Baseball Kids

高校野球が嫌いだ。

大人たちがよってたかって祭り上げようとする風習が嫌いだ。
無理矢理に「さわやかさ」や「感動」を演出しようとする態度が大嫌いだ。

球児たちは自らの体を犠牲にして、
貴重な時間を投げ打って野球に打ち込んでいる。
しかし、そこに「さわやかさ」なんて存在しない。
そこに存在するのは、厳然たる勝負の世界。
努力を凌駕する才能の世界。
一般人には踏み込めない、弱者陶汰の世界。

金と名誉をかけて、選手を集める名門校。
いわば甲子園はセミプロの世界。
そこにいるのは、「普通の高校生」ではない。
そこにいるのは、汗と泥でまみれた非凡なる才能たちだ。

汗臭くて、古臭い根性論を、高尚な精神論にすりかえてしまうメディア。
自分たちの夢や幻想を、勝手に生徒に投射しようとする指導者。
作り上げられた「さわやかさ」「感動」「スポーツマンシップ」「涙」を疑問もなく受け入れる大衆。

純粋な高校球児たちを取り囲む大人たち。
高校野球という名の閉じた世界を作り上げる大人たち。
そんな構図が大嫌いだった僕は、その世界の内部を知らずにいた。


昨日、夏の高校野球・大阪府予選の準々決勝が行なわれた。
その試合のひとつが行われた万博の野球場に僕は足を運んだ。
母校・清教学園が初のベスト8進出という快挙を成し遂げたからだ。

何気なく出かけたその場所で、僕はとんでもない世界に遭遇する。
たかだか府予選の準々決勝。
残り三つといっても、
キリスト教主義の無名私立高校が甲子園行きの切符を手にする可能性なんてゼロに等しかった。

しかし、そこには500人は超えるだろう人が集まっていた。
野球部のOB。現役部員の父母。在校生。教職員。
みんなが揃いの「Seikyo」の文字の入ったシャツを着て、
みんなが揃いの青いうちわを持って、
みんなが声を揃えて、グランドの上の野球部員を応援していた。
応援旗、横断幕、応援歌…
テレビの中の世界がそこにあった。

僕は呆気にとられた。
母校は毎年大阪大学合格者を数人出す一応の「進学校」である。
野球部の設備もごく限られている。
スポーツ推薦という予算を計上するほどの甲斐性はない。
しかも、相手は強豪、上宮太子高校。
勝てるはずがないと思っていた。

まして、僕は元・野球部員ではない。
むしろ、野球部のノックで狙い撃ちにされる側の人間だった。
野球部に思い入れはない。
甲子園に思い入れはない。
勝てなくても構わない。

浮かれて興奮気味な顔なじみの元・野球部員たちの中にあって、僕はまだ冷めていた。
何も起こらない。
起こるはずがない。
虚構の世界に感動はない。
あるのは現実だけだ。
僕は冷めた目でグランドを見つめていた。


試合は進む。
3回まで0−0の投手戦。

4回表に先制したのは甲子園経験のある上宮太子ではなく、
キリスト教主義の私立高校だった。
僕の中で「何か」が動き出す。

その後、目の前で繰り広げられる「高校野球」に僕は目を奪われた。
エラー、四球、暴投、スクイズ、ピッチャー交替、ホームラン、ヘッドスライディング…。
特に相手ピッチャーがスクイズを読んで外したボールに、
清教学園の打者が飛びついてスクイズを決めた瞬間には、鳥肌が立った。
これぞ高校野球。
清教の9番・ピッチャーがホームランを打った時、僕はわけも分からずに立ち上がって叫んでいた。
これが高校野球。

スクイズもホームランもテレビで見れば、何でもない場面である。
しかし、現場での臨場感、群集との一体感。
冷めていたはずの僕はいつのまにか夢中で試合を見ていた。

8回表まで終わって9−1で清教のリード。
規定により裏の攻撃を押さえれば、コールド勝ち。
甲子園経験のある、あの上宮太子にである。

僕もすっかり舞い上がって、「明日のクラブなんて休んでやる」と心に決めていた。

ドラマはここから急展開を見せる。
八回の裏。上宮太子は先頭打者のホームランを皮切りに一挙に7点。

清教9−8上宮太子

勝利の女神は気まぐれだ。
混沌とする準決勝への切符の行方。

9回の表の清教の攻撃は0点に終わる。
9回の裏の攻撃。押さえれば勝利…。
しかし、強豪校の底力はすごかった。

清教9−9上宮太子

同点。
そして、延長。

勢いは完全に上宮太子。
10回の裏、無死一・三塁。
一打サヨナラの決定的場面。
僕は10年ぶりに神に祈った。
炎天下、神に祈りを捧げた。


健闘むなしく敗れ去った選手たち。
相手チームの校歌を聞きながら、僕は自分の変化に驚いていた。
名も知らぬ後輩たちに心から拍手を送った。

清教9−10×上宮太子

高校野球の「負の部分」を認めた訳ではない。
しかし、日本人があれほどまでに甲子園に熱くなる訳が少しだけ分かった。
今年は甲子園を少しはテレビで観戦するかもしれない。
食わず嫌いは良くない、ということだ。
サッカーも生で観戦しなければ、と思った。

スポーツの持つ力。
少なくとも身近な人に感動を与えるような試合が僕らにもできるだろうか。


            
清教学園  0  0  0  1  0  2  2  4  0  0      9 
上宮太子  0  0  0  0  0  0  1  7  1  1×    10 


PS:上宮太子高校は大阪府予選に優勝しました。大阪代表として甲子園に出場します。