●ツポレフTu-144シリーズ
 ~ 見栄と意地 ~

助手:博士、生物学に収斂進化(※1)とか適応収斂という言葉がありますよね?
博士:“イクチオサウルスとイルカとマグロ”とか、“プテラノドンと蝙蝠と鳥”とかの話じゃろ。それがどうかしたかね?
助手:今度の研究テーマは、それを乗り物に当てはめてみたいと思うのですが・・・。
博士:なるほど、君にしてはなかなかよい思いつきじゃ。して、具体的な対象は何にするのかな?
助手:この2機種にしたいと思っています。

【写真01:Tu-144】
コンコルド、Tu-144とも本当に美しい飛行機です。
しかしカナード翼を出していないと一見コンコルドと見分けがつきませんね。
 
【写真02:コンコルド】
イギリス、フランス合作、その名も「協調」
13年の歳月をかけて作られたまさに「夢」の超音速旅客機です。
コンコルド、Tu-144とも、離発着時のコクピット視界確保のため、機首が下方に折れます。ちなみに巡航時のTu-144には前方視界がありません。
揚力確保のため着陸時は普通の飛行機より仰角をとります。翼を大きく広げたような姿は荘厳ですらあります。


博士:SST(超音速旅客機)か・・・しかし、これは・・・これは適応収斂ではない。
助手:なぜですか?この生まれの違うはずの2機の形状が酷似しているのは、超音速飛行による旅客運送という使用目的に適応した結果では無いのですか?
博士:君の推察はある意味間違えていないじゃろう。しかし、この場合はソ連によるコンコルドのパクりだと言われておる。Tu-144のNATOでのコードネームは「チャージャー」だが一般的な別名は「コンコルドスキー(※2)」じゃ。
助手:えぇ!、待ってください! Tu-144の初飛行(1968年12月31日)はコンコルド(1969年3月2日)よりも早いんですよ。どうやってパクるんですか!?
博士:じゃから設計図を盗んだんじゃよ。ソ連のスパイが暗躍したとか、イギリスとソ連の政治的取り引きがあったとかいわれているがな。
助手:確かに外見上の違いと言えばTu-144の機首についている折り畳み式のカナード翼(※3)くらいですけど、高度もスピードもスペック的にはTu-144の上なのに・・・。
博士:スペック的と記録で上をいっていても、運用実績は月とスッポンの差じゃ。Tu-144は1973年6月3日のパリ航空ショーで大惨事を起こした上に、1978年6月1日の事故の後は運用停止したままじゃ。旅客便は通算わずか102便にすぎない。それに対してコンコルドは1976年の運用開始から2000年7月25日の墜落事故までの24年間、定期便が運行されていて無事故じゃったのだぞ。しかも今でも飛んでおる!
助手:まさか、それほどの違いが・・・。
博士:ホントのところ、Tu-144は本格運用できるほど完成されていなかったんじゃろう。
ソ連ってのは原爆で土木工事したり、「雪が積もった平原に兵士を投下する実験」とか言って、兵士をパラシュートなしで飛行機から突き落すような人命軽視の国じゃ、なのにTu-144の実用実績のほとんどが貨物輸送ということは・・・初期型の操縦席が射出座席になっているのも頷ける話じゃ。
助手:スペックと記録の栄光に騙されていた気がします。
博士:そうじゃろうとも、そのハッタリが目的の飛行機じゃからな。
助手:ハッタリ・・・ですか?
博士:そうじゃとも。Tu-144はコンコルド同様、ランニングコストや環境負荷が問題だったろうが、なによりアエロフロートにSSTの需要はなかったはずじゃ。
助手:なぜスパイなんてリスクを犯してまでソ連はハッタリをかまさなければいけなかったんでしょう?
博士:当時はSSTこそが次世代の旅客機の主役であると信じられてはいたのだが・・・、まぁ、ソ連の場合は西側への、そしてそれ以上に自国の人民が社会主義への信仰を失わないための見栄じゃ。西側にできること以上に社会主義国家はできなくてはいけなかったのだ。
助手:私には分かりません、なぜに莫大な投資と犠牲を払ってまでそんな見栄を張るのか・・・。
博士:冷戦時代を経験していない君には理解できないかもしれないがの。しかし、見栄と意地はソ連に限ったことでも無い。これを見よ。

【写真03:Tu-144LL】
ボーイングの後ろ盾て復活したTu-144。
Tu-144シリーズには離発着の時だけ展開するカナード翼が機首についています。
しかし、この塗装、エア・フランスのコンコルドとそっくり。

助手:Tu-144じゃないですか。
博士:そう。しかしこれはソ連崩壊後、ボーイングが新しい超音速旅客機を開発するデータを集めるために、ツポレフと共同でTu-144を改良した「ツポレフTu-144LL」じゃ。
助手:アンビリーバボー。なぜ実績のあるコンコルドと組まなかったのですか?
博士:旧ソ連の企業がパートナーなら開発費が安くて済むというのが第一の理由じゃろうが、それ以上に、昔、負けたことのある相手であるコンコルドに頼りたくはなかったというのが本音のところかもしれん。超大国の見栄と意地の張り合いといってもその本質は子供のケンカとなにもかわらんものだ。
助手:愚かです。人類は愚かです(涙)。
博士:若いのぉ。じゃからこそ面白いのじゃよ。まぁ、とりあえずその研究対象は別なのを探し給え。
助手:じゃあ、スペースシャトルとブラン&エネルギア(※4)にします。
博士:それもただのスペースシャトルスキーじゃ。しかも1度しか飛んでおらん。コンコルドスキーより哀れをさそうのう。

【写真04:ボーイングのSST】
ボーイングがコンコルドと競って開発を進めていたSST。可変翼。
Tu-144よりずっとオリジナリティあるよなぁ(笑)。けれど開発中止。
ちなみに有名な「ジャンボジェット」こと747は将来SSTが航空旅客便の主役になることを踏まえて、貨物機に転用できるようになっています。ところが、大量輸送によるコストダウンで航空移動の恩恵を一般市民にもたらし、時代の主役になったのは747でした。






※1:【収斂進化(しゅうれんしんか)】別の系統にも関わらず、同じ体型へと進化する現象を収斂進化と呼ぶ。
※2: 【○○○○スキー】ソ連はパクりが好き。だから軍事マニアや航空マニアは、そういったソ連製パクリ製品を、ロシア人の姓に「スキー」がつくことにちなみ、本家の名前に「スキー」をつけて愛している。「アムラームスキー(R77アダーミサイル)」、「ボーイング(B-29)スキー(ツポレフTu-4)」など。
※3:【カナード翼】機種にある小さな翼のこと。高速安定性を重視したSSTは低速時の安定性に欠けるので、ソ連は離発着時の安定性確保のためにTu-144に引き込み式のカナード翼を付け加えた。コンコルドとの外見上の違いで一番目立つのがこれ。
※4:【ブラン&エネルギア】なんでもアメリカと同じものを作らなくては気が済まないソ連が作ったスペースシャトルスキー。スペースシャトルの外部燃料タンクにあたるのがエネルギアなんだけど、こいつは単体でも大形ロケットとして使えた。なのでスペースシャトルと違って打ち上げにブランのエンジンは使わない。しかし、この組み合わせでは1回しか飛んでいない。

【写真05:ブラン&エネルギア】
スペースシャトルスキー。1988年初飛行。2001年に再計画の話も聞いたけど・・・・
スペースシャトルは外部燃料タンクから燃料を供給し、自らのエンジンで飛んでいくのですが、ブランは大型ロケットエネルギアにおんぶされて飛んでいきます。エネルギア自体はブラン打ち上げも含めて2度の発射経験があるようですが、完全な成功とはいかなかったみたいです。





【追記(2005年6月26日)】
「ブランはスペースシャトルスキーでない可能性がある」というご指摘を受けました。
なんと、ガガーリンとスペースシャトルそっくりな模型が写っている写真があるとのことです!
ガガーリンは1968年に飛行機の事故で亡くなっているので、その写真はアメリカがスペースシャトルを建造する前に撮影されたことは間違いがないのです。
つまりあの形態は技術的収斂の結果であるか、もしくはアメリカがソ連の実験からなにかを参考にしたのか。
事実はネタページよりも奇なり、ってことですね~。
なんにせよすごいことです。このネタは奈良県にお住まいのU氏より戴きました。ありがとうございました。





LAST MODIFIED : 8/MAR/2008
ON SET : 16/OCT/2002