ワンダーフォーゲル部勉強会

平成10年度文部省登山研修所大学山岳部リーダー冬山研修会報告書

1. 研修会の概要  

3月1日は開会式と講師の講演が午前中にあって、午後からは「雪と雪崩に関する講義」の後、研修所裏手の雪面にて「積雪の状態の観察」・「弱層テスト」・「雪崩ビーコンによる埋没者の捜索」の実習を行い、その後研修所内に戻って「救急処置」の講義を受けた。  2日は近くのスキー場(粟巣野スキー場)にて「山スキーによる登高・滑降技術」の実技訓練があった。  3日〜7日は立山連峰人津谷〜前大日岳周辺にて「わかん・アイゼンによる歩行技術」・「山スキー技術」・「ザイルによる確保」・「雪山における生活技術」・「雪崩・ビバーク等の危急時対策」などの実技指導を受けた。5人ほどの学生と講師によるテント・雪洞での共同生活であり、講師や他の大学山岳部の山でのテクニックを盗むよい機会となり、よい刺激となった。  全般に比重の高かったのは「危急時にどうするか、どうやったら危急の事態を避けうるか」という項目であり、このことに関する知識はリーダーにとって必須であると感じた。うちの部は主に残雪期からの登山が主体であり、積雪期の知識は不要と考える者も居るだろうが、残雪期に余裕を持って後輩をリードするには、積雪時の技術・知識・経験が必須である。各自がこれらの報告を注意深く読み、勉強し、不足しているところや誤っているところを補足・修正して自分の登山時に実践するのは当然のことと認識してほしい。

2. 雪と雪崩  

積雪期の危険としてだれもが真っ先にあげるのはおそらく雪崩であろう。雪崩のメカニズム、予知、回避、遭遇時の対策について述べる。

(1) 雪崩のメカニズム  面上にはある特定の条件下で「弱層」と呼ばれる薄く、壊れ易い層ができる。この上に降雪、吹雪などにより積雪が乗っかり、さらに自然外力または人間の行動による外力が加わってこの「弱層」が破壊され、上載した積雪とともに斜面を滑り落ちる。これが「面発生表層雪崩」である。  面発生表層雪崩を起こす必要条件である「弱層」は5つの種類があり、それぞれ成因が異なる。

@ 降雪結晶。降雪強度が小さく、弱風・無風の時には降雪は結晶の形を保ちながら水平に積もり、これが弱層となる。

A 表面霜。よく晴れた日の夜間、積雪表面は冷却され、熱が大気中に逃げ出し積雪表面は急激に冷やされる。これを「放射冷却」という(汗をかいた体のまま風に当たると急激に体が冷やされる。風が汗を蒸発させる際に体の熱も奪うからである。あれと同じこと)。放射冷却時に大気中の水分が積雪表面に凝結(注:氷は氷点下で蒸発する。氷から蒸発した水分が再び凍ることを凝結という。)して、積雪表面に霜が降りる。これを表面霜という。大気中に水分が富む環境、すなわち高湿度下で発達しやすい。また、弱風時にも水分が効率よく補給されるためか、表面霜の発達が早いという。

B しもざらめ雪。積雪表面に数cm(1〜3cm)の新雪が積もっているとき、よく晴れた日の昼間、積雪の上部(新雪と、その下にある雪の上の部分)はよく温められる。夜間は前述の放射冷却によって積雪表面は急激に冷やされるが、新雪は熱を伝導しにくいため、新雪より下の積雪は昼間温められた時の熱を蓄積したままの状態となり、積雪内部に非常に大きい温度較差が生じる。温度差のあるとき、氷はより高温である氷から(氷点下で)蒸発し、より低温である氷のほうに凝結する。よって、熱を蓄積した下部積雪からその上の新雪のほうへ水分の移動が起き、しもざらめが発達する。表面霜の場合、水分は大気中からもたらされるが、しもざらめでは水分は積雪内部からもたらされるのである。

C あられ。あられは粒の大きさがそろっており、粒同士が接触する面積が小さい。よって「圧密」「燒結」(後述)が生じにくく、いつまでたっても粒がばらばらの状態となり、このとき積雪が上に乗っかると弱層としてふるまう。

D (濡れ)ざらめ雪。水分が多い雪では容易に「燒結」が起き、よく締まった雪となるが、強い日射や急激な温度上昇(肌で感じ取れるほどのもの)にさらされると積雪結晶は融解し、丸くなって、接触し合う面積が小さくなり、弱層となる。  

れらの弱層の上に積雪が乗ることで雪崩が起きる環境が整うといえる。  形成された後、これらの弱層はどうなるのかというと、雪には圧縮すると縮む「圧密」という性質と、接触している結晶同士が結合する「燒結」という性質があり、「圧密」「燒結」によって弱層はしだいに強く、丈夫になっていき、消失していくのである。従って「圧密」「燒結」の生じにくいCあられなどでは弱層は長期間持続する。  雪崩の種類としては他に、「点発生表層雪崩」「全層雪崩」がある。  点発生表層雪崩は積雪表面のある部分が安息角(注:積雪が自然に落ちる臨界角)を超えたとき、その部分の雪が周囲の雪を巻きこみながらなだれていく雪崩である。つまり、急斜面で生じ易い。乾雪では雪結晶同士が燒結しないことが原因でこの雪崩が起こる。湿雪では日射によって融解した水分によって雪の流動性が高まり、なだれ易くなる。点発生表層雪崩は一般に小規模で過大に恐れる必要は無いが、急斜面がいくつも合流する沢筋などではその規模も2倍3倍と大きくなるので注意が必要である。  全層雪崩は地面の上の積雪が全部なだれていくもので、春先、融解した水分の浸透で滑りやすくなったりする。地面と接する雪面がざらめ雪だったりすると、緩斜面でも発生することがある。

(2) 雪崩の予知・回避

@ 面発生表層雪崩について。

全ての弱層と上載積雪から雪崩が発生するのではない。問題はその弱層の「壊れ易さ」である。(変な言い方になるが)「絶対壊れない強い弱層」があったとしてもそこから雪崩は起きないし、逆に「すぐ崩れる弱層」があるなら雪崩は起き易い状況にある。そこで有効なのが「弱層テスト」である。このテストには「ハンドテスト」、「シャベルテスト」、「ルッチブロックテスト」などいろいろな方法があるが、今回の研修では簡便でスコップ以外の道具が要らない「ハンドテスト」を多用したので、これを紹介する。 「ハンドテスト」  直径40cm程度の円を雪面に描き、その周囲の雪を手あるいはスコップでかき分けていく。50〜70cmほど周りの雪を掘り下げ、雪の円柱を作る。このとき、円柱の積雪の状態を破壊しないように気をつける。掘り終えたら、円柱を両手で抱えるようにし、最初は手首の力だけで円柱を引っ張ってみる。これで崩れないようなら、腕の力も使って引く。さらに腰を入れて引く。弱層がある場合、力を入れて引くと弱層で引いた円柱が外れる。断面はスパッと切れたようになる。弱層が壊れたときにかかっていた力によって、弱層の強度=雪の安定度が分かる。  このテストの長所は10分程の短時間でできること、疲労度が小さいこと、ゆえに1日に何回もできることである。雪崩の危険のある(と考えられる)斜面に進入する前ごとに、このテストは行うべきである。短所は、円柱の大きさ、円柱を引く人の力具合、引く人の感覚などの主観的要素によって弱層の評価が左右されることであるが、これはハンドテストを何回も行うことによって自分なりの評価の方法を確立することである程度対応できるはずである。

評価 安定度 ハンドテストの目安

1 安定 腰を入れて引いても崩れない

2 おおむね安定 腕で抱えて引いたら崩れた

3 結合悪い 手首だけで引いたら崩れた

4 非常に悪い 円柱を掘り出したら崩れた

5 きわめて不安定

A 点発生表層雪崩について。

この雪崩は急斜面で雪が流れ易いと発生する。そこで安全な場所で斜面の一部を靴などで崩してみたり、雪塊を斜面に向かって投げてみて、雪が周りの雪を巻き込んでどんどん崩れていったり転がっていったりしたら危険であると判断する。

B 全層雪崩について。

この雪崩は一般に突然発生することは少なく、ゆっくりと崩れ始め、斜面上部にはクラックが、斜面下部には雪しわができる。従ってクラックや雪しわを見たらその斜面には近づかないこと。  雪崩の恐れのある雪面をどうやって通過するか。その雪面を迂回できるならそのほうがよい。もしもそれがかなわない時は、雪崩の恐れのある斜面は一人ずつトラバースすべきである。安全地帯に到達したら次の人がトラバースを開始する。他の人が渡っている間、残りの人たちは常に斜面の状態に気を配り、何かあったらすぐ警告を発したり行動を取れるようにしておく。トラバースしている人は万が一雪崩に巻き込まれたときのことを考え、ザックのウエストベルト、スキーストックのバンド、スキーの流れ止めを外しておく。雪崩に巻き込まれたとき、これらが離れないと脱出が非常に困難となるからである。もちろん弱層テストは必須で、あまりに不安定なときは撤退すべきである。

(3) 雪崩遭遇時の対策  運悪く雪崩に遭遇したときはどうするか。どうにかするためには以下の装備を個人装備として所持していることが前提となる。

1.雪崩ビーコン。

2.スコップ。

]3.ゾンデ棒。  

遭難者が雪崩に遭遇した地点(遭難点)と流されて見えなくなった地点(消失点)を結んだ延長線上のデブリ(なだれた雪の堆積)に遭難者が埋まっている可能性が高い。雪崩の跡をよく観察し、身につけていたものの一部が雪面に出ていないかどうかよく観察する。埋没地域を推定したら、雪崩ビーコンによる捜索に移る。この時、二次遭難の危険が高い時には斜面を見張る係をつくったり、避難経路を前もって決めたりしておくことは言うまでも無い。  雪崩ビーコンは457kHzの電波を発信・受信する機械で、通常肌着の上など、濡れないところに着け、通常は常に発信モードにしておく。雪崩に遭遇したとき、遭難者以外はビーコンを受信モードに切り替える。ビーコンの受信感度は何段階かに切り替えられるようになっていて(例えば50m、30m、10m、2mというように)、最初は広いレンジで捜索していき、次第に捜索範囲を絞り込んでいく。絞り込み方には2つの方法がある。

@ 電波誘導法。発信モード時の雪崩ビーコンの磁界は次頁の図のようになっている。この磁界と受信モードのビーコンが平行になったとき、ビーコンは電波を最も強く受信する。ビーコンがより強く反応する方に進んでいき、次第にレンジを狭くしていき、最後は「ピンポイント(2mレンジ。すなわち2m四方に遭難者が埋まっているということ)」まで絞り込む。ビーコンが強く反応する方向に進むということは図の磁界の線に沿って進むということであり、必ず発信ビーコンにたどり着くというのがこの方法の原理である。

A 直角法(クロス法)。受信ビーコンを持ってまっすぐ歩いていくと、発信ビーコンの磁界との接点で受信強度は最強になる。ここで歩く方向を90°変えて(ビーコンの向きは変えない。重要。)、さらに電波の強い方に進んでいくと、また接点で受信強度が最強となる。この繰り返しでレンジを絞り込んでいく。  

電波誘導法は比較的広い範囲の捜索に、直角法は限られた範囲内の捜索にそれぞれ向いている。状況に応じ、両方できるようにしておく。  ピンポイント(2mレンジ)まで絞り込んだら、@・Aともビーコンを雪面ぎりぎりまで近づけて前後左右に動かし、ピンポイントレンジでの最強点を見つける。最強点が分かったら後は可能な限り早く遭難者を掘り出すことである。統計では15分以内に掘り出された場合の生存率は90%を超えるが、その後生存率は急激に小さくなり、45分後では30%に満たなくなるという。この15分という時間は念頭においておいたほうがいい。しかし埋没後数時間を経て生存している例もあり、時間が経ちすぎたと思って望みを捨てるべきではない。  雪崩ビーコンを所持していなかった場合、或いはビーコンを用いた捜索の補助としてゾンデを使う。これは雪面に突き刺していき、先端の感触で埋没者を捉えるものである。雪面にはスッと刺さっていくが、人では柔らかいものをつつく感覚が捉えられる。

【埋没体験について】  

今回の研修では実際に雪の下に埋められてみるということを経験した。1mも埋められていなかったと思うが、雪は重く、自力での脱出はほぼ不可能であると思い知らされた。雪面上から「おーい」と叫ぶ声がかすかに聞こえたので「助けて〜」と叫び返したが、一回叫んだだけで周りの酸素をだいぶ消費したのか、大変息苦しくなった。それでも口・鼻を手で被って呼吸を確保していたので、数分は持ちこたえられそうだった。  この体験から、雪崩に巻き込まれたら気道を確保すること、無闇に叫ばないことが大切と言えそうだ。また、捜索者も、一回応答を聞いたらその後は遭難者の応答を期待するような問いかけよりもむしろ遭難者を励ますような呼びかけをした方が遭難者も希望が持ててよいと思う。

【雪崩ビーコンの導入について】  

ビーコンは、雪崩から登山者の命を完全に救うものではないが、生存率を高めるという点ではその効果は確かにあり、積雪期登山、特に雪崩に遭う危険性の最も高い山岳スキーツアーなどでは必携の装備となりつつある。しかしビーコンは1個3〜4万円と高価な印象があり、コストの面から学生の個人装備とするには困難であるように思われる。この問題について、講師の先生方から「ビーコンは登山靴やザックと同じレベルで積雪期の必需品と考えてほしい」という意見もあった。そこで提案だが、部費でビーコンを3つ4つ買うというのはどうだろうか。ビーコンを、積雪期登山をやりたいという新人にいきなり買わせるのは(他の装備の経済的負担との兼ね合いもあって)酷なものだし、また、ビーコンを用いた捜索訓練も部のビーコンがあれば皆でできる。借りている間、一年間も貯金すれば(1月3000円で)自分のビーコンが買えるくらいのお金は貯まるし。おお、グッドアイディア!(自画自賛)主務の人、ぜひ検討してください。

(4) 救急蘇生法 cardiopulmonary resuscitation,CPR  

掘り出した遭難者の、@意識、A呼吸、B心拍が有るかどうか調べる。@意識は呼びかけに対する応答、A呼吸は胸郭の運動、B心拍は頚動脈の拍動の有無などでそれぞれ調べる。呼吸、脈拍が無い場合、一次救命処置を行う。基本はABC(Airway:気道の確保、Breathing:(人工)呼吸、Circulation:循環の回復=心マッサージ)である。詳しくは自動車学校の実習や学校の講義で学んだりすると思うし、、さまざまな本に方法が書いてあるのでここでは述べないが、各自が勉強して身につけておくこと。

文責:田沢星一