町会長のための野良猫講座

のらねこ学入門 http://www.geocities.co.jp/AnimalPark-Tama/9073/ 


    

 町会、企業、学校、病院などの敷地内で野良猫問題が発生した場合、どう対応したらいいのだろうか?
 今まで猫に関係のなかった人が、野良猫問題に初めて取り組む場合、たくさんの疑問が出てくる。まずは野良猫の実態と世論の流れと法律を知っておかなければならない。

1 野良猫の苦情

 町内で増えすぎた野良猫で多くの住人が困っている。深夜の鳴き声がうるさくて眠れない。庭でフンをされる。花壇を荒らされる。ゴミを漁る。金魚や小鳥を捕られた。商品にオシッコをかけられた。自動車を傷つけられた。エアコンのホースでツメ研ぎをされた。
 猫が住む町ならどこにでもある問題だが、苦情の件数が多いと社会問題になる。町会としても何か対策をしなければならないのだろうか。

2 増えすぎたことが問題

 猫の住んでいない町はほとんどない。昔から飼い猫でも自由に外を歩き回っていた。猫の数が少なければ、小さなトラブルはあっても、多くの人は寛容であったはずだ。しかしある限度を越えると、人は野良猫排除に動き出す。ささいな事が許せなくなるのは、猫の数があまりに増えすぎてしまった結果なのである。

    

3 先延ばししてはいけない問題

 猫の繁殖力を説明する図がよくある。1匹のメス猫からネズミ算式に8ヶ月目で7匹、1年半で30匹以上に増えるという計算である。実際は子猫の死亡率がマイナスされるから、それより数は少ないけれど、短期間でかなり増えることは間違いない。
 問題を先送りにするとますます事態は深刻になっていく。少ない数のうちに行動を起こすのが、最も効率的で苦労が少ない。 

4 野良猫と飼い猫は見分けがつかない

 猫はネズミを追跡する任務を負っているので、飼い猫でも放し飼いを法律で規制していない。首輪を付ける義務もない。町で見かける猫が野良猫か飼い猫なのか、見ただけでは区別はつけられない。これでは苦情の持って行き場がない。どうしたらいいのだろう。

5 保健所は捕獲できない

 「野良猫が増えすぎて困っている。何とかして欲しい。」
保健所にはこのような相談が多く寄せられる。犬の場合は職員が出動し、捕獲して収容される。狂犬病予防法という法律を根拠にして保健所は動くのだ。猫にはこれが当てはまらない。

 所有者の不明な猫を捕獲して勝手に処分する事はできない。法律のうしろだてのない事は、とにかく役所は手を出さないのである。
「何とかして欲しい。」と言われても、出来ることは「エサやり禁止」「捨て猫禁止」「不妊手術の呼びかけ」などの看板を配布して指導するだけである。

     

6 「エサやり禁止」で野良猫はいなくなるのか?

 「エサやり禁止」看板が掲示されると、野良猫被害で悩んでいた人の怒りは少しおさまるだろう。ところがそれでエサやりがなくなることはほとんどない。エサやりは見つからないように隠れて行われるようになるだけだ。住人は期待した分だけ怒りが増すかも知れない。
 エサやりを取り締まる法律がないのだから、看板の効果はあまり期待できない。逆に「野良猫が集まる場所」ということを周囲にアピールしてしまうので、捨て猫がかえって増える副作用もある。
 
     

7 エサがなくなると野良猫はどうなるのか?

 毎日エサを運んでくるエサやりさんが来なくなったとしても、餓死する猫はいない。強い猫は隣町のエサ場へ移動していけるだろうが、弱い猫はゴミ袋を漁り、人家へ侵入して食べ物を泥棒するようになる。
 小鳥や金魚を補食するのもいるだろう。動物は生きるためにはどんなことでもやる。ただおとなしく飢え死にを待つ猫などどこにもいないのだ。エサやり禁止は野良猫被害をさらに増やすかもしれない。

     

8 隣町へ猫を追い払えばよいのか

 「エサやり禁止」の発想はどこから来るのだろうか。エサがないと猫が煙のように消えてしまうわけではない。子供でも少し想像力を働かせてみればわかる。
 野生動物ならば山へ帰ればいいのだろうが、野良猫には帰る場所はない。つまり隣町へでも移動してもらうか、餓死や病死でいなくなる事を期待しているわけだ。自分の地域だけがきれいになれば、隣町は迷惑しても良いという考えはいかがなものだろう。あまりにも利己主義で反社会的な思考ではないか。子供達にいったいどう説明できるのだろうか。

9 死亡率が上がると繁殖力は

 エサが減り栄養が悪くなると猫の寿命は縮まる。抵抗力が落ちて病気になりやすくなるからだ。病死する猫は確かに増えるだろう。
 しかし動物は生存の危機感が強いほど、より繁殖し子孫を残そうと努力する。そうでなければ種は絶滅する。飢餓に強い個体を出現させて生き残りをはかる。
 発情の回数が増えると、それに伴うトラブルも増える。そしてたくさん産まれてたくさん死ぬということが毎年繰り返される。住人は子猫の死体処理を常にやり続けなければならなくなるだろう。ゴミが荒らされ、衛生状態の悪い不健康な猫が増え、町の不衛生なイメージはますます拡大する。  

     

10 今や殺処分は支持されない

 過去にはどの国でも、猫を捕獲して殺処分していた悲しい歴史があったようだ。
 この方法は非人道的、非教育的で多くの賛同を得ることは出来なかった。さらに他から流入する猫ですぐに元の数に戻ってしまうため、永久に殺し続けなければならない問題が出てくる。獣医学が未発達の時代はこの方法しかなかったのかもしれない。
 現在では合法的に殺処分のための捕獲はできない。
 もし闇の業者などを使って隠れて行った場合、発覚した時の代償は大きい。動物愛護の人たちの糾弾を受け、マスコミにも攻撃され、社会的な地位や仕事も失うことになるだろう。企業も個人も一度貼られたレッテルはなかなか回復することはできない。世の中に多くの敵を作るだけの行為である。
 企業も自治体も、環境に優しく動物にも優しいというイメージが、これから大切になるだろう。

11 まだ子猫を毎年処分し続けるのか

 昔は生まれた子猫を山に捨てるか川に流したりして処分していたようだ。今の日本では、捨て猫は罰金100万円の犯罪行為で警察に逮捕される。
 そこでやむなく保健所に子猫を引き渡し、その場しのぎを繰り返す人がいる。ほとんどの人が子猫の処分に自分の手は汚したくないのだ。そのようなことはもうやめにした方がいい。



12 猫との共存:TNRの手法

 TNRとはTrap/Neuter/Return(Release)トラップ/ニューター/リターンの頭文字を取った略語だ。意味は:捕獲して不妊手術をして元のナワバリに戻すことだ。

 これが可能になったのは、獣医学の進歩で野良猫でも手術の安全性が向上してきたからだ。
 野良猫問題に即効性はないが、人道的で合法的な手法は多くの支持が得られる。手術の済んだ猫たちには毎日エサをやり、新しい猫が増えていないか監視を続ける。管理する上で個体識別のための耳へのマークは必要である。

TNRの利点をいくつか挙げてみる。
 手術の済んだ猫には、他から流入する未手術猫のパトロールとネズミの排除の仕事をやってもらう。これによって新たな猫がやって来ることにストップがかかり、ネズミの被害も抑えられる。
 野良の子猫が増えなくなるので、保健所で殺処分される子猫の数が減ることになる。保健所の殺処分の経費が減り、他の有意義な所へ予算が使えるようになる。
 発情に伴う鳴き声やケンカの声に悩ませられる住人がいなくなる。オス猫のマーキングによる臭いの迷惑もなくなる。

TNRの欠点は、効果が出るのに時間がかかることである。この方法では数年かけて野良猫の数はゆるやかに減少する。
 そのため猫嫌いの住人を納得させるのが難しい。「今すぐに猫を何とかしろ。」という彼らの要求には応えることができない。数年後には野良猫の悩みが解決することを、根気よく説明するしかない。


   

13 TNRをやるための情報収集

 まず野良猫の数を知りたい。それにはエサやりさんから情報を得るのが一番よい。何人のエサやりさんがいるのか?いつどこでエサやりが行われているのか?調べることはたくさんある。野良猫の不妊手術をやってくれる動物病院も探しておかなければならない。

14 エサやりさんに言うべき事は

 エサやりさんに情報を教えてもらったら、TNR作戦の協力を要請する。隠れてエサをあげている事への非難を口にしてはいけない。言うべき事は不妊手術をやらなければダメだということだ。多くのエサやりさんは不妊手術の必要は感じているはずだ。話をすればたいてい協力してくれる。TNRを成功させる鍵はエサやりさんが握っている。
 エサやりの最大の義務は繁殖制限である。この点だけはよく話してわかってもらう必要がある。殺さないで猫の数を減らすにはこれしかないのだから。

     

15 最初の捕獲器はレンタルでよい


 TNRの最大の悩みは捕獲がむずかしいということだ。捕獲器を使うと便利だが、悪用を避けるため購入は難しくなっている。動物愛護団体や一部の動物病院が貸し出しと管理を行っているので、まずは連絡をとってみる。捕獲器の盗難や紛失は、責任を負うことになるので充分な注意が必要だ。

16 病院によって野良猫への対応は違う

 人間の医者に専門科目があるように、動物病院にも得意科目と不得意科目がある。「野良猫の不妊手術」は看板や広告には載せられない情報だから、電話やクチコミで病院を探すしか方法はない。

     

17 手術の資金を集める方法

 野良猫不妊手術の費用はみんなどうしているのだろうか。町会や会社の予算でまかなえればいいが、そうできないときも多いだろう。いろいろな募金を集めるやり方があるようだ。

チラシを作って個別にまわって募金お願いする。
募金箱を商店などに設置させてもらう。
集めた不用品をバザー、フリーマーケット、ガレージセールなどで販売する。
地域のイベントに参加して募金活動をする。
街頭募金:警察署の許可が必要
補助金:保健所などを窓口にして不妊手術の補助金が出る自治体もある。

参考になる記事:「すみだ地域猫の会」HPフリーマーケット参加

   

18 猫を目立たなくする工夫:エサやりのルール

 野良猫が暮らしていても目立たなければ、多くの人は気にならない。人に嫌われないように、エサやりさんには次のことを要求する。

エサを置き放しにしない。食べ残しはすみやかに片づける。
フン尿処理の対策をする。
エサ場はなるべく分散して、1カ所に猫がたくさん集まらないようにする。
エサやりは人通りの少ない時間にやる。
猫の健康管理に気を付けて、見る人に不快な気持ちを起こさせないようにする。
発情期のケンカの声は目立つので、オス猫も不妊手術をする。

          

19 それまで待てない人の猫よけグッズ

 とにかく今すぐにでも野良猫をなんとかしてくれ、という強い要望には今のところこれしかない。
猫よけシート:「キャットカット」お庭や花檀、入られては困る場所に置くだけ。ポリプロピレン樹脂の軟らかいトゲで猫を傷つけることはない。
猫の忌避剤:ハーブのレモングラス、木酢液、などの猫の嫌うニオイで追い払う。
超音波で撃退:「ガーデンバリア」赤外線センサーでネコの動きをキャッチし、その動きに合せて超音波を放射することにより猫を遠ざける。猫を傷つけず1〜2週間をかけて学習させ糞害・イタズラ等を防ぐ商品。

 いずれもホームセンターの園芸用品売り場などに置いてある。市販されている商品は、動物愛護を考慮して動物を傷つけないように工夫されている。


      

20 変わってきた保健所の対応:エサやり禁止から不妊手術へ

 すべての保健所が野良猫問題に同じ対応をしているわけではない。今までは「飼い猫の不妊手術奨励」「捨て猫の禁止」「野良猫のエサやり禁止」がほとんどだったが、これが最近変わり始めている。
 
 進歩的な保健所は「エサをやるなら後始末」「エサをやるなら不妊手術」という看板を作っている。「エサやり禁止」よりも「野良猫の不妊手術」の啓蒙の方が効果があるという事がわかってきたようだ。

      

21 目指せ地域猫

 今まで書いてきたことを実践してもらえれば、あと一歩で地域猫になれる。あと一歩とは何か。それは地域住民とのコミュニケーションをはかること。猫好きも猫嫌いも野良猫問題をいっしょに考えてもらい、会話が生まれれば人間関係もきっとうまくいくだろう。
 よく話し合ってルールを作ってみんなで猫を管理することが大切だ。行政も地域猫を応援しているので、保健所に報告しておくと地域猫のモデル地域に認定されることがある。

参考HP:ねこだすけハローニャンコ!すみだ地域ねこの会NHKご近所の底力TINAのCATPAJAMASねこまた倶楽部小さな命を救いたいノラの部屋動物たちを守る会ケルビム


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●本講座は、のらねこ学入門コラムで2004年8月12日〜10月29日に連載したものです。
●本講座は、猫の保護活動や愛護運動をする個人・団体のお役に立てることを目的として作られたものです。
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2016/7/23 法律の変更と本文の表現の修正をしました