紅の豚
チャプター7


フーッ

ファーア…

おはよう 眠れた?

あんた 徹夜したのか?

ラフプランだけど どうかしら

平面形は そのままにして

新しい翼断面を使いたいの…

これだけで5ノットは速くなるはずよ

前の図面 見て驚いちゃった

翼も木製モノコックだったのね

この計算書すごいわ

この翼を作った人

本当に木の性質をよく知ってる

(フィオ) 感動しちゃった

こいつはな

たった一艇だけ作られたんだが

危なくて飛べねえってんで…

倉庫で埃をかぶってたのさ

やっぱり

こんな過激なセッティングで

よく水から離れられるわね

難しいのは離着水の時だけさ

スピードにのれば粘りのある翼だ

翼の取付角を

図面より0.5度 増やしてくれ

あとはこのまま すすめていい

やらせてもらえるのね!

ありがとう 一生懸命やるわ

だがな お嬢さん

ひとつだけ条件がある

徹夜はするな

睡眠不足は いい仕事の敵だ

それに美容にもよくねえ

フフッ

そうするわ

ゆうべ胸がドキドキしちゃって

とても寝ていられなかったの

本当のこというとね

やっぱり この仕事

任せてくれないんじゃないかって

心配だったの

だから嬉しい

コーヒー入れるね!

作るのも自分ひとりでやるなんて

いうんじゃねえだろうな…

次は姪のモニカ 製図をやる

よろしく

甥っ子の嫁のシルヴァーナ

仕上げをやる

いとこの娘達だ

ソフィア ラウラ コンスタンス

ヴァレンティーナ

(ピッコロ) フィオの姉ジリオラ

サンドラも来てくれたのかい

いとこだ

マリエッタ きれいになったね

息子の嫁達だ

マリア ティナ アンナ

その妹のミレッタ

ポルチェリーノ!

バアちゃん!

まだ お迎えが来ねえのか

アッハハ…

あんたも いい男になっちまったねえ

ハハハ…

バアちゃん達も働くのか

んー…

ひ孫に小遣いやりたくてね

アッハハ…

男が一人もいねえな

ああ

みんな おやじの一族なのか

そうだよ

ここんとこ仕事がなくてよ

男はみんな出稼ぎに出ちまったんだよ

世界恐慌ってやつか

心配するな 女はいいぞ

よく働くし 粘り強いしな

パンケーキを作るんじゃねえんだからな

天にまします我らの神よ

あなたは倒産寸前の我が社に

パンと仕事をお与えくださいました

女の手を借りて戦闘艇を作る

罪深き私どもを お許しください

(一同) アーメン

さあ モリモリ食べて

バリバリ働こう!

ハハハ…

(プロペラの回転音)

いい音だ

このエンジンは当たりだぜ

どうだ よく回るだろう

いいかげんにしねえと

小屋が飛んじまうぞ

ああ!? カーチスなんぞ屁でもないやな
 

チャプター8


ウーム 確かにいいアイデアだ

ねっ だからお願い

だがなあ…

こりゃあ 高くつくぜ

もう予算オーバーの請求書が

こんなになっちまったんだ

スポンサーがなあ…

ポルコ…

わかった そんな眼で人を見るな

好きにやれよ

やったあ!

工場とは話がついてるの

すぐ発注するね

ポルコ大好き!

3ヶ月は何とか待つよ

空賊にでも転職するか

いい子だろう

ん?

手出すなよ

尻の毛まで抜かれて鼻血も出ねえや

少佐か 出世したな フェラーリン

(フェラーリン) 何で戻って来たんだ

行きたい所は どこへでも行くさ

今度は当局も見逃さないぞ

尾行されなかったか

まいてやったよ

お前には反国家非協力罪

密出入国 退廃思想

ハレンチで怠惰な豚でいる罪

ワイセツ物陳列で逮捕状が出される

ハハハ…

バカヤロウ 笑ってる時か

お前の戦闘艇も没収すると言ってるぞ

ひでえ映画じゃねえか

なあマルコ 空軍に戻れよ

今なら俺達の力で何とかする

ファシストになるより豚の方がマシさ

冒険飛行家の時代は終わったんだ

国家とか民族とか

くだらないスポンサーをしょって

飛ぶしかないんだよ

俺は俺の稼ぎでしか飛ばねえよ

飛んだところで豚は豚だぜ

ありがとうよ フェラーリン

みんなによろしくな

いい映画じゃないか

気をつけろ

奴らは豚を裁判にかける気はないぞ

ああ

あばよ 戦友

(フィオ) ポルコ 乗ってく?

いやあ 助かったぜ

明日 艇を湖に運ぶんで

借りて来たの

いよいよテスト飛行だわ

テストは抜きだ

すぐ飛ばなきゃならねえ

バカな事 言わないで

テストもしないで引き渡せやしないわ

それに一度バラして湖に運ぶだけで

1日かかるもの

時間がねえんだ

そこの窓から後ろを見てみな

そっとだ

ファシストの秘密警察だよ

フィオをつけていたのさ

私を? なぜ

俺が尾行をまいちまったからな

それに フィオは俺の飛行艇を

いじってるからだ

ねえ

ポルコって本当はスパイなの?

グッハハ…

ハハハ 俺がスパイか ハハハ…

スパイなんてものはな

もっと勤勉な野郎がやることさ

戦争の時は英雄だったんでしょう?

だっておかしいわよ 何もしてないなら

俺も そう思うぜ

おっと こっちの道じゃねえ

(ガシャーン!)

何にもしてないって訳じゃなさそうね

(ポルコ) さあ 忙しくなるぜ
 

チャプター9


いつでも飛べるよ

裏にも2人隠れてる

表は3人だ

なんかワクワクするねえ

バアちゃん ウロウロするなよ

行ってきます

気をつけて

ありがと

フィオ 何のまねだ?

私も行くの

乗るところ作るから5分待って

冗談じゃねえ

何を言ってるのか わかってるのか!

シッ! 大きな声出しちゃダメよ

フィオ あのなあ

お前はカタギの娘なんだぞ

しかも嫁入り前の身だ それを…

そっち持ってくれる

はい…

ありがと

大急ぎで作ったの ほら!

(フィオ) ピッタリ!

そっち押さえてくれる

お嬢さんよ

俺は凶状持ちの賞金稼ぎだぞ

遊覧飛行に行くんじゃねえんだ

ごめんなさい でも

初めての仕事だからキチンとやりたいの

一度飛んでから手直ししなきゃ

だがな 裏のドブ川から飛ぶんだぞ

無事に飛び立てるかどうかも

わからねえんだ

だから なおのことよ

それにカーチスとやりあうなら

整備士が要るでしょう

あのな 俺は男だ

二人きりで無人島で野宿するんだぞ

平気よ 私 野宿好きだもの

そういうことじゃねえ

うん…

連れてけよ

カーチスに勝ってもらわないと

払いが残ってるからなあ

未払いになると破産だからよ

テメエ それでも祖父か!

給料は まけとくよ

それに ホレ

伝声管も付けるぞ

よっぽど孫をお尋ね者にしたいんだな

ううん

私はポルコの人質になるの

それで工場のみんなは仕方なく

協力したことにすれば

当局に言い訳がたつでしょう

だからお願い 連れてって

役に立つから

右側の機関銃を外しな

えっ?

いくら小さな尻でも

機関銃の間は狭すぎだ

一梃おろすんだ

よかった!

私のお尻 見かけより大きいの

1分で外すね

すぐ出発だ まごまごしてると

バアちゃんまで ついて来そうだからな

そうか その手もあったな

ウフフ…

バアちゃん 早く早く

フィオ お土産はいいからね
 

チャプター10


(ピッコロ) コンタクト!

開けろ!

(笛の音)

(ポルコ) 離せ!

(銃撃音)

(機関銃の連射音)

人さらいーっ 金払えー!

(フィオ) 舵はどう? ポルコ

お前そっくりのジャジャ馬だ

一段と過激になりやがった!

一度 止めて

セッティングを変えるわ

そんな暇はねえ!

何とか持ち上げて見せらあ

(ポルコ) 水がへばりつきやがるぜ

前から船!

ムッ!

飛ぶぞ!

戻れ ジャジャ馬

エルロンが水で叩かれてる

タブを使って!

タブ?

(フィオ) 新しく付けたやつ

早く!

いいぞ

急に素直になりやがった

きれい…

世界って本当にきれい

追っ手かしら?

攻撃にしちゃ 様子が違う

とんだイタリア空軍のお出ましだぜ

フェラーリンの野郎だな

知り合い?

この先で空軍が網をはってる

抜け道を教えてくれるとよ

このまま低空で―

アドリア海へ抜けろと言ってる

ありがとうよ 戦友

ありがとう

あの野郎 フィオを見て―

豚に真珠だと言いやがった
 

チャプター11


(カーチス) 美しい…

まさに秘密の花園に咲く

一輪のバラ

いけない人

ここはプライベートな庭よ

どうしても これを見てほしくてね

まあ ハリウッドからね

“貴殿の送付されたシナリオの―”

“映画化と出演について…”

前向きに検討中につき

至急 連絡されたし…

題名は―

「アドリア海の花束」っていうんだ

すてきじゃない

本当? じゃ決まりだな

ジーナ 一緒にハリウッドへ行こう

空賊の用心棒なぞ 金と名声への

ほんのワン・ステップさ

次はハリウッドの大スターだ

その次は?

大統領!

ん!?

アッハハ…

ハハハ…

俺はマジだぜ

ジーナを必ず

大統領夫人にしてみせる

ジーナ

私 あなたのそういう

バカっぽいところ好き

本当!?

でもダメ

私 いま賭けをしてるから

私が この庭にいる時

その人が訪ねてきたら―

今度こそ 愛そうって賭けしてるの

でも そのバカ

夜のお店にしか来ないわ

日差しの中へは ちっとも出てこない

(飛行艇のプロペラ音)

あの野郎 戻って来やがった

(よみがえる遠い記憶)

バカ…

降りないで行ってしまったわ

また賭けに負けちゃった

まさか… 賭けって

あの野郎のことなのか?

いけない?

ここではあなたのお国より

人生が もうちょっと複雑なの

恋だったら いつでもできるけど…

ハリウッドへは

ぼく一人だけで行きなさいね

…ぼく!?

(フィオ) 急にアクロバットするんだもの

頭をぶつけちゃった

(ポルコ) 古いなじみに挨拶したんだ

ホテル・アドリアーノのジーナさん?

さっきテラスにいた 白い服の人ね

おじいちゃんが教えてくれたの

アドリア海の飛行艇乗りは―

みんなジーナに恋をするんだって

じじい 余計なことを…

ねえ ジーナさんてどんな人?

ポルコも恋したの?

給油に降りるぞ

おしゃべりをやめねえと 舌かむからな

ワァッ 待って! アーッ
 

チャプター12


フーッ

ハァ…

(口笛) ♪ヒューッ

戦闘艇に女の子が乗ってらあ

ポルコは?

父ちゃんと難しい話をしてるよ

(おやじ) 臨時政府だけじゃねえよ

王党派の連中までがよぉ

空賊連合を抱き込もうって

動いてるって話だぜ

空賊狩りやっても きょうびは

一文にもなりゃしねえよ

(おかみ) できたよ

すまねえ

やだねえ 不景気な話ばかりで

(老人) 何だ ポルコもどっちかへ

売り込んだらいいんだよ

あんたの腕なら

いい金 出すだろうに

タバコはあるか?

カーチスなんか―

じきアメリカに帰っちまうさ

アメリカに行かなきゃならねえのは

俺達の方だよ

“さらばアドリア海の自由と―”

“放埓の日々よ”ってわけだ

それバイロンかい?

いや俺だよ またな

まいど

ポルコ ひどいのよ

ガソリンがイタリアの3倍だって

メチャクチャよ

足元みないでまけなさいよ

うちのは混ぜものなしなんだよ

だから女はイヤなんだ

ダンナ 何とか言ってよ

払ってやれよ フィオ

済んだら その見かけより大きな尻を

機関銃の隙間にしまってくれ

アジトに飛ぶぜ

ちゃんとガス代も請求書に

入れときますからね

(ポルコ) ぼってるんじゃねえ

持ちつ持たれつなんだよ

海も陸も見かけはいいがな

この辺りはスッカラカンなのさ

(フィオ) ふーん

見えたぜ あの島だ

わあっ

きれい…

すてきなアジトね

ああーっ

お尻がゴワゴワになっちゃった

ブタ〜ァ!

動くな!

また きたねえのが

たくさん出てきやがったな

ボス つかまえましたよ

ボス!

クソッ 人を踏みつぶしやがって

どけ!

待っていたぞ 豚野郎

お前が来るのは わかってたんだ

テメエには たっぷり借りがあるんだ

ああーっ!

女の子だぞ

女の子 乗せてんだ

かわいい

うるせえ! 女がどうした

世界の半分は女だ

おい! その娘はただの娘じゃねえ

ピッコロ社の設計主任だ

えーっ!

こんなに若くてかわいいのに?

女だぞ 本当か?

俺の艇を前より

ずっといい艇にしたんだ

若いが いい腕してるぜ

オーッ

本当? ポルコ

飛行艇については嘘はつかねえ

丁重に扱えよ

借金取りに ついて来ちまったんだ

ガハハハ…

テメエもローン持ちか

ザマアミロ

やい!

こいつのハレンチで真っ赤っかの艇を

ローンだけ残してブチ壊してしまえ!

壊すって

私が作った艇を壊す気?

あんなきれいな艇を

斧で壊すっていうの?

お嬢さん

これには深い訳があるんだ

壊すのね

ウッ だからその…

あなた達 それでも飛行艇乗りなの?

どいて

私のクツ!
 

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