●サーブ35 「ドラケン」
 

~ 北欧の竜 ~


博士:

今戻ったぞ。「学者が三人集まると意見がまとまらない」とはいうが、本当に長い会議じゃった・・・、あ!!

助手:

あっ!?

博士:

・・・そのヘッドフォン・・・何を・・・している・・・・?

助手:

あ、あの、これは早いお帰りで。こ、これはですね、軽快なスウェディッシュ・ポップ(※1)なんか聞きながら、軽快に資料集めもやろうかな・・・なんて・・・あ、あはは。

博士:

ふむ、では君が手にしているそれも資料なのかね?

助手:

も、もちろんそうですよ、「エリア88」(※2)って飛行機の漫画なんですよ。

博士:

私が頼んでいたのはシュナイダートロフィー(※3)関連の資料で、ジェット機中心の時代ではないはずだが?

助手:

う!?、「エリパチ」の内容をご存知で?

博士:

もちろんじゃ。さて、お仕置きは何にしようかの?




博士:

しかし、「エリア88」と「スウェーデン」か、今回のネタとしてなかなかいいかもしれんな。

助手:

え、なんの話ですか?

博士:

君もこの分野の学徒なら、この2つのキーワードで思い出すものがあるだろう?

助手:

「エリア88」と「スウェーデン」・・・ですか?

博士:

まったくやれやれじゃの。あったじゃろう?「エリパチ」で活躍したスウェーデン機が。これじゃよ。



【写真01】

かっこいい。約50年も前にデザインされたものだと思えますか?



助手:

これはウルトラホーク1号? あ、いや、ドラケンですね。

博士:

思いつくのが遅い!

助手:

だって「エリパチ」でも主人公機でしたけど登場期間短いじゃないですか、印象ないですよ。

博士:

ばか者!風間 真(※4)だってドラケンを好評価していただろうが。なによりこの機体に込められたスウェーデンの民の想いを知っていれば、そんなこと言えんはずじゃぞ。

助手:

そんなすごい機体でしたっけ? ギンギラ枕、空飛ぶヒラメ(※5)にしか見えませんけど。

博士:

ほんとうにやれやれじゃな。仕方ない。まずはスウェーデンの歴史から話そうかの。
今のスウェーデン王国は豊かな自然と優れた産業技術によってなりたつ平和な国じゃ。しかし19世紀末のスウェーデンは大変貧しく、400万人の人口の内100万人がアメリカへ移民するような状況じゃった。
20世紀に2回あった世界大戦でも中立を貫いたが(1995年にEUに加盟)、それは戦争なんかしている余裕がなかったからじゃ。
世界が戦争にうつつを抜かしている間に、スウェーデンは国の経済を発展させ、やっとそれなりの余裕も得ることができた。
ところが世界情勢はスウェーデンにとって決して安全とは言えなかった。

助手:

ソ連の存在ですね?

博士:

そうじゃ。1939年、ソ連は第二次世界大戦のドサクサに紛れて、スウェーデンの隣国、フィンランドに侵攻した。中立を宣言していたフィンランドと不可侵条約を結んでおきながらじゃ。
スウェーデンは大局的に見て最前線のひとつになってしまった。第二時世界大戦は乗り切ったものの、その後の東西冷戦、決して安心できなかっただろう。

助手:

これは困りましたね。明日にもソ連が攻めてくるかも。

博士:

しかもスウェーデンは中立国、他国の支援はあてにできない。

助手:

ますますマズいじゃないですか?どうしましょう?

博士:

うろたえるでない。グスタフ1世の頃から国と国民のために先陣を切ることを慣わしとし、王女ですら兵役につくスウェーデン王家(※6)とそれを慕う国民はそれくらいでは怯まんぞ。
彼らは独自の兵器体系による徹底した防衛プランを立てたのじゃ。

助手:

兵器まで自主開発ですか? 専守防衛をうたいながら大国べったりの防衛思想しか持たないどこぞの国とは気合いが違いますね。

博士:

敗戦国と一様に比べられるものでもないが、まぁ緊迫感が違うのじゃろうな。

助手:

もちろん独自のジェット戦闘機を作る計画も持ち上がった、と?

博士:

うむ。サーブ社に白羽の矢があたった。

助手:

サーブってあの自動車のサーブですか?

博士:

そうじゃ。サーブは元々航空機メーカー、スヴェンスカ・アエロプラン・アクティボラーゲット(Svenska Aeroplan AB)が起源なのじゃ。しかしそのサーブの力を持ってしても、1949年にスウェーデン空軍が要求してきた新型防空戦闘機のマッハ1.4~1.5という最大速度は難題じゃった。このスペックは当時の常識から大きく外れたものだったのじゃ。

助手:

セイバーですらマッハ1の時代ですからね。しかし、なぜそれほどまでのスペックを?

博士:

ドラケンが就役する頃にはジェット爆撃機が登場すると見込んでいたのじゃ。

助手:

するとドラケンは迎撃機なんですね?

博士:

ミグ25ほどではないが制空より迎撃に重きをおいておる。基本的にスウェーデンは防衛しか考えておらん。ドラケンも迎撃のためにできるだけ早く空高く駆け登るためのスピードじゃろう。
とにかく1955年10月25日に初飛行、その後改良を重ね、特に1965年に登場したJ35F型に至っては地上攻撃力、全天候運用能力、各種電子装備を与えられ多目的戦闘機に発展したのじゃ。



【ドラケン君の特長】

1) 世界初のダブルデルタ翼
 

高速性能に適したデルタ翼と、運動性能、離着陸性能を高めるために低速時も揚力を発生する内翼を合わせたもの。現在に至るまでこの翼形状は珍しい。

 
2)

高速性能

 

セイバー(アメリカ)、ミグ15(ソ連)といった当時の代表的戦闘機の速度がマッハ1.1なのに対し。ドラケンはマッハ1.8を出すための設計を与えられている。当時の世界記録M1.4すら軽く超え、長年にわたる改良の末、最終的にマッハ2.0に至った。

 
3)

整備性能、運用性能を重視

 

数で攻めてくるであろう大国に少ない数で対抗するために、整備性、運用性を重視。

  • モジュール概念を取り入れ、ブロックごと部品交換できる。これにより整備の迅速性と安易性を実現。

  • 補給が5分で行えるよう設計されている(※7)。無防備になる地上時間が少ない。効率的な作戦を行える。

  • 高速道路から発進できるSTOL性能(※8)。しかも主翼を外してトラックにのせることも可能。(幅13m、長さ650mの道路から離陸可能、着陸も2km以内、主翼を外せば幅4m)



助手:

すごい! とても1950年代の設計とは思えません。

博士:

しかも最終モデルは1987年に登場したし、本国での退役は1999年じゃ。ドラケンの先見性には熱い技術者魂を感じるのぉ。

助手:

しかし、高速道路脇にシェルターがあって、そこに常時から戦闘機が隠されているなんてものすごい発想ですよね。

博士:

国のおかれた状況から生まれた独自の防衛理念、それに基づく運用に徹しているのがスウェーデン製の兵器じゃ。国の全土を要塞とする考え方じゃな。
ドラケンは迎撃機だから航続距離は割り切っているが、そのかわり短時間で補給・整備ができ、しかも簡単に分解できてトレーラーにも積める。

助手:

そういう発想はどこから生まれたのでしょう?

博士:

隣国フィンランドの対ソ連戦を参考にしたらしいの。フィンランドは圧倒的物量で攻めてくるソ連に対し、地の利を生かしたゲリラ戦でソ連を翻弄したのじゃ。負けたけどな。
「自らを守りえない小国を援助する国はない。あるとすれば、何か野心があるはずだ。」、フィンランドの独立の英雄、グスタフ・マンネルヘイムの言葉だ。
真の自立には国を自らの手で守らなければいけないというわけだな。

助手:

う~ん、深いですね。ドラケンはまさに森と湖の国の自由と独立のための戦闘機というわけですね。

博士:

そうじゃ。なのでドラケンはスウェーデンだけでなく、同じような条件のデンマークやフィンランドといった近隣国や、同じ中立国であるオーストリアにも輸出され、北の国々を守る竜として活躍し、そして、その魂はビゲン、グリペンといった弟達にも脈々と受け継がれているのじゃ。

助手:

それにしても50年近く経ってもその姿に説得力があるところがすごいな。

博士:

やっとこのドラケンに込められたスウェーデンの人々の熱い魂が分かってもらえたようじゃな。

助手:

ええ、よく分かりました。よく分かったので今日はもう帰ってもいいですか?

博士:

それとこれとは話が別じゃ。今夜は徹夜してでもシュナイダートロフィー関連の資料をまとめるように。

助手:

そんなぁぁぁぁ!

博士:

ドラケンの開発者が持っていた先見性の半分でも、君が持っていたならば、このようなことにはならかったのじゃがな。




【写真02】

前から見た写真、美しい

 

【写真03】

アフターバーナー(※9)の増設でお尻が延長され、離発着時にお尻を擦る事態が出てきたので、お尻に小さな車輪をつけています。ラブリー。

 

【写真04】

ダブルデルタ翼検証のためにつくられた1/2スケールの実験機

 

【写真05】

退役前の特別塗装。北欧の空の自由と独立を守ったドラゴン。







【注記】

※1

スウェディッシュ・ポップ

 

1990年代初頭に流行った、クラウドベリー・ジャムとか、カーディガンズとか。スェーデンは、ABBAをはじめとして優れたポップ・ミュージックの国でもあります。

※2

エリア88

 

新谷かおる作、漢の浪漫。

※3

シュナイダートロフィー

 

1930年代にやっていた水上機、飛行艇レース。飛行機の発展に貢献。

※4

風間 真

 

「エリア88」の主人公の名前、一時ドラケンに乗っていた。マッコイ爺さんがスウェーデン空軍のスクラップをニコイチしたやつ。

※5

ギンギラ枕、空飛ぶヒラメ

 

新谷先生はそう言ってました。「エリア88」のプラモデルはタカラから出たのだけど、実は田宮からも話があったとか。田宮にすればよかったのに・・・。ま、いいか、後にハセガワから出たらしいし。

※6

王女ですら兵役につくスウェーデン王家

 

といっても今回のヴィクトリア王女からみたいです。法律が改正されてスウェーデン王家は男女に関わらず第一子が王位を継ぎます。ですので、次期国王たるヴィクトリア王女は今年の3月から兵役で王立陸軍兵士としてボスニア赴任だそうです。王女様も大変だ。

※7

補給が5分で行える

 

「エリア88」でもそうやっていてミッキーを驚かせてましたが、マジみたいです。

※8

STOL

 

短距離離着陸のこと。本当に高速道路脇の岩盤をくり抜いたシェルターに戦闘機が配備されていたりする。

※9

アフターバーナー

 

排気ガスを再燃焼し加速する装置。超音速機には欠かせない。





LAST MODIFIED :

01/MAY/2006

ON SET :

21/JAN/2003