏以外の男性から笛の音と優しい声色で口説かれ、思わず「寂しく1人
 でいる私には、貴方にずっと側にいて欲しいだなんて、そんなこと言いた
 くても言えませんわ♪」という内容を彼女が浮気心で詠んだ和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 言の葉という詞には「言葉も無い」の他に「琴を弾く腕前も無い」という
 意味も含まれています。『言』と『琴』、『引く』と『弾く』の掛詞。
 また「木枯らし」から「木の葉=言の葉」が縁語として使用されています

 リストへ戻る
第10文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

咲き混じる 色はいづれと わかねども なほ常夏に 如く物ぞなき

 【補足】
 さきまじる いろはいずれと わかねども なおとこなつに しくものぞなき

 【状況】
 しばらく会えずにいた彼女から「娘にも会いに来てネ」との手紙をもらい、
 その返事として、内気な彼女を常夏の花に喩えて「他の誰よりもあなたが
 1番大切です」と詠み、彼女への愛情が薄れていないことを伝えようとし
 た頭中将の和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 初句にある「咲き混じる」から連想される季節として「常夏」という詞が
 用いられ、その1年中夏であるという意味から、常に床を敷いて関係を共
 にする人=内気な彼女を指しています。
 『常夏』と『床』、『如く』と『敷く』の掛詞

 ちなみに、トコナツの花は「ナデシコ」とも呼ばれていたので「撫で撫で
 して可愛がる子供=娘」という意味も含んでいます。しかし、わざわざそ
 の詞を避けて「常夏=娘の母」に重点を置いた頭中将の和歌からは、彼の
 愛情が娘にはそれほど注がれていなかったという印象を受けます。

 リストへ戻る
第11文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  打ち払ふ 袖も露けき 常夏に 嵐吹き添ふ 秋も来にけり

 【補足】
 うちはらう そでもつゆけき とこなつに あらしふきそう あきもきにけり

 【状況】
 会えない状態が続き、寂しい日々を送っていた内気な彼女ですが、切羽詰
 って催促の文を送ります。しかし久しぶりに現れた頭中将からは娘への愛
 情も何となく感じられず、ガッカリして詠んだ最後の和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 上句の「打ち払ふ…常夏に」までは、前回の「床を敷く」と同様、彼氏が
 来ないので布団の上にはホコリが積もり、それを涙(露)に濡れた袖で払
 っているという裏の意味を含んでいます。また「秋も来に」という詞は、
 梅雨(露)→夏→秋へと季節の移り変わりの様子と「飽きた」という2つ
 の意味に取れます。『常夏』と『床』、『秋』と『飽き』の掛詞。

 ちなみに「嵐吹きそう」とは、頭中将の正妻からの攻撃を指しています。

 リストへ戻る
第12文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 逢ふ事の 夜をし隔てぬ 仲ならば 昼間もなにか 眩ゆからまし

 【補足】
 あうことの よをしへだてぬ なかならば ひるまもなにか まばゆからまし

 【状況】
 「何で会ってくれないのさ、それはもしかしてニン二クの臭いせい?」と
 イヤミっぽい和歌を詠んで帰ろうとする式部丞に、1枚上手の彼女が即座
 に詠み返した痛恨の一撃の和歌です。

 「毎晩お会いするような親しい仲でしたら、たとえ昼間お会いすることも、
 ニンニクの臭いがする時でさえも恥ずかしいとは思いませんのに残念ね!」
 と、久しく会いに来なかった男に責任があるのだと指摘しています。

 【掛詞・かけことば】
 「昼間」という詞には、文字通り時刻の「昼間」と、蒜(ひる=ニンニク)
 の2つの意味が込められています。

 リストへ戻る
第13文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 つれなさを 恨みも果てぬ 東雲に 取りあへぬまで 驚かすらむ

 【補足】
 つれなさを うらみもはてぬ しののめに とりあえぬまで おどろかすらん

 【状況】
 「つれないアナタに恨みごとも言えない間に空も明るくなってきた…。
 あ〜、とうとう鶏まで鳴き出しちゃったよ!」と、光源氏が帰り際に
 ガッカリした気分で空蝉に詠んだ和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「取りあへぬ」という詞に「取り」と「鶏=とり」の意味が含まれています。
 『取り』と『鶏』の掛詞。

 リストへ戻る
第14文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 見し夢を 逢ふ夜ありやと 嘆く間に 目さへ合はでぞ 頃も経にける

 【補足】
 みしゆめを あうよありやと なげくまに めさえあわでぞ ころもへにける

 【状況】
 「あの夜の出会いが現実だったのか夢だったのか、正夢になればいいな…
 と思い巡らしている間に、夜も眠れず時間ばかりが過ぎていきます。」
 と、光源氏は空蝉と過ごした夜の思い出を和歌にして、彼女の弟・小君に
 託したのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「夢を合わせる」という表現は「正夢になる」ということを暗示し、その
 夢というのは勿論「アナタに逢う」という内容を意味しています。
 また、下の句にある「目さへ合はでぞ」も「アナタと目と目が合わない=
 逢えない」と「まぶたが合わさらない=眠れない」という2つの意味に取
 れます。『逢う』と『合う』の掛詞。

 リストへ戻る
第15文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 帚木の 心を知らで 園原の 道にあやなく まどひぬるかな

 【補足】
 ははきぎの こころをしらで そのはらの みちにあやなく まどいぬるかな

 【状況】
 自分の求愛を無視し続ける空蝉の態度が理解できない光源氏が、家に押し
 掛けたにも関わらず姿を隠してしまった空蝉に宛てて「せっかく私がアナ
 タを求めてここまで来たというのに、また消えてしまわれた。もうアナタ
 の本心が分からない…。まるで帚木のような方だ!」と、嫌味っぽく詠ん
 だ和歌です。

 注)帚木とは長野県の園原にあり、遠くからは見えても近くに寄ってみる
   と形が見えなくなるという伝説の木です。

 【掛詞・かけことば】
 光源氏は「あやなく」という詞に「文(あや)無し=道理が通らない」と
 「文無し=アナタと交わす文(ふみ)無し」の2つの意味を含めています。

 リストへ戻る
第16文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】
空蝉の 身を変へてける 木の元に なほ人柄の 懐かしきかな

 【補足】
 うつせみの みをかえてける このもとに なおひとがらの なつかしかな

 【状況】
 継娘と事を終えた光源氏は、脱ぎ捨てられた空蝉の衣を記念に持って帰り、
 それを眺めながら「まるで蝉が脱皮して飛んでいくように、アナタも衣だ
 けを残して逃げてしまわれた…。でも、この衣にアナタの温もりを感じま
 す…。くんくん」と、この和歌を詠みました。

 【掛詞・かけことば】
 「ひとがら」という詞は、空蝉の「人柄」と「人の抜け殻」という2つの
 意味が含まれています。『人柄』と『人の抜け殻』の掛詞。

 リストへ戻る
第17文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

空蝉の 羽に置く露の 木がくれて 忍び忍びに 濡るる袖かな

 【補足】
 うつせみの はにおくつゆの こがくれて しのびしのびに ぬるるそでかな

 【状況】
 空蝉は、こりずに光源氏から文を預かってきた小君を叱りつけますが、
 その和歌を読んで心が落ち着いた彼女は「光源氏さまを無視し続けたけ
 ど、本当はあの情熱的な態度って嬉しかったの…」と、密かに涙ぐみな
 がら呟いた和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「羽に置く」という詞には、どちらも透明で人目に着きにくい「蝉の羽」
 と「木の葉に置く露」の2つの意味が含まれています。
 『羽』と『葉』の掛詞。

 リストへ戻る
第19文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 心あてに それかとぞ見る 白露の 光添へたる 夕顔の花

 【補足】
 こころあてに それかとぞみる しらつゆの ひかりそえたる ゆうがおのはな

 【状況】
 「露が光を添えて輝く夕顔の花を見ていて、ふと思ったのですが…もしか
 してアナタは有名なアノ人では?」という内容で、憐家に住む女住人から
 もらった扇に添えられていた和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「光添へたる」という詞には「太陽の光」という意味と「光源氏さま?」
 という意味を含んでいると光源氏は感づき、その扇も香りをプンプンさせ
 ていることから「はは〜ん!この女性は私を光源氏と知って口説いている
 のだな!」思って少し嬉しく思うのでした。『光』と『光源氏』の掛詞。

 リストへ戻る
第20文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 咲く花に 移るてふ名は つつめども 折らで過ぎ憂き 今朝の朝顔

 【補足】
 さくはなに うつるちょうなは つつめども おらですぎうき けさのあさがお

 【状況】
 年上の恋人の屋敷で、帰り支度を世話してくれた下女に向かって光源氏が
 「朝に見るアナタってアサガオの花のように美しい。アナタに心移りした
 と噂になるのは避けつつ手に入れることはできないものでしょうか…」と
 いう内容で口説きながら詠んだ和歌です。しかし礼節をわきまえた対応を
 する下女を見て、行き渡った教育をしている六条御息所に改めて惚れ直し
 たりするのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「朝顔」という詞には、朝に綺麗な花を咲かす「アサガオ」と「朝起きた
 ばかりの女性の顔」という2つの意味を含んでいます。

 リストへ戻る
第21文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 前の世の 契り知らるる 身の憂さに 行く末かねて 頼みがたさよ

 【補足】
 さきのよの ちぎりしらるる みのうさに ゆくすえかねて たのみがたさよ

 【状況】
 生まれ変わっても恋人同士になろうね…と光源氏が言った時、夕顔の女性
 はふと元カレ・頭中将との辛い別れを思い出します。彼女は自分の男運の
 悪さを考えると来世にまで持って行ける永遠の愛なんてある筈ないわ…と
 いう気持ちで寂しそうに詠んだ返歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「前の世の契」という詞は、前世からの因縁という意味です。そして今の
 この身の辛さ→来世なんて期待できない…と1首の中に過去現在未来の全
 ての時を包括した和歌となっています。
 また「世」を「夜」と考えると「前の彼氏・頭中将との関係」という意味
 にもなります。『世』と『夜』の掛詞。

 リストへ戻る
第22文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 夕露に 紐解く花は 玉鉾の 便りに見えし 縁にこそありけれ

 【補足】
 ゆうづゆに ひもとくはなは たまぼこの たよりにみえし えにこそありけれ

 【状況】
「夕露にツボミが花開くように、お顔をみせて下さるのは、通りすがりの道
 でお会いしたご縁なのですね…。」と光源氏は別荘で夕顔に顔を近づけて
 出会えたラッキー(運命)を和歌にして詠むのでした。その後「露の光や
 いかに(私の顔を見た感想は?)」と続けて語っているのですが、その返
 事の和歌は次回のお楽しみ…。(^ ^;)

 【掛詞・かけことば】
 「紐解く」という詞には花のツボミが開くという意味と衣服の紐を解いて
 裸になるという2つの意味が含まれています。

 リストへ戻る
第23文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 光ありと 見し夕顔の 上露は たそがれ時の 空目なりけり

 【補足】
 ひかりありと みしゆうがおの うわつゆは たそがれどきの そらめなりけり

 【状況】
 前回の和歌で光源氏が「露の光やいかに(私の顔を間近に見た感想は?)」
 と聞いたので、夕顔は「初めて知り合ったあの時、本当は元カレ(頭中将)
 が戻ってきたのかと勘違いして喜んでいたの」とペロッと舌を出しながら
 可愛く白状したのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「光」という詞は「夕顔・第1歌」から登場し「露に反射する太陽の光」
 と「もしや光源氏さまでは?」という2つの意味だと光源氏は思っていたの
 ですが、夕顔は「希望の光」を望んでいたのでしょう…。
 『夕暮れ時の光』と『希望の光』の掛詞。

 リストへ戻る
第24文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

【和歌】

  見し人の 煙を雲と 眺むれば 夕べの空も 睦まじきかな

 【補足】
 みしひとの けぶりをくもと ながむれば ゆうべのそらも むつまじきかな

 【状況】
 光源氏たちは、山寺で誰にも知らせずに夕顔のお葬式をひっそりと行い
 ました。愛しい人を葬った煙が、あの雲になったのだと思って眺めると、
 寂しい秋の夕焼け空も捨てたもんじゃ無いね…と、火葬された夕顔を偲
 んで泣きながら詠んだ光源氏の哀愁歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「眺むれば」という詞には、亡骸を燃やした煙を「眺める」という意味を
 全面に出しつつ、秋に降る「長雨(ながめ)」…つまり涙が止めどなく流
 れる光源氏の悲しい気持ちを表しています。『眺め』と『長雨』の掛詞。

 リストへ戻る
第25文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 空蝉の 世は憂きものと 知りにしを また言の葉に かかる命よ

 【補足】
 うつせみの よはうきものと しりにしを またことのはに かかるいのちよ

 【状況】
 人妻である故、光源氏からの猛アタックにも心を鬼にして逃げていた空蝉
 から突然お見舞いの文が届きました。早速そのお返事として「世の中の無
 情を痛感した今、アナタのお便りだけが私の心の支えです。」と、ドン底
 にいても口説き文句だけは忘れない光源氏が詠んだ和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「世」という詞には「現世」という意味と「夜=男女の仲」という2つの
 意味が込められています。また「葉」という詞にも「言葉=お便り」とい
 う意味と「蝉の羽=彼女の衣」の意味があります。
 『世』と『夜』、『葉』と『羽』の掛詞。

 リストへ戻る
第26文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 蝉の羽も 裁ち替へてける 夏衣 返すと見ても 音は泣かれけり

 【補足】
 せみのはも たちかえてける なつごろも かえすとみても ねはなかれけり

 【状況】
 光源氏は旅の無事を願う祝儀品を空蝉と旦那に贈るのですが、そこには光
 源氏が勝手に盗み出した彼女の衣と、それが空蝉のものであり、2人の間
 に何かあったような雰囲気を漂わす和歌までご丁寧に添えてあるのでした。
 それに対して空蝉は「薄い夏衣の季節も終わり衣替えのこの季節、この衣
 がご不要だなんてアナタも心変わりしてしまったのですね…残念〜♪」と、
 あくまで強気な態度で光源氏に返歌した和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「裁ち替えて」という詞は、布を「裁つ」という意味と、時間が「経つ」
 という2つの意味が含まれています。『裁つ』と『経つ』の掛詞。

 リストへ戻る
第27文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 過ぎにしも 今日別るるも 二道に 行く方知らぬ 秋の暮れかな

 【補足】
 すぎにしも きょうわかるるも ふたみちに ゆくかたしらぬ あきのくれかな

 【状況】
 死んでしまった夕顔も、別れた空蝉も、今ではどちらも光源氏の手の届か
 ない人となってしまいました。彼は1人だけ取り残されてしまったような
 孤独を感じ、物思いに沈みながらこの和歌をひとり呟くのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「秋」という詞には、季節の「秋」という意味と、心にポッカリと穴が空
 いてしまったという意味の「空き」にも取れます。また、空蝉の継娘にさ
 えも「飽き」られた?というように解釈することもできます。
 『秋』と『空き』と『飽き』の掛詞。

 リストへ戻る
第29文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 おい立たむ ありかも知らぬ 若草を おくらす露ぞ 消えむ空無き

 【補足】
 おいたたん ありかもしらぬ わかくさを おくらすつゆぞ きえんそらなき

 【状況】
 ペットにしていた雀を遊び友達に逃がされて泣いている少女(孫娘)の
 将来を心配して「私の病状は重くなり死期は近づいているというのに、
 このままでは心残りで死ぬに死ねません…」と詠んだ祖母の和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「おい立つ」という詞は「老い立つ(年を取ってあの世に旅立つ祖母)」
 と「生い立つ(成長して独り立ちしていく孫娘)」という2つの意味に
 解釈することができます。『老い』と『生い』の掛詞。
 ちなみに「若草」とは幼い子供(ここでは可愛い少女)を指します。

 リストへ戻る
第30文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 初草の 若葉の上を 見つるより 旅寝の袖も 露ぞ乾かぬ

 【補足】
 はつくさの わかばのうえを みつるより たびねのそでも つゆぞかわかぬ

 【状況】
 人の家を覗いている時に見つけた幼い少女を自分のものにするべく、色々
 な情報を掻き集めた光源氏は、彼女が両親と一緒に暮らせない状態である
 ことを知って「初々しいあの娘が不遇の身の上だったと知ってからは、涙
 が全然止まらないのです…」と同情する気持ちを和歌にして彼女の祖母に
 詠んだのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「露」という詞は「涙」を連想させるだけでなく「つゆ(全然)…ない」
 という全否定の「つゆ」という意味も含んでいます。
 「つゆぞ乾かぬ」=「露ぞ(涙が・全然)乾かない」となります。
 『露=涙』と『つゆ=全然』の掛詞。
 ちなみに「葉の上」に「身の上」を連想させています。

 リストへ戻る
第31文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 さしぐみに 袖濡らしける 山水に すめる心は 騒ぎやはする

 【補足】
 さしぐみに そでぬらしける やまみずに すめるこころは さわぎやわする

 【状況】
 「お孫さんの身の上を思うと涙が止まらない。どうぞ引き取らせてくださ
 い」と優しさを全面に出したつもりの光源氏でしたが、山に住み慣れ経験
 も豊富なお坊さまには通用しなかったようです。「私はそんなアナタの感
 情に流されたりしませんので、どうぞお諦めください」と僧侶にあっさり
 詠み返されてしまうのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「さしぐむ」という詞には「涙ぐむ」という意味がありますが、手を山水
 に差し入れてすくい上げるという意味の「差し汲む」とも取れます。
 また「すめる」という詞には「山水のように澄んでいる心」という意味と
 「この山に住んでいる私の心」という2つの意味が含まれています。
 『さしぐむ(涙ぐむ)』と『差し汲む』、『住む』と『澄む』の掛詞。

 リストへ戻る
第32文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  夕まぐれ ほのかに花の 色を見て 今朝は霞の 立ちぞ煩ふ

 【補足】
 ゆうまぐれ ほのかにはなの いろをみて けさはかすみの たちぞわずらう

 【状況】
 お目当ての少女を引き取ることを断念した光源氏ですが、出発前に再度、
 祖母を訪れ「夕暮れ時に咲いていた綺麗な花が隠れてしまわないようにと
 今朝の霞が立ち込めるのを躊躇しているのです=チラッと覗き見した可愛
 い少女が気に掛かって旅立てそうにありません」という和歌を詠み、心変
 わりをしていないか確認するのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「立つ」という詞には「霞が立つ」という意味と「朝に旅立つ」という意
 味が含まれています。『(霞が)立つ』と『(旅)立つ』の掛詞。

 リストへ戻る
第33文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 見ても又 逢ふ夜まれなる 夢の中に やがて紛るる 我が身ともがな

 【補足】
 みてもまた あうよまれなる ゆめのうちに やがてまぎるる わがみともがな

 【状況】
 藤壺は療養のために帝の傍(宮中)を離れていました。そういう時、光源
 氏はこれ幸いとばかりに内緒で彼女に逢いに行くのでした。「夢のように
 はかなく短いこの幸せ、次はいつ逢えるかさえも分からないのなら、いっ
 そこのまま夢の中に紛れ込んでしまいたい…」と光源氏は彼女への真剣な
 想いを伝えた時に詠んだ和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「逢う」という詞には、男と女が「逢う」という意味の他にも「夢が合う
 (正夢になって夢が叶う)」という2つの意味があります。
 また「夜」には「世(=男女の仲)」という意味も含まれています。
 『逢う』と『合う』、『夜』と『世』の掛詞。

 リストへ戻る
第34文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 世がたりに 人や伝へむ 類なく 憂き身を醒めぬ 夢になしても

 【補足】
 よがたりに ひとやつたえん たぐいなく うきみをさめぬ ゆめになしても

 【状況】
 光源氏に「これが夢ならいいのに…」と愛の言葉を突きつけられ、それに
 対して藤壺は「私たちの関係は非難の的として後世まで語り継がれていく
 のでしょうか?たとえこの身を醒めない夢に沈めたとしても(死んでしま
 っても)悲しすぎます」と返歌を詠みます。そこには光源氏の期待した「
 愛情」よりも、彼女の罪悪感だけが強調されているのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「世がたり」という詞には「世間で語られる噂」という意味の「世」と、
 その噂の内容である「夜の出来事」の「夜」という2つの意味が含まれて
 います。『世』と『夜』の掛詞。

 リストへ戻る
第35文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

【和歌】

  手に摘みて いつしかも見む 紫の 根に通ひける 野辺の若草

 【補足】
 てにつみて いつしかもみむ むらさきの ねにかよいける のべのわかくさ

 【状況】
 とうとう大好きな美少女との結婚を約束してもらった光源氏は、有頂天で
 「藤壺様の姪だというあの少女を、いつか独り占めできないかなぁ…」と
 いう内容のこの和歌を心の中でつぶやきました。

 【掛詞・かけことば】
 「紫」は「紫色の花=藤の花」→「藤壺」を意味しています。その根っこ
 が繋がっている「若草」とは、つまり血縁者である可愛い少女を指します。
 そう考えた上でこの和歌を読み解くと「根に通ひける」という詞には、先
 に述べた「藤壺と少女の血縁関係」という意味と、光源氏が少女を自分の
 妻とするべく「寝るために通いつづける」という2つの意味が含まれてい
 ます。『根』と『寝』の掛詞。

 リストへ戻る
第36文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】
 葦わかの 浦にみるめは 難くとも こは立ちながら かへる波かは

 【補足】
 あしわかの うらにみるめは かたくとも こわたちながら かえるなみかわ

 【状況】
 悲しむ少女を元気づけようと思ってお見舞いにきた光源氏でしたが、事
 情を知っている侍女にブロックされて、少女の姿さえ見る事ができませ
 んでした。この和歌は「寄せては返す波のように私はすぐに帰ったりし
 ませんよ。あの若い姫君にお会いするまでは…」と光源氏が侍女に主張
 して詠んだものです。

 【掛詞・かけことば】
 「立つ」という詞には「波が立つ」という意味と「光源氏が立つ=帰る」
 という2つの意味があります。『波が立つ』と『光源氏が立つ』の掛詞。

 「みるめ」という詞は「海松布(みるめ)」と読むと海草の意味を持ち、
 「見る目」と読むと「人と人が対面する」という意味になります。
 『海松布』と『見る目』の掛詞。

 「わか」という詞に、その前にある「葦」を加えると「葦わか→若い葦」
 を意味し、その後にある「浦」を加えると「わかの浦→和歌の浦(現在
 の和歌山市にある浜辺)」を意味します。『若』と『和歌』の掛詞。

 リストへ戻る
第37文 □―――――――――――――――――――――――――――――□
 【和歌】

 立ちどまり 霧のまがきの 過ぎうくば 草の戸ざしに 障りしもせじ

 【補足】
 たちどまり きりのまがきの すぎうくば くさのとざしに さわりしもせじ

 【状況】
 「この霧の中を立ち止まり、素通りできない程のお気持ちと申されるのな
 ら、どうぞお入り下さい。閉ざした扉なんて支障もないことでしょ?」
 六条御息所の屋敷の門は固く閉ざされていて、光源氏が扉を叩いても無視
 される始末…。仕方なく「愛しいアナタの家の前を、どうして素通りでき
 よう!」と叫んだ光源氏に対して、六条御息所はこう和歌を返すのでした。
 (ちょっとヤキモチ?)

 【掛詞・かけことば】
 「過ぎうく」の「うく」という詞には「行く」という意味と、悲しさを表
 す「憂く」という意味が含まれています。『行く』と『憂く』の掛詞。

 リストへ戻る
第38文 □―――――――――――――――――――――――――――――□
 【和歌】

 ねは見ねど 哀れとぞ思ふ 武蔵野の 露分けわぶる 草の縁を

 【補足】
 ねはみねど あわれとぞおもう むさしのの つゆわけわぶる くさのゆかりを

 【状況】
 光源氏が紫上に和歌の作り方を教えていた時に、ふと「逢う事さえ難しい
 あの人に縁のあるアナタとは、まだ一緒に寝る関係ではないけれどいつか
 きっとね!」と詠んだ和歌です。その直後、紫上から「私に縁のあるあの
 人ってダ〜レ?」と聞かれてギクッとする光源氏なのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「ねは見れど」という詞の「ね」には「根」という意味と「寝」という2
 つの意味が含まれています。『根』と『寝』の掛詞。
 ちなみに「武蔵野の露分けわぶる」とは「露が降りていて前に進むのが難
 しい様子」と取れ、「草=藤壺」「草の縁=紫上」を指しています。

 リストへ戻る
第40文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  里わかぬ かげをば見れど 行く月の いるさの山を 誰かたづぬる

 【補足】
 さとわかぬ かげをばみれど ゆくつきの いるさのやまを だれかたずぬる

 【状況】
 宮中から家へ帰らずコソコソと出かける光源氏を怪しく思って後をつけて
 来た頭中将は、物陰に隠れて光源氏の浮気(琴の盗み聴き)現場を押さえ
 ました。彼は光源氏に嫌味を言いますが、光源氏に「月の入る夜明けにま
 で私を尾行している変なオジサンって誰でしょう?それはキミですよ!こ
 の変態!」という和歌を返されるのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「いるさの山」という詞は、月が「山へ入る際」という意味になり、その
 山が兵庫県にある「入佐(いるさ)の山」を指しています。
 また「たづぬる」という詞には「訪ねる」という意味と、光源氏が頭中将
 に「尋ねる」という2つの意味が含まれています。
 『入る際』と『入佐』、『訪ぬる』と『尋ぬる』の掛詞。

 リストへ戻る
第41文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 鐘つきて 閉ぢめん事は さすがにて 答へま憂きぞ かつはあやなき

 【補足】
 かねつきて とじめんことは さすがにて こたえまうきぞ かつはあやなき

 【状況】
 「嫌なら嫌って手紙くらい、くれてもイイじゃないかーッ!」と、我慢の
 限界に達した光源氏は襖越しに不満を言い出しますが、恥ずかしがり屋な
 末摘花はその返事さえ考えつかず固まってしまいます。たまりかねた侍女
 が「大好きな光源氏さまにお返事したくても恥ずかしくて声が出ないの…」
 という内容のこの和歌を末摘花の声を真似て陰から詠むのでした。

 脈あり!と感じた光源氏が急に明かりを消して姫君に飛びかかったのは
 少々強引でしたが、そういう理由があったわけです。(^_^;)

 【掛詞・かけことば】
 「鐘つきて」という詞は「鐘をつく=声を出して会話に水をさしてしまう」
 という意味に使われていますが、「金尽きる」という末摘花の落ちぶれた
 家柄という意味も少なからず含んでいます。

 また「あやなき」という詞には「あやなき=理屈・道理に合わない」という
 意味と「文なき=文の返事が無い」という2つの意味が含まれています。

 『鐘つきて』と『金尽きて』、『あやなき』と『文なき』の掛詞。

 リストへ戻る
第42文 □―――――――――――――――――――――――――――――□
 【和歌】

  晴れぬ夜の 月待つ里を 思ひやれ 同じ心に ながめせずとも

 【補足】
はれぬよの つきまつさとを おもいやれ おなじこころに ながめせずとも

 【状況】
 とうとう流れに任せて光源氏と契りを交わした末摘花。反対に光源氏は恋
 い焦がれる気持ちも薄れ、結局「雨だし、忙しいから…」といった手紙で
 敬遠しだします。それでも末摘花は、恋文に返事をするのが礼儀…と和歌
 を贈り返します。「長雨が降る夜に空を眺めて月が出るのを待つように、
 涙にくもり、アナタの来訪をお待ちしております。」(末摘花は和歌を作
 るのが苦手なので、実は侍女が代作ました。)

 【掛詞・かけことば】
 「ながめ」という詞には「長雨」という意味と、末摘花が月を「眺める」
 という2つの意味が込められています。『長雨』と『眺め』の掛詞。

 リストへ戻る
第43文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 朝日さす 軒のたるひは 溶けながら などかつららの 結びほつらん

 【補足】
 あさひさす のきのたるひは とけながら などかつららの むすびほつらん

 【状況】
 どうして見てしまったのだろう…。変な顔…。目、目が離せない…。と末
 摘花の素顔を直視してしまった光源氏は、急いで帰ろうとする口実として
 「日が射して軒のつららは溶けているのに、なぜアナタが黙ったままでう
 ち解けてくれないのですか!」というその場しのぎの和歌を詠むのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「溶ける」という詞には「つららが溶ける」という意味の他に、末摘花
 が光源氏に「うち解ける」という意味が含まれています。
 『溶ける』と『解ける』の掛詞。

 ちなみに「軒に垂れ下がったつらら」を末摘花に喩えて和歌にしたあたり、
 やっぱり彼女の「垂れ下がった鼻」は強烈だったのでしょう。

 リストへ戻る
第44文 □―――――――――――――――――――――――――――――□
 【和歌】

  ふりにける 頭の雪を 見る人も おとらず濡らす 朝の袖かな

 【補足】
 ふりにける かしらのゆきを みるひとも おとらずぬらす あさのそでかな

 【解釈】
  まるで頭に雪が積もったかのような白髪の老人よ…。
  しかし今朝の私はそれに劣らぬ程に惨めなんだよ!
  泣きたいのは私の方さ〜! ・°°・(>△<)・°°・

 【状況】
 末摘花のユニークな容姿を直視してしまった光源氏は、適当に理由をつけ
 て帰りじたくを始めます。雪明かりに照らされた屋敷も惨めで貧弱なもの
 で、そんな状況にカルチャーショックを受けた光源氏は独り言のようにこ
 の和歌を呟きました。

 【掛詞・かけことば】
 「ふり」という詞は「雪が降る」という意味の他に、「古くなった門」と
 いう意味と、さらに「年を経て老いた門番」という意味が込められていま
 す。『降』と『古』と『経』の掛詞。

 リストへ戻る
第45文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  なつかしき 色ともなしに 何にこの 末摘花を 袖に触れけん

 【補足】
 なつかしき いろともなしに なににこの すえつむはなを そでにふれけん

 【解釈】
  心引かれるという色でもないのに、
  なぜ末摘花(紅花=赤い鼻)に触れてしまったのだろう?

 【状況】
 お正月に夫が着る晴着を用意するのは、本来ならば正妻・葵上の役目です。
 なのに末摘花は世間の常識を知らないのか、それとも光源氏に正妻がいる
 のを聞いていないのか、どちらにせよ光源氏は「やれやれ…」と思いなが
 ら、彼女の鼻の先っちょが赤く染まっていたのを思い浮かべ、この和歌を
 独り言のように詠んだのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「末摘花」は、茎の末を摘み取って赤い色素を作り出せることから「紅花」
 とも呼ばれています。和歌の中では「紅い花」と「赤い鼻」の意味が含ま
 れています。『花』と『鼻』の掛詞。

 リストへ戻る
第46文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 くれないの 花ぞあやなく 疎まるる 梅の立枝は なつかしけれど

 【補足】
 くれないの はなぞあやなく うとまるる うめのたちえは なつかしけれど

 【解釈】
  紅梅の枝の立派な姿には心惹かれるものの、
  近頃の私は、何故か赤い花には興味が沸かないのです。

 【状況】
 桜色の着物に身を包んだ紫上。その赤く染まった頬。背景には美しく咲き
 ほこる梅の花。平安貴族の優雅な生活を満喫し、幸せいっぱいの光源氏で
 したが、末摘花の似顔絵を見て、絵に描いてもやっぱり醜いな…と実感し
 た時に詠んだ独り言の和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「くれないの花」という詞には、「紅の花」という意味の他に、「紅の鼻
 =末摘花の姫君」という意味も含まれています。『花』と『鼻』の掛詞。

 リストへ戻る
第48文 □―――――――――――――――――――――――――――――□
 【和歌】

 もの思ふに 立ち舞ふべくも あらぬ身の 袖うち振りし 心知りきや

 【補足】
 ものおもうに たちまうべくも あらぬみの そでうちふりし こころしりきや

 【解釈】
 「アナタへの愛情がバレないように振る舞った方が良いのですが、
  少しでも気持ちが伝わればいいな…と思いながら、一生懸命に
  袖を振って舞を踊りました。伝わりましたでしょうか?」

 【状況】
 「紅葉賀」のリハーサル後、光源氏が愛しの藤壺に宛てて詠んだ和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「立ち舞う」という詞には、光源氏が愛情を隠して「振る舞う」という
 意味と、「舞を舞う」という2つの意味が含まれています。
 『振る舞う(態度)』と『舞う(踊り)』の掛詞。

 リストへ戻る
第50文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  いかさまに 昔結べる 契りにて この世にかかる 中の隔てぞ

 【補足】
 いかさまに むかしむすべる ちぎりにて このよにかかる なかのへだてぞ

 【解釈】
 「前世でどのような因果な事をしたからなのでしょうか?
  今、逢いたい人達にも会えないなんて…」

 【状況】
 赤ちゃんが光源氏との子だと誰かに知られると、この子や光源氏までが
 罪人になってしまう…。それだけは避けなければ…。と藤壺が心配して
 いるのをよそに、光源氏は藤壺と赤ちゃんに逢いたい気持ちを押さえき
 れずノコノコと屋敷へやってきます。この和歌は、光源氏が藤壺の侍女
 に手引きを頼んだ時に詠んだ和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「この世にかかる中」という詞には「世の中」という意味の他に「夜の
 仲」つまり光源氏と藤壺との仲となり、また「この」を「子の」と解釈
 すると「光源氏と赤ちゃんとの仲」とも取れます。
 『世』と『夜』、『この』と『子の』の掛詞。

 「かかる」とう詞にも「斯かる=このような…」と「掛かる=現世にま
 で降り掛かってくる因果」という2つの意味が含まれています。
 『斯かる』と『掛かる』の掛詞。

 リストへ戻る
第51文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 よそへつつ 見るに心は なぐさまで 露けさまさる なでしこの花

 【補足】
 よそえつつ みるにこころは なぐさまで つゆけさまさる なでしこのはな

 【解釈】
 「アナタのお姿を赤ちゃんに重ねると心が慰められると思いましたが、
  恋しさのあまり涙が出てきてしまいました。」

 【状況】

 帝の好意で赤ちゃんは見れたものの、いつまでたっても藤壺に逢うことは
 許されない光源氏は、その寂しい気持ちを和歌に詠み、侍女を通じて藤壺
 に贈るのでした。

 【掛詞・かけことば】
 「なでしこ」という詞には、花の「ナデシコ」という意味の他に、撫で撫
 でして可愛がる子供=「撫でし子」という意味も含んでいます。
 『ナデシコ』と『撫でし子』の掛詞。

 ちなみに「露」は「涙」を連想させる言葉として使われています。

 リストへ戻る
第52文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  笹分けば 人や咎めむ いつとなく 駒なつくめる 森の木隠れ

 【補足】
 ささわけば ひとやとがめむ いつとなく こまなつくめる もりのこがくれ

 【解釈】
 「アナタにはいつとなく大勢の彼氏がなついているようですから、
  お訪ねするのも誰かに知られやしないかと大変です。」

 【状況】
 ある日、光源氏は源典侍と久しぶりに宮中で出くわし、色っぽい声で誘
 われてしまいます。光源氏はこの和歌を断り文句として詠みました。

 【掛詞・かけことば】
 年をとっても色気を忘れずにいる女性・源典侍を「森」に、彼女の恋人
 たちを「駒」に喩えています。今回は掛詞無し。

 リストへ戻る
第53文 □―――――――――――――――――――――――――――――□
 【和歌】

 人妻は あなわづらはし 東屋の 真屋のあまりも 慣れじとぞ思ふ

 【補足】
 ひとづまは あなわずらわし あずまやの まやのあまりも なれじとぞおもう

 【解釈】
 「人妻は面倒なので、アナタとは
  あんまり馴れ馴れしくする事は無いと思ってください」
 (屋根が無くて雨風が強く当たる場所はくつろぐ事ができない)

 【状況】
 自分から避けていた関係とはいえ、ライバル・頭中将の名前を聞いては
 話は別…。腹の虫が治まらない光源氏は源典侍を訪れ、冷たく突き放し
 て詠んだ和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「あまり」という詞には、東屋や真屋の「あまり=軒の部分」という意
 味の他に、副詞の「あんまり」という意味が込められています。
 『あまり』と『あんまり』の掛詞。

 ちなみに
 『東屋』は四方に屋根を葺き下ろした建物(入母屋造りのような家)
 『真屋』は前後二方に屋根を葺き下ろした建物(切り妻造りのような家)

 リストへ戻る
第54文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】
 つつむめる 名や漏り出でん 引きかはし かくほころぶる 中の衣に

 【補足】
 つつむめる なやもりいでん ひきかわし かくほころぶる なかのころもに

 【解釈】
 「アナタが今まで上手に包み隠していたお噂も、
  私と引っ張り合ってほころびた中着の縫い目から
  その浮き名が漏れ出てしまうでしょうね〜」

 【状況】
 男の乱入が、実は頭中将のイタズラだったと知った光源氏は、気を取り
 直して服を着ようとしますが、頭中将に服を引っ張られ邪魔されます。
 それならばと光源氏も彼に飛びかかり2人は着物を脱がせ合うのですが、
 その際に光源氏の衣が破れてしまいます。この和歌は、頭中将が光源氏
 の逢い引き現場と証拠品を押さえ、得意顔で詠んだものです。

 【掛詞・かけことば】
 「中の衣」には、上着と下着の間に着る服のことですが、仲=光源氏と
 頭中将との仲という意味も含まれています。『中』と『仲』の掛詞。

 また、「つつむ」という詞には、衣(着物)で身を「包む」という意味
 の中に、秘密を「包み隠す」という意味が込められています。

 リストへ戻る
第55文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 中絶えば かごとや負ふと あやふさに 縹の帯は 取りてだに見ず

 【補足】
 なかたえば かごとやおうと あやうさに はなだのおびは とりてだにみず

 【解釈】
 「アナタ(頭中将)と彼女(源典侍)の仲が気まずくなった時の
  口実に私に帯を取られたからだと言われるのが怖いので、
  この帯はジロジロ見ないでお返しします。」

 【状況】
 翌朝、源典侍から光源氏のもとへ脱ぎ捨てた衣服が届きますが、そこに
 は頭中将の帯が間違って入っていました。この和歌は、光源氏が頭中将
 の帯に気づき、ジロジロ詮索した後、源典侍との仲を冷やかして手紙に
 添えた和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「かごと」という言葉は「斯ごと(このような事)」と、言い訳・口実
 という意味の「託言(かごと)」、更に帯の金具「?具(かこ)」の意
 味が含まれています。『斯ごと』と『託言』と『?具』の掛詞。

 リストへ戻る
第56文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  尽きもせぬ 心の闇に 暮るるかな 雲居に人を 見るにつけても

 【補足】
 つきもせぬ こころのやみに くるるかな くもいにひとを みるにつけても

 【解釈】
 「尽きる事のない心の闇の中で暮らしています。
  手の届かない雲の上のアナタ(藤壺さま)を想いながら…」

 【状況】
 帝は藤壺との赤ちゃん(実は藤壺と光源氏との子)を皇太子にするため
 に、まず藤壺の身分を中宮から皇后へと高くしました。それ故、いよい
 よ藤壺が手の届かない存在になってしまった事に光源氏は絶望を覚えま
 す。この和歌は、悲しみに暮れる光源氏が独り言として呟いたものです。

 【掛詞・かけことば】
 「尽きもせぬ」という詞には、想いが「尽きない」という意味と、「月
 も出ない」という意味があります。また、「くるる」という詞には、悲
 しみに「暮れる」という意味と、日が「暮れる」という意味があります。
 2つを合わせ「日が暮れる+月も出ない=闇が訪れる」となっています。
 『尽き』と『月』、『悲しみに暮れる』と『日が暮れる』の掛詞。

 ちなみに、
 「心の闇」には、光源氏が「赤ちゃんを想う親心の闇」と「藤壺を慕う
 心の闇」の2種類の気持ちが含まれています。

 リストへ戻る
第57文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  おほかたに 花の姿を 見ましかば つゆも心の 置かれましやは

 【補足】
 おおかたに はなのすがたを みましかば つゆもこころの おかれましやわ

 【解釈】
 「うしろ暗い気持ちさえ無ければ、
  アナタ(光源氏)の素晴らしい姿を心おきなく拝見できますのに…」

 【状況】
 藤壺がお花見の際に光源氏を遠目に見て、心の中で呟いた和歌です。
 この和歌のすぐ後に、作者・紫式部は「藤壺が心の中で詠んだ和歌が今、
 こうして私たちに知られているのは皮肉なことですね」と自分の作品に
 ツッコミを入れたりなんかしています。

 【掛詞・かけことば】
 「つゆ」という詞は、自然現象の「露」の意味もありますが、打ち消し
 文法の「つゆ、知らず…」という「少しも」の意味も含んでいます。
 『露』と『つゆ(少しも)』との掛詞。

 ちなみに「花の姿」は、美しく舞う光源氏を指しています。

 リストへ戻る
第58文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 深き夜の あはれを知るも 入る月の おぼろげならぬ 契りとぞ思ふ

 【補足】
 ふかきよの あわれをしるも いるつきの おぼろげならぬ ちぎりとぞおもう

 【解釈】
 「おぼろ月に心惹かれるアナタと私…。
  ここで出会ったのも、前世からの運命だとは思いませんか?」

 【状況】
 愛しい藤壺に逢えずに宮中をウロウロしていた光源氏ですが、偶然、朧
 月夜の姫と出会います。この和歌は、彼女を空いた部屋に連れ込んだ後、
 光源氏が優しい声で詠みかけたものです。

 【掛詞・かけことば】
 「夜」という詞には、文字通り「夜」という意味の他に、前世から…と
 いう「世」の意味も含まれています。また、「おぼろ」という詞は、空
 が薄く霞んでいる様子の「朧(自然の状態)」と、ぼ〜っとした様子の
 「おぼろげ(心理状態)」の2つの意味に取れます。
 『夜』と『世』、『朧(自然)』と『おぼろげ(心理)』の掛詞。

 リストへ戻る
第59文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 うき身世に やがて消えなば 尋ねても 草の原をば 訪はじとや思ふ

 【補足】
 うきみよに やがてきえなば たずねても くさのはらをば とわじとやおもう

 【解釈】
 「もし私がこのまま涙と共に消えてしまっても、
  名も知らぬ女のことだ…といって、私を探しても下さらないの?」

 【状況】
 光源氏に名前を尋ねられた姫も、このチャンスを逃したくないのは同じ
 でした。しかし相手が超有名なプレイボーイということで、精一杯の恋
 の駆け引きを持ちかけます。この和歌は、女性が強い男性に少し甘える
 ような、愛情を試すような、そんな口調で詠んだ朧月夜のセリフです。

 【掛詞・かけことば】
 「世」という詞には、悲しい「世の中」という意味と、男女の関係を表
 す「夜」という2つの意味が込められています。『世』と『夜』の掛詞。

 「訪はじ」という詞の「とふ」には、「訪ふ(訪れる)」という意味の
 他に、名前を「問う」という意味が含まれています。
 『訪う』と『問う』の掛詞。

 リストへ戻る
第60文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  世に知らぬ 心地こそすれ 有明の 月のゆくへを 空にまがへて

 【補足】
 よにしらぬ ここちこそすれ ありあけの つきのゆくえを そらにまがえて

 【解釈】
 「まるで明け方に月が消えてしまった後のように
  アナタを見失ってしまった私は、不安な気持ちでいっぱいです」

 【状況】
 「右大臣」といえば、なんと正妻・葵上の父「左大臣」と政治的にも敵
 対関係にあり、光源氏は朧月夜の姫との関係が噂になると、かな〜り気
 まずいのです。この和歌は、光源氏は彼女との関係が今後、どう自分に
 影響していくのか…という不安からポツリと詠んだ独り言です。

 【掛詞・かけことば】
 「月」という詞は、明け方の空に消えかけている「月」を朧月夜の姫に
 喩えているのと、その他に、光源氏と彼女との「付き合い(関係)」と
 いう意味を含ませています。『月』と『付き』の掛詞。

 リストへ戻る
第61文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  心いる 方ならませば 弓張りの 月無き空に 迷はましやは

 【補足】
 こころいる かたならませば ゆみはりの つきなきそらに まよわましやは

 【解釈】
 「お心にかけてくださっている方ならば、
  夜空に月が出ていなくても、道に迷うはずはありませんよ…」
  (私のこと、好きなら迷うこと無いじゃないの!)

 【状況】
 光源氏と出会い、本当の愛を知ってからというもの、朧月夜の姫は毎日
 を(朱雀帝との結婚を考えると)憂鬱な気分で過ごしていました。
 この和歌は、運命に身を任せていた姫が、約束通りヒョッコリと自分の
 前に現れた光源氏に詠んだ、精一杯の誘惑のセリフです。

 【掛詞・かけことば】

    いる → 気に入る
       → 弓を射る
       → 月が山へ入る

  つきなき → 月無き
       → 想いが尽きない
       → 付き合いが無い

 ちなみに、月が入る山は、方角的に兵庫県にある「入佐(いるさ)の山」
 を指していたといわれています。

 リストへ戻る
第63文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 影をのみ 御手洗川の つれなきに 身の憂きほどぞ いとど知らるる

 【補足】
 かげをのみ みたらしがわの つれなきに みのうきほどぞ いとどしらるる

 【解釈】
 「御手洗川が静かに流れていくように、
  ただ通り過ぎていくアナタと、遠くから見るだけの私…。
  惨めな気持ちが心に浮き上がってきます。」

 【状況】
 光源氏をめぐる女の(実は家来たちの?)戦いは、正妻である葵上に軍
 配が上がり、愛人・六条御息所の牛車は行列の後方に追いやられてしま
 いました。この和歌は、六条御息所が悔しさで目に涙を浮かべながら自
 分自身の立場を嘆く独り言として詠まれています。

 【掛詞・かけことば】

  みたらし → 御手洗(みたらし)川
       → 見たら

    憂き → 憂き
       → 浮き

 ちなみに、この和歌で詠まれている「御手洗川」は、光源氏の参加した
 パレード(又は光源氏)を意味しています。

 リストへ戻る
第64文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 はかりなき 千尋の底の 海松ぶさの 生ひゆく末は 我のみぞ見む

 【補足】
 はかりなき ちひろのそこの みるぶさの おいゆくすえは われのみぞみん

 【解釈】
 「はるか深い海の底で、生い茂る海藻(海松)のように
  アナタの髪が長く黒々と伸び、その成長を最後まで見届けるのは
  私だけですからね。約束ですよ。

 【状況】
 光源氏が強引に身柄を譲り受けて養ってきた紫上も、近頃は心も身体も
 グングンと成長し、大人の階段を上っています。
 この言葉は、光源氏が下心いっぱいで紫上に詠んだ和歌です。

 【掛詞・かけことば】

   海松(みる) → 海松(海藻)
          → 見る・見守る

 ちなみに、平安時代では髪の長い女性に対して「千尋(ちひろ)」って
 言うと褒め言葉になります。「尋」とは両手を伸ばした長さ=約1.8m
 でして、そこに「千」を掛けて1.8×1,000=1,800m。つまり凄く長い!
 とか凄く深い!とか「君の髪って…、長くて素敵だね、僕は好きだなぁ」
 というニュアンスになるのです。

 リストへ戻る
第65文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 儚しや 人のかざせる あふひ故 神のゆるしの 今日を待ちける

 【補足】
 はかなしや ひとのかざせる あおいゆえ かみのゆるしの きょうをまちける

 【解釈】
 「賀茂祭(葵祭り)でお逢いできる…と、
  今日という日を楽しみに待っておりましたのに
  他の女性が一緒だなんて。つれないお・か・た♪」

 【状況】
 光源氏が他の女性と一緒にいると知り、少しヤキモチを焼いた源典侍は、
 色気たっぷりな恋文を扇に書いて光源氏に贈りました。

 【掛詞・かけことば】

     あふひ → 葵
         → 逢う日

 ちなみに源典侍が、わざわざ扇に恋文を書いたのは、扇(あふぎ)には
 「逢う日」の意味が込められているからなのです。

 リストへ戻る
第66文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 袖濡るる こひじとかつは 知りながら 下り立つ田子の 自らぞ憂き

 【補足】
 そでぬるる こいじとかつは しりながら おりたつたごの みずからぞうき

 【解釈】
 「泥で汚れると知りながら、田に下り立つ農夫のように
  涙で袖が濡れる恋路に入り込んでしまった我が身の悲しいこと…」

 【状況】
 光源氏のハッキリしない態度に加えて、先日の車争いの騒動などなど
 六条御息所の不満は積もるばかりで、ついに寝込んでしまいました。
 この和歌は、そんな彼女が涙ながらに光源氏に贈った嘆きの和歌です。

 【掛詞・かけことば】

     こひじ → 泥(こひじ)
         → 恋路

      自ら → 自ら
         → 水から

 ちなみに、新撰組・土方歳三の「土」は「ひじ」と発音しますよね?
 泥や土は、古くは「ひじ」と呼ばれていたんです。

 リストへ戻る
第67文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 なげきわび 空に乱るるわが魂を 結びとどめよ したがひのつま

 【補足】
 なげきわび そらにみだるる わがたまを むすびとどめよ したがいのつま

 【解釈】
 「愛しいアナタ…。
  嘆き悲しむあまり身体から抜け出してしまう私の魂を
  しっかりと着物の端で結び止めていてくださいまし…。」

 【状況】
 妻・葵上を看病していた光源氏は、元気づけようと優しく手を握って
 話かけるのですが、すでに彼女の身体は物の怪(六条御息所の生き霊)
 に取り憑かれていました。この和歌は六条御息所が葵上の口を借りて
 光源氏に助けを求めるように訴えたセリフです。

 【掛詞・かけことば】

      つま → 褄(つま・着物の裾)
         → 端(つま・先っちょ)
         → 夫(つま・愛しい人)

 昔の人は「夫」も「妻」も「つま」と発音して、ニュアンス的には英語
 の「ダ〜リン♪」といった感じの意味を持っていました。

 リストへ戻る
第68文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

  限りあれば うす墨衣 あさけれど 涙ぞ袖を 淵となしける

 【補足】
  かぎりあれば うすずみごろも あさけれど なみだぞそでを ふちとなしける

 【解釈】
 「規則ゆえ、今は薄墨色の服を着ているのですが、
  深い悲しみの涙は袖を濡らし、喪服を濃い藤色に変えてしまいました」
 (浅い色の服を着ていても、愛情が浅いという訳ではありません…。)

 【状況】
 突然の葵上の死を聞かされ、光源氏は葵上にもっと優しくしてあげる
 こともできたのに何故早く行動しなかったのかを悔やみます。
 この和歌は、悲しみに暮れる光源氏が独詠した和歌です。

 【掛詞・かけことば】

   あさけれど → 浅けれど(あさ・色が)
         → 浅けれど(あさ・愛する思いが)

      ふち → 淵(ふち・水の深い所)
         → 藤(ふじ・藤衣=喪服の別名)

 ちなみに、平安時代では女性のお葬式には薄墨色の(少し薄い色の)
 喪服を着ることになっていました。

 リストへ戻る
第69文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 のぼりぬる 煙はそれと 分かねども なべて雲居の あはれなるかな

 【補足】
 のぼりぬる けむりはそれと わかねども なべてくもいの あわれなるかな

 【解釈】
 「どの雲になったのかは分からないけれど
  アナタを焼いた煙が昇って雲に混ざったと思うと
  この空一面が慕わしく感じます…。」

 【状況】
 この和歌は、光源氏が妻・葵上の火葬場で空を見上げて、今までの夫婦
 生活を思い返しながらポツリと呟いた和歌です。

 【掛詞・かけことば】
 「分かねども」という詞は、空に昇った煙がどの雲に混ざってしまった
 のか「分からない」という意味と、その日は空と雲の境界線が「分けら
 れない」ほど、白くどんよりとしていたこと表しています。

 リストへ戻る
第70文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 人の世を あはれと聞くも 露けきに 遅るる袖を 思ひこそやれ

 【補足】
 ひとのよを あわれときくも つゆけきに おくるるそでを おもいこそやれ

 【解釈】
 「人生のはかなさを聞くにつけても悲しく涙しております。
  奥様を亡くされ、残されたアナタはさぞお辛い事でしょう。
  お悔やみ申し上げます。」

 【状況】
 ある秋の朝、光源氏のもとに愛人・六条御息所から菊の枝を添えた手紙
 が届きました。そこには、妻を亡くした光源氏への弔問の和歌が詠まれ
 ていました。

 【掛詞・かけことば】

      きく → 聞く
         → 菊

 ちなみに「遅るる」という詞は「死に遅れる」という意味になります。

 リストへ戻る
第71文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 秋霧に 立ちおくれぬと 聞きしより 時雨るる空も いかがとぞ思ふ

 【補足】
 あきぎりに たちおくれぬと ききしより しぐるるそらも いかがとぞおもう

 【解釈】
 「霧立つ程の秋(寂しい季節)に、奥様に先立たれたと聞きました。
  雨空の下でアナタは、いつにも増して悲しんでいるのでしょうね…」

 【状況】
 朝顔の姫君は、これまで何度も光源氏に口説かれて来ましたが、いつも
 サラリと拒み続けている女性です。この和歌は、同情を誘う手紙を送っ
 てきた光源氏に対して、素直に同情だけを詠んで返した一枚上手な朝顔
 の姫君の和歌です。

 【掛詞・かけことば】

      たち → 立つ(霧が立つ)
         → 立ち遅れる(死に遅れる)

 リストへ戻る
第72文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 あやなくも 隔てけるかな 夜を重ね さすがに馴れし 夜の衣を

 【補足】
 あやなくも へだてけるかな よをかさね さすがになれし よるのころもを

 【解釈】
 「いつもアナタと一緒に夜を共にしてきたのに
  どうして今まで体を重ねずに我慢していたのでしょうね…」
 (これでやっと私たち2人は一心同体になれました)

 【状況】
 念願の紫上と男女の関係になった次の日の朝、光源氏は枕元に恋文を
 残して清々しい気分で立ち去ります。この和歌は、その中に書かれて
 いた一節です。

 【掛詞・かけことば】

    重ね → 夜を重ねる
       → 体を重ね合う

  あやなく → 文無く(あやなし = 意味・理屈が無いという意味)
       → 綾なく(着物が重なり合うこともなく)

 リストへ戻る
第73文 □―――――――――――――――――――――――――――――□
 【和歌】

  新しき 年ともいはず ふるものは ふりぬる人の 涙なりけり

 【補足】
 あたらしき としともいわず ふるものは ふりぬるひとの なみだなりけり

 【解釈】
 「本日はめでたい新年の始まりですが、
  相変わらず年老いた老人は涙ばかり流しております。」

 【状況】
 新しい年が明け、光源氏は亡き妻・葵上の屋敷へ新年の挨拶に訪ねまし
 た。この和歌は、まだ娘の死から立ち直れずにいる葵上のお母さんが光
 源氏に詠みかけた悲しみの和歌です。

 【掛詞・かけことば】

  ふる・ふり → 降る(雨・涙が)
        → 古る(古い・年老いた)

 リストへ戻る
第75文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 少女子が あたりと思へば 榊葉の 香を懐かしみ とめてこそ折れ

 【補足】
  おとめごが あたりとおもえば さかきばの  かをなつかしみ とめてこそおれ

 【解釈】
 「アナタの娘がお籠もりしている神社に
  きっと一緒にアナタもいるだろうと思って、
  榊の葉の香りを手掛かりに、ここまで探し求めてまいりました。」

 【状況】
 六条御息所が娘と神社で身を清めていると、タイミング良く光源氏が現
 れます。「どうして私の居場所が分かったの?」と尋ねた六条御息所に、
 光源氏は榊の枝(神社に植えられていた)をプレゼントに1枝持参して
 この和歌を詠みました。

 【掛詞・かけことば】

      榊 → 榊(神社に植えられていた神聖な木)
        → さかい(俗世と聖域の境界=神社)

    とめて → 求めて(探し求める)
        → 留めて(心を留める・足を留める)

 リストへ戻る
第76文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 行く方を 眺めもやらむ この秋は 逢坂山を 霧な隔てそ

 【補足】
 ゆくかたを ながめもやらん このあきは おうさかやまを きりなへだてそ

 【解釈】
 「あの人が行ってしまう方向を眺めていたいのに…。
  長雨よ、秋だからといって逢坂山に霧を立たせないでおくれ。」
  (私たちの仲を隔てないでおくれ。)

 【状況】
 一緒にいた頃は嫌気さえしていた気持ちも、自分が捨てられるとなると
 未練タラタラになってしまいます。この和歌は、伊勢を目指して旅立っ
 た六条御息所を想いながら光源氏が詠んだ嘆きの和歌です。

 【掛詞・かけことば】

   眺め → 眺め
      → 長雨(たくさん降る雨 = 大泣き)

    秋 → 秋
      → 飽きる

   逢坂 → 逢坂山(京都と滋賀の県境・関所が設けられていました)
      → 逢う・会う

 リストへ戻る
第77文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 年暮れて 岩井の水も こほりとぢ 見し人影の あせもゆくかな

 【補足】
 としくれて いわいのみずも こおりとじ みしひとかげの あせもゆくかな

 【解釈】
 「年も暮れ、岩井の水も凍って浅くなると、
  立ち寄る人影も減って、ますます寂しく感じます。」

 【状況】
 先帝が亡くなり、日に日に藤壺の屋敷を訪れる人の足も途絶えてゆきま
 した。この和歌は、年の暮れも迫ったある日、藤壺の侍女が先帝を偲ん
 で詠んだ哀悼の和歌です。

 【掛詞・かけことば】

    あせ → 浅せ(水が浅い)
       → 褪せ(人影が薄くなる = 人が減る)

 リストへ戻る
第78文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 嘆きつつ 我が世はかくて 過ぐせとや 胸のあくべき 時ぞともなく

 【補足】
 なげきつつ わがよはかくて すぐせとや むねのあくべき ときぞともなく

 【解釈】
 「私のこの嘆きは、たぶん一生続くでしょう。
  夜が明けても心が満たされることはありません。
  アナタへの想いに飽きることが無いのですから…」

 【状況】
 楽しく過ごした夜が明け、帰り際に朧月夜から冗談っぽく「私の事、飽
 きたんじゃな〜い?」と聞かれた光源氏は、この和歌を彼女にサラリと
 詠むのでした。

 【掛詞・かけことば】

     よ → 世(この世・一生)
       → 夜(男女の仲という意味もあります)

    あく → 胸が空く(心が満たされない)
       → 夜が明ける
       → 飽きる

 リストへ戻る
第79文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

【和歌】

 風吹けば まづぞ乱るる 色かはる 浅茅が露に かかるささがに

 【補足】
 かぜふけば まずぞみだるる いろかわる あさじがつゆに かかるささがに

 【解釈】
 「色付いた浅茅の葉に引っ掛かっている蜘蛛の糸のように
  私の心は、風が吹くと真っ先に不安で心を痛めています。」

 【状況】
 光源氏はお寺で経典を読んだり、僧侶たちにチヤホヤされながら恋人た
 ちに手紙を贈る日々を過ごしました。この和歌は、屋敷でお留守番して
 いる紫上から届いた恋文で、頼れるのは光源氏しかいないので一刻も早
 く帰宅して欲しい…という気持ちが込められています。

 【掛詞・かけことば】

   色かわる → 葉の色が変わる・紅葉する
        → 好色・光源氏の浮気癖・他の女性への心変わり

    かかる → 掛かる(蜘蛛の糸が葉に掛かる)
        → 寄りかかる(頼りにしする)

 ※ ちなみに、末句の「ささがに」とは「蜘蛛」の平安時代の呼び方です。

 リストへ戻る
第80文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 長らふる 程は憂けれど ゆきめぐり 今日は其世に あふ心地して

 【補足】
     ながらうる ほどはうけれど ゆきめぐり きょうはそのよに あうここちして

 【解釈】
 「生き残った私の生活は、寂しくて悲しかったけれど
  時が経った1回忌の今日は、あの人に逢えた気がします」

 【状況】
 先帝が亡くなって1年が経ち、未亡人・藤壺が昔を懐かしんで詠んだ
 哀愁の和歌です。
 
 【掛詞・かけことば】

     ふる → 経る(時間が経過する)
        → 降る(雪が降る)

     ゆき → 行き巡り
        → 雪

 リストへ戻る
第81文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 あひ見ずて 忍ぶる頃の 涙をも なべての秋の 時雨とや見る

 【補足】
   あいみずて しのぶるころの なみだをも なべてのあきの しぐれとやみる

 【解釈】
 「アナタに逢えない日々を、涙をのんで我慢している私ですのに、
  それを、ありふれた秋の時雨だとおっしゃるのですか?」

 【状況】
 永遠のマドンナ・藤壺が出家してしまい、光源氏はショックで引き籠
 もっていたのですが、朧月夜から「私のこと、嫌いになった?」との
 お誘いの恋文が届きます。この和歌は、積極的な彼女に元気づけられ
 た光源氏が「飽きたなんて…とんでもない!」と詠んだ返歌です。
 
 【掛詞・かけことば】

     あき → 秋
        → 飽きる

 リストへ戻る
第83文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 をち返り えぞ忍ばれぬ ほととぎす ほの語らひし 宿の垣根に

 【補足】
   おちかえり えぞしのばれぬ ほととぎす ほのかたらいし やどのかきねに

 【解釈】
 「夜通し語り合った懐かしいアナタを思い出して
  ホトトギス(私)は垣根で寂しそうに鳴いております」

 【状況】
 光源氏が道を歩いていると、長い間ホッタラカシにしている恋人の屋
 敷から、彼女が奏でる琴の音色が聞こえてきました。その時にちょう
 どホトトギスが鳴き、ピーン!と口説き文句を閃いた光源氏は、早速
 この恋文を贈ったのでした。

 【掛詞・かけことば】

     垣根 → 根
        → 音(琴の音色)
        → 寝(男女の仲)

 リストへ戻る
第84文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 橘の 香をなつかしみ ほととぎす 花散る里を 訪ねてぞとふ

 【補足】
   たちばなの かをなつかしみ ほととぎす はなちるさとを たずねてぞとう

 【解釈】
 「昔を思い出させる橘の香が懐かしく思えて、
  ホトトギス(私)は花の散るところを探してやって来ました」
 
 【状況】
 花散里の屋敷を訪ねた光源氏は、まず彼女のお姉さんと先帝の思い出話
 に花を咲かせました。その時にホトトギスの鳴く声が聞こえて、光源氏
 はこの和歌を詠みました。

 リストへ戻る
第86文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 鳥辺山 燃えしけぶりも 粉ふやと 海女の塩焼く 浦見にぞゆく

【補足】
  とりべやま もえしけむりも こなうやと
                あまのしおやく うらみにぞゆく

【解釈】
 「鳥辺山で火葬した妻(葵上)の煙の面影を求めて
  海女が塩焼きしている煙をちょっくら須磨の浦へ見に行ってきますね」

【状況】
 光源氏は息子・夕霧のいる左大臣(故・葵上の父)の屋敷を訪れます。
 そして左大臣や親友の頭中将と一緒に恨み辛みの悔し涙を流し、その
 夜は葵上の侍女だった中納言と一夜を共にしました。
 この和歌は、悲しみを隠しきれない彼女に光源氏が詠んだ和歌です。

【掛詞・かけことば】

   うらみ → 浦見(浦へ見に行く)
       → 恨み

 リストへ戻る
第87文 □―――――――――――――――――――――――――――――□
【和歌】

 行きめぐり 遂に澄むべき 月影の しばし曇らむ 空な眺めそ

【補足】
  ゆきめぐり ついにすむべき つきかげの
                しばしくもらん そらなながめそ

【解釈】
 「行き巡って、最後には澄んで綺麗に輝く月の光ですから
  ちょっと曇っているからって、不安な顔して夜空を眺めないで…」
 (いずれ私の身の潔白が証明されて、一緒に住める日が来るさ!)

【状況】
 たぶん会いに来てくれないだろう…と花散里は光源氏の来訪を期待して
 いなかったので、今回の光源氏の挨拶には屋敷総出で大歓迎でした。
 この和歌は、涙を一生懸命こらえる花散里を慰めようと、光源氏が優し
 く詠んだ和歌です。

【掛詞・かけことば】

    すむ → 澄む(月光が澄む・身の潔白が晴れる)
       → 住む(花散里と一緒に住む)

   ながめ → 眺め
       → 長雨

 リストへ戻る
第88文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 逢瀬なき 涙の川に 沈みしや 流るるみをの 初めなりけん

【補足】
  おうせなき なみだのかわに しずみしや
                ながるるみをの はじめなりけん

【解釈】
 「逢うこともできない悲しみに、涙の川で溺れております
  それは(須磨へ)流れ行く我が身の初まりなのでしょう…」

【状況】
 光源氏と朧月夜は、お互いの家来に宛てて手紙を出すフリをして、お別
 れの恋文を届け合いました。この和歌は、光源氏が朧月夜に抱く愛情、
 悲しみ、恨み言、を少しずつ含んで詠まれました。

【掛詞・かけことば】

    みを → 身を(我が身を)
       → 水脈(「みお」= 船の水路 → 光源氏の将来)

 リストへ戻る
第89文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 別れしに 悲しき事は 尽きにしを 又ぞこの世の 憂さはまされり

【補足】
  わかれにし かなしきことは つきにしを
                  またぞこのよの うさはまされり
【解釈】
 「父や友人たちとの別れで、悲しいことは終わった筈なのに
  (我が子の)将来を思うと、この世の辛さは尽きません…」

【状況】
 右大臣家の政権パワーが強まって、藤壺の幼い息子(以下、冷泉)より
 も右大臣の息子が次の帝に相応しいと言い出す者も現れる始末…。この
 和歌は、そんな状況から冷泉の将来を心配して光源氏が詠んだ和歌です。

 ※ 冷泉 = れいぜい(光源氏と藤壺との秘密の子)

【掛詞・かけことば】

    この世 → この世
        → 子の世(子供の将来)

 リストへ戻る
第90文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 身はかくて さすらへぬとも 君があたり 去らぬ鏡の かけは離れじ

【補足】
  みはかくて さすらへぬとも きみがあたり
                  さらぬかがみの かげはななれじ
【解釈】
 「鏡を見れば、必ずアナタの姿が映るように、
   私の心も、いつでもアナタと一緒にいるのですよ。
   こうして須磨へ行ってしまう私だけれど…。」

【状況】
 光源氏に育てられ、光源氏の為だけに生きてきた紫上にとって、今回の
 別れは(光源氏の悪癖のことも心配で…)まさに Σ( ̄◇ ̄;)ガビーン
 といった出来事でした。この和歌は、泣き崩れる紫上を説得するように
 光源氏が詠んだ和歌です。

【掛詞・かけことば】

   かけは離れじ → 影(心)は離れない
          → かけ離れない(遠くに行ってしまわない)

 リストへ戻る
第91文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

 【和歌】

 こりずまの 浦のみるめの ゆかしきを 塩焼くあまや いかが思はん

【補 足】
 こりずまの うらのみるめの ゆかしきを しおやくあまや いかがおもわん

【読み人】光源氏

【解 釈】
 「須磨の浦で珍しい海藻を眺めている私ですが、
  塩を焼いている海女たちには、どう見えていることでしょうね…」

 (懲りずに逢いたいと願っている私ですが、アナタはどうですか?)

【状 況】
 須磨での生活は、屋敷も荒れていて、方言も分からず、光源氏は予想外
 のカルチャーショックを受けることになりました。この和歌は、光源氏
 が朧月夜に贈った手紙に添えられたものです。

【掛詞・かけことば】

    こりずま → 須磨
         → 懲りず

     みるめ → 海松布(みるめ = 海藻)
         → 見る目(人と人が対面する = 逢う)

 リストへ戻る
第92文 □―――――――――――――――――――――――――――――□

【和 歌】
 浦人の 潮汲む袖に くらべ見よ 波路へだつる よるの衣を

【補 足】
 うらびとの しおくむそでに くらべみよ なみじへだつる よるのころもを

【読み人】紫上

【解 釈】
 「須磨の浦で潮を汲むために濡れるアナタの袖より、
  都にいる私の衣のほうが(逢えない悲しみの涙で)濡れております 」

【状 況】
 光源氏からの手紙が届くと、紫上は感動のあまり、その手紙を握りし
 めたまま起きあがることもできない状態でした。その後、彼女は光源
 氏を励まそうと新しい着物等のプレゼントを贈るのですが、この和歌
 もそれらと一緒に贈られてきました。

【掛詞・かけことば】

      よる → 夜
         → 寄る

    へだてる → 衣を隔てる(男女の関係が途絶える)
          → 波路を隔てる(物理的な距離)

 リストへ戻る
第93文 □―――――――――――――――――――――――――――――□
【和 歌】

 知らざりし 大海の原に 流れ来て ひとかたにやは 物は悲しき

【補 足】
  しらざりし おおみのはらに ながれきて
                  ひとかたにやは ものはかなしき

【読み人】光源氏

【解 釈】
 「海を渡り、知らない土地に流れついたのだが、
  こんなに大変な(悲しい)経験をするとは思ってなかった」

【状 況】
 ある日、光源氏は家来たちを連れ、須磨の浜辺にくり出して、雛祭りの
 儀式を眺めることにしました。人形を小さな船にくくりつけて沖へ流す
 光景に、現在の自分と重ね合わせて憂鬱になった光源氏は、ポツリとこ
 の和歌を呟くのでした。

【掛詞・かけことば】

    ひとかた → 人形
         → ひとかた(並大抵の)

 リストへ戻る


表紙へ戻る


COPYRIGHT(C) 2004 『1分で読める源氏物語』制作委員会