19世紀の中頃から黄楊(ツゲ)に替わってクラリネットの管体に用いられてきたグラナディラ(グレナディラとも)は、今でも案外誤解の多い木です。まず、仏壇や小物入れなどによく使われている黒檀(コクタン)と混同されています。英語でエボニー(ebony)と呼ばれる黒檀は、中国や東南アジアが原産の「カキノキ科」ですが、グラナディラは「マメ科」の樹木で、英名をアフリカン・ブラックウッドと言い、その名の通り、ケニアやタンザニア、モザンビークなど東アフリカ諸国が原産地です。ですからストラヴィンスキーの「エボニー・コンチェルト」は、正しくは「アフリカン・ブラックウッド・コンチェルト」と呼ぶべきなのです。

左下の人影と比べるとその大きさが分かる
熱帯のサバンナに点在して生育しているグラナディラは、高さが10m以上の成木になるまでに80年以上を要します。そのため現在では乱伐しないよう年間の伐採量を制限しているので、質の高いグラナディラを入手することが昔ほど容易ではなくなっています。
黒い芯を管体に使用
グラナディラの幹は30cm前後で芯は黒に近い茶褐色ですが周辺は薄茶色で、はっきりと2つの層に分かれているのが特徴です。またグラナディラは非常に堅く重い木で、比重は1.2に達し、水に沈みます(試してみる?)。従ってその堅さも半端ではなく、成形や孔開け作業には砲身をくり抜くような超高硬度の特殊な刃物が必要とされるので、某メーカーでは管体の加工を鉄工所に依頼しているほどです。
私もかつてA管とB♭管のタルを間違えないようにカッターナイフで印を付けようとしましたが、刃がボロボロに欠けてしまった経験があります。

グラナディラはクラリネットに限らず、オーボエやピッコロ、木製フルート、バグパイプの管体材料としても使用されていますが、なぜグラナディラが木管楽器の管体に使われるようになったかと言うと、理由は主に3つ考えられます。まずコンサート会場の大型化に伴う音量増大要求の高まり。次にキイの増加による加工精度向上の必要性。最後に低コストです。

ブラームスがこよなく愛したミュールフェルトの音色は、ツゲ製の管体に負うところが大きかったかも知れませんが、音量では圧倒的にグラナディラが勝ります。またグラナディラは、油分が多く乾燥しにくい反面、一旦乾燥してしまうと殆ど水分を吸収しない安定性が高い木なので、ツゲ製の古楽器によく見られるように、経年変化で曲がったりすることはありません。コストについては意外かも知れませんが、16世紀初頭、喜望峰経由のインド航路を開拓していたヴァスコ・ダ・ガマの船団が、途中アフリカに立ち寄って、金や香辛料と共に工芸品の材料としてグラナディラをヨーロッパに大量に持ち帰ったので、当時はシルクロード経由のエボニーよりずっと安くポピュラーな材料だったようです。日本からは最も縁遠い国アフリカは、ヨーロッパの人々にとっては昔から親しい隣国なのです。

外形加工前のタルは一つ一つが個性的
グラナディラは現在、希少樹種として保護活動が盛んですが、クラリネット等楽器に使用される量など知れたもので、殆どは家具や民芸品などに消費されています。仏壇の材質等に「アフリカ黒檀」と表示されているのは、まずグラナディラと考えてよいでしょう。
グラナディラが今後もクラリネットの材質として主流であり続けられるかどうかは疑問です。最大の欠点は“割れる”ことで、各メーカーは、ありとあらゆる努力をしていますがこれを根絶できません。
ほんの2、30年前まで、ゴルフクラブのヘッドはパーシモン(柿)が主流でしたが、今ではカーボンや軽合金に取って代わられ見ることすら出来ないように、20年後のクラリネットは合板かプラスチックか、はたまた全てメタルになっているかも知れません。
きっとその頃になって、「おお、友よ、このような響きではない!ストラヴィンスキーがイメージしたクラリネットの音は、、、、」などと唱える人物が出てくることでしょう。

(last revised 2010/02/04 by Gm)
知られざるグラナディラ
ストラヴィンスキーの誤解