ロゴ入れる場所 TOP Ecology Conservation Status NGOs Links BBS

■アサザとその生態

■ここでは絶滅危惧種アサザの生活史と、生態系としての機能について紹介します
■オランダでは重要な生態系の一つとして、アサザに関する研究が 1980年代から盛んに行われてきました(Van der Velde 1981)。 ここではそれら科学論文となった研究成果を中心に紹介します

アサザ 【浅々菜・阿邪佐】 Nymphoides peltata
アサザの花 ・ミツガシワ科アサザ属に属する多年性の浮葉植物
・環境省レッドリスト 絶滅危惧U類 にランク

・世界での分布:ユーラシア大陸に広く分布
日本での分布:北海道〜九州。 かつては各地の湖沼・ため池に見られた




 ◆アサザの生活史 

生活史

 アサザは他の植物と同様に「種子」→「芽生え」→「定着個体」→「成熟個体の開花・種子生産」という生活史をもっています。水面に葉を広げて毎年開花するほど成長した個体は、時として1個体が数百メートルの大きさを占有するほど、地下茎を伸ばして成長(クローン成長)します。ここではアサザの生活史についてそれぞれのステージごとに説明します。


種子とその分散
  • アサザの種子は「永続的土壌シードバンク(埋土種子集団)」を形成し、 発芽せずに土壌中で数年間生存することができる (Smits et al.1990)
  • 種子は非常に水に浮きやすいため、水流によって遠くまで散布される。 種子はしばしば魚や水鳥に食べられるが容易に消化されるため 被食散布は有効ではない (Smits et al.1989)
  • 種子は乾燥にも強く、種子表面の毛によって水鳥の体に付着することで、 より長距離の種子散布も起こりうる (Smits et al. 1989; Cook 1990)

発芽特性
  • 浮葉植物であるが、水中では発芽が抑制され、 光の遮られる土壌中でも発芽できない (Smits et al. 1990)
  • さらに冷湿処理や変温条件によって発芽が促進されることから、 (Nishihiro et al.2004) 霞ケ浦では春先の自然な水位低下で露出する湖岸が 発芽適地であると推測されている (鷲谷 1994)
湖岸の様子

実生定着
  • 実生は波があたる場所や他の植物に被われる場所では定着できず、 定着には発芽と同様に「冠水しにくい裸地的環境」が必要である (Takagawa et al. 2006)
  • 春先の水位低下がおこらなくなった現在の霞ケ浦では、 自然条件下では実生はすべて定着に失敗している (西廣ほか 2001)
アサザの実生

成長
  • 浮葉の生産には水中のカルシウムイオンを必要とするため (Smits et al.1992) 、カルシウム濃度が低い酸性の湖沼では生育できない (Smits 1988)
  • アサザのクローン成長は夏ごろ最も盛んとなり、 バイオマス(植物体の量)も最大になる。 バイオマスのほとんどが葉と葉柄によって占められている。 秋になると地上のバイオマスを根に転流しはじめ、 冬には地下部のバイオマスが最大となる。 生育期間を通して高い回転率(葉や葉柄の生産 枯死分解)を示す。 (Van der Velde et al. 1979; Brock et al. 1983; Tsuchiya et al. 1990)
  • 水位の上昇時には葉柄を素早くのばして馴化することができる (Osborne 1982) が、あまりにも急激な水位上昇はアサザの物質生産を低下させ (Van der Velde et al. 1979; Tsuchiya et al. 1990) 、時として個体群の消滅を招く (Brock et al. 1987)
  • 特に葉柄伸長などの馴化能力が衰える成長後期における急激な水位上昇は、 アサザの物質生産に大きな影響を与えると推測されている (Brock et al. 1987; 西廣ほか 2001)

送粉および種子繁殖
  • アサザの花は半日花であるが、開花期間は6月頃から10月頃までと長く、 開花期間には多くの花が咲く
  • 花粉のやりとりは昆虫によって行われ、ハナアブ  ハチ チョウの仲間が多く訪花する (Van der Valk & Van der Heidjen 1981) 。霞ヶ浦では特にイチモンジセセリが有効な送粉者であるとされている (丸井 鷲谷 1993)
  • 「異型花柱性」という繁殖システムをもち、 「長花柱花」と「短花柱花」の2タイプ間で花粉がやり取りされることでのみ 良好な種子生産がなされる (Ornduff 1966)。 しかし自家受粉・同型交配によってもわずかに種子が生産されることや、 自家和合性が非常に高い「等花柱花」という第3のタイプの花型が あることも知られている
イチモンジセセリ
異型花柱性

  • 現在日本において、異なるタイプの花を咲かせる複数の個体が 同じ場所に生育し、種子生産が良好に行われているのは 霞ヶ浦だけである (上杉 未発表)




 ◆生態系としてのアサザの機能

 アサザはしばしば大きな群落を形成しますが、湖底の安定化、地下器官からの酸素供給、消波作用、盛んな枯死分解による栄養塩供給などといった高い環境形成機能をもっており、それ自体が重要な生態系としての役割を果たします。オランダのBrockらの研究によれば、アサザ群落内では無脊椎動物の種数 個体数 バイオマス(生物体の量)が水生植物の生育していない場所に比べて有意に高く、特に地下部での豊富なバイオマスの大半を占める二枚貝類は、アサザ群落内でしか見られなかったことが報告されています。

グラフ
図:オランダBemmelse Strang湖における、アサザ群落内と水草の生えていない
場所での無脊椎動物群集の比較 (Brock & van der Velde 1996 より改図)



 アサザの環境形成機能に関わる生態学的特性については 以下のような研究がなされています。


換気
  • 嫌気状態となる湿地で生息するため、 アサザをはじめとする浮葉植物は「換気」と呼ばれる通気システムを備えている (Gross & Mevi-Schutz1987)。 新しい葉からとりこまれた空気は地下茎や根へと送られ、 有毒な化合物の蓄積を解消する。
  • アサザは特に根の部分から集中的な土壌への酸素放出が確認されており (Smits et al. 1990)、 他の浮葉植物と同様に湿地の土壌の嫌気状態を改善する役割を果たしている (Gross 1996)
換気


物質循環
  • 生産された葉の10%程が、蛾 (Van der Velde 1979) や水鳥の餌として利用され、残りは菌類によって分解される (Van der Velde et al. 1982)。 この過程で、土壌中の無機窒素や無機リンをポンプアップして水層に供給している (Brock et al. 1983)
  • アサザ群落という生態系をつくりだし、 食物網を通じて栄養塩が陸上に持ち出されることで
    生態系として水質浄化の機能も果たしている


消波効果
  • アサザは広範囲にわたり浮葉を広げるため消波効果を有し (林ほか 2002)、 それ自体が水辺の植生帯を保全する機能をもっていると考えられる




 ◆引用文献 

  • 環境庁 2000. 改訂:日本の絶滅のおそれのある野生生物‐8 植物T(維管束植物. 自然環境研究センター, 東京.
  • 西廣淳 川口浩範 飯島博 藤原宣夫 鷲谷いづみ. 2001. 霞ケ浦におけるアサザ個体群の衰退と種子による繁殖の現状. 応用生態工学 4, 39-48.
  • 林健二郎 高橋祐 重村利幸 2002 湖岸や海岸に生育している水辺植物に作用する波力と消波機能の評価法に関する研究. 海岸工学論文集 49, 721-725.
  • 丸井英幹 鷲谷いづみ 1999. 霞ケ浦におけるアサザの異型花柱性と種子繁殖. 種生物学研究 17, 59-63.
  • 鷲谷いづみ. 1994. 絶滅危惧植物の繁殖/種子生態. 科学 64, 617-624.
  • Brock T.C.M., Arts G.H.P., Goossen I.L.M., Rutenfrans A.H.M., 1983. Structure and annual biomass production of Nymphoides peltata (Gmel.) O. Kuntze (Menyanthaceae). Aquatic Botany 17,167-188.
  • Brock T.C.M., Bongaerts M.C.M., Heijnen G.J.M.A., Heijthuijsen J.H.F.G., 1983. Nitrogen and phosphorus accumulation and cycling by Nymphoides peltata (Gmel.) O. Kuntze (Menyanthaceae). Aquatic Botany 17,189-214.
  • Brock T.C.M., Van der Velde G., 1996. Aquatic macroinvertabrate community structure of a Nymphoides peltata-dominated and macrophyte-free site in an oxbow lake. Netherlands Journal of Aquatic Ecology 30,151-163.
  • Brock T.C.M., Van der Velde G., Van de Steeg H.M., 1987. The effect of extreme water level fluctuation s on the watland vegetation of a nymphaeid-dominated oxbow lake in TheNetherlands. Archiv fun Hydrobiologie Beihefte Ergebnisse der Limnologie 27,57-73.
  • Cook C.D.K., 1990. Seed dispersal of Nymphoides peltata (S.G. Gmelin) O. Kuntze (Menyanthaceae). Aquatic Botany 37,325-340.
  • Gluck H., 1924. Biologische und morphologische Untersuchungen uber Wasser und Sumpfgewachse IV. Untergetauche und Schwimmblattflora. Gustav Fisher, Jena, 46pp
  • Grosse W., 1996. Pressurised ventilation in floating-leaved aquatic macrophytes. Aquatic Botany 54,137-150.
  • Grosse W., Mevi-Schuetz J., 1987. A beneficial gas transport system in Nymphoides peltata. American Journal of Botany 74,947-952.
  • Nishihiro, J., S. Araki, N. Fujiwara, and I. Washitani. 2004. Germination characteristics of lakeshore plants under an artificially stabilized water regime. Aquatic Botany 79:333-343.
  • Ornduff R., 1966. The origin of diomecism from heterostyly in Nymphoides (Menyanthaceae). Evolution; International Journal of Organic Evolution 20,309-314.
  • Osborne, D. J. 1982. The ethylene regulation of cell growth in specific target tissues of plants, In Plant Growth Substances 1982. Wareing, P. F. ad. Academic Press, London. pp. 279-290
  • Smits A.J.M. et al. 1988. Distribution of three nymphaeid macrophytes in relation to alkalinity and uptake of inorganic carbon. Aquatic Botany 32, 45-62.
  • Smits A.J.M., Laan P., Thier R.H., Van der Velde G., 1990. Root aerenchyma, oxygen leakage patterns and alcoholic fermentation ability of the roots of some nymphaeid and isoetid macrophytes in relation to the sediment type of their habitat. Aquatic Botany 38,3-18.
  • Smits A.J.M., Schmitz G.H.W., Van der Velde G., 1992. Calcium-dependent lamina production of Nymphoides peltata (Gmel.) O. Kuntze (Menyanthaceae): Implications for distribution. Journal of Experimental Botany 43,1273-1281.
  • Smits A.J.M., Van Avesaath P.H., Van der Velde G., 1990. Germination requirements and seed banks of some nymphaeid macrophytes: Nymphaea alba L., Nuphar lutea (L.) Sm. and Nymphoides peltata (Gmel.) O. Kuntze. Freshwater Biology 24,315-326.
  • Smits A.J.M., Van Ruremonde R., Van der Velde G., 1989. Seed dispersal of three nymphaeid macrophytes. Aquatic Botany 35,167-180.
  • Takagawa S., J. Nishihiro and I. Washitani 2005. Safe sites for establishment of Nymphoides peltata seedlings for recovering the population from the soil seed bank. Ecological Research 20:661-667.
  • Tsuchiya T., Nohara S., Iwakuma T., 1990. Net primary production of Nymphoides peltata (Gmel.) O. Kuntze growing on sandy sediment at Edosaki-iri Bay in Lake Kasumigaura, Japan. Japanese Journal of Limnology 51,307-312.
  • Van der Velde G., 1979. Nymphoides peltata (Gmel.) O. Kuntze (Menyanthaceae) as a food plant for Cataclysta lemnata (L.) (Lepidoptera, Pyralidae). Aquatic Botany 7,301-304.
  • Van der Velde G., 1981. A project on Nymphaeid-dominated systems. Hydrobiolgial Bulletin 15, 185-189.
  • Van der Velde G., Giesen T.G., Van der Heijden L., 1979. Structure, biomass and seasnal changes in biomass of Nymphoides peltata (Gmel.) O. Kuntze (Menyanthaceae), a preliminary study. Aquatic Botany 7,279-300.
  • Van der Velde G., Van der Heijden L.A., 1981. The floral biology and seed production of Nymphoides peltata (Gmel.) O. Kuntze (Menyanthaceae). Aquatic Botany 10,261-293.
  • Van der Velde G., Van der Heijden L.A., Van Grunsven P.A.J., Bexkens P.M.M., 1982. Initial decomposition of Nymphoides peltata (Gmel.) O. Kuntze (Menyanthaceae), as studied by the leaf-marking method. Hydrobiolgial Bulletin 16,51-60.





ホームへ